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私の夢は聖騎士ミリアのお嫁さん

………しばらく王城の廊下を歩いたところで、ミリアは聖騎士としての顔を崩した。



「はぁ……ホンットに!あのクズ殿下め!!

アタシのリリィをバカにしやがって!!」


「ミリィ、まだ王城の廊下よ。」


「心配すんなって!アタシは聖騎士だ!国の法なんぞ知らん!

アタシが従うのは闘神バルヴァトーゼ様達神々のお方、そして聖教会の規律とリリィにだけだ!!」


「ふふっ…まったく、ミリィったら昔からそうなんだから…♪」


挿絵(By みてみん)


「はっ。そんなアタシにリリィは惚れてんだろ?」


「そう言う貴女も私に惚れてるんでしょ?お互い様よ。」


「ハハッ!そうだな!」



ニヤリと笑いあった私達は早速その場でパチン!と音が鳴る程のハイタッチ。

私ももう公爵令嬢では無くなった訳だし、身分は平民のシスターになったので聖教会の規律に従う事にして公爵令嬢としての仮面は外した。

ここからは素で行かせてもらうわ。



「さて、コレから巡礼の旅に出る訳だが…どうするよ?

とりまアタシら結婚しとくか?」


「そうね、陛下からの邪魔が入る前にさっさと結婚しちゃいましょ?

私はずっと、子供の時から貴女の…貴女だけのお嫁さんになりたかったのだから。」



この国も聖教会も同性婚は認めている。

(ご先祖さまの勇者と聖女も女同士だったし)

だから聖教会のシスターになる必要は無かったのだけれど、身分を同じ平民にした方が何かと都合が良いし、私は今まで週末はミリィと共に市井に紛れて生活していたから平民落ちになっても平気。

旅や野宿の訓練だってしてきた。


両親も国王陛下が婚約の白紙を認めなかった時点で私が殿下に処断される事を予見して、私が国外逃亡する手助けをしてくれていたし、表に出せなかったとは言え、ミリアと両想いである事は承知だった。


ベイルフリード家は陛下も王太子殿下も見限ったので革命が起こるわね。

ダメなトップは頭を挿げ替えるの……つまり、ベイル王女殿下が女王様となるでしょう。


要するに、もう巡礼の旅に出る準備も覚悟も完了済みだった、という訳。



「んじゃ、教会に戻ってエルーナ様に結婚の立ち会いを頼むか!」


「ええ。」



と、その前に。



「ミリィ、事が終わったら立ち寄るって先触れを出してあるしベイル王女殿下に挨拶だけしに行っても良いかしら?」


「おっ?そうだな…姫様に位は挨拶しとかにゃ失礼だったか。」


「ええ。今回の件でも色々裏から手を回してくれたもの、ね?」


「よし、んじゃ姫様の部屋に行っとくか〜。

抱き上げるぞ。」


「ありがとう。」



聖騎士であるミリアは神聖魔法の扱いが上手い。

その為、身体強化もお手の物だ。

私を軽々と横抱きにして抱き上げると素早く移動してベイル様の部屋…と言うより執務室までやってきた。


コンコン



「ベイル様居る?シスター・リリアーナが失礼するわよ。」

「聖騎士ミリアもいるぜ〜。」


『ーふふっ♪なんじゃお主らのその言い草は!

ちょっと待っておれ。

…………()いぞ、入れ♪』


「「どうも〜ベイル姫。」」


「ハハッ!元々遠慮無しだったミリィはともかく、

お主は急に遠慮無しになったなリリィ姉様?」



部屋に入ると、丁度侍従の方が書類を纏めて部屋から出ていく所だった。

どうやら私達が来たのに合わせて休憩するつもりみたいね。

本当に、お疲れ様。

あのクズな王太子殿下(18)と違ってベイル姫殿下は真面目に仕事をしているのだから。

……まだ16歳なのにね。


そのベイル様は私達に屈託の無い笑顔で軽口を叩いてくれる。

それくらいにはお互いに信頼関係もあるし仲がいい。

だから私も、公爵令嬢で無くなった今は臣下では無くただの友人として接するのよ。



「もう私は公爵令嬢じゃ無くて聖教会のシスターだもの。

今の私に不敬罪は神様以外には適応されないわ!」


「む?

