第十五話……完成インテグラ号!
なんだか、お空の向こうでいろいろあった頃。
私は港湾都市セレネースの一角でゆっくりしていた。
天気がいいので、工場近くの小川の傍に敷物を敷いて寝っ転がり中だ。
毛皮の手入れはきちんとせねばならないのだ。
「社長さん、本当にこれくっつけていいんだべ?」
「ああ、構わん。頼むよ!」
件の宇宙船とストロング号の接合作業は順調だった。
今は二基のエルゴエンジンを直列配置する作業の真っ最中だ。
「トムの親方、クレーンもちょい右でさぁ!」
「あいよぉ」
実は作工員不足で、トムさんの知り合いをいくらか雇っている。
だが、ポコに言わせればこれも経済対策ということらしい。
そんなことをゴロゴロ転がりながら考えていると、腰が低そうな小太りの男がやってきた。
「こんにちは。あのぉ……」
「はいはい?」
「わたくし、この辺りの村の村長なのですが……、この度は村の雇用にご貢献頂きありがとうございます」
「ああ、構いませんよ。こちらも人手不足なんで」
「……で、これがお礼のお肉とお酒になります。是非ポコリーヌ様にお届けください」
……ぇ!?
あのタヌキめ……。
誰が社会の為なんだ、まったく。
「……ああ、そこのへんおいといてくださいな」
私も欲に負けた。
うまそうなお肉だったんだもん。
□□□□□
――二週間後。
我が惑星が、近くの惑星と戦争しているらしいとのニュースがTVを賑わす。
それよりも今日の天気予報だ。
モフモフの手入れは天気に限る。
「社長さん、作業が終わりましたべ!」
「お、お疲れ様」
二隻の宇宙船の接合作業が終了したらしい。
ドックにある作業場に顔をだすと、大きな宇宙船が完成していた。
トムに代わって中年の技師が説明してくれる。
「だいたい全長250mになります。軍の識別だと軽巡洋艦クラスになりますかな?」
接合部分が奇麗に銀色に塗装させており、心配していた露骨な接合跡はない。
「あとさぁ、重力子砲はどこいったの? それらしいものは無いんだけど?」
「ああ、スペースに余分が出たので、艦首部分に内蔵させました。ブリッジにあるコンソールで発射口が開きます。あと積み荷用の船倉スペースは大きめにとりました」
「ほうほう」
勿論、彼等も造船のプロだ。
単純にニコイチになったのではないところを見せつけてくれた。
また、AIはストロング号のものをそのままアップロードに留めたらしい。
「エンジンを直列したうえで改良を試みましたので、出力比で250%UPです。あと軽量化も試みましたので機動性も飛躍的に上がっております」
「おお、すごいな!」
「ただ、防御力や耐久性は40%DOWNです」
「……ぉ、おう」
つまるところ、出来た船は快速を武器にした船であるらしい。
ただ、装甲はペラペラ。
耐久性や抗堪性は全く当てにならないらしい。
まぁ、そういう点が軍艦とは違うのだろうけど……。
「あと、重要なところが決まっておりません」
「なんでしょう?」
「船の名前です!」
「ポコリーヌ号!」
「却下!」
ここぞとばかりに這い出てきたタヌキを絞めて気絶させる。
「う~ん、二隻を統合させて出来た船だから、インテグラ号でどうだろう?」
「畏まりました!」
こうしてインテグラ号が完成。
そして皆でシャンパンを開けて祝ったのだった。
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――翌日。
小川で魚を釣っていたのだが、どうにも魚がつれない。
「ねぇ、ポコリーヌ。どうして魚が釣れないんだろう?」
「そんなの川が汚いからに決まってるポコ」
そう言われ小川を見る。
水は赤さびや砂が混じり赤茶色。
ゴミや汚水がゆっくりと流れていく景色だ。
「浄水所を作るポコ」
「……そ、そうか。お金まだあるもんな」
……ん? まてよ。
この星にそもそも飲み水はおろか、水自体が貴重。
小川があるこの場所は珍しい。
これから先、どこへ行っても飲み水は貴重だ。
それなら、そもそも浄水所を動かせた方が良いだろう。
私はいそいそと工場へと戻ってトムに聞いてみた。
「ねぇねぇ、インテグラ号の浄水能力ってどれくらい?」
「えーっと、能力的には分からねぇべが、例の宇宙船についてたものがそのままついているはずだべ」
「……そうか」
よしよし。
私はインテグラ号に飛び乗り、件の小川の傍に着陸させた。
インテグラ号からホースを伸ばす。
クマの短足な足で歩きにくいのを堪え、小川へホースを運んだ。
「浄化スイッチON!」
30秒も経つと、インテグラ号の給水口から、浄化された真水が勢いよくダバダバと出来てきた。
「凄いポコ!」
「凄いクマ!」
……いけねぇ。
うっかりクマ言葉になってしまった。
だが、石油より水が高いこの星において、この浄水能力はいろんな意味で脅威的だったのだ。
「はいはい、みなさん並んでポコ!」
「いっぱいありますんで、慌てないでください」
奇麗な水がタダでもらえると聞いて、近隣の集落からワラワラ人が集まってきた。
彼等にとってインテグラ号はデッカイ浄水器に見えるかもしれない。
「いやあ、クマさんありがとうございます!」
「いえいえ」
「水がタダなんて、クマさんあんた神様だねぇ!」
「……あはは」
噂が噂を呼んで、一日中、人がワンサカ来た。
沢山用意しておいたポリタンクも全部なくなった。
……余談だが、村長に次の選挙に出ないでくれと泣いて頼まれた。
「政治家には成る気はないクマ!」