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愛が呪いを解かすまで

作者: 綴ミコト

 それはある吹雪の日のことだった。

 人気のない山奥でたった一軒だけ灯りの漏れたボロ屋の扉を、一人の少女がトントンと叩いた。

 その音に反応した家の主人は、扉の向こうに問いかける。

 「誰だ?」

 少女はそれにしばらくの沈黙の後、震えた声で答えた。

 「私は旅の者です。吹雪の中、泊まる場所もなく……。よろしければ、一晩泊めていただけないでしょうか?」

 家の主人は彼女の声を聞いて考える。か弱い少女の声に、強い風の音。こんな状況で彼女を追い返せば、きっとバチが当たるだろう。

 そう考えた家の主人は、重い腰を上げて立ち上がると、扉を開けた。

 扉を開けると、驚いた表情を浮かべる少女と目が合った。

 少女は一度は扉が開いたことに、二度目は家の主人が自分と大して変わらない歳に見える少年だったことに驚いていた。こんな山奥に一人暮らしているなんて、きっと年寄りだろうと勝手に思っていたのだ。

 驚きに目を見開いてまじまじと少年の顔を見る少女に、少年は不機嫌そうな顔で言った。

 「なんだ、人の顔をじろじろと」

 「あっ、すみません!」

 少女は咄嗟に謝る。

 そんな少女にため息を一つ吐いてから、少年は少女を中に入れた。

 中は質素だった。囲炉裏と一枚の座布団に、藁を敷いた寝床があるのみ。

 少女は部屋の隅に自分の背負っていた竹籠を置くと、囲炉裏の前に座った。

 すると少年は一枚しかない座布団を少女に渡してきた。

 それからしばらくの沈黙の後、少年はふとおかしなことを言った。

 「この家に食えるものはない。何か食べたいなら他を当たってくれ」

 それを聞いて少女は、ここ最近の飢饉の影響だろうかと思った。だが、それはここから離れた場所の話のはずだし、なによりこんな山奥が影響を受けるとはあまり思えない。ここなら冬でも山菜が豊富に採れるだろう。

