第十一話……宇宙船のサルベージ
私は再び首都テトラの宇宙港にいた。
大型の気圏内用の輸送機を商人のポールから借りていたのだった。
「よいしょっと」
私とポコリーヌは輸送機のコックピットに乗り込みベルトを締める。
「ストロング号もこれくらい操縦席が広いといいポコね」
「……ああ」
そうは答えたものの、宇宙船に無駄なスペースはなかなか作れないのだ。
大気圏を離脱するだけで膨大な燃料を食う。
よって人のためのスペースは小さくなるのが宇宙船設計の常だった。
『N-68型輸送機、離陸を許可します!』
「了解、発進!」
私の操縦する輸送機は翼に備わる巨大な8つのエンジンを点火。
全長650mもある巨体が、翼に膨大な揚力を伴い、ゆっくりと離陸したのであった。
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――飛行する事16時間
この惑星は飛べども飛べども、眼下には赤茶色の荒野が続く。
「あのへんポコね」
「そうだな」
私は機体を垂直着陸モードへと変更。
機体の羽が大きな音を立てて変形し、荒れ地への着陸に備えた。
「着陸開始だ! ショックに備えろよ!」
「了解ポコ!」
大型輸送機は、大量の砂塵を巻き上げ着陸に成功。
私達を無事に地上へと降ろした。
「ふう、こんなにデカいと着陸も一苦労だな……」
しかも借りものだ。
少しでも壊そうものなら、お金に厳しいポールに何を言われるか分からないのだ。
「こっちですポコ~♪」
ポコリーヌの先導で、無事に例の宇宙船の場所へとたどり着いた。
「う~ん200mくらいはありそうポコね」
「ギリギリ運べそうだな」
「……そうポコね」
宇宙船にワイヤーを巻きつけ、その先端を大型輸送機に繋いだ。
素人仕事に近かったが、その分過剰なくらいロープを結ぶ。
その後、大型輸送機に戻り、すぐさまエンジンを再点火。
慎重に準備し、大空への離陸に備えた。
「よっし、飛び立ってみるぞ!」
「了解ポコ!」
エンジンの出力を上げる。
大型の輸送機がふわりと飛び上がり、たるんでいたワイヤーがピンと張る。
そして、ゆっくりと宇宙船は持ち上がる。
……が、意外と地中に埋没していた部分が大きかったようだ。
計算していた以上の重量に輸送機のエンジンが悲鳴を上げる。
「大丈夫ポコ?」
「ここまで来て大丈夫もくそもねぇ……、クマァァァァ!」
エンジンを全開にしたところ、宇宙船はずぼっと大地から抜け、輸送機に追従するようにゆっくりと空中へと浮遊した。
「……よし、引き上げ成功だ! 帰るぞ!」
……うん?
となりに座っていたポコリーヌがいない。
何処へ行ったのかと調べてみたら、備え付けの機銃座にいた。
「こんなところで反政府軍に襲われたら、撃墜されちゃうポコ!」
「ああそうだな、しっかりと頼むぞ!」
撃墜なんかされたら破産だ。
意地でも持ち帰ってやる……。
私はそう心に誓いながら、一昼夜と少しをかけて飛行。
慎重な航路を選び、無事に首都テトラの宇宙港へと帰還したのであった。
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広さだけでいえば、野球場が60個は作れそうなテトラの宇宙港。
そのほとんどが、荒野を均しただけの滑走路ではあったのだが……。
そんな宇宙港で待っていたのは、商人のポール。
いいものがあれば、優先的に彼に引き渡すとの条件付きでの輸送機の貸し借りであった。
「おう、ジロー。またいいものあったんじゃないか?」
「……ああ、船内を案内するよ」
彼を船倉に案内すると、彼は様々なものに興味を示した。
高周波カッターにビームバルカン砲。
この宇宙船の船倉にはまだ、そんな希少な武器がゴロゴロと積まれていたのだ。
「おお! 天然バターだ! すげぇ!」
「あ、すまん。それだけは譲れん!」
私は冷凍庫を開けたポールを制する。
「なんでだよ。金なら払うぞ! これは一級品だ。それのこの肉を見ろ! ……ぎゃあ。いてて! なんだこのタヌキ」
冷凍庫を漁るポールはポコリーヌに噛みつかれた。
「食料は譲らないポコ!」
「……しゃあねぇな」
眼を血走らせたポコリーヌに負け、食品類を諦めるポール。
だが、彼はその後も宇宙船を物色。
いろいろなものを漁っていった。
「はいよ。これが代金な。またいいものがあれば買い取るぜ!」
ポールは明細書を私に渡し、車でどっかへいってしまった。
彼が去った後の船倉はほぼ何も残っていなかった。
……全く呆れたもんだな。
そう思い、船倉をトボトボと歩いていると、突然床が抜けた。
――ドコン
「いてぇ!」
落ちた先は、隠されたもう一つの船倉だったのだ。
そこにあったのは、砲身だけで25mはある見たことのないレーザー砲だった。
「なんだろコレ?」
そこにポコリーヌがやってきた。
「クマ船長、きっとこれは重力子砲クマよ!」
……ん?
なんか強そうな名前だな。
「強いの?」
「強いはずポコ! 見聞きしたものよりちょっと小さめだけどね……」
……これで小さいのか。
世の中大きいものが多いのだな。
その後、宇宙船と輸送機を掃除。
まさかこんな大きいのを二人で出来ないので業者を呼んだ。
「……出費がかさむなぁ」
そんな独り言をポコリーヌに聞かれ。
「お金持ちはケチケチしたらだめポコ! 皆の為にお金は使うポコよ」
「えー!?」
「こっちへ来るポコ!」
ポールに大型輸送船を返したあと、私はポコリーヌに連れられ、首都テトラの一角にある大きなビルの前についた。
そこの看板を見ると『証券取引所』とあった。