第七話……参上! ポコリーヌ整備兵
巨大な冷凍庫をこじ開けた中にいたのは、凍ったタヌキだった。
多分、盗み食いをしたまま凍りつけになったと思われる。
……馬鹿な奴だ。
凍ったタヌキを外に放り出し、冷凍庫を漁る。
フライドポテトやパスタ、ラーメンなど美味しい冷凍食品が目白押しであった。
この宇宙船の持ち主は、きっと食通だったと思えた。
「よいしょっと」
お腹もすいたことだし、備え付けのキッチンでフライドポテトを揚げる。
キッチンも鍋もピカピカで、全く使われていない様だった。
それなのになぜこの地に墜落しているのだろう。
そんなことを考えていると、ポテトがカラリと仕上がった。
棚にあった皿に盛り、適当な調味料をかける。
料理屋と同じという訳にはいかないが、それなりのモノに仕上がったつもりだ。
「いただきま……、ん!?」
皿のポテトにがっつくのはタヌキ。
どうやら先ほどの奴が解凍したのだろう。
なんて生命力だ。
……ならば、こいつは普通のタヌキじゃねぇ。
生命力が半端ない、生体アンドロイド製のまがい物だった。
「てめぇ!」
私はタヌキを肉球でつまみ上げる。
そして、タヌキ汁にしてやろうかと思う。
「離せポコ!」
……なんだと!?
喋りやがった。
「誰が離すか!」
「ぇ!? クマさん喋れるポコ? ひょっとしてこの船の船長さん?」
……ん!?
こっちが喋れるとみると、態度を改めてきたタヌキ。
どう対応しようか。
「ああ、船長だ! 君の名前は何だね?」
大ぼら吹いてしまう私に対し、タヌキは畏まった。
「僕はポコリーヌ整備兵であります」
……タヌキの整備兵だと?
聞いたことが無いぞ。
「所属は何処だ? 階級は?」
「傭兵なので階級はありません!」
「……良かろう、今日から私ジローが雇い主だ。頑張れよ、ポコリーヌ君」
「有難うございます、ジロー船長」
こうして私はタヌキのポコリーヌを部下に加えたのだった。
彼の経歴をみると、なかなか腕のいい整備工だった。
そして耳も尻尾もフサフサな有能なモフモフであった。
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「修理は出来そうか?」
「無理ポコね~」
私達は墜落していた宇宙船を修理できないか試していた。
ポコリーヌの腕が悪いわけでない。
なぜならここには十分な設備が無かったからだ。
「一度宇宙港に戻さないと修理できないポコよ」
……やはり。
どうにか修理して宇宙船ごと持ち帰りたかったが、それは少し強欲だったようだ。
「よし、コンテナだけを運び出して、ストロング号に積み込むぞ!」
「了解ポコ!」
私達は、超極周波通信機の入ったコンテナをストロング号に積み込んだ。
僅か15個積んだだけでストロング号の積載能力は一杯になり、これ以上運ぶには輸送の為に往復が必要だった。
とりあえず、首都のテトラに帰ることにする。
なにはともあれ、そこからの話だった。
「発進!」
ストロング号は飛び上がり、一路首都のテトラを目指した。
眼下のオアシスはすぐに小さくなり見えなくなった。
代わりに、赤茶色の広大な荒れ地と砂漠が延々と広がっていた。
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赤い二連太陽が夕日となって沈む頃。
ストロング号は首都テトラの宇宙港についていた。
テトラの宇宙港は、宇宙船と気圏飛行機のどちらも受け入れるタイプの飛行場型の宇宙港だった。
宇宙船屋の親父の敷地を借りようとしたが、今回は借りられずこの宇宙港に着陸した次第である。
管制に従い格納庫へついた頃には、すでに星間ギルドの商人が待っていてくれた。
コンテナの積み荷を買い取ってもらうためである。
「初めましてミスター・ジロー。私は商人のポールと申します」
「ああ、連絡の通りだ。買い取ってくれ!」
「全部ですか?」
「ああ、全部だ」
私はそう言い、格納庫の中身をポールという男に見せた。
さらに25個のコンテナの内の一つを開けて見せる。
「おお凄い! これは超極周波通信機ですね! しかもこんなに沢山とは……。ミスター・ジローは一山当てましたね!」
「ああ、……で、いくらになる?」
そう言うとポールは頭をかき、小さな声で呟いた。
「こんなに沢山だと競売ですねぇ……。しかも一気に売ると値段が下がります。どうしましょうか?」
「あんたに任せるよ。売上の25%をあんたの取り分としよう。出来るだけ高く売ってくれ」
「有難うございます!」
ポールはホクホク顔でコンテナを見回る。
実は買い取り屋は初めてではない。
傭兵の時、略奪や鹵獲したものは各自で買い取り屋に売っていたのだ。
今回の交渉も慣れたものだった。
「船長! 持ってきましたポコ」
ポコリーヌがフォークリフトを借りてきた。
私達はコンテナを宇宙港の貸倉庫に運ぶ。
あとはポールの仕事次第。
その後、私とポコは久々にホテルのフカフカのベッドでゆったりと眠るのだった。
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――翌日。
ホテルで朝食を摂る。
ホカホカの本物のベーコンと卵が出た。
パンも白く柔らかい。
「船長は宇宙海賊とか倒さないポコ?」
食べながらにポコリーヌが聞いてくる。
「ああ、やっつけたいな。でもな、ストロング号には武器がないんだ」
「じゃあ武器を買うポコね。お金はたくさん入るでしょう?」
……そうだった。
通信機の件、少なく見積もっても相当なお金が入るはずなのだ。
「そうだな。武器とか見に行ってみるか?」
「決まりポコ!」
こうして、私たちは少し物騒なショッピングに出かけるのだった。