夢を叶えて
城を出た私とミリィは直ぐに教会へやってきたわ。
そしてシスター・エルーナ様を探していると………
「ん。いらっしゃいリリアーナ。
ミリアはおかえり。」
「おっ!キリカパイセンじゃん!」
「ミリィ、貴女は副団長に対して軽すぎるわ。
本当に怖いもの知らずね?」
丁度エルーナ様の妻の1人で狐の獣人さんなキリカ副団長様に出会った……のはいいのだけれど、ミリィが本当に遠慮無し過ぎるわね?
※聖教会では獣人の信者に合わせて重婚可能となっている
※2獣人は『ハーレム』と呼ばれる一夫多妻、多夫一妻等の重婚も普通、それを受け入れられる他種族も含む
聖騎士団の規律はどうなってるのよ…?
ただ、そのキリカ副団長様本人はいつも通りの満面の無表情。
気にしている様子は無いみたいだわ。
「ん。キリカは気にしてない。」
「そうですか…?
…ならいい…のかしら…?」
「ん。キリカが気にしてないから、リリアーナも気にしなくていい。」
「えー……
「リリアーナ、ちょっと真面目すぎる。
もっとミリィを見習うべき。」
「むしろ私が注意されるのですか!?」
「…でも、エルみたいだからリリアーナはそのままでもいい。」
「結局どっちなのよ…?」
「あ。今の気楽さ、良いよ?えらいえらい。
尻尾を触らせてあげよう。」
そう言って尻尾をこちらに向けてくるキリカ副団長様。
だけど………
「……獣人の尻尾…ってそれは結婚相手しか触っちゃダメですよね!?
触ったら私、キリカ副団長様のお嫁さんになるしかなくなるやつですよね!?」
※獣人が耳や尻尾を触らせるのは求愛行為。
触っていいのは番のみなので、もし差し出された耳や尻尾に触ったら知らなくても結婚するしかなくなる罠。
※2獣人側からの拒否は可能な為、番以外が勝手に触ると報復される。
※3なお、聖教会での規律では獣人に限らず相手側の意思を無視した強引な結婚はご法度。
「………ちっ。」
「まさかの舌打ちですか副団長様!?」
「おいパイセン!!リリィはアタシのだ!!
そうゆう事はエルーナやシャルロッテパイセンにやれ!!」
「ん。そうする。エル、キリカの尻尾モフって?」
「って居たのですかエルーナ様!?」
「今来た所ですよ?リリアーナさん。」
「んぁぁぁ〜♡」
と、キリカ副団長様にからかわれてたら捜し人のエルーナ様が来たわ……
慣れた手つきで流れる様にキリカ副団長様の尻尾を撫で始めたわね。
………いつもの事だけれど。
「は〜いワシャワシャ〜♪」
「あぅぅ〜♡」
「今日もキリカちゃんは可愛いですね〜?
ではでは〜…最後にその可愛いお耳をコリコリっと♪」
「ひゃんっ!!」
「はいおしまい♡」
「はぁ……はぁ……キリカ、満足………♪」
「〜っ!ホントなんなんだよアンタら!?
流れる様にイチャつきやがって!!
想い人と恋仲になれないアタシへの当て付けか!?
当て付けだろう!!!」
って、ミリィの怒りが爆発したわね。
まぁ、確かに?
いきなり目の前でイチャイチャされたらたまったものではないけれど。
けどね、ミリィ。
「落ち着きなさいミリィ、今は貴女のお嫁さんである私が居るでしょう?」
「あぁそうだった!!リリィ!!ちょっと頭撫でさせろ!!」
「え?えぇ……?」
「よっしゃ!うりうり〜♪」
私が声をかけるとちょっと乱暴な手つきで頭を撫でくりまわしてくるミリィ………
けど、悪い気はしないわね。
「はぁ………癒される………リリィの髪柔らかい………
「普通逆じゃないかしら?」
何故か撫でる側が癒されてる不思議。
かと言って、私も嬉しかったけど。
と、その様子を見ていたエルーナ様は天啓を授けた側だからもう分かっているからか、
パンパン!
