第5話 予想内と予想外
「やぁ~だぁ~♡ジェグちゃんたら久しぶりじゃな~い!アタシがいなくても元気だったぁ~?」
「ああ。お前がいなくとも何一つ変わらん。その無駄に元気な様子も相変わらずだな、ミリアリア」
「ああ~ん、もうっ!そんな他人行儀にアタシの事を呼・ば・な・い・で♡」
「他人だからな」
「んもぉ~う!相変わらずアタシの前ではツンデレちゃんなんだからぁ♡アタシとジェグちゃんの仲はぁ~昔っからアソコもココもぉ~ズ・ブ・ズ・ブ♡だったじゃなぁ~い」
「......ふむ。本当に相変わらず(気持ち悪いん)だな」
皆様、お分かりでしょうか?
これがエルフの国の王様とグンさんとの噛み合わない会話です。
□ □ □ □ □
『もうすぐ着くぞ、我が嫁』
あの後森の開けた場所に出た私たち……と言うか私は、竜の姿になったグンさんの背に強制的に乗らされて空を飛び移動していた。
それなりのスピードで移動しているわりに空気抵抗が少ない事に疑問を感じながらも、掛けられた彼の言葉に少し呆けていた意識を戻した。
ーーーチラッ
「ぐっ…下を見るのが怖いぃぃ」
『……?大丈夫だ、俺が我が嫁を落とす事など万が一にも有り得ない』
「いや、そういう事でなく……」
私、高所恐怖症では無いと思ってたけど、さすがに某アニメの台詞みたいな人がゴミのように見える高さからの景色はちょっと…いやかなり本能的に怖いんだと理解した。
だって私は地上の生き物だ(った)もの!!
『よし、降りるぞ』
しかしそんな私の思いなど、空を自由に飛び回れる種族たる婿殿(確定)にはちっとも理解されないようだ。
……と言うか今なんて言った?
「え、待って?ちょっと待って!?いや待てって……えええええええぇぇぇぇぇぇえ!!!」
少し角度が傾いたかと思ったらいきなり急降下しだして慌ててグンさんの身体にしがみついた。
「いやぁぁぁぁぁぁ落ちるぅぅぅぅぅ……!!」
『だから落ちんと言っているだろうに……それともそれは我が嫁流の冗談か?』
「んなジョークがあってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
もはやヤケクソで絶叫しながらしがみついていたらいつの間にか地上に着いていたらしく、瞬時に人型へと変わったグンさんに落ちかけたところをキャッチされ、姫抱っこされていた。
しかし呆けていたどころか魂すらどっかに飛んで行った状態の私は自分の状況に萌えてる余裕はなかった。
むしろ殴りてぇ、そのお綺麗なツラ……。
やさぐれすぎて内なるヤンキーを降臨させた私の感想はその一言に尽きる。
「ここがエルフが住むガーランド王国の首都エリアスだ。そしてあそこにある無駄に大きくて立派な白い門が他国から来る者たちを検閲する国境検問所だ。あそこで特に問題がなければ普通は入れるのだが、エルフは他国からの入国には特に厳しくてな。人族などは半数以上は追い返されるらしい」
「……おぉ、なんかエルフっぽい」
「エルフっぽい?よく分からんが我が嫁が楽しそうでなによりだ」
漫画やアニメでクールビューティかつ他族を寄せ付けない排他的なイメージのあるエルフそのまんまの感じで私のオタク心が一気に沸き立つ。
そしてそんな私の高揚した姿に嫁大好きなグンさんは無駄に色気のある顔で微笑んだ。
クッソ……顔が良い!(悔しげ)
「まぁでも我が嫁がエルフ族にどんなイメージを抱いているかは分からんが……過度な期待はしない方が良いとだけ言っておく」
「……ん?過度な期待?あそこの門番さんを見るにエルフはご尊顔が麗しいイメージがあるのですが」
「俺には顔の美醜にそこまでの括りがないから認識に少しズレはあるかもしれんが、麗しい顔と言うのならたぶん合っていると思うぞ。他族からも羨まれるらしいからな」
なんだやっぱエルフはお綺麗なんじゃん。
でもそれなら他にイメージを壊しそうな事ってある……?