 しかし少女も別にお腹をすかしているわけではなかったため、黙って首を振った。

 それを見てから、少年は続ける。

 「茶ならあるから勝手に飲んでくれ。それから、布団もあんなのしかないが、使っていい」

 それを聞いて、少女はやや不安そうに尋ねた。

 「あなたはどうなさるのでしょうか?」

 「俺は床で寝る。気にするな」

 素っ気なく答えた少年に、少女は心配そうな表情を浮かべた。だがここで断ったところで彼は譲らないだろうとも思い、少女は彼の好意に甘える選択をした。

 長旅で疲れていた少女は早く休みたいと思い、少し囲炉裏で暖まった後、すぐに眠ることにした。

 藁の上に横たわり、ボロ切れ同然の布団を自分にかける。そして完全に横になる前に、囲炉裏の前に座っている少年に声をかけた。

 「私はもう休ませていただきます」

 「ああ」

 淡々と答えた少年に、少女は最後、おかしなことを言った。

 「……明日になれば、あなたは私の事など忘れていることでしょう。ですが、私はあなたのご好意を忘れません。……最後に、あなたのお名前を伺っても?」

 明日の朝にも顔を合わせることになるだろうに、最後などとおかしなことを言う少女に内心首を傾げながらも、少年は少女の問いに答えた。

 「(よろず)だ。お前は?」

 少年が尋ねると、一瞬悲しそうな表情を浮かべた後で、少女は僅かな微笑みと共に答えた。

 「……(はな)です」

 「……そうか。では、お前が寝るならもう火を消す。おやすみ」

 この時の少年、万には、なぜ少女、華があんな表情を浮かべたのかは分からなかった。

 万は華とは少し離れた床に横たわり、そのまま眠りについた。


 翌日の早朝。目を覚ました万は部屋をぐるりと見渡した時、ふといつもとは違う光景であることに気づく。

 そして、恐怖を覚えた。

 「っ、誰だ!?どこから入った!」

 その声に華は目を覚まし、瞼を擦ってから目を開ける。

 それから目の前に広がる光景になんとなくの事情を察し、悲しい笑みを浮かべた。

 「……ああ、やっぱり、ダメだったか」

 小さくそう呟いてから、少女は両手を上げながら言った。

 「……私は昨日、あなたにこの家に泊めていただいた者です」

 「……そんな覚えはない」

 万は言った。それに大して分かりきっていたことだというように、華は頷いた。

 「私は別に、あなたに危害を加えるつもりはない。ただ、あなたに不快な思いをさせてしまったことは事実です。……ごめんなさい」

 少女は謝った。万はそれに答えなかった。いや、正確には、なんと答えればいいのかが分からなかった。

 「私はもうここから出て行きますし、気に食わなければ私を奉行所に差し出しても構いません」

 華は言った。その表情にはどこか影があって、疲れているように見える。同時に、なんの躊躇いもなくそんなことを言える様子からは、このようなことをもう何度も経験していて慣れっ子なのだということも窺えた。

 まだ何も言わない万に、ひとまず自分を奉行所に突き出すようなことはしないのだろうと判断した華は、部屋の隅に置いていた竹籠を背負って、扉に向かう。

 「泊めてくださってありがとうございました。……覚えてはいないでしょうが。でも、私はあなたのことは忘れません、万さん」

 華が最後に万の名を呼んだ時、万はバッと顔を上げ、驚いた表情を見せた。

 その突然の動きにきょとんとしている華に、万は呟いた。

 「お前、俺の名前……」

 「えぇ……、昨日、教えていただいたので……」

 華は困惑しながらも、万に言った。

 それからしばらく目を見開いていた万だが、だんだんと衝撃も収まってきたようで、一度目を閉じてから華に言った。

 「どうやら、お前の言ったことは本当のようだな。俺の名前を知る者なんてもういない。本当に、俺から教えてもらったんだろう。……覚えてないんだがな」

 万は頬を掻きながら昨日のことを思い出す。しかし靄がかかったように夜のことは何も思い出せない。酒を飲んだ覚えはないが……と思いながら、ふと目線を華の方に向けた。

 そして目にした彼女の表情に、万は心を奪われた。

 潤んだ瞳で、嬉しそうに頬を紅潮させながら、華は万を見ていた。

 ただただ嬉しかった。彼が自分を信じてくれたことが。

 気味悪がって追い返す人ばかりと出会ってきた。それも仕方なかった。だって自分のことを、誰も覚えていないのだから。

 だが彼は違った。何か理由があったからとはいえ、こんな風に自分を信じてくれた。

 それが、本当に嬉しく感じた。

 ふと華の瞳から雫が溢れた。それは一度溢れてしまえば止めることはできず、後からどんどん流れてくる。

 万は突然泣き出した華に戸惑いながら、彼女の涙を拭う。

 「どうしたんだ、急に。俺が忘れていたからか?」

 指で涙を掬いながらそう尋ねる万に、華は首を振る。そして答えた。

 「違う。……嬉しいんです。私の事、信じてくれたから」

 華は笑顔を浮かべながらそう言った。弓形に細められた瞳からまた涙が溢れてくる。そんな華に、万は思った。

 美しいものから溢れてくる涙は、こんなにも水晶のように輝くのだと。

 そして目の前の少女を愛おしく思った。しかしその思いが実を結ぶ日は来ないことを知っている万は、同時に悲しく思った。

 (せめて、彼女の側にいれたら……)

