第三話……10枚の金貨
星間ギルドでもらった地図を頼りに鉱山へと向かう。
徒歩で行ったので、現地へ着くまで結局三日もかかってしまった。
うっそうとした茂みを掻き分け、目的の小さな集落へ着いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい! 労働希望者さん?」
「そうです」
「うちは買取式でね。掘ってもらったものをこっちで買い取るだけなんだよ。道具は貸し出すから好きに使ってくれよ!」
掘っ立て小屋のような場所で、ツルハシなどの道具を借りる。
変わったものといえば、頭につける眼鏡型のスキャナーだ。これで鉱物を探すらしい。
「え~っと、こっちだったかな?」
紹介を受けた先は、小さな廃坑だった。
岩山を抉った細い坑道の入り口。
廃坑だから好きに掘って良いらしい。
……まぁ、買い取り方式なのだから、結果が出ないと給料が出ないな。
「……よし、がんばりますか!」
私は電灯をかざしながら坑道を進んだ。
まぁやはり、浅い部分は何もない。
旧式の粗末なエレベーターで下へと進むと、その先は激しく落盤を起こしていた。
「クマァァァアアア!」
ちょっと気合を入れてツルハシで土を掘り返す。
握力だけで1トンの熊パワーだ。
私は、まるで掘削用のシールドマシンの様に掘り進んだ。
「……っおお?」
眼鏡型のスキャナーで調べると、銀鉱石がワラワラと出てきた。
流石は元坑道。
銀は伝導率が良いので高価な鉱物だ。
さらには微量だが金も含まれる。
私はせっせと背中のリュックに押し込み、鈍い赤色巨星の陽の刺す地上へと這い出たのだった。
結局……。
そんなこんなで稼ぎまくり、私は日当たり20万クレジットを稼ぎ出す労働者になっていた。
それは、兵隊をやっていた頃の10倍の所得であった。
丈夫な体に感謝なのである。
「……ふう」
私は労働後いつも、鉱山施設に付属する浴場の湯船につかっていた。
「クマさん、あんた良いですな」
「ん?」
馴染みの老人の労働者が話しかけて来た。
「私はもう年で働けません。ですが、麓の村には孫たちがお腹を空かせて待ってるんです。どうしていいものやら……」
老人は骨が浮き出て、あちこちの皮膚は赤く裂けていた。
いつかは皆、人は働けなくなる。
なんだか悲しくなった。
私の皮膚はつやがあり、毛がモサモサと生えていた。
私は風呂から上がり、財布から10万クレジット金貨を10枚取り出す。
それを封筒に入れて、そっと老人に渡した。
「……あ、ありがとうございます」
「いやいや、最初の頃。爺さんに教えてもらったことが役に立ったんだよ。今までありがとうね……」
涙を流すおじいさんの肩を、モフモフの手でポンポンとやさしく叩いてあげた。
翌日。
老人は仕事を辞め、山を降りた。
代わりに三日後に、小さな6人の子供に囲まれた老人の写真が送られてきた。それはとても幸せそうな顔をしていた。
□□□□□
更に3か月。
坑道でツルハシを振るいまくった。
このクマの体は凄い!
今ではスキャナーなしで鉱石を見分けられるし、簡単な鉱脈なら読めるようにもなっていた。
日々ドンドンと預金口座の数字が増えていった。
正直、人間には過酷な労働だろうが、この体にはあまり負担にならなかった。
ゴリゴリ掘って、ゴリゴリ運んでいった。
「……ふう」
風呂に入った後の晩御飯が堪らない。
今日は近くのマタギが獲った鹿鍋だった。
灰汁をとった後に野菜をどかどかと入れる。
「クマさん、あんた前は仕事何やってたの?」
鍋を囲んだ同僚に聞かれた。
「兵隊です」
「兵隊さんって、いつも何を食べるわけ?」
「えっとですね。合成蛋白質のウェハースと豆スープくらいですね」
「そうなんだ。軍隊って意外と貧しい生活してるんだな?」
「あはは、そういわれるとそうですね」
そう言われ、昔を思い出す。
珈琲に入れる砂糖を塩と間違えたアイツ。
頻繁にバターとラードを間違えたアイツ。
……思い出に出てくやつは皆、ほとんどが戦死していた。
今回の鹿鍋は少ししょっぱい味がしたのだった……。
□□□□□
「よし! アタリだ!」
坑道から逸れて掘ると、偶に宝石の類も見つけることが出来た。
大きなダイヤモンドとはいかなかったが、小さいながらに色とりどりの宝石の原石が掘れた。
「う~む、意外と楽しい」
仕事終わりに宝石の原石を削って磨く。
仕事以外に時間を潰すことが出来ない山中で、宝石の研磨は楽しい時間だった。
換金できない小さなものは、近所の子供たちにあげた。
地方の小さな新聞に『クマの着ぐるみが子供たちに宝石を配る』とデカデカと載ってしまった。
……二回目の人生。
なかなか楽しいのである。
新聞を読んだ次の日。
私は山を降りた。
帰りは中古で買ったばかりのバイクで。
結構大きいものを買ったつもりが、私の形が大きいのでミニバイクに見えてしまう。
「再審査ですね。かしこまりました」
ギルドの受付でカードの更新をする。
受け付けは前と違って、丁寧な女性の方だった。
通常の更新では無く、2ランクアップを狙い再審査請求という形をとった。
更新結果は異例のランクDへと昇級した。
鉱山生活6か月を真面目に過ごした甲斐があった。
「ランクDおめでとうございます。これで一人前ですね」
どうやらこれで一人前らしい。
「……ですけど、次のC級への昇進は厳しいものとなります。頑張ってください!」
応援されてしまったが、次は厳しいのが残念。
きっとほとんどの人がDまで進級するのだろう。
次の仕事は何にしよう?
財布が暖かいのもあって、すこし勤労意欲が薄くなっていたのは内緒である。
「しまった!」
……今日は病院の定期検査の日だった。
私は錆が目立つ乗り合いバス目指して走ったのだった。