第十四話……惑星ジャグシー艦隊司令官モルドフ
「……ふう」
惑星ジャグシーの宇宙艦隊の現場責任者であるモルドフ提督は、旗艦の艦橋部で彼我の戦力差にため息をついた。
そこに彼の参謀が口を挟む。
「提督、かの要塞が我々の味方をするはずです。そうなれば、そう落ち込む必要もないでしょう」
「君はあれがそんなに頼りになると思うのかね?」
提督は不満げに参謀を見やる。
「わかりません。ですが、要塞を頼みにしろと言ってきたのは政府です。我々はそうれに従うしかありません」
「そうだな。だが我々も軍人だ。やることだけはやらねばならぬ……」
「はい」
モルドフは要塞に対峙するシャンプール艦隊の後背を脅かすべく行動に出ることにした。
今後の戦いの為に、少しでも敵艦隊を削っておく必要があったためだ。
惑星ジャグシーの首都宇宙港に朝日が昇る頃。
モルドフ率いる艦隊の麾下の艦艇は、各地の宇宙港及び基地から一斉に離陸。
衛星軌道上に集結したのだった。
――その後。
三度の短距離ワープの後。
落伍なく星系外縁部に到達。
さらに見事、予想会敵位置に敵艦隊の捕捉に成功したのだった。
□□□□□
「敵影発見! 方位B-62」
「了解!」
モルドフ艦隊は小惑星帯に隠れたまま、最大望遠の距離で、惑星シャンプールの艦隊を捕捉していた。
その距離は戦艦の最大射程までも程遠い。
「提督。攻撃態勢へと移りますか?」
「……いや、待て。ワシはあの要塞の全貌が知りたい。敵と要塞が抗戦するまで身を隠したままで様子を見よう」
モルドフは知りたかった。
オメガ社が政府から沢山の支援を受け取って作った要塞の全容を。
それは普通の要塞を作るような金額だけではなかったのだ。
多分、堅牢な要塞を作ると言って、オメガ社は政府からお金をだまし取ったのだ。
そうであれば、この張りぼての要塞はすぐに陥落する。
モルドフはそう見当をつけていたのだ。
……だがそうなれば、モルドフの艦隊も無事では済まされない。
なぜなら、ほぼ無傷の状態のシャンプール艦隊と戦わねばならなかったからだ。
「敵の通信を傍受!」
「開戦する模様です!」
「よし! そのまま傍受を継続せよ!」
「了解!」
モロゾフの目の前で要塞攻略戦は開始された。
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――要塞テナジー。
直径6kmの球体型要塞である。
外殻は複合セラミック装甲及び、それの鏡面加工である。
要塞上にレールを多数張り巡らし、対艦用の列車砲を多数配置していた。
『砲撃開始!』
シャンプール艦隊は要塞に近づき、高出力のビーム砲を斉射。
それに応じて要塞側も対艦用のビーム砲を撃ち返した。
『前衛ビーム艦の被害甚大』
『ビーム艦を装甲の厚い大型艦の後ろにさげろ!』
『了解!』
最初の砲撃戦は要塞側が優勢だった。
対艦列車砲の火力も秀逸だったが、それ以上に巧みに、この宙域に機雷原が構成されていたのだ。
攻撃側は砲撃だけでなく、工兵隊を小型舟艇で発進させて、機雷原の撤去も行っていたのだ。
当然ながらに工兵隊を狙う要塞側砲群。
攻撃側は失血を強いられる時間が続いていた。
『Q-97番方面、機雷原処理完了!』
『よし、ミサイル艦の突入開始!』
時間が経ち、一部機雷原が掃除されたことにより、短距離ながら破壊力の高いミサイル艦が前進。
砲火に数を撃ち減らしながらに、要塞に肉薄した。
『ミサイル発射!』
『了解!』
ミサイル艦は全長50mほどの小型艦だが、長さ30m超の大型ミサイル二基を中心に、短距離攻撃武装に特化した艦艇だった。
主に要塞や鈍重な大型艦に対し高い攻撃力を発揮。
近接攻撃に関しては戦艦をも凌ぐ打撃力だった。
発射された多数のミサイル群が要塞表面に着弾。
つぎつぎと爆発し、凄まじい爆風が要塞外殻や構造物を襲う。
レールごと列車砲群は吹き飛び、外殻複合装甲がめくれ上がった。
『ん!?』
「ん!?」
この疑問符は、攻撃側の士官だけでなく、遠くで見ていたモルドフのモノでもあった。
要塞外殻の破孔から覗き見えたのは、要塞内部の構造物では無く、明るい茶色色をした細胞のような物体だった。
その物体は、自ら外殻装甲を内側から破壊しながら這い出て来る。
まさしく巨大で奇妙な生き物だった。
要塞外殻から這い出てきた全容は、直径5kmの茶色の球体であり、無数の数キロに及ぶ触手を纏っていた。
驚いた攻撃側の艦艇が散発的に砲撃するも、あまり利いた風がない。
「巨大生命体検知! 未だかつて見たい事のない兵器です!」
「……、な馬鹿な!?」
モルドフは驚く。
それ以上に驚いたのは、要塞攻略を企図していた惑星シャンプールの艦隊だった。
無数の触手は、巨大な氷の塊を次々に吐き出し、攻撃側の艦艇に浴びせかけてきた。
それに伴い、大型の球体本体もが、攻撃側の艦隊に急速に肉薄。
そのまま体当たりを浴びせかけていった。
『退却だ! 全艦反転しろ!』
『了解!』
堪らず攻撃側のシャンプール艦隊は多数の被害を出し、無秩序なままに退却していった。
「モルドフ提督。我々は如何しますか?」
幸いなことにモルドフ率いる艦隊は、強大な生命体の探知外のようであった。
巨大な生命体は元の位置へとゆっくりと戻っていく。
「我々も撤退せねばなるまい。このことを政府に報告だ」
「はっ! 全艦の進路方位を惑星ジャグシーへ、帰投を開始する!」