プロローグ
ーー見えてるものが全てじゃないーー
こんな言葉をよく聞く、だけど僕の知ってるこの言葉は、だから全てのものに心を開いて接しましょうね、なんていう説教じみたものではない。
ただ、自分と知らないところで自分の知らないことが起きているかもしれないってことだ。
「おーい!一緒に帰ろうぜ!」
後ろからでかい声で呼びかけられ、振り返るとそこには、もう高校生活が始まってから1年半は経つというのに、小学校の頃から変わらぬ太陽のような底抜けの笑顔で笑う腐れ縁の友達が立っていた。
「あぁ、今いくよ陽向!」
もう陽向とは、生まれた頃から一緒に居たと言っても過言じゃない。もともと家が隣で3ヶ月だけ先に生まれたあいつが少しだけ大きくて、小さい頃は兄貴面してたような気がする。今じゃ身長も追いつけ追い越せで、いつの間にか目線もおんなじくらいになってた。
「いやぁ、今度のテストしんどくね…」
「わかるわ…、急に難しくなりすぎなんだよな…」
他愛もない会話を続けながらいつもの帰り道の河原を歩き、家の前で別れる。こんな当たり前の毎日が続いて行くことを俺は疑っていなかった。
いつも通り、やっつけで課題をして、少しだけテストの勉強をしてみる。当然のように何もわからない俺は一縷の望みをかけて陽向にラインを送り、ベッドの上に携帯を放り投げる。
いつもなら数分で着信音が鳴るはずの携帯は何も音を立てなかったがさりとて気に留めることもせず、気分転換に掃除でもするか、なんて思い立ち、足の踏み場という生存領域を広げて行った。小一時間片付けをしていた俺は、熱中してしまい、母さんが階下から呼ぶ声も聞こえていなかった。
「龍紀!!何してるの!早く降りてきなさい!晩御飯よ!」
「ぇ!わかった!母さん!今行く!!」
階段を一段飛ばして駆け下りリビングに転がり込むと、鼻をくすぐるのはスパイスの効いたカレーの匂い。すでに席についている母さんに謝りながら滑り込むようにして食卓につく。
「いただきます!」
仕事をしながら、女手ひとつで自分たち兄妹を育ててくれている母さんには頭が上がらない。うちは妹が生まれた直後に親父が事故で死んじまったらしくて、そっからずっと一人で育ててくれている。陳腐な言葉になってしまうがすごい人だ。そういえば、
「母さん、姫乃は?」
「今日も部屋で食べるみたい。私たちは何も言わないのにねぇ…」
2個下の妹は、多分、俺のことを蛇蝎の如く嫌っている。母さんとは顔を合わせているみたいだが、ここ半年くらい俺とは顔を合わせてくれない。いわゆる反抗期のようなものなのだろうとは思っているが、兄としては心苦しいものがある。
そんなこんなで夕食を終えた俺は、日課のランニングに行き、風呂に入って汗を流し、疲れたと思いながらベッドに倒れ込む。こんな毎日がいつまでも続いていくと思っていた。




