第十六話……宇宙海賊退治へGO!
「おう、ここかねジロー君」
「はい、ここになります!」
私は借りてきたバスにて、パナッチ氏を工場跡に案内。
病院や孤児院などの施設をここに移してみてはどうかと提案したのだ。
「わーいクマさんだ! モフモフ大好き~♪」
「タヌキさんもいるぅ~♪」
今の病院の位置だと治安が悪く、場所によっては地雷が埋まっている場所もあったのだ。
それに此方の方が圧倒的に広い。
なんなら買い上げるなどして、更に敷地を広げることも可能であった。
「あそこが工場の寮になりますので、病院改装に適していると思います」
私の言葉にパナッチ氏は少し首を傾げた。
「まぁ、有難い提案だが……。ジロー君、君にはなんのメリットがある?」
「メリットですねぇ? 一回死んでいるので何とも言えませんが、定期検診に遠いところまで行くのが面倒くさいです!」
「……あはは、そうか。それなら近くに越してやらんといかんな!」
「移動費用ももちますので、是非に」
こうしてパナッチ氏の病院移転計画が前進することとなり、予定地は廃工場跡となった。
建物の修理や施工は村長のデパスに任せ、私は新たな仕事を求めて、首都テトラに向かったのであった。
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私は首都テトラと港湾都市セレネースを移動するのに、決まったタクシーを使っていた。
首都テトラは廃墟とは言え、建物や通路は多く、一人で運転するには迷子になる恐れがあったからだ。
「最近、宇宙海賊って聞きますかね?」
「最近は不景気でねぇ、そんな浮いた話は聞かねぇな。なんだクマの旦那、次は宇宙海賊退治ですかい?」
「あはは、相手がいないんじゃ出来ないですけどね」
タクシードライバーのレオンさんに聞くと、レーム星系自体が人類経済の中心から離れているので、それに伴う賊も少ないとのことだった。
……こまったなぁ。
華々しくデビューしたいものだったのだが……。
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――首都テトラ。
星間ギルドの建物内。
「こんにちは」
「お世話になっています。こちらへどうぞ!」
私はBランクのギルドカードを提示し、宇宙海賊の討伐をやってみたいと受付で言ってみた。
やはりBランク、奥の席に通され、コーヒーまで出てきた。
う~ん、いい香り。
これはきっと有機農法の高級なヤツだな。
暫し待つと、スーツをびしっと決めた青年が出てきた。
「その案件は、当星系外でもかまいませんか?」
意外な反応を受け、たじろいでしまう。
やはりレーム星系外にでないと、このお仕事案件は無いということだろう。
「星系外で構わなければ、コルセア星系が沢山の宇宙海賊がいます。……といいますか、この星系は海賊のメッカです。大変危険なので注意してください」
「……はぁ」
「普通の大きさの海賊船なら、一隻撃沈に付き当ギルドから35億クレジット。他にもこれが賞金首のリストとなっております」
手渡されたリストを見る。
いかにもといった髭達磨の海賊たちの顔写真で一杯だ。
「……どれどれ、海賊って生け捕りの方が高いのですね」
「それは、裁判ができるので、政府側の民衆受けがいいのですよ」
……なるほど。
政治家のアピールのために使うのか……。
「よし、引き受けましょう!」
「頑張ってください!」
ちなみにこの後、コーヒーを二杯お代わり。
このことはポコリーヌには黙っておこう。
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――港湾都市セレネース。
惑星ジャグシーに残る僅かな塩水湖のほとりにある廃都市だ。
買い上げた廃工場の裏側にあるドックに、インテグラ号は停泊していた。
私はポコリーヌと共にインテグラ号に乗り込み、発進に備えた。
『ドックへ注水開始』
『外海との水位差0.3m以下』
「了解! 外門開け!」
『ゲート開きます』
インテグラ号は下腹を船底のようにしたタイプの宇宙船だ。
主に、海水面を滑走したまま飛び上がる形状である。
陸上離発着もできるが、少し滑走路を長く必要とする。
「機関、離陸モードへ! 海面加速!」
『離陸可能速度へ』
ドックから海面に進み出たインテグラ号は、そのまま海面を蹴り、大空へと羽ばたいた。
「気圏翼展開! 加速第二モードへ」
『了解!』
私はブリッジから命令をAIへと伝達。
インテグラ号は無事、暗黒の宇宙空間へと飛び出したのであった。
眼下には、わずかな水域も茶色に染まる世界。
上を見れば、どこまでも暗い海が漂っていた……。
『惑星ジャグシーの重力圏離脱!』
「了解!」
若干推力を弱めたインテグラ号は、惑星ジャグシーの衛星軌道から離脱。
星系外縁部めがけて進路をとった。
ただ、第六惑星とアダマンタイト鉱区は避けてである。
戦争に巻き込まれるのは御免なのである……。
私は第五惑星公転軌道にて、長距離ワープの準備に着手する。
「長距離次元跳躍、用意!」
『跳躍用意、出現ポイント演算開始……』
星系内で使う短距離ワープとは異なり、星系外へワープする技術は独特だ。
それは、ほぼ全エネルギーをエルゴ機関に投入し、虚数の加速度を作り出す物であった。
その演算と機関技術は失われて久しく、未だ技術再建の途上である。
こうして、過去の遺産でのみ展開できる秘術であったのだ。
『演算完了! 目標コルセア星系外縁部!』
「OK! ジャンプ開始!」
こうして私を乗せたインテグラ号は、長距離ワープを開始。
無事に目標星系外縁部へとたどり着いたのであった。