…むぅ…つまり、兄者はマジで婚約破棄をやりおったんじゃな?」


「ええ、マヌケにも程があるわ。」


「はぁ………………彼奴(あやつ)め………ベイルフリード家の後ろ盾を自ら捨てるとはな……こうなったら母様がベイルフリード公爵の妹であるわれが王位に着くのが確定的になると分かっとらんのじゃろ……そこまでアホじゃったか兄者よ………


※ベイルの母親は後妻である第2妃な上にベイル自身が姫殿下なので継承権自体は2位。

ただし、血筋の関係で限りなく1位に近いが。


※2王太子の母親は出産後直ぐに亡くなっている。

現国王陛下の我儘で正妃になった男爵令嬢だが男児なので継承権が1位で王太子となった。

陛下に溺愛された結果、ダメ王子に育ってしまった俺様系。


「じゃなければあんな子爵令嬢に篭絡されないわよ。」


「じゃろうなぁ………我の“表の”苦労の甲斐の無さに情けなくなる。」


「はっ!よく言うぜ!裏ではあのクズ殿下やダメダメ陛下からの王位簒奪の準備をキッチリしてるクセに♪」



実質的に姪っ子だからこそベイルフリード公爵家はダメダメな陛下や殿下に代わってベイルを女王様に仕立てる腹積もりなのよ。

国の将来を憂いてベイル本人もそのつもりで動いているしね。



「ミリアも相変わらず遠慮無しじゃなぁ……シャルロッテ殿やキリカ殿と言い、聖騎士という者は怖いもの知らずかの?」


「まぁ、治外法権の聖教会所属だかんな!生憎アタシら聖騎士は神様以外に忠義なんかねぇ!!

政治的パワーバランスなんかも知ったこっちゃねぇ!だからな♪」


「…王族は神様、とは聞かんか?」


「あん?砂漠の国(サンドラ)のファラオ様じゃあるまいし、そんなの知るかよ。」


「あー……あ奴らはマジで半神じゃからな……


※3この世界には神様が身近に存在する為、ファラオと呼ばれる砂漠の国の王族は本当に神の子だったりする時がある。

今代のファラオは知の神の子で半神。

常識人の良いファラオである(嫁を溺愛する既婚者男性)。


「私もシスターになったとは言え、流石にファラオ様には敬意を払うわ。

私としては、個人的に貴女にもね、ベイル。」


「む?そうかの?」



私がそう言って微笑むと、ベイルは照れた様に頬を掻きながら笑う……可愛いわ。

本当に妹の様に可愛がってきたけれど。



「ええ、今はここに3人だけだから気安く接しているけれど、人前ではちゃんと敬うつもりよ。

ベイル姫殿下。」


「そうか…まぁ、公爵令嬢だった時と比べたら格段の進歩じゃの。良い良い♪

我は今のお主の方が好きじゃよ♪」


「あら?嬉しいけど、そんな事を言われても平民の私はもう貴女と結婚できないわよ?」


「抜かせ!