 そう思った万は、華に尋ねた。

 「お前はこれからどうする」

 華は自分の頬に残る涙を拭いながら、万の問いに答えた。

 「……また旅に出て、疲れたら、こうして誰かの家に泊めてもらって、また忘れられて……。そうやって、いつも通りの日々を送ると思います」

 悲しそうな表情で笑いながら、華は言った。そんな彼女の腕を掴みながら、万は彼女に提案をする。

 「ここで暮らさないか?」

 唐突な誘いに、華は目を瞬いた。そんな彼女に万は続ける。

 「ここなら金を稼がなくてもある程度は暮らしていけるはずだし、旅よりは安定した生活ができるはずだ。なにより、俺はお前を信じられる。そうなんだろう?」

 華はまた瞳を潤ませた。きっとあともう一押しだと思い、万は言った。

 「それから、俺はお前を忘れない。たとえ忘れてしまっても、何度でもこの脳にお前を焼き付ける」

 その言葉を聞いて、華はたくさんの感情が湧き上がるのを感じた。嬉しい気持ちと、悲しい気持ちと、信じたいという思いと、信じられないという思いと。それらが複雑に混ざり合い、どんな表情で、どんな風に答えればいいのかが分からなくなってくる。

 だが最後に残ったのは、それでもやっぱり彼の思いに応えたいという、そういう思いだった。

 (私も、彼と一緒にいてみたい。だってもしかしたら、彼なら……)

 華は心の中で、ずっと閉じ込めていた願いを呟いた。

 (私の呪いを、解いてくれるかもしれない)

 華は自分の腕を掴む万の手に、自分のもう片方の手を重ねながら答えた。

 「……私も、ここで暮らしたい」

 華が笑ってそう答えれば、万も嬉しそうな表情を浮かべる。

 こうして、二人の共同生活が始まった。


 華は呪われていた。

 それは幼少期、村を襲った災厄を抑えるための生贄として差し出された時に刻まれたものだ。

 彼女が呪いを受ける生贄となった代わりに、村はまた平和を取り戻した。

 しかしもう誰も、華という生贄の存在を、覚えてはいなかった。

 誰にも覚えてもらえない呪い。全ての人に忘れ去られ、この先誰かの記憶に刻まれることもない。それが華の呪いだった。

 村に戻った華は、自分が生贄になったことで村が平和になったというのに、皆に存在を忘れられたあげく追い出されてしまった。

 それが、数百年前の出来事。

 それからずっと、呪いと共に手にした不老不死の力で生きながらえ、旅をしてきた。

 どこへ行っても誰にも覚えてもらえることはなく、気味悪がられる。旅の中で出会った人全てに忘れられて、何度も何度も追い出されては、また新しい客として歓迎される。

 その果てに出会ったのが、万だった。しかし華は知らない。その彼も、同じく呪われた人間だということを。


 共同生活の一日目は特に何事もなく終わった。二人とも食事を必要としないので、食べ物を採りに行く必要もなく、ただ二人昨日の吹雪で積もった雪で遊んでいた。

 それから寒さで家の中に戻ると、ただ二人無言で囲炉裏に手をかざして暖まった。華がお茶を持ってくると、二人は他愛もない話をしながら日が暮れるまで過ごした。

 そして夜が来て、二人が眠り、朝が来ると、万はまた華を忘れていた。

 華はまた彼の名を呼び、彼は華を信じた。それから華が昨日の出来事を話し、万がそれに納得する。

 それがずっと続いた。冬が終わり春がやってきて、夏になり、秋になり、また冬になるまで。

 毎日毎日そんな日々を送る中で、万は華を忘れても彼女を知っている人だと認識できるようになっていった。どこかで会ったことがある気がする程度だったが、華はそれを大いに喜んだ。

