第十七話……宇宙の荒野、コルセア星系
――コルセア星系
比較的人類文明の中心に近かったが、恒星が発する恒星風が強烈に強く、岩と氷の小惑星ばかりの星域である。
惑星と言える天体は無いといわれるが、唯一バイアと呼ばれる準惑星がどこかに潜んでいと言われる。
資源にも乏しく、概ねの有人船はこの星域に立ち入らず、よって航路図もない。
もし遭難してしまえば、帰ることは難しい死の星系であった。
『ワープアウト!』
私は来て早々、後悔に苛まれた。
ここの恒星風は温度が非常に高く、外縁部にまでその存在を知らしめていた。
広域にまで強度のガンマ線が飛び散り、センサー類がまともに作動しなかったのだ。
更には、恒星風が吹き荒れ、船は右へ左へと流される。
よって、今どこにいるかもわからない有様だった。
これなら海賊の住み家だとわかっても、うかつに討伐されないはずだ。
「あそこに巨大な岩石があるポコ」
見張りをしていたポコが、運よく大きな小惑星を発見する。
「良し! あの岩石の裏に入ろう!」
強度な放射線に晒らされながら有視界航法。
目の裏側にまで痛みが走る。
インテグラ号は強い恒星風に流されながらも、巨大な小惑星の裏側で一時の休息を得られたのであった。
「こんなとこいたら死んでしまうポコ。すぐに帰ろうポコ」
ポコリーヌはこの厳しい環境にお冠だ。
……だが、折角来たのだ。
何かを為して帰りたい。
ちなみに長距離ワープ一回で、数トンに及ぶ貴重な液体アダマンタイトを消費する。
そういう経費上の観点からも、めぼしいお土産が欲しい所であった。
「うーむ」
「そんなに双眼鏡覗いてもなにもないポコよ」
この星系の外縁部に張り付いて18時間が経過。
遂に私が探していたものがやってきたのであった。
「ポコ! 左舷11時方向を見ろ! 小型の宇宙船だ!」
「なんだって!?」
多分それは宇宙海賊船なのだろう。
インテグラ号の様に恒星風にあおられず、真っすぐに星系中心部へ進んでいた。
あの辺に航行可能区域があるに違いない。
「機関全速! 両舷ブースト圧最大!」
『了解!』
インテグラ号は軽快な機動特性を生かし、海賊船の追尾に入る。
だがこっちは強烈な恒星風にあおられるが、相手は無風の様に航行している。
「追いつけないポコ」
「よし、このまま撃つ!」
『センサー類が使えず、有効な偏差射撃が出来ません!』
「黙ってろ! 最後は結局、勘で当てるしかないんだよ!」
私はAIに当たりながら、射撃スコープをオープン。
この船に載っている重力子砲は、試射もしておらず、この時ぶっつけで使われた。
だが重力子は、他の電磁波との干渉も少ないがために、私の狙ったところへ見事吸い込まれた。
狙った場所は敵船の機関部。
一瞬装甲板が陥没した後に、大爆発を起こし機関は停止した。
「行くぞ!」
「行くぞってどこにポコ?」
「乗り込むに決まってんだろ!?」
「えー!?」
「じゃあ、留守番してろ!」
ポコリーヌは賞金首の逞しいおじさん達とは会いたくないらしい。
インテグラ号は、機関を破壊され微速で航行している宇宙海賊船に横付けした。
強行突入用通路が相手の船腹に圧着。
特殊熱線カッターで一気に外殻装甲を焼き切った。
……いざ突入。
私の心は緊張ではち切れそうだった。
□□□□□
――敵艦移乗後。
すぐに居住区へと足を運ぶ。
「手を挙げろ!」
勇気を振り絞って、思いっきり叫んだ。
相手側も戦闘服を着て出張ってきており、その数はムキムキの大男が3名。
彼等はビームライフルや高振動ブレードで武装していた。
「……びびって出向いてきたら、クマが一匹かよ! わはは」
「やかましいクマ!」
【エネルギー充填完了!】
とりあえず口内からの荷電粒子砲で、戦闘のひげだるまの腹を撃ち抜いた。
髭達磨はあたまから床に倒れ込み、内臓を床にぶちまけた。
辺り一面に鮮血が飛び散り、泣き喚く男の声と織り交ざって、一気に阿鼻叫喚の世界となってしまう……。
「ひえ……、このクマ人間じゃねぇ……助けて!」
「まだ死にたくねぇ……」
「じゃあ、おとなしくしろ!」
私は残りの2人を電子手錠で拘束。
腹に穴の開いた男にも、冷凍スプレーなどの応急手当を施した。
そして、さらに奥にあるブリッジめがけて走った。
――ドン。
操縦席のあるであろう部屋のドアを蹴破ると、そこには人間はおらず、まんまるいモフモフの猫だけがいた。
「にゃお~♪」
「くそ! 船長らしき人影がいねぇ。どこいった!?」
私が探すそぶりをすると、猫がするりとその場を離れようとしたので、ガッチリと拘束した。
「にゃあ!?」
「面は割れてるぜ、ニャーゴさん。【老獪なニャーゴ】の二つ名の方が、通りが良かったかな?」
「なぜそれを?」
「いやあ、海賊名簿をギルドから売ってもらってね。手練れの海賊の中に1匹だけ太った猫がいるとかいてあるんだよ。君のことだよね?」
「……うむ、相違ないニャ」
こうして私は宇宙海賊一匹と3人を確保。
海賊船ももったいないので、なんとか舷側に縛り付けたまま、持って帰ることにした。
□□□□□
――ギルドにて
「クマさん、凄いな!」
「あのコルセア星系で海賊船を拿捕か? やるなぁ!」
珍しい宇宙海賊船を持ち帰ったので、私はギルドで一躍人気者になった。
首都テトラの宇宙港に泊めた海賊船は、多くの見物人を呼んだのであった。
「う~ん」
「どうしたポコ?」
「宇宙海賊の引き渡しはどうしようかと……」
私は一時の賞金より、コルセア星域の謎の方が知りたくなっていたのであった。