優しい世界
三題噺もどき―ななじゅうご。
お題:散歩・雨・カバン
「よいしょっと……」
私は、画材の入った少し大きめのカバンを持ち、雨上がりの街を歩いていた。
趣味で絵を描いている私は、たまにこうして、外に絵を描きに行く。
雨上がりの日はほとんど確実に。
今日は、あまり道具を持ってきたつもりはないが、癖で多く入れてしまったのか、いつも通り少々重い。
(なんか、ないかなあ、)
雨上がりの街は、キラキラと輝いていて描きがいがある。
小さな雑草だって、雫を受けて、光っている。
(と言うか、単純に楽しい……)
のんびりと、足のゆくまま、気の向くままに歩いていると、広い公園に着いた。
普段は、通り過ぎるような、草原が広がっている公園。
「…よし、」
―ここで描こう。
少し坂になっている草原にシートを敷いて、座る。
スケッチブックを広げ、画材も、広げていく。
思うままに、見たままに、色を付けていく。
公園で遊ぶ、小さな子供たちや、それを見守る母親。
キャッチボールをしている、父と子。
お散歩コースなのか、老夫婦も見受けられる。
皆がそれぞれに優しい笑顔をたたえ、楽し気に今のこの瞬間を楽しんでいる。
そんな、優しい世界を描くのは、とてもたのしいし、幸せになる。
スケッチブックの中にも、そんな、優しくて、美しい世界が広がっていた。
:
「……ぁ」
集中しすぎていたのか、時間はあっという間に過ぎる。
まだ青かった空が、徐々にオレンジに染まりつつある。
ちらりと、持ってきていたスマホを見やると、それなりの時間になっていた。
「…かえるか…」
道具類を片付けつつ、先程までの時間を惜しむ。
雨上がりのこの世界は、キラキラと輝いてる。
そこに、雨降りの昨日まではなかった、人々の暖かな空気があふれていく。
そいう優しい世界が、さらにこの世を輝かせてくれる。
私は、それを描くことしかできないけれど。
いつかまた、この優しい世界に出会えるように。