第十話……プライド
目標としていた敵は来た。
それはザンギ商会という会社が保有する輸送船。
この全長1km級の輸送船は武装しており、護衛を必要としないでいた……。
というのは建前で、『シャンプール政権軍の護衛など要らん!』という輸送会社の社長のプライドがそうさせているというギルドからの情報であった。
……人間のプライドとは怖い。
もしかしたら人間という種の最大の弱点はプライドかもしれない。
私はそう思う。
「予定通り推進機を狙うポコ?」
「ああ、そうだな! とりあえず最大出力で機関部にお見舞いしてやろう」
ストロング号は小惑星に隠れたまま、全エネルギーを砲塔のレールガンに集中。
最大射程から渾身の一撃を放った。
空間が歪むほどのエネルギーが砲口から発散、黒光りする徹甲弾が大きな輸送船にめり込み爆発する。
『敵機関部に命中!』
敵の機関区域から青白い炎が漏れ出る。
輸送艦の核融合炉が破損しているのが遠く離れるこちら側からもよくわかった。
もし、荷電粒子砲など派手なエネルギー兵器を使ったなら、此方の位置もすぐにばれたであろうが、使ったのは地味な実体弾。
相手は此方の位置が分からないでいた。
「第二射用意!」
『了解!』
砲身の冷却時間を十分にとらないまま第二射、第三射を行った。
結果、敵輸送船の機関部は白色光を伴う大爆発を起こし、完全にその機能を停止した。
「ようし、止めを刺すぞ!」
「あれを使うポコ?」
ポコリーヌは不満そうだ。
「ああ」
「……でもさ、宇宙海賊ってモノを獲ってこそ海賊じゃないポコ?」
「私は宇宙海賊になりたくない。よって略奪はしない」
これも、私という人間が持つプライドという弱点だった。
……しまった、もうクマだったか。
今回、ストロング号の船倉に詰め込んできたのは、こっそり買っていた大型の対艦ミサイル。
大きいので一発しか持ってくることが出来なかった。
これが複数敵を回避したりした本当の理由だったりもする。
「発射!」
『OK!』
寸胴の大型ミサイルは、ゆっくりとストロング号より発射された。
カタログスペック通り、あまり速くないミサイルだったが、動けない大型輸送船に命中するくらいの機動性は保っていた。
対艦ミサイルは次第に速度を上げ、敵の対空火器を掻い潜り、見事どてっぱらに命中した。
周囲の宇宙空間が明るくなるほどの大爆発が起こる。
ちなみにこのミサイルの弾頭はレーザー起爆式の新型水爆。
1kmを超える巨艦を葬り去るのに十分な破壊力であった。
これにより破壊したシャンプール政権側の物資は、凡そ中型輸送船25隻分。
武器弾薬のみならず、何万人分の食料、医薬品、衣類もことごとく宇宙の塵となった。
この成果により、第四話惑星ジャグシーにおける反政府武装組織の戦力は大幅低下。
デベロフ大統領の率いる正規軍が優勢になる戦略的なきっかけとなっていくのだった。
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「クマさんじゃなかった、ジローさんやったね!」
「……ええ、お陰様で」
首都テトラの星間ギルドで私は歓待された。
見事、海賊行為という名の通商破壊に成功したからだ。
結局、シャンプール側はストロング号の航跡さえ発見できず、輸送行動を中断していた。
第二の被害を恐れていての判断であった。
「報酬の件ですが、政府からの金一封もありまして175憶クレジットとなります」
「有難うございます」
……うおお凄い!
傭兵時分、楽しみにしていた年末宝くじの特賞の175倍であった。
補給線の破壊がこんなに評価されるなんて、人類歴史史上初なんじゃないかとくだらないことを思う。
入金されたお金で、早速借金を返すことにした。
借りたお金が凄すぎて、金利が馬鹿にならないからだ。
「そのお金はどうするポコ?」
「ああ、これはね」
私は余分におろしたお金を手に、ポコリーヌを連れておもちゃ屋へ向かう。
世情に詳しくないのでレトロなおもちゃを沢山買ってしまった。
このおもちゃの山を携え、私はパナッチ氏の病院へと向かった。
定期健診に加え、併設孤児院へのお土産であったのだ。
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戦災の痕が激しいコンクリートの塊たち。
そんな戦地の一角に、パナッチ氏の病院はひっそりと建っていた。
「クマさんきたー」
「あっタヌキもいる!」
車を降りるなり、相変わらず孤児院の子供に揉みくちゃにされる私。
ポコリーヌは危険を察して逃げたが、足の速い悪ガキに捕まってしまった。
……哀れポコリーヌ。
既にボロカスにされている。
私達は所詮モフモフ、戦場以外ではこういう宿命なのだった。
そして、パナッチ博士による検査も終え、子供たちに別れを告げ、私たちは再び首都テトラへと戻った。
「クマ船長! あんな病院に寄付なんて必要ないですよ!」
「……ああ、酷い傷だな」
子供たちに手荒く遊ばれたポコリーヌの生傷が痛々しい。
さすがにもうちょっと丁寧に扱って欲しいものだ。
「……で、これから何するポコ?」
「あの通信機が詰め込まれた宇宙船あったじゃない? 大きな輸送機をチャーターして運んでしまいたいなぁと……」
「じゃあ、あっちの方が大きいから乗り換えちゃうポコ?」
「いや、もったいないからニコイチでくっつけれないかなぁ……と」
「それもいいポコね!」
私達は心の隅に『貴重な物資を載せた輸送船を破壊した』という蟠りに居心地の悪さを感じたまま、それでも明日の楽しいはずの未来へと心を馳せるのであった。
……私の財布の中のギルドカードは、Bへと昇進していたのであった。