第四話……ファーストコンタクト!?
「検査は異常なしっと!」
「有難うございます!」
私はパナッチ博士の検査を受けた。
その結果。異常なしとのことだった。
「ジロー君、最近運動したかね?」
「ええ、ちょっと鉱山で!」
「そうかそうか、その体は人間と同じで使えば筋肉がつよくなるから頑張り給え!」
「ありがとうございます」
……つまるところ、筋トレしたら力が強くなるということかな。
「すいませんジローさん、子供たちが待っていますので」
「ああ、わかりました」
そう、検査日の私は子供たちの遊び相手と決まっていた。
私は看護師さんの勧めるまま、病院の中庭にでたのだった。
□□□□□
「わ~クマさんだ~♪」
「くまさん可愛い~♪」
私は検査が終わると必ず病院の中庭で子供サービスをしていた。
パナッチ氏は孤児院も経営していたし、入院患者の中には難病の子供たちもいたのだ。
「くま~」
「きゃっきゃ」
私はここではただのクマ。
頭がやたらと大きい着ぐるみのようなクマだった。
「痛いクマ」
まんまるい尻尾を引っ張られた。
当然ながらに悪ガキもいる。
彼らの寂しさを紛らわすのが私の役目だった。
「クマー」
「きゃっきゃ~♪」
「クマさん可愛い」
中には私の真っ白なお腹で鼻をかむ子もいる。
フカフカのお手手は、子供たちの涎でべたべたになっていた。
「ご飯の時間ですよ~♪」
看護師さんの声が聞こえる。
みんな大好きお昼ご飯の時間だった。
□□□□□
出てきたのはハンバーグ弁当。
小さいがどうやら合成蛋白質ではなく、リアルな牛肉ミンチで作られているらしかった。
「「いただきま~す!」」
子供たちの合掌に、私も従う。
ハンバーグは美味しく、付け合わせの野菜も絶品だった。
キラン。
雲の合間に何かが煌めく。
気のせいだろうか……。
お弁当の殻を片付けている最中。
今度はもっと高度の低い雲の合間で、何かが光った。
「みんな逃げろクマ!」
私は瞬間的に叫んだ。
「建物の中に逃げるんだ!」
子供たちや看護師さんが慌てて病院の中へと逃げ込む。
間違いない。
あの機体は見たことがある。
反政府軍の気圏戦闘機のフォルムそっくりだったのだ。
相手は雲の中から出て、地上のこちらめがけて機銃掃射してきた。
「!?」
これは条約違反であった。
政府軍と反政府軍は、居住地域や病院施設などを攻撃してはいけないという協定や条約があったのだった。
「クマさん助けて!」
逃げ遅れた女の子が、足をすりむき蹲っていた。
そこへ反正規軍の気圏戦闘機が襲い来る。
私は急いで飛び、その女の子の上に覆いかぶさった。
その上から気圏戦闘機が、容赦なく機銃弾を浴びせて来る。
ドドドドド――
土埃を上げて、機銃弾が襲い来る。
映画などなら、決して当たらない弾だが、運悪く、私の背中には二発当たってしまった。
強化皮膚が裂け、赤色の鮮血が流れ出る。
「クマさん大丈夫?」
「ああ」
庇護した女の子に心配される。
大丈夫だ。
このモフモフの体はかなり丈夫に作られているのだ。
ぎゅーん。
と音がして、再び気圏戦闘機がこちらへと襲い来る。
【エネルギー充填100%】
振り向きざま、私の口内に内臓された荷電粒子砲が火を噴いた。
ビームは真っすぐに気圏戦闘機を穿ち、その主翼を大破。
撃墜に成功した。
「わぁ、クマさん凄い~♪」
「クマさん流石~♪」
危機が去り、子供が駆け寄って来る。
高熱のビームを吐いたが故、お鼻のひげが焦げ焦げになっていた。
抱き付く子供たちにもみくちゃにされる。
……しかし、おかしい。
何故、反政府軍が病院を襲ってきた?
反政府軍とは言え、民衆を敵にしては戦えないのだ。
私は撃墜した気圏戦闘機に近づいてみる。
瓦礫を除けて、コックピットをこじ開けた。
「……!?」
なんだこれは!?
コックピットで息絶えていたのは、凡そ人間とは思えない生物だった。
肌は緑で、体液は紫色であった。
そこにパナッチ博士が駆けつけてきた。
彼も恐る恐る謎の生物の死体を覗き見る。
「ジロー君、この件は政府に任せた方が良いだろう。われわれは見なかったことにしようではないか……」
人類が外宇宙に出て数百年。
我々は宇宙において、他の文明生命体に遭遇したことは無かった。
ひょっとすると、これがファーストコンタクトではないか。
私は大事になることを避け、パナッチ博士の言う通り見なかったことにし、謎の生命体の死体にガソリンをかけ、跡形もなく焼き払ったのだった。
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――翌日。
私は星間ギルドに顔を出した。
「君、やるじゃねぇか! 見事なもんだよ!」
「いえいえ」
昨日のことが功績として評価される。
協定違反の気圏戦闘機を撃墜し、病院を無事に守り切ったのはおおきな功績だった。
「これが政府からの報奨金だ!」
有難うございます。
明細を受け取る。
報奨金は250万クレジットと印字されていた。
「あと、君は今日からBランクだ」
「いいんですか?」
「うん、皆が世話になっているパナッチ氏の病院を救ったんだ。それくらいの
事があっても良いだろう」
こうして私は難なくBランクに昇進。
受けられる仕事が、宇宙海賊退治など華々しい仕事に広がったのだった。




