第五話……デベロフ大統領と秘密の行脚
私はレトロな鉄道を乗り継ぎ、第四惑星ジャグシーの首都テトラに来ていた。
ここに来た目的とは、自分のお金で買えるような中古宇宙船を探しに来たのだ。
私は地図を見ながら、目的の中古の宇宙船屋に入った。
そこは機械音が煩く、店というよりは工場という感じの場所だった。
「ご予算は?」
私は、機械油に汚れた作業服を着たイカツイ中古屋のオヤジに接客させる。
「前金800万クレジット以内で……、後はローン払いでありますか?」
「厳しいなぁ……、こっちへ来な」
オヤジに手で合図され、倉庫の奥へと向かう。
そこには、ほぼ鉄くずのような宇宙船があった。
「このボロイ輸送機でどうかな? これから1か月ばかり修理しないといけないんだが……」
オヤジは在庫品が売れるのがうれしいのか、テンションを上げてきた。
「機関は?」
「もちろんエルゴエンジン!古いタイプだけどな。あと燃料の液体アダマンタイトはサービスしておくよ」
「旧型のエルゴエンジンかぁ……」
艦体はとてつもなくボロイが、エンジンが通常の核融合炉タイプではなく、エルゴエンジンなのが惹かれる。
エルゴエンジンは空間跳躍、つまりワープができる機関システムだ。
旧式とはいえ、もう今の技術力では生産できない逸品だった。
「買ってくれるなら、修理が終わる1か月後にまた来てくれや!」
「買うよ。一か月後にまた来るよ」
「毎度あり」
私はオヤジに前金を払い、中古屋を出た。
……1か月後には、私も宇宙船持ちかぁ。
高まる鼓動を抑え、私はいつもの地方都市へと鉄道で戻ったのだった。
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私は翌日、星間ギルドに顔を出す。
ローンの支払いもあるから、もっとお金を稼がないといけなかったからだ。
「クマさんご指名ですよ」
いつものギルド受付に行くと、なんと顧客から御指名らしい。
こういうことは稀にある。
たまにランクでは無く、技能や特性に合わせて先方さんが指名してくるのだ。
「……ぇ? デベロフ大統領の?」
「ああ」
ギルドの受付が小声で話してくれた任務とは、この惑星ジャグシーの大統領が乗る飛行機の操縦であった。
「でも専用の要員の方がいるんじゃないですかね?」
「それなんだがね、どうもお忍びで各地を巡りたいらしい。そこで飛行能力があってクマの外見を持つ君を大統領が珍しく思って指名したらしい。」
「……へぇ」
……明細に描かれた成功報酬は、魅力的な金額であった。
「わかりました。頑張ってみます!」
「おうよ、頼んだぜ!」
私は星間ギルドの建物を出て、目的の任地へと向かったのであった。
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――二日後。
飛行場でデベロフ大統領と会う。
「君がジロー君かね? 頼むよ」
「御指名頂き、光栄です!」
うっかり敬礼しそうになるが、今は兵士でもないし、とどのつまり人間でもない。
適当に頭を下げ、大統領と共に飛行機へと乗り込んだのだった。
その他秘書官など数名が乗り込む。
これは責任重大な任務であった。
ちなみにこの飛行機は垂直離着陸機。
ヘリコプターの様にどこでも離着できるのがポイントだった。
「えーっと」
飛行行程表を見ると、一か所目はパナッチ氏の病院だった。
あれれ?
一体何の用だろう。
「……では、離陸します!」
私は機首を起こし、赤い砂が吹きすさぶ大空へと舞い上がったのだった。
数時間が経つと病院が小さく見えてきて、私は着陸態勢に入ったのだった。
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病院に着陸すると、パナッチ博士が出迎えてくれた。
大統領たちが降りるのかと思ったら、逆にパナッチ博士が乗り込んできたのだった。
「これで、未知の文明生命体に関与した面々が揃ったな……」
大統領が重々しく口を開く。
……あ、飛行目的はそっちだったか。
「未知の文明生命体とは、あちらこちらで目撃され始めている。だがあくまでも単体でだ。
2人以上の集団とはまだ我々は遭っていない。これからも出会った場合は証拠が残らないようにしてほしい。質問はあるかね?」
大統領が質問を求めて来たので、手を挙げてみた。
「……では、ジロー君」
「その生命体って集団で攻めてくることは無いのですか?」
「……ああ、近いうちに攻めてくるかもしれん。それまでに人類側としては結束しなくてはいかん」
この惑星ジャグシーのみならず、人類が住む星々は概ね内戦の真っただ中だった。
しかし、内戦の早期終結など、不可能に近い。
「あと、正式な外交使節がきたら、是非政府まで教えて欲しい。相手に交渉能力があるのかもわからんが……。それまでは未知の文明生命体のことは内緒だ。わかったな!?」
「はい!」
その後、大統領を未知の生命体が現れた場所に案内した。
既にそこは何もない原野となっていたが……。
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その後、大統領を乗せ、各地で未知の生命体らしきものを見たという人々のところを回った。
そのすべてが、閑散とした山岳地帯の集落だった。
だが、私と違い、はっきりと対面したり、交戦したという訳ではない。
政府要人たちは彼らに、事実が分かるまで黙っておくようにと告げて回っていった。
そんな感じで大統領を乗せて飛行中。
私は地上にあるものを発見した。
きっと大きな宇宙輸送船の残骸だと思われた。
……100年以上前の遺構や墜落機は採掘者の権利。
この仕事が終わったら急いでいかねば。
私は首都で大統領たちと別れ、修理に出している輸送機のところへ一目散。
息を切らしながら、宇宙船屋の親父のところまで急いだのだった……。




