第6話 エルフって……
意識が遠くなりかけながらもなんとか踏ん張った私はグンさんにさりげなく腰を抱かれながらなんとかオネエエルフ様改めミリアリア様を見上げた。
「えっと……おねぇ、じゃなくてミリアリア様?」
「あん♡なぁに?」
「(何故喘ぐ!?)し、信じられないかもしれませんが私は訳あってオーベル様の眷族となりまして……。その時にオーベル様からこの世界が昔、悪神に荒らされた際に出来てしまった綻び?とかいうのを見てこい?だか、どうにかしてきて欲しい?だとか言われてるんです」
あれ?
結局綻び見つけたらどうするんだっけか……?
「あら、その事なら少し前にオーベル様から『眷族が来るからシクヨロォ~☆』って直々にアタシが神託を受けているわよ♡」
オーベル様、相変わらずチャラすぎじゃね……?
どっかのチャラ男芸人かよ。
「んでもぉ~それがジェグちゃんの伴侶であるハナちゃんだったなんて、これはもうアタシたちの出会い自体が運命なんじゃ」
「違う」
運命論をそっこう斬り捨てたグンさんにミリアリア様は「んもぅ~♡」と語尾に♡を付けながら頬を膨らませつつ、「そう言えば」と話を続けた。
「最近、こことは反対側の国境付近で見た事ない魔物が出たって話があったわねぇ」
「見た事ない魔物?」
「そうなのよぉ~。ウチは基本的に精霊の加護があるからそんなに凶暴な魔物は出ないはずなんだけど、最近そこでは結構凶暴な魔物が出るらしくって。しかもぉ~今まで誰も見た事ない魔物だって言うのよ~。アタシもうこわくってぇ~♡」
そう言いながら体をくねらせてグンさんに抱きつこうとしたミリアリア様をグンさんはいつもの如く華麗にかわす。
「誰が怖いだと?貴様はこの世界でも最上級クラスの弓使いであり魔導師だろうが」
「いやぁ~ん♡ジェグちゃんに褒められると興奮しちゃってアッチもコッチも濡れちゃいそうだわ~♡」
「そのまま枯れるがいい」
グンさんの冷え冷えとした一言と視線を受けても頬を染めて体をくねらせているミリアリア様はいろんな意味でお強そう(確信)。
「と……とりあえず、そこにもしかしたら綻びがあるかもしれないって話ですよね?」
「そうなのぉ~ハナちゃんたら理解が早くてお利口さんねぇ♡」
「……はは(もしや子供と思われてる……?)」
「どさくさに紛れて我が嫁に触れようとするな!!」
ガルルルルと番犬のようにミリアリア様を威嚇しながら私を厚い胸板に抱き込んだグンさんに無駄な抵抗をせず体を預けながら、私は自分の使命を改めて思い出してみた。
…………そうだ。
とりあえずヤバいモンがまだありそうだからどうにかしてこいって話……だったよね?(やはりアバウト)
『現地に着けば僕がその度に説明とかフォローとか念話でするし!たぶん!』とかオーベル様が言ってたし、現地に行きゃあ分かるよね……きっとたぶんおそらく。
そもそも最初の通過地点だし多分何もないだろうと思ってたけど……いやこれ今思えばフラグっぽいな。
と……とにかく、もし綻びっぽいのを見つけたらどうにかしないといけないんだよなーとか漠然と思ってた矢先に早速あるとはちょっと予想外だったわ。
……しかし、綻びがあったとしてその後どうしたらいいんだっけか?
確認した後オーベル様に連絡だっけ?
「我が嫁よ。ミリアリアの事は(心底)どうでもいいが、主神の頼みは眷族神として解決しないといけないからな。癪だがこの国の綻びがあるという所へ案内してもらうとしよう」
「あ、そうだね。とりあえず確認したらオーベル様に連絡したらいっか」
「そうだな。とりあえずそれで良いと思うぞ」
そうして話が纏まったところで王様直々にお城まで案内してもらう事になった。
ちなみにミリアリア様を追いかけていたイケメン門番さんは私たちの元にたどり着いたと同時に力尽きたのか、膝から崩れ落ちて地面に倒れ伏していた。
「グラジオちゃ~ん、来るのが遅いわよぉ~?鍛え治さないといけないかしらん♡」
と言いながらミリアリア様が困っている顔とポーズでグラジオと呼ばれた倒れている兵士を見下ろしていた。
……が、そんなミリアリア様の片足はおもむろに持ち上がると、ゴチッという音と共にグラジオの頭を踏みつけていた。
「!!??」
なんかヤバめの音がしたしあのエルフ的イケてる顔面が地面にめり込んでましたけど!?
