はじまり。
1.序章
桜の花が咲き始めた4月の頭。春の暖かさと冬の残影が入り混じったような、実に不思議な季節である。
その日は、いつも通り僕は学校へ向かっていた。
坂を越え、また下る。
そうすると駅が見えてくる。と、その時だった。
「あーらたっ!!おっはよー!」
ドンと背中を叩かれ、少しふらつく。
犯人は誰か考えるまでもない。
「お前な、いつまで子供みたいな挨拶を続けるんだ。」
近所に住む、藍川和葉である。彼女とは、産まれた病院、通った保育園、小中高と全て同じであり、いわゆる腐れ縁という間柄だ。
「いつまでって。ずっとに決まってるじゃん!私たち幼馴染でしょ?」
決まっていつもこれだ。確かに彼女とは幼馴染と言わざるを得ないし、家族ぐるみで付き合いが良い。しかしそれが僕を突き飛ばしていい理由にはならない。
「あのな。僕たちはもう高校生だぞ?周りにどんな目で見られるか、少し考えろよなぁ。」
はぁー、とため息をつく僕に向かって和葉はニヤニヤしながら更に近づく。
「それは、私を女の子として見ているってことかな?」
あまりにもしつこかったので、無視をして先を歩く。予定の電車に乗れなければ遅刻してしまうからである。決して照れ隠しではない。
「ちょっとまちなさいよー!」
和葉は息を切らせながら僕についてきた。
そんなくだらないやり取りをしている時だった。とても綺麗な白い長い髪を持つ男が僕の横を通った。理由はわからないが、僕の目は彼に釘付けになってしまった。急に立ち止まった僕に和葉は勢い余ってぶつかる。
和葉が何かを僕に言っているが、耳に入らない。
僕は遠ざかっていく名前も知らない男の背中をずっと見つめていた。
すると次の瞬間、頭に強い衝撃を感じた。
「いい加減に話を聞きなさいよ!」
和葉が持っていたバッグを振り回し、僕に叩きつけたのだ。
流石に驚き、我に帰る。
「何も叩くことないだろ。」
「だってこっちの話、全然聞いてくれないじゃない。」
確かにそうだ。僕は彼女の話を全く聞いていなかった。
そこで、ふと男の背中の方向に目をやるともう姿が見えなくなっていた。
何故見たこともない彼が気になってしまったのだろう。
確かに見た目はこの辺では見かけないような風貌であった。だが、それにしても僕の彼に対する食いつきは尋常じゃなかった。
「ひとまず早く学校行こう。今日は朝会があるから早めに行かないとな。」
和葉の話はまだ終わっていなかったが、無理矢理終わらせて学校へ向かうことにした。
この時の僕は、既に気づいていたのかもしれない。
彼とはまたいつか会うことになる、と。