と手を叩いて場の空気を変えてから切り出したわ。
「は〜いそこまでにしなさいミリアさん。
ここに来た、という事は天啓通りにリリアーナさんが婚約破棄されたのでしょうか?」
「はい、シスター・エルーナ様。
私は今や平民落ちした、ただのリリアーナです。」
「…ただの平民では無いでしょう?
手筈通り私達聖教会所属のシスターになったのではありませんか?」
「……そうでしたね。
はい。ミリィに聖教会所属のシスターである証のロザリオを頂きました。」
「上出来です。
それは貴女の今までの献身から鑑みて私が自ら聖別した物なので効力は最高峰……貴女は上級シスターからのスタートとなります。」
「なんだか知り合いだからそうなったみたいですけど。」
「ご謙遜を…我が聖教会では寄進や身分なんて俗物的なもので人を計らないとご存知でしょう?
貴女の積んできた徳に寄るものですから胸を張りなさい。シスター・リリアーナ。」
「………はい!」
「ではさっそく………
かねてからのご希望でした聖騎士ミリアとの婚姻の儀を行いますか?」
「よろしくお願いします。」
「よろしく頼む。」
「分かりました♪では、コチラへ。」
エルーナ様の案内でやってきたのは教会内にある祭壇。
その中でも主神ルミエール様を祀るものとは別の、精霊神ルイーゼ様を祀るものだ。
婚姻と生誕に関わる儀式は精霊神様の権能、というわけ。
生まれてきた赤ん坊もここで精霊神様の祝福を受けるのよね。
そんな祭壇の前に立ったエルーナ様は、聖書を開き私達へ自身の前に立つ様に促したわ。
そして、私達がエルーナ様の前に2人で立つと、
「それでは、これより聖騎士ミリアとシスター・リリアーナの婚姻の儀を執り行います。」
「「……。」」
本当ならお互いの親族を呼んで行うのが普通なのだけれど、今は陛下からの横槍が入る前にミリィと夫婦にならなければいけない急ぎだからそこは省略。
正式なものは聖地巡礼の旅が終わってから改めて、ね。
エルーナ様もそれが分かってるからか略式で行ってくれるみたいだし。
………それにしても、流石、本職の上級シスターだわ。
一瞬で神聖で厳かな雰囲気にするのだもの。
私もミリィも雰囲気に呑まれて黙りこみ、エルーナ様の言葉を待つ。
「汝、聖騎士ミリアよ。」
「はい。」
「汝は隣に立つ者、シスターリリアーナを妻とし、生涯その剣を捧げると誓えますか?」
「誓います。」
「汝、シスターリリアーナよ。」
「はい。」
「汝は隣に立つ者、聖騎士ミリアを妻とし、生涯その献身を捧げると誓えますか?」
「誓います。」
「宜しい。精霊神様の御本にての宣言。違えた時は裁きが下ります。
ゆめゆめ、お互いを慈しみ合い、生涯変わらぬ愛を貫きなさい。
これにて、2人の婚姻を精霊神様がお認めになりました。」
瞬間、私とミリィの薬指に指輪がはまった。
コレが、夫婦の証…教会関係者同士用の、結婚指輪だ…神職者にして既婚者であると、神様が認めた証にして、枷だ。
私が感慨深く指輪を見つめていると、エルーナ様の雰囲気が何時もの軟らかなものへと戻ったわね。
「……ふぅ。コレで国王陛下ですら2人の仲を引き裂けなくなりました。
お2人とも、どうか末永くお幸せに。」
「ありがとうございます、シスター・エルーナ様。」
「ありがとな、エルーナ。」
「いえいえ、聖教会としては真に想い合う2人が結ばれるのは良き事ですので♪」
「それでは……エルーナ様。」
「アタシ達、今からもう巡礼の旅に出るよ。
早くこんな国から離れたいしな。」
「はい。それでは、お達者で。」
「ありがとうございました、エルーナ様。」
「……団長には会えなかったけど、よろしく言っておいてくれ。」
「はい♪」
……?エルーナ様がやけにニッコニコな笑顔なのが気になるけれど、エルーナ様は何時も笑顔だし気のせいよね………?
少し引っかかるものがあるけれど、私とミリィは教会を後にし、旅立ったの。
……ここから、私達の旅の始まりね。




