第十九話……造船所の破壊。そして地球へと~
「あっちは危ないニャ―」
「了解!」
ニャーゴのことは道案内位に考えていたのだが、各種センサーを上回る彼の眼の良さが光った。
宇宙の難所が多いコルセア星系において、これほど優位な存在は無かった。
私の見えないものが彼には見えるのであった。
「敵発見! 中型艦三隻」
「……ぇ!?」
ニャーゴは恐ろしいほど早く宇宙海賊船を見つけた。
熱波や磁気嵐を突き抜ける感度、言わゆる超能力かもしれない。
「砲撃用意!」
「重力子砲発射!」
――ドドーン
こちらの姿は相手に見えず、こちらは相手の様子が手に取るようにわかった。
ニャーゴが海賊仲間に一目置かれる訳だった。
此方の砲撃によって、敵方は次々に破壊され、三隻の敵は時間をおかず、こちらの降伏勧告を受領した。
□□□□□
「この寝返りネコめが!」
降伏した宇宙海賊はニャーゴに罵詈雑言を浴びせる。
だが、ここをサポートするのが良い雇い主というものだ。
「うるさいクマ! 文句があるなら宇宙船から放り出すクマ!」
私は暴虐の限りを尽くしそうな野蛮なクマを演じる。
「……いえ、ご勘弁を……」
そうすると大体はおとなしくなるものだ。
だれもが進んで死にたいわけではない。
「……では、惑星ジャグシーに戻ろう!」
こうしてレーム星系とコルセア星系を往復し、何度も宇宙海賊を拿捕。
海賊はギルドへと引き渡たすことでお金を得、拿捕した海賊船のうち、気に入ったものはインテグラ号にくっつけた。
その結果、インテグラ号は全長500mもの比較的大きな宇宙船になったのだった。
私はコルセア星系の外縁にて、宇宙海賊に失血を強い続けた。
……が、ある日。
地理に詳しい側の我々が遭難してしまう。
それは見張り係として信用していたニャーゴの飲酒による泥酔が原因だった。
彼は酒癖が悪かったのだ。
□□□□□
インテグラ号はコルセア星系のどこかにある大きな小惑星に墜落。
修理ロボットに急ぎ修理を命じるも、修理に24時間以上かかるとのことだった……。
「寒いポコね」
「ああ」
暇なので、ポコリーヌと共に宇宙船から外に出る。
墜落原因のニャーゴは、酒が抜けず宇宙船の中で寝ているのだ。
上を見上げると暗い宇宙。
下を見ると、無機質な岩盤であった。
もちろん空気は無く、宇宙服が無ければ凍死するような環境だった。
暫くあたりを歩くと、大きな岩盤の割れ目を見つけた。
その割れ目を覗くと中には宇宙海賊たちがワラワラといたのだ。
「ここはなんだろう?」
「そうポコね。なんだかわからないけど、壊しておくとギルドからお金が貰えそうポコ!」
それもそうだ。
相手は法が定める悪党。
やっつけるのに理由は要らないはずであった。
「見張っているから爆薬を持ってきてポコ」
「わかった!」
私達はこの割れ目の下を爆薬で破壊することしたのだ。
私はインテグラ号からモッサリと爆薬を運んでくる。
「導火線良しっと!」
「発破!」
――ドドドーン!
離れたところから見るに、爆破は成功。
内部で多数誘爆しているようであった。
そうして船に戻ると……、
「……ニャ? ここは何処ニャ?」
ニャーゴが起きてきた。
航路図で位置を教えると、
「ここは宇宙海賊たちの造船所ニャ! え? 爆破したニャ!?」
という頃には、インテグラ号は件の天体から離れており、艦砲にてさらに追い打ちをかける態勢であった。
「砲撃開始!」
『了解!』
インテグラ号の砲撃後、更なる誘爆により件の造船所は大破。
さらにミサイルを撃ち込み、二度と使えないまでに壊しておいた。
これにより私のギルドカードはA級に昇進した。
位置が確定した海賊のねぐらに、惑星政府からの討伐軍が出向いたが、その頃にはもうもぬけの殻で、私の手柄のたてる場所もなくなってしまっていたのであった。
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「モフモフなクマがきた~」
「タヌキもいるぞ~」
ここは工場跡にできたパナッチ氏の孤児院。
うっかり顔をだしてもみくちゃにされる。
タヌキは既に脱走中だ。
「……あ、デブ猫がいるぞ!」
「ニャン!? なにをするニャ?」
ここへきて、孤児院の子供たちに免疫がないニャーゴは毛並みがボロボロになるまで子供たちに遊ばれた。
ニャーゴがもみくちゃにされている頃。
私はパナッチ医師からある標本の輸送を頼まれていた。
「次郎君。これが他所にバレるわけにはいかん。無事に地球まで届けてくれ」
地球とは人類文明の中心地。
そこに届ける標本は冷凍カプセルに入っていた。
「覗いてもいいですか?」
「ああ、君だけならな……」
私は冷凍カプセルの覗き穴から中を見た。
凍りつけにされているのは、例の異星人だった。
もう半ば忘れかけていた奴だ……。
「惑星ジャグシーの政府としては、人類全体のまとめ役である地球政府に、この生物のことを任せたいようだ。まぁ厄介者を丸投げしたいということだな」
「……はぁ」
「次郎君は地球にいったことはあるかね?」
「ないです。航路図とかはありますかね?」
「それはあるんじゃが、まぁ、土産は忘れんでくれ」
「……ぇ!?」
「冗談じゃよ。航海の安全を祈る!」
「了解!」
こうして、私とインテグラ号は、休むことなく地球へ出発した。
人類発祥の地、地球。
一度行ってみたいところでもあって、私のこころは昂っていたのであった。