「…………そうだな。口で言っても分からないだろうから実際に見た方が早いだろう。俺は……あまり会いたくないが」
何故か少し遠い目をしたグンさんに首を傾げながら検問所へと向かう彼の後を少し小走りで追いかけた。
「おい、そこの門番。アイツに俺が来たと伝えろ」
「……は?えぇ!?古竜様!?ちょ、ちょっと待ってください!!」
「早くしろ」
「はっ、はいぃぃぃ!!!」
グンさんに偉そうな態度で声を掛けられた門番の男性(正統派イケメンエルフ)は、反対側で他の人の相手をしていた門番仲間(ちょっと色っぽいイケメンエルフ)に慌てて何か小声で伝えるとそのまま走り去っていった。
その間にその色っぽい門番仲間さんが他の門番仲間を呼んで対応していた人の相手を代わりにさせると、小走りでこちらにやって来た。
「古竜様、お久しぶりです。本日はミリアリア様に御用で?」
「この国を通るついでに我が嫁をアイツに紹介しておこうと思ってな」
「と言うことはそこに居られるのが……」
「我が嫁、ハナだ」
「は、初めまして……ハナと申します」
リアルイケメンエルフ(しかもお色気お兄さん属性)に真正面から見つめられて思わずグンさんの後ろに隠れてもじもじしながら挨拶する。
もじもじしてる自分がなかなかキモいが、二次元から現実に現れたマジで尊いご尊顔をなかなかオタクは直視出来ないんだ。
グンさんも超絶美しいご尊顔だけども、なんか森の中を移動中に色々されて(主に顔面チュッチュ)彼の顔はちょっと見慣れてきた。
「なんとお可愛らしい。古竜様が羨ましいですね」
「そうだろう、そうだろう。我が嫁は世界で一番愛らしいからな」
やめて!
至高のご尊顔を持つイケメンたちに褒められてオタク女のライフはゼロよ!
「~~!!」
無駄に乙女……オタク心?に致命傷を負って悶えていた私の耳に、遠くからグンさんに声を掛けられて走り去っていったイケメン門番さんの叫ぶ声が聞こえてきた。
そちらを見ると必死な形相で何かを叫びながら走ってくる門番さんの前を、物凄く立派な衣装を着たこの世の美を掌握させたような美しすぎるエルフの美女……いや、ガタイ的におそらく青年が、それよりも早いスピードでこちらに向かって駆けてきた。
「……はぁ」
心の底からウンザリしてますと言いたげな重い溜息がグンさんから吐き出されて私はキョトンと彼を見上げる。
そんな私の視線を受け、グンさんは困った顔をしながら私を見た。
「…………直に分かる」
その言葉にどういう意味なのかと思っていたら、いつの間に辿り着いたのか、豪奢な衣装を着た絶世の美青年エルフがグンさんに向かって両手を広げて叫んだ。
「やぁ~だぁ~♡ジェグちゃんたら久しぶりじゃな~い!アタシがいなくても元気だったぁ~?」
???????!?
私の脳みそがエラーを起こした。
そんな私の衝撃を受けて固まった様子に誰も気付かず、そのままの勢いで美青年エルフはグンさんに抱きつこうとして華麗に避けられていた。
「ああ。お前がいなくとも何一つ変わらん。その無駄に元気な様子も相変わらずだな、ミリアリア」
「ああ~ん、もうっ!そんな他人行儀にアタシの事を呼・ば・な・い・で♡」
「他人だからな」
取り付く島もないグンさんの様子にもめげず、美青年エルフはそのとっても無駄にイケボな声でオネエ言葉を続けた。
「んもぉ~う!相変わらずアタシの前ではツンデレちゃんなんだからぁ♡アタシとジェグちゃんの仲はぁ~昔っからアソコもココもぉ~ズ・ブ・ズ・ブ♡だったじゃなぁ~い」
「......ふむ。本当に相変わらず(気持ち悪いん)だな」
やべぇ、あのグンさんがドン引きしてらっしゃる……。
美青年エルフ改めオネエエルフ恐るべし。
それにしてもこのオネエエルフ様は……あれ?
「ミリアリア、俺の横で可愛らしい顔をしているのが我が嫁であるハナだ」
「ふぁ!?(いきなり紹介!?)……は、はじめまし」
「あらやだ!何この子、オーベル様の匂いがプンプンしてるじゃな~い♡いいわ、いいわぁ~舐め回したいわぁ~♡」
「ふぇ!!??」
「させるわけないが、やったら殺す」
「いやぁ~ん、ジェグちゃんのい・け・ず♡」
頬に片手を当て、もう片方の手の人差し指でグンさんの胸をつつこうとしていたのをまたしても華麗にかわされて、絶世の美オネエエルフ様(言いにくい)は見た目だけは可愛らしく頬を膨らませた。
「…………ハナ、信じられないかもしれないが、コレがこの国の王だ」
「What?」
「わっと?コイツがこの国の王であるミリアリアだ。……よろしくはしなくていい」
「はぁ……?」
「んふふぅ~♡よろしくね、ハーナちゃん♡」
両手でハートの形を作ってバチコンとウインクを私に送ったこの国の最高権力者(但しオネエ)に、私の意識は遠くなりかけた。