 そして華にも変化が訪れた。今まで感じたことのない感情を、万に対して抱くようになったのだ。

 この胸が締め付けられるような感覚の正体が、華にはまだ分からなかった。しかしそれのせいで、万がいつも自分を忘れてしまうことをひどく悲しく思うようになった。

 そんな日々が続いて、三度目の冬が訪れた頃。

 華にとってとても嬉しい出来事が起こった。

 いつも通り万は先に目を覚まし、部屋をぐるりと見渡す。そこで、昨日までとは違うことを思った。

 そして彼は小さく呟いた。

 「華……?」

 いつも万が起きた直後に目を覚ます華は、この呟きをしっかり耳にしていた。

 万が華の名を呼んだのを聞いた時、華は思わず涙が溢れた。そして布団を出て、感情のままに万に抱きついた。

 「華!?」

 「……そう、華だよ!私は華!……覚えててくれたの?」

 首の後ろに手を回し、顔を近づけたまま、華は万に尋ねた。

 「……ああ」

 万もおもむろに華の背に手を回し、彼女を抱きしめ返しながら答えた。

 この日を境に、少しずつ万は華を覚えていられるようになった。

 もちろん初めから順調だったわけではなく、一日経ったらまた忘れてしまったが、それが二日、三日と伸びていき……。

 やがて、万は華を忘れなくなった。

 その変化は華にとって何より嬉しいもので、ずっと彼女が求めてきた、呪いが解けることに繋がるものだった。

 しかしその変化が、全てに幸せをもたらすわけではなかった。

 ある朝、華は目を覚ました時、自分の体に異変を感じた。

 「……あぁ、そっか」

 自分の体が透けていた。それはほんの僅かな変化だったが、華自身には確かに感じられた。

 「呪いが解けたから、もう、この世界とはお別れなんだね」

 それは長く苦しかった自分の人生が終わることを意味しており、華にとってはずっと求めてきたものであることに違いなかった。

 (でも……)

 彼女はまだ眠っている万を起こさないように、嗚咽を堪える。そして心の中で自分の思いを叫んだ。

 (なんで、よりによって今なの……?こんなに、愛しい彼と出会えたのに……っ)

