婚約破棄?そう…(無関心)
一応続き物ですが前作を知らなくてもあまり問題ありません。
挿絵…カスタムキャストにて作成
「リリアーナ・ベイルフリード!今を持って貴様との婚約は破棄する!!」
「………そうですか。」
私、公爵令嬢リリアーナ・ベイルフリードは今、王太子殿下に謂れの無い罪で断罪されています。
はぁ………シスター・エルーナ様が冗談めかして言っていた“婚約破棄”が実行されてしまいました。
前々から、馴染みのシスターであるエルーナ様にこの事を相談していたのですが…
先見の目があったのか、神様に啓示を受けたのか、エルーナ様は
『なる様にしかなりませんが、決して不幸な結末にはなりません。』
と言われました。
確かに、この婚約破棄は王城にある王太子用の接待室での出来事であり、エルーナ様が危惧していた公衆の面前での婚約破棄ではありませんでした。
しかし………
「やけにあっさりしているな?」
「こうなる事は分かっていましたので。」
「なに?」
「罪状は、子爵令嬢を虐めた、辺りでしょうか?」
「こうなる事が分かっているなら何故その様な愚行を…!!」
「私は、何もしていませんから。」
「何を白々しい…!」
「……本当に、話の通じない方。」
そもそもこの茶番。
学園にて平民出身で、強力な光属性を持つ故に子爵家の養子となった女生徒に王太子殿下が惚れてしまった事が発端なのです。
その女生徒は有力な家の子息を次々に魅了していきました。
私は直ぐにシスター・エルーナ様に相談し、幼馴染みの聖騎士であるミリアと協力して対処に奔走いたしましたが……
しかし、結果はこの通り。
本当に婚約破棄となりました。
私としては王家から望まれただけの婚約なので殿下に対する愛なんて義務しかありませんでしたがね。
直ぐに少しはあった情なんて消え去りました。
寧ろこちらから、不義理を理由に何度も婚約を白紙にしようとしましたが、国王陛下が頑なに認めてくれなかったのです。
我が家の権力はそれだけ価値があるから、でしょうけど。
そうして、引き伸ばしにされているうちに、遂にありもしない罪をでっち上げられてこうして婚約破棄となりました。
子爵令嬢が悪辣なぶりっ子なのは分かっています。
私達高位貴族の令嬢が次々に殿方から婚約破棄されていく様を嘲笑の混じる笑顔で見ていましたから。
(実際のところ、令嬢の方が実際の爵位よりも領地の生産品や商売交易等で力を持つ有力貴族なので立場は令嬢達の方が上で相手の家から請われての婚約なのですが。)
公衆の面前で破棄されなかっただけ、私はマシなのでしょう。
…とは言え全員、ここぞとばかりにそれぞれの令嬢本人を愛していた四大公爵家の令息達(私の実兄を含む)が
ベイルフリード公爵令息『は?ふざけんな!ならば俺が貰い受ける!!』(イライラ)
バンバルディア公爵令息『では私が貰い受けましょう。』(ニコニコ)
ハーレスト公爵令嬢『えっ!?破棄しちゃうの!?
じゃあボクが攫っちゃっても良いんだよね!?』(にぱ〜)
※この国は同性婚可能
ウルフェン公爵令息『え、破棄するのか!?だったら遠慮無しだ!自分の所に来てくれないか!?ずっと好きだったんだ!!頼むっ…!』(必死)
とお嫁に貰っていきましたが。
(救われた令嬢達は幸せそうでした……)
殿下にわずかでも常識が残っていた事にだけは感謝します。
まぁ、婚約者が居るのに浮気する人なんてこちらから願い下げ、ですが。
その殿下は私が冷静な態度なのが気に食わないのか、怒りで赤黒くなった顔で、鼻息荒く私に指を突きつけて宣言なさいました。
「貴様は身分を笠に着て俺様や未来の王太子妃であるアリスを愚弄した罪で国外追放だ!!
本来なら不敬罪で即刻処刑してやるところだが慈悲に感謝するんだな!!」
「はぁ…?
公爵令嬢の私に、子爵令嬢に対する不敬罪なんて適応される訳が無いでしょう?
そもそも、本来ならば私が王太子妃となっていたのですよ?
