第一話……ジロー中尉、戦死。
二十三世紀、初頭――
人類は超光速機関の開発に成功。太陽系外へと進出した。
その後、超高速通信機や超大型輸氷船等を次々に実用化。
植民できる惑星を次々に開発していった。
しかし、二十五世紀にもなると、各地の植民惑星政府同士が覇権を求めて抗争を開始。
それは瞬く間に120を超える星系へと波及。未曾有の大戦乱へと発展した。
戦火は人類文明の中心である地球をも巻き込み、約100年間続いた。
それにより各惑星の大地は荒廃し、水源や大気の汚染。人口を支える各種食料生産プラントが壊滅した。
戦乱は都市部をも襲い、富裕層や知識層分け隔てなく人口が大きく激減。人類社会は大いに混乱した。
さらには、主要な科学文明が大幅な衰退を辿り、二十八世紀現在の科学水準は二十一世紀初頭を維持するのがやっとといったところまで後退したのであった。
各地の政府組織も民権意識の後退。
独裁政府が次々に興隆し、封建社会さながらの統治となっていた。
……しかし、未だに尚、戦乱は終わっていない。
過去の優れた文明が生み出した兵器たちは、未だに存命だったのだ。
それらは、遺跡という名の鉱区から掘り出された。
人類は過去の兵器を辛うじて運用できる力しかなかったが、それでも尚、人類は戦い続けたのであった。
数少ない汚染されていない耕作地や、希少な飲料水を求めて……。
□□□□□
レーム星系。
第四惑星ジャグシー。
そこは赤茶けた荒野が拡がり、放射能に汚染された不毛の大地だった。
空には双子の赤色巨星が映り、不気味な色の雨雲が酸性雨を地面に叩きつけた。
そんな地でさえ、人類は寸土を巡って争い、滾る血を流していた。
「第二弾、……装甲貫通するに能わず!」
私の名はジロー。シンカ王国の機甲師団に属する戦車長だった。
戦闘車両撃破数はゆうに3桁を超える。所謂エースという奴だろうか。
「我、敵の包囲下にあり。至急支援を求む!」
しかし、激戦の最中、我が戦車中隊は敵の包囲の最中にあった。
既に愛車の砲身は焼け爛れ、追加装甲もボロ布の様になっていた。
稜線を跨ぎ、愛車を窪地に雌伏させる。
砲塔だけを敵に向け、静かに獲物が来るのを待ち構えた。
「撃て!」
私は砲手のピケッツ曹長に指示。
更に居場所を変えて二撃目を敵車両に叩きこんだ。
しかし、味方は数に劣った。
次第に包囲網は縮められ、その圧迫感から、息をするのも嫌になるような情勢となった。
――ガン。
ガン。
鈍い音が車体より響く。
それは敵の対戦車ビームライフルだった。
愛車の駆動系が悲鳴を上げる。
更に悪いことに、愛車の履帯までもが榴弾の至近弾で切られた。
「ジロー中尉、後退せよ!」
「了解!」
私は戦隊長に了解と応えたが、履帯を切られたわが愛車には、動くすべは残されていなかった。
さらに言えば、乗員は私以外皆死んでしまったようだ。
呼べども、呼べども、返事が返ってこない。
狭い車内は、硝煙と焼け焦げたオイルと血のにおいが混じり、嗚咽を覚える。
こうなれば、少しでも味方の撤退を援護せねば……。
――ゴン
敵弾が愛車の傾斜装甲に当たり鈍い音が響く。
運よく弾いたが、二発目は側面の装甲板を貫き、発動機の能力大部分を抉ってきた。
(……ようし、もう少しこっちへ来い。)
私は照準の中を泳ぐ敵影に呟く。
ガゥフ――
愛車の主砲が唸り、敵の主力兵器であるドライビングアーマーの胴体部へと命中。
基幹部分を破壊し打ち倒した。
しかし、それが最後の弾だった。
愛車の弾薬庫はきれいさっぱり何も残っていなかった。
「……ふぅ、もう終わりか……」
(……味方の大方は逃げきれたであろうか?)
私は愛車より這い出て、ポケットに残っていた煙草に火を付ける。
丘陵の向こう側からは、敵が発光信号で降伏を促してきていた。
「……降伏はしねぇ」
今更、私だけが生き残っても仕方がない。
抗戦の意思を示した私は、敵歩兵のビームライフルによってハチの巣にされたのだった。
……意識がなくなる前、上空に味方の宇宙戦艦が現れた。
これで味方は助かるに違いない。
それに安堵したのか、私の瞼はゆっくりと閉じた……。
□□□□□
(……うん?)
私は薄暗い部屋で目を覚ました。
どうやら、寝台の上で横になっているようだ。
「気が付いたかね?」
白衣の老人が尋ねてくる。
研究者か医師なのだろうか?
起き上がろうとしたが、その行動は痛みに遮られた。
「あはは、無理はしたらイカン。君は手術が終わったばかりなのだよ」
……手術?
何のことだ?
「……げ!?」
自分の手を見ると、フカフカとした肉球だった。
慌てて壁にかかった鏡を見ると、そこにはまん丸いぬいぐるみクマが映っていた。
耳もまん丸く、フカフカだ……。
ご丁寧に尻尾まであった。
……私は死んで、ぬいぐるみに生まれ変わったのだろうか?
これが私の第二の人生のはじまりだった。
週末中心のノンビリ更新の予定です~♪