いくら我も女とは言え、お主らの間に入ろうなぞ思わぬわ!」


「ベイル姫ならアタシも歓迎だぞ?」


「〜っ!ホンットお主らっ!お主らぁぁぁ〜!!大好きじゃぁぁぁっ!!」


「うふふ♪私も大好きよ、ベイル。」


「ハハッ♪アタシもアンタは好きだぞベイル姫♪」



そう言いながら私とミリィに抱き着いてきたベイルを2人で抱き締めてひとしきり笑い合う。

もう、こんな穏やかな時間も無くなるのだと分かっていて、寂しいのを誤魔化す様に。

ベイルからしたら、愚兄のせいで未来の義姉と、幼少からの親友を一度に失ってしまうのだから。



「………ベイル、逃げたかったら、逃げても良いのよ?」


「………そんな無責任な事は出来ぬ。」


「…ええ、分かってるわ。

貴女ならそう答えると知ってて訊いたの。

……ごめんね、貴女の姉になれなくて。

この伏魔殿に貴女を置いて、敗走する私を許してなんて、言えないけれど……


「構わぬ…構わぬのじゃリリィ姉様。」


「もう、ただの平民である私が、貴女と会う事も無くなるのでしょうけど……


「っ!それはならぬ!!」


「ベイル…?」


「聖騎士であるミリアは元より、お主も今は聖教会のシスターじゃ!

この国で、信頼出来る数少ない者達なのじゃ……じゃから……のぅ……?」


「………ええ、分かったわ。巡礼の旅が終わったら、その時は…。」


「うむ。気軽に会いに来るのじゃよ?

我が何時でもお相手しよう。」



そう言ったベイルは、最後に私達をギュッと力いっぱい抱き締めて、ゆっくりと離れた。


その泣き笑いの顔は、まだ幼い彼女には不釣り合いな程に大人びていて、

彼女がそうならざるを得なかった怠惰な陛下と殿下に私は再び怒りを感じた。


ええ、必ず戻ってくるわ。

貴女の元に。



「ベイル、貴女は決して1人ではないわ。

後は私の父や兄、婚約者のレオン様を頼ってね?」


「うむ。それは分かっておるよ…じゃがの、我が心から信頼しておったのはお主らじゃ。

ゆめゆめ、それを忘れるな。」


「ええ。」

「おう。ありがとな。姫様。」


「では、達者での。」


「「はい!」」



最後に一礼して退室した私は、しばらく歩いてから力が抜けてミリィに寄りかかってしまった。



「リリィ?」


「ごめん、ミリィ。

ベイルのあの顔は、心が痛くて、痛くて……

本当に、こうするしか無かったのかしら…?」


「………シスター・エルーナの啓示は間違いがない。

どう足掻いても婚約破棄は避けられなかったし、

その中での最良を目指すしか無かった。

確かに、仕方が無い、で済ませるには事が大き過ぎるがな。」


「………はぁ。でも、今の私は貴女のお嫁さんなのだから、しっかりしなくちゃ。」


「しなくていいぞ。」


「えっ?」


「もうリリィはしっかりしなくてもいい。

後はアタシが、旦那としてお前を支える番だ。な?」


「ミリィ…。」


「おや…?貴女達は……横を失礼するよ。」


「あ、レオン様。」



丁度、さっきベイルに言った婚約者であるレオン様が現れた。

恐らく今回の件で婚約者であるベイルが気になって登城してくれたのでしょう。

城を出る前に彼にも会えてよかった。



「……レオン様。

どうか、ベイル様をよろしくお願いします。

彼女の義姉になれなかった女の、最後の願いです。」


「…うん…本当に、残念だよ。リリアーナ様。

キミと義理のきょうだいとしてベイルと共に公務に励む事を楽しみにしていたから。」


「そうですね………


「それと、重ねて(頭が)残念だよ、あの王太子殿下は。

はぁ………コレで僕が王配になる可能性が上がったか…いや、確定かな?

僕は王配なんて柄じゃないから嫌だったんだけどなぁ………


「まぁ頑張れよ!ハーレスト公爵家の次男様っ♪」


「はは…ミリア殿は変わらないね。」



レオン様はそう言って何時もの温和な笑みを浮かべて私達の横を通り過ぎていった。

…彼は見た目こそ温厚な青年だけど、ベイル様の婚約者をしてるだけあって中々にやり手だったりする。

謙遜しなくても充分に王配向きの性格だわ。


そんなレオン様を見送った私とミリィは、改めて教会へと向かったのだった。





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