それに、立場としては婚約を請われた私が、貴方より上なのですが、それをご存知でないと?
不敬罪、というのであれば妹君であらせられるベイル様の様に王族として少しは敬われる態度を取りなさい。」
ベイルフリード公爵家は、約1000年前の魔王様暴走事件の時に勇者を排出し、聖女様達と共に魔王様を正気に戻した英雄の家系。
実質的な立場は王族より上だったりします。
ただ、勇者と聖女の子孫故か、代々生真面目で敬虔な信者であり、愛国心に満ちた者となりやすく、故に臣下として王族の方々を支えてきたのです。
だからこそ、身分を笠に着る。など有り得ないのですがね。
私の場合、それだけではありませんが。
「またそうやって身分を笠に着るのか…!
だから俺様は貴様が気に入らないのだ!!」
「…私も、気に入らないからと直ぐに怒鳴り散らす貴方を心底軽蔑していました。」
王族たるもの、その様に感情に振り回されてはいけないのですが……
私が冷静なのは幼少期からの王太子妃教育の成果でもあります。
………それだけに、今になってあの頭がお花畑な子爵令嬢が王太子妃教育に耐えられるのかは甚だ疑問ですが。
まぁ、もう私には関係ありませんわね。
ただ、心配事があるなら、私を実の姉の様に慕っていたベイル姫様の事ですが………実直堅実なベイル様とあの脳内お花畑であざとい子爵令嬢とは馬が合わなそうですし。
と、私と殿下が睨み合っていると、ノックの音が部屋に響きました。
すると、殿下はニヤリと嗤い、再び私に指を突きつけました。
………そうやってすぐ高圧的に人に指を指すなと習いませんでしたか?
まったく、こんな殿下には同じく低俗な子爵令嬢がお似合いですね。
「来たな!コレで貴様は終わりだ!!」
「そうですか。」
「入れ!」
と、殿下が声をかけると、聖鎧と呼ばれる、加護を纏った鎧を着た騎士様が部屋に入ってきました。
あら、彼女は……
「お待たせ致しました。
聖教会より派遣された聖騎士ミリアが王太子殿下並びに公爵令嬢にお目通り致します。」
「うむ!よく来たな聖騎士よ!即刻この者を王城より追い出せ!!」
「…元よりそのつもりです。」
「ミリア…。」
「……。行きましょう、ベイルフリード公爵令嬢。」
「フン!コレで貴様も終わりだな!!
聖教会は貴様の様な極悪人を許さない!!
俺様の様な慈悲は期待しない事だな!!」
さっきと言ってる事が違いませんか?
本当に………はぁ……………
そもそも、聖教会はどの国にも属さず、どの国にも従わず、全て神様にのみ従うのをお忘れですか?
お忘れでしょうね。
それに私、その聖教会のシスター・エルーナ様に相談していたのですが?
そんな聖教会が私を捕まえに来る訳無いでしょう?
「王太子殿下。」
「なんだ?聖騎士。」
「彼女はこれより聖教会が身柄を預かります。
また、公爵令嬢の位は剥奪。以降は平民のシスターとして、聖地巡礼の旅による贖罪の旅へと出す事になります。」
「そうか!悪女のこやつには相応しい末路だな!!
精々野盗には気を付けろよwww」
「……。」
「ハッ!散々蔑んだ平民に自らがなって言葉も出ないか!!
ざまぁないなwwww」
………………ホンット!低俗!!こんなヤツの婚約者だったなんて恥ずかしいわ。
でも、コレでやっと……
私が聖騎士ミリアを見ると、彼女はサッと掴んだ私の手を指でコッソリと撫で、愛おしそうな顔をする。
やっと、彼女と一緒になれるのね………
そう、私は。
平民出身の聖騎士であるミリアの事がずっと好きだった。
けれど、私は殿下の婚約者……身分差もあり彼女と結ばれる事は、本来なら有り得なかった……
そんな私が“平民出身だから”、なんて理由で子爵令嬢を虐めるなど、ありえないのよ。
だって、大好きな人こそ平民出身の聖騎士なのだから。
そんなミリアは、殿下に一礼すると私を引き連れて部屋から退出したのだった。




