世代の勇者「叶えたい夢」
本編「世代の勇者」に登場するキャラクターの短編ストーリーです。
アリシアは特別だった。周りと違う彼女はある出来事をきっかけに運命が回り始める。
産まれた時。名を与えられた時。目を開けた時。私は他の人とは違った。みんなが私を称賛した。でも…
「叶えたい夢」
この世界に産まれた時。私はマナと繋がった。一部の人しか使えないマナ適合者となり。その中でも貴重。回復系の魔法を授かった。幼い時から魔法の練習を行い、魔法学校にも通った。私と同じ境遇の人と出会うと思うと、心が弾む。
「1人じゃない」
と。しかし私は孤立した。周りのみんなは魔法が使える以前の問題で人一倍練習していた私は周りを置いていった。
「アリシアちゃん!!すごいね!!」
違う
「私なんて全然…」
痛い。刺す様な周りからの視線。調子に乗るなと。言わんばかりの視線。
結果魔法学校は主席で卒業した。当時私は19歳だった。卒業時に貰ったガラスの花を、私は森に捨てた。
「これからどうしようかなぁ…」
家族とは魔法学校に入学した時以来疎遠になっていた。捨てられた訳じゃ無く、私から1人になった。どうしても。あの視線から逃げたかった。
森の中を歩きながら動物を愛でる。傷を負った動物は助ける。私は1人じゃない。いつか必ず。私と。心の底から寄り添ってくれる人が現れると信じて。
一年。二年と時は過ぎ、元いた村から出た私は王国や各地の村を転々としていた。変わらない私をよそに、時間は確実に過ぎて行く。孤独に飲まれる夜も。悲しみに打ち砕かれる日も。私は耐えた。
「私が…変わらないと…」
肌寒い季節が過ぎ、森は自然を取り戻す。自身の才能を無駄にしない為、私は勇者学校に入った。
多くの才能を持った人が在籍している勇者学校の中でも。私は特別だった。研究に没頭し、家の中でも。休日も。私は魔法を極めた。回復魔法を授かった意味を。私がマナと繋がった理由を。私が。生きていても良いという口実が欲しかった。そんな時。勇者学校の中でも優秀な人達が最前線に駆り出された。その中に。私もいた。
空気は澱み、悲鳴が響く。本の話でしか聞いたことのない魔王軍との戦い。前線から運ばれる重症者達。逃げ始める同期。先輩。動かない死体。私はただひたすらにみんなを癒した。回復魔法が使えるのは私を含めて数十人。1人は前線に、もう1人は私の隣に、残りは重症者を見捨てて逃げた。
回復の魔法を使うたびに、体内のマナが無くなるのが分かる。大気中のマナに輝きが無くなっていくのが分かる。
「アリシアちゃん…もう…」
「うるさい」
「もう良いよ!頑張った方だよ!!」
「…」
勇者学校で知り合った女の子。[セリア]は私の服を引っ張る。でも…逃げるわけには行かない。その行為は…私の存在意義を失うことになるから。それでも…私の心は折れかかっていた。増え続ける怪我人。見えなくなったマナ。鼻から血を流しながら、埃のようなマナを見つけ、回復させる。
「はぁ…はぁ…次」
「アリシアちゃん!!」
「あなたも……手を貸して…」
「…ごめんなさい…私…もう体力が…」
そう言うとセリアは地面に倒れた。気を失った彼女は…私に回復魔法を使わせる為に、マナ以外を消費して魔法を使っていた。
「…体力」
自身の体を見て、息を呑む。回復魔法の発動条件は3つある。
一つ目はマナ。自身や大気のマナを消費する方法。
二つ目は体力。自身の体力を犠牲に魔法を発動する方法。
最後は…寿命。代価が高い代わりに普段と桁違いの魔法を使用する方法。
マナはもう無い。体力を使って回復してもキリがなく、最悪足手纏い。ならもう…一つしかない。一か八か。寿命を使い、広範囲の回復を行う。
「みんなを守りたい…」
私の人生は。孤独だった。横を歩く人は1人も居なく、見上げる人は私から離れる。でも。それでも最後は。
「ありがとう…私…1人じゃないよ…」
頬を伝う涙がセリアの顔に落ちる。蔑まれて、讃えられて。その中でもセリアだけはついて来てくれた。流れる涙を指で拭いながら私は魔法を発動させた。
その時だった。
薄暗い空は青色に変わり、重症者達は目を覚ます。
視界に映る。光り輝くマナが私の涙にふれ、弾けた。
王国の騎士達が声を荒げ、剣を上げる。大衆の見る先には4人の人影があった。
「ごめんね。みんな。ありがとう。あとは任せて」
「ん…」
「間に合わず申し訳ない。本当に不甲斐ない…あとは大丈夫だ。」
「俺たちに任せてもらおうか!!!」
そう言うと空からマナが降り注ぐ。
初めて見る彼らの姿は、紛れもなく。勇者そのものだった。
「勇者様!遅いですよ!!」
「すまない。遅れた事の償いは戦いが終わった後にしよう」
「了解っす!!」
突如現れた金髪の男は四人の勇者の元に駆け寄る。
「アリシアちゃん?」
この時。私は無意識で動いていた。心配するセリアを他所に、私は金髪の男に話しかける。
「怪我してる」
「ん?」
「ほっぺ」
「あぁ大丈夫。軽い怪我だよ。」
「ライトの身体は特別だから。その分回復が効きにくいんだよ。心配してくれたんだよね?」
緑髪の女性が私に話しかける。この時。私は無意識で魔法を発動していた。左手を伸ばし、頬を触る。同時に私の中で何かが変わった。
「!!」
「へぇ」
「…」
「凄いじゃん。」
金髪の男の頬から流れる血は止まり、皮膚は再生する。特別な事をしたわけじゃない。ただ単純に責務を果たしただけ。それでも彼は私に一言。
「?!ありがとう!!」
何気ない一言。その一言が私の心を揺らす。
「…はい…」
ここに来るまで、人から求められる事なんて一度もなかった。一人で進み、普通とは違う視線を浴びる。それでも彼は私に[ありがとう]と言ってくれた。産まれて初めて。感謝された。その事が。ただひたすらに…
「…ぅ」
嬉しくて。私は生きてて良かったんだって。そう思えた。
流るる涙が頬を滑り、マナと弾ける。
第三魔王軍。前線地帯。8時間の決闘の末勇者が勝利した。
家に戻った私は茶を湧き、椅子に座る。あの時以来普段より鮮明にマナが見える様になった。回復魔法も上達し、幾つかのスキルも授かった。昔とは違う。心が前を向いて。未来を見て進んでいると分かる。そんな私の初めての目標。鼓動する胸に手を当て、深呼吸する。
叶えたい夢。
「また…あの人に…会いたいな…」
一人の小さな。恋心。
ご覧頂きありがとうございます。アリシアは本編「世代の勇者」にてヴァート達と深く関わります。是非いいねと感想。宜しくお願いします。