第六話……ストロング号の購入
「おう! ジローだっけ? 今しがた修理が終わったとこだぞ!」
宇宙船屋に顔を出すと、日に焼けた元気そうな親父が応じてくれた。
「もう飛べるんですか?」
「ああ、隔壁も完璧だ。俺様を信じろ!」
ショーケースの宇宙船の外殻らしきものを叩き、親父は陽気に応じる。
「恩にきます」
「なに、金さえ払ってくれれば仕事はきちんとやるさ」
親父に案内され、店から離れた倉庫に向かう。
紛れもない私の船だ。
だが、全長は50mあるかないかで、宇宙船としては最も小さいものに分類されるサイズだった。
「これが起動カードだ。あとで生体認証しておくんだぞ!」
「はい!」
親父は私の肩を叩きどこかへ去っていった。
私は宇宙船を見上げた。
夢にまで見たマイシップ。
ところどころに赤さびは見えるが、紛れもなく私の宝物だった。
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私は自分の宇宙船のロックを開く。
プシュー。
隔壁型エアロックが開き、私は宇宙船の中に入る。
狭い通路を通り操縦席へと向かう。
着ぐるみ型のクマである私の大きな頭が、狭い通路の壁を擦る。
どうも私の頭のサイズにはあってない通路だった。
いつか改良せねば……。
私は操縦席に座り、各種操作パネルの点検をした。
……うん、問題はないな。
ちなみにこの船は小さいのだが、居住区画は更に狭い。
輸送タイプの宇宙船の為、ほとんどの容積が運搬用区画となっていたのだった。
「じゃあ、牽引頼む!」
『了解!』
私の船は、親父の店の作業員が運転する牽引車両にひかれ、離陸用の広場まで運んでもらう。
後は広場を滑走して、大空に羽ばたくだけであった。
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「シグナル、オールグリーン。セーフティーロック解除。気圏用翼展開!」
私は計器の類を確認。
スロットルレバーを引き上げ、発進態勢をとる。
「GO!」
誰に言うでもなく発進。
猛烈な加速Gが、背中をシートに押し付ける。
……正直、この感覚は好きなのだ。
十数秒を数えたころには、私の船は雲の上だった。
後ろには濃いオレンジ色の排気煙。
それはエルゴ機関特有の現象であった。
『船の名前は如何しますか?』
雲の上を呑気に飛んでいたら、いきなり船のAIに話しかけられてビックリする私。
……そうだ、船の名前とか考えてなかった。
なんにしよう?
「前の名前はなんだったの?」
この船は中古船だ。
きっと前の持ち主による名前があるはずだった。
『ストロング号です』
……ぉ?
強そうな名前、モノが一杯運べそうだな。
「じゃあ、もうすこしストロング号でいくよ」
『有難うございます』
相手は、旧型AIで無人格電脳のはずだが、なんだか喜んでもらった感じだ。
これだと船名をなんだか変えにくいな。
私はそんなことを思いつつ、惑星ジャグシーの上空を飛んでいたのだった。
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「あ、あれだ!」
先日、大統領と上空を飛んでいた時に、偶然に密林の中に見つけた産業遺跡。
きっと私だけが見つけられたのは、このクリクリの黒目がちなクマのお目目だからだろう。
いままで他の人に見つからなかったのだから。
「降下用意!」
『降下用意します!』
私はAIに降下を指示。
AIはその指示を忠実に実行した。
ストロング号は巨大な推進用ノズルを地上に向けて逆噴射。
ときおりの横風に、船はフラフラとしながら密林の中へと降下した。
『降下完了しました』
「了解!」
私は安全ベルトを外し、通路を駆け、いそいで地上に降り立つ。
そこは小さな湖を中心とした、砂漠に点在するような小さなオアシスだった。
「この辺かな?」
私は草を刈りながら、遺跡を探した。
ほどなくして、遺跡はそれなりの大きさを持った宇宙船であったため、すぐに見つかった。
それはあちこち錆びていたが、なかなかに立派な船だった。
「……デカいな」
私は独り言を言いながら、宇宙船の入り口を探す。
30分くらい探した後だろうか、小さな扉が開いているのを確認した。
「よいしょっと」
私は小さな窓から宇宙船に入り込む。
通路を伝って船倉へ、きっとそこがお宝のありかだ。
内部は最低限の電源も生きていた。
「ビンゴ!」
船倉には沢山のコンテナが積まれており、中身を検めると、超極周波通信機が山のように詰まっていた。
しかも、これらの品は全て新式だった。
私のストロング号には、予算上旧式を積むのが精いっぱいだったのに。
超極周波通信機とは、超光速航行より速く画像や音声データを伝えるシステム機器。
非常に便利だが、機器自体が重くて大きく、大人の人間と同じくらいの容積があった。
「……ふむう」
多分、通信機一台で3000万クレジットは堅い。
今までの労働が馬鹿みたいに思えるほどのお宝の山だった。
「よいしょっと」
内部から隔壁式エアロックを開け、通信機が入ったコンテナを運び出す。
凡そ人間の力では無理だが、こちとら生体アンドロイド製の怪力クマさんだ。
頑丈な短い脚でよちよちと歩き、とりあえず10個ほどストロング号の船倉に移したのだった。
「……ふう」
一仕事終え、何か冷たいものが飲みたいと宇宙船内を探すと、大きな食糧庫を発見。
巨大な冷蔵庫や、それに負けないくらいの大きさの冷凍庫がおかれていた。
流石に冷蔵庫のものは食べられないが、冷凍庫の中身に関してはワンチャン可能性があった。
――ギギギ。
近くにあったバールのようなもので冷凍庫をこじ開ける。
「……げ」