第十三話……レーム星系の戦乱
レーム星系は人類の主要星系とは遠く、人々に人気のない辺境星系であった。
ところがジローが惑星ジャグシーに赴任する25年前。
民間探検者アローによってレーム星系外縁に、エルゴ機関の燃料であるアダマンタイトを多量に含む小惑星群が発見された。
この開発に乗り出したのは、第四惑星ジャグシーの政府と民間の合弁会社オメガ。
採掘されたアダマンタイトは精製され、レーム星系より遠い人類の枢要部がある星系へと輸出されて行き、ジャグシー政府とオメガ社は多大な利潤を享受した。
また同時に、多くの経済的な開発移民を受け入れ、人口増大をもたらしたのだった。
この平和的な経済興隆は5年ほど穏やかに続いた。
しかし、これをよく思わなかったのが、同レーム星系内の第六惑星シャンプールの政府。
同じ星系の利益として50%の配分を求めたのだった。
惑星シャンプールの軍事力は惑星ジャグシーのそれを凌駕しており、この交渉は成立するかに思われた。
だが、オメガ社と惑星ジャグシーの政府はこの要求を断固として拒否。
この緊張感は次第に上昇していく。
しかし、オメガ社は以前より安全を確保するべく、レーム星系外縁部にあるアダマンタイト鉱区に、テナジーと呼ばれる要塞を建設していたのだった。
これを正面から攻略するのは難しいと考えたシャンプール政府は、第四惑星ジャグシーの反政府組織ヘルシングへの支援を決定。
激しい内戦への入り口となった。
この内戦への傭兵部隊として、人間の頃のジローは他星系より赴任することになる
この戦いは10年にも及び、第四惑星ジャグシーは見るも無残な廃墟となってしまう。
密かに、度重なる武器弾薬の輸送を試みるシャンプール政府の輸送艦に対し、惑星ジャグシーの政府も26度にわたってこれを阻止した。
表向いて艦隊を派遣すると全面戦争になる為、宇宙海賊を雇っての阻止作戦である。
余談だが、その26度目の阻止作戦が、ジローという宇宙海賊によるものと非公式に記録されている。
……が、度重なる輸送船団の被害に業を煮やし、惑星シャンプールの政府はついに正式に惑星ジャグシーに宣戦布告をしたのであった。
戦争目的は、惑星ジャグシーで差別されている被差別組織ヘルシングの救出だった。
こうして、第六惑星シャンプールより宇宙艦隊が進発。
しかし、進路は第四惑星ジャグシーでは無く、星系外周の要塞テナジーへと向けたのだった。
◆第六惑星・宇宙戦力概要
戦艦……4隻
巡洋艦……8隻
駆逐艦……36隻
ビーム艦……120隻
ミサイル艦……96隻
惑星地上軍……8個師団
大型揚陸艦……4隻
◆第四惑星・宇宙戦力概要
戦艦……2隻
巡洋艦……4隻
駆逐艦……8隻
ビーム艦……48隻
ミサイル艦……36隻
惑星地上軍……4個師団
大型揚陸艦……配備なし
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第四惑星惑星ジャグシー政府・大統領府。
防衛官僚が大統領に急報をもたらす。
「デベロフ大統領! 大変ですぞ!」
「なんだ!? ついにその時が来たのか?」
「はい! ただ敵の作戦目標はこの星では無く、星系外縁部のアダマンタイト鉱区の様です……」
「……ぬ、そうきたか」
情報を得るなり、大統領は隣に控える秘書に命じた。
「閣議を開く。至急閣僚を集めてくれ!」
「はい」
……こうして、二時間後。
大統領府で国防の為の会議が開かれた。
「ここはもう、あの鉱区を諦めてはいかがですかな? 我が国はシャンプール艦隊に太刀打ちできませんぞ!」
こう発言したのは防衛大臣のオッペンハイマー。
だが、財務大臣のカウルが抗弁する。
「バカな! あの鉱区があるからこそ、人類の枢要星系は我が国の多大な借款を引き受けてくれたのですぞ! あれをみすみす渡しては、我が国は財政破綻を起こしてしまう」
「……では、どうするのだ? 戦うのか?」
「そうは言ってはおらんではないか!」
「では、どうせよというのか?」
議論が熱し、あたかも口げんかの様になった時。
デベロフ大統領が意見を求めたのは、オメガ社から出向してきている政府顧問のロレントであった。
「どうだね? オメガ社としては意見はあるかね?」
「わが社のようなものが、この場において発言してもよろしいので?」
「くそっ、我が政府の債権を2割も持っておきながら、よく言うわ!」
カウル財相の嫌味を大統領が制し、ロレントに再び意見を求めた。
ロレントは秘書に命じ、会議室のメインパネルに映像を映しながら咳払いをしてみせた。
「ゴホン。皆さま、お忘れですか? 我々にはこのテナジー要塞があるではないですか?」
「忘れるも何も、建設費をせびっておきながら、その詳細は聞いておらんわい!」
オッペンハイマーが唸る様に怒気を孕む。
「……あ、少し言葉が足りませんでしたね? 我々には『生体』要塞テナジーがあるといったのですよ」
「生体だと!?」
「貴様等は一体何のためにそのようなものを作ったのだ!? 普通の要塞ではないのか?」
閣僚のみならず、大統領も困惑の色を隠せない。
「『生体』でございます。我らがテナジー要塞にまとわりつくハエどもに目に物を見せてやろうではありませんか?」
「貴様、どこからその自信が湧いて出るのか!?」
……その後も会議は紛糾。
だが、どの閣僚も解決策も無いので、渋々ロレントの作戦にすべての閣僚が同意。
大統領の承認をもって、要塞テナジー周辺での決戦と相成ったのだった。