彼の頭と顔面が大丈夫なのか不安になった私はミリアリア様に声をかけようとしたのだが、
「ご……ご褒美……♡」
と、踏まれた本人は涙と鼻血と……涎?を垂れ流しイケてたご尊顔を顔面崩壊させつつ嬉しそうにしていた。
こうして私の中のエルフ像はどんどん破壊されていくのであった……。
所詮、アニメや漫画のエルフは2次元の中だけだったんだ……ぐすん。
…………と言うか、そもそも元の世界にエルフ実在してなかったわ(白目)。
□ □ □ □ □
「改めてガーランド王国へようこそ、客人たちよ。私がこの国の王であるミリアリアだ。この国の住人のほとんどはエルフ族であり、他族の永住は例外を除いて認めていない。だが、そなたたちなら例外として歓迎するぞ」
威厳たっぷりな低音ボイスで私たちに向かってパチンとウインクした絶世の美青年改めミリアリア様は玉座の前に立ち歓迎する意を表すように両手を軽く横に広げた。
先ほどの強烈なオネエキャラのイメージはどこへ吹き飛んで行ったのか、今は凄く偉そうな(そもそも偉いけど)王様に見える。
……もはや別人である。
もしかしてあれは影武者だった?
いや、あんな強烈なキャラの影武者とか有り得るか……?
「モウナニモシンジラレナイ」
「ど、どうした我が嫁?」
私の感情の一切こもらない声音に隣に立つグンさんは心配そうな顔をしていたけど、それに安心させるよう笑い返す余裕はなかった。
……なにせ私の中のエルフのイメージが目まぐるしく変わりすぎて。
ショックが……ショックがでかいんだよ……。
「そなたたちに行って見てきてもらいたいのは国境付近の町であるティオルガだ。あそこはそなたたちが来た精霊の森より規模は小さいが、同じく森に囲まれている小さな町だ。最近見た事のない魔物による被害が多く報告されていてな。今のところ多くは無いが何件か被害も報告されている」
するとミリアリア様は横にチラリと視線を向けた。
そこには片目にモノクルを掛けた男性がミリアリア様の立つ玉座の横に立っており、彼の視線を受けた男性は私たちに向かって一礼した。
「お初にお目にかかります、王の実質的右腕をしておりますクオラルと申します。ここからは王の言葉を引き継ぎ私からご説明させて頂きます。
」
…………すごく、理知的なクールビューティエルフさんっぽい。
だが、私はもう騙されない。
貴方もきっと普通じゃない(疑心暗鬼)。
「……我が嫁よ、大丈夫か?話もまともに聞けぬほど体調が悪いのか?」
「え?キイテマスヨ?(にっこり)」
「そ、そうか……」
私の反論を許さぬ笑顔の圧にグンさんは少したじろいだ。
危ない危ない……今はオーベル様から託された仕事を遂行しなくては。
エルフ族が皆変人?変態?なのかどうかは今は置いておこう。
「……話を続けてもよろしいでしょうか?まずはティオルガへですが、急かして申し訳無いのですが明日の朝準備が整い次第こちらが用意した兵と共に現地に向かって頂きたいと思っております。先ほど入った報告によると、どうも魔力の多い上位種と見られる魔物を森で見た者が複数人出たらしく、至急救援要請がティオルガの地を束ねる長老から出されたそうです」
「上位種……」
RPG風で言えば始まりの町で既にハードモードみたいな感じ?
……いや、さすがにゲームに例えるのは不謹慎か。
なにせこれは現実。
私が今を、そしてこれからを生きていく世界だ。
「上位種だろうがなんだろうが我らの相手にはならんな。こちらには俺と、そして我が嫁である女神殿が付いている」
そう言ってグンさんは私を見た。
視線が合うと私を安心させるように頷き、そして口角を上げて不敵に笑った。
まるで問題ないとでも言うように。
「そうだね。問題ナッシング」
……ほんとはチビりそうなくらい緊張してるけど。