 そんな叫びは誰にも届くことなく、彼女はまだ昇りかけの太陽が照らす家の中で、一人涙を落とした。


 華はどうしても、万に心配をかけたくなかった。だから、このことは彼に黙っておくことにした。

 万は今日も明日も明後日も、華のことを覚えていてくれた。それは華だけでなく万にとっても嬉しいことだった。

 大好きな人を覚えておくことすら、ずっと許されなかった。どんなに愛していても、明日になればその思いごと忘れてしまう。

 苦しかった。だからこそ、何としても彼女を覚えていられるようになりたかった。

 夜通し起きていられれば、彼女を忘れないのではないかと思い試したこともあった。確かに忘れはしなかったが、何日もずっと起きていることも不可能だった。

 結局自分にできたのは、昼のうちに彼女を脳裏に焼き付ける努力だけ。そしてそれが実を結び、彼女を忘れなくなった。無駄ではなかったと思えた。

 隣で笑っている華の笑顔を、覚えていられる。それがこの上なく幸せだった。

 けれどその幸せも、長くは続かなかった。

 例年よりも短い冬が終わり、春が訪れた。鳥の囀りが聞こえるようになり、梅の花が咲き始めた。

 その日の朝も、華のことを覚えていられて、それどころか、出会った頃の記憶も戻ってきた。

 目を覚ました瞬間に流れ込んできたこの記憶を華と共有したくて、万はバッと起き上がり華の方を見た。

 「華!」

 そう声をかけながら彼女を振り返る万の瞳に、悲しい光景が映り込んだ。

 「……華?」

 万は小さく呟く。

 華の周りを光の粒子が舞っていた。それだけならただ美しくて、華のような子にピッタリだと褒め称えただろう。

 ただその光の粒子は明らかに、華の体から生まれていた。まるで彼女の体がどんどん、この粒子に変わっていってしまっているようだ。

 そして彼女の着ている着物からはだけた部分は透けていて、向こう側の景色を映していた。

 万は慌てて華に駆け寄る。そして彼女を取られまいとするように、きつく抱きしめた。

 「華!華!」

 「うん、万」

 必死に叫ぶ万を、頼りない腕で華は抱きしめ返す。

 「ごめんね、隠してて。あなたに心配、かけたくなくて」

 華は悲しそうに謝った。

 「……謝らなくていい」

 万は唇を噛み締めながら、なんとか絞り出した言葉を言う。

 華は万の言葉を聞いて嬉しそうに微笑みながら、「優しいね」と言った。

 そして、自分の呪いのことを、全て彼に打ち明けた。

 呪いについても、自分の呪いのことも、呪われた経緯も、今までの人生の苦しみも。それから、万に出会えたことの喜びも。

 「私、あなたに出会えて嬉しかった。あなたが、私の呪いを解いてくれたんだよ」

 それを聞いた万は、涙を流す。そして、彼女の言葉に応えるために口を開いた。

 「俺も、お前に、華に出会えて、本当に、嬉しかった……」

 涙で途切れ途切れになった言葉を聞いて、華は心の底からの笑顔を浮かべる。

 もう一度きつく抱きしめた万の温もりを感じた華は、幸せそうに言った。

 「あなたに出会えて、こうやって抱きしめてもらえて、私は本当に、もう幸せ。……あぁ、もう、消えてしまってもいい……」

 涙が頬を伝いながらも、笑顔で言った華に万は苦しそうに返す。

 「そんなこと、言わないでくれ。俺はまだ……」

 一緒にいたい。そんなことを言っても困らせるだけだと悟った万は、そこで言葉を切る。

 彼女が幸せなら、それでいいと、そう思えた。本当にこんなことを思えるものなのだと、自分に人を愛することができたのだと実感した。

 そんな万の頬に手を添えて、華は優しく微笑む。

 そして万が、なによりも求めていた言葉を、彼女は口にした。

 「万、愛してる」

 その言葉に、万はハッとした。

 「今、なんて……」

 万は信じられない、という表情で華に聞き返す。

 華は柔らかい手で万の頬を包みながら、優しく言った。

 「愛してる。愛してるよ。大好きなの、あなたのことが。優しくて、私の事とっても大切にしてくれるあなたが。だから……っ」

 そこで華は笑顔を消し去り、代わりに顔を歪めて涙を溢す。

 「もっと一緒に、いたかった……!」

 泣き声をあげて涙を流す華の背を、子供をあやすように万が優しく叩く。

 「好きなのに、大好きなのに!こんなところでお別れしたくない!逝きたくない!……でも、同じくらい、死ぬなら今がいいって思うの……!死ぬなら、消えちゃうなら、あなたの腕の中がいい……っ」

 「ああ、大丈夫だ」

 そう言った万に華は顔を上げた。そして、万を見る。そこで、彼の言葉の意味を知った。

 「大丈夫、俺も一緒だから」

 透ける肌と、光の粒子。それは自分のものと混ざり合っているが、自分のものではない。

 困惑する華に、万は言った。

 「俺の呪いは、お前が今、解いてくれたんだ。これで、お前と一緒に逝ける」

 そして、彼も打ち明けた。自分の、呪いのことを。

 彼も華と同じように、生贄に差し出された時に呪いを受けた。そしてそれからずっと、孤独な思いをしながら生きてきたのだと。

 そしてその呪いとは、誰にも愛されない呪い。本来なら華も、彼を呪いのせいで避けるはずだった。しかし華は自分自身も呪われていたことで、自分といたいと言ってくれる数少ない人間である彼を好きになっていった。

 「思えば、お前と同じように、もうすでに呪いは解けてたんだろうな」

 万は、愛おしそうに華を見る。華も同じように、万を見ていた。

 最後の最後まで、一緒にいられる。きっと天国でも、来世でも、それは変わらない。

 そう、信じたいと、二人は思った。

 「俺も、愛してる、華」

 出会ったばかりの頃のように、万は華の涙を拭い、頬に手を添える。

 嬉しそうに微笑んだ二人が口付けを交わした時。

 部屋から二人の姿が消え、後に残った眩い光は、天へと昇っていった。

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