第十二話……港湾都市セレネース
「いらしゃいませ」
「じゃあ僕はここで」
建物の入り口をくぐると若い女性が受付をしており、ポコリーヌはさっさと奥へ行ってしまった。
……てか、おいていくのかよ。
まったく!
なんの為に連れて来られたのだか。
「ふぅ~」
私はエントランス横のソファーで煙草をふかした。
窓から見る景色は今日も砂嵐だった。
「あの、お客様、ご用は何でしょうか?」
中年のセールスマンのような男がやってきた。
「つきそいでね。特に株が欲しいわけじゃない」
私は正直に告げる。
邪魔なら出ていってもいいと。
「いえいえ、ご要望がりましたら、株以外でもご用意させていただきますよ」
……え?
そうなのか。
私は無理を承知で言ってみることにした。
「船が泊めれる港付きの家を一戸欲しい」
ストロング号に限らず、大体の宇宙船は水に浮かぶ。
修理などでの移動に、浮力が使いやすいためだ。
つまり、私は宇宙船を私的に停泊させておける場所が欲しかったのだ。
不動産屋に行ってくれと言われそうな要求を突き付けてみた。
「かしこまりました。港と住居でございますね」
セールスマンは鞄をごそごそと漁り、書類を提示してきた。
「この潰れかけの港湾会社を買収しては如何でしょう? 小さな工場も併設しております。ご予算は5億クレジットとなりますが……」
「……ほぉ。ドックやクレーン付きか?」
「左様でございます。何分古さは隠しようがございませんが、かなり本格的な作業でもこなせますよ。併設の倉庫を住居として頂ければよろしいかと」
「おお、いいなぁ!」
意外とここに来てよかったのではないか。
マイホームと宇宙船のガレージがいっぺんに揃った感じだ。
「じゃあいただきます」
「では此方の書類一式にサインを」
「……はい」
幸いなことに今、お金の手持ちは沢山ある。
ポコリーヌの言うように、お金はつかってこそ社会の為になるのかもしれない。
契約が成立した頃に、ポコリーヌがやってきた。
「何かったポコ? 電力株? それとも港湾株?」
「……いや、港湾施設をまるごと買った」
「えー!?」
いつも黒目がちで真ん丸なポコリーヌの眼が、驚きでさらに真ん丸になってしまったのだった。
□□□□□
買った港湾施設は、首都テトラから車で2時間のところの港湾都市セレネースにあった。
タクシーの運転手によると、このあたりは一時期造船で賑わったらしい。
だが、昨今の不況で荒廃してしまったのだそうだ。
「ありがとう」
「いえ、まいどあり」
タクシーの運転手に料金を払い、目標の港湾施設に降り立つ。
だが、そこは全ての構造物が赤錆びだらけであり、まさに廃工場という言葉がぴったりであった。
……うわぁボロい。
だいじょうぶかなこれ。
「これ、騙されてないポコ?」
「うーむ、先ずはコントロールセンターに行こう」
こういう施設には、統合部署である司令室があるのが常だった。
私達は柵をよじ登り、施設内を迷走。
錆でボロボロの梯子を上り、指令室にたどり着いた。
「お邪魔します」
誰もいないであろう部屋にノックしてみると、
「どうぞ!」
……なんと返事があった!
今の所有者は私だぞ。
完全に空き巣じゃねーか。
私が慌ててドアを開けると、中には老夫婦が寛いでいた。
「ぎゃあああ、クマだぁぁあ!」
「食われる!」
……うっせぇ。
食わないっつーの。
「あの、私こういうものですが……」
ビビる老夫婦に名刺を渡し、ここの所有者であることを告げた。
「ああ、新しい社長さんだね。オラはここの住み込み技師のトムで、こちらは妻で事務員のメリーだべ」
「……!?」
この物件、社員付きだったのか。
しかも住み込みだとぉ~!?
「僕たちは家がないポコ。どっか住める部屋はないポコ?」
「そんなのいくらでもあるべ。というか隣の社長室が空いてるべ」
……社長室?
なんだか甘美な響き。
指令室の横にある扉を開くと、こぎれいで広さがまぁまぁの社長室があった。
「ここに寝るポコ?」
「どこに寝てもいいし、寝具は社員寮にいくらでもあるべ」
どうやらこの施設、社員寮も併設であるらしい。
もう事実上倒産しているので、労働者は彼等だけのようであったが……。
□□□□□
――翌日。
トムさんに施設の使い方を習う。
「社長さんは全然だめだが、ポコリーヌさんは筋が良いべ!」
「やったポコ!」
……そりゃあ、あんた元整備兵だろ。
こっちは元戦闘員だ。
腕が違って当然だろう。
「……なぁ、トムさん。あんた宇宙船の溶接とかできるか?」
「そんなもの、大体がここのコンピュータに任せればできるべ!」
「よし、決まりだ。早速船を持ってくるわ!」
私はポコを連れ、工場に放置されていた原動機付自転車に跨る。
片道3時間の道のりの末、首都テトラの宇宙港についた。
宇宙港併設の喫茶店で夕食。
2人ともハンバーグスパゲティーを頼む。
「クマ船長、いったいなにをするポコ?」
「ストロング号と例の宇宙船くっつけてみようかなかと……」
「えー!? あんなボロい施設で大丈夫ポコ?」
「何とかなるんじゃないかな?」
そんな計画の下。
例の宇宙船は応急の修理が済んでいたので私が操縦。
ストロング号の操縦はポコリーヌに任せた。
二隻の宇宙船は管制の指示に従い離陸。
一路、港湾都市セレネースを目指したのだった。