十年前からの入学祝い ⑧
「開いたな」
「うん。開いたね……。って、どうして!?」
酒々井は、俺からしたらオーバー過ぎるようにも感じるリアクションで驚く。
「どうしてって、そりゃ正しい番号を入れたから開いたんだろ」
「そうじゃなくって!」
当たり前のことを当たり前のように伝えただけなのに、酒々井はこちらに身を乗り出すようにして詰め寄ってくる。叫び声にも似たその声を耳の近くで出され、俺は少し顔をしかめる。
「あ、ごめん……」
俺の様子に気づいたか、すごすごといった感じで、顔を引っ込める。ま、こいつが聞きたいのがどうして番号がわかったのかってことなのはわかっている。ただ、こういう説明はあんまり得意ではないんだ。
「えっと、どこから説明するか……」
頭を軽く掻きながら、話す順番を考える。そんな俺をわくわくした様子で酒々井が見つめるてくる。
「まずは暗証番号の具体的な数字だ。さっきも言ったが、このカラクリ箱には二つの四桁の番号が記されている」
「最初に試してた二〇一一と二〇二一だよね?」
俺はうなずくことでそれを肯定する。箱に記されていた数字はその二つだけだった。
「千種のヒントがカラクリ箱そのものという時点で、俺は全ての手がかりがカラクリ箱自体にあると考えた。となると正解はその二つのどちらかだ」
「でも、その二つじゃ開かなかったよね」
「そう。だからもう一捻り必要だった。次に考えたのはそこだ」
「その一捻りっていうのは? カラクリ箱にもう一つ仕掛けがあったとか?」
言われて気づく。確かにその発想はありだと思う。だが、今回に限ってはないな。
「箱が十年前に作られたものじゃないなら、その可能性もあったな。だが、ブリキの箱に鍵がかけられたのはおそらく最近だ。手紙には暗証番号のことには触れられていない。おそらく鍵をかけたのは、なんらかの事情で今渡せなくなった千種が最近になってつけたものだろう」
「そっか。鍵をかけたのが最近なら、その鍵の手がかりを残すための仕組みが十年前からあったらおかしいもんね」
その通り。何かの不備のために千種が十年前から用意していたという可能性はさすがにほぼないだろう。そこまで完璧に先を見通していたとしたら、それはもうエスパーだ。……すでに片足は突っ込んでいそうだが。
「次に手がかりになりそうなのは上蓋だ。上蓋自体に数字が掘ってあるかもしれないとも思ったが、それらしきものは見当たらなかった」
今考えれば、さっき言ったように十年前からそれが残ってるのはあり得ないだろう。
「そこでだ。お前はさっきこの上蓋を見て花天月地と表現したな。それはまさにその通りで、花天月地という言葉自体が答えを示していた」
あの時の千種の表情の変化。それこそが決め手だ。
「花天月地が答え? 語呂合わせとか?」
「そうじゃない。重要なのはその字面だ。お前は花びらが天に舞って、月の光が地面に反射して光っている様と捉えたみたいだが、その表現は今回に限っては間違っていた」
「どういうこと?」
「花天月地という文字だけで見てみろ。もっと簡単に考えればわかる」
酒々井は少し思案するような素振りをする。首を傾げながら、やがてぽつりと言った。
「うーん、花が天に月が地に……。あ! もしかして!」
どうやら気づいたようだ。
「そう。本当の意味は置いておいて、その四文字からはそういう解釈もできる。花が天に咲き、月が地に浮かぶ。つまり、通常とは逆の状態だ」
なかなか洒落た表現だ。そしてそれは千種が思いつきそうなことだ。
「じゃあ、正解の番号は本来とは逆のものってことなんだね!」
「俺はそう考えた。それで試したのが、箱に記されていた数字を逆に入れることだ」
二〇一一と二〇二一の逆。つまり、一一〇二か一二〇二のどちらかが答えだろうということだ。
「実際は、一二〇二の方が答えだったわけだ」
言いながらロックの外れたダイヤル錠を酒々井に見せる。
「ほんとだ……。佐倉くんすごいよ!」
そうだろうか。正直わかってしまうと、謎というよりナゾナゾのようなものな気もする。だけど、素直に褒められるとなんだが気恥ずかしい。なんとなく誤魔化すように千種の方を見る。
「酒々井の言う通り、なかなかやるじゃないか。ジュン」
「……どうも。それより、こんなこと思いついて仕掛けるやつの方が余程すごいと思うがな」
皮肉っぽく言うも、千種は全く意に介する様子もなく、どこか嬉しそうな顔をしている。開けられたくないから鍵をかけたんだろうに、それを開けられて嬉しそうにしているのもまた皮肉なもんだ。
と、そういえば箱の中身をまだ確認していなかった。俺はブリキの箱を手に取る。
「中身、見てもいいのか?」
一応、確認をする。
「ああ、お前は鍵を開けられたんだ。それを今更やっぱり見るなとは言わんよ。むしろ、この流れでそれを渡すのはいい演出かもしれん」
いい演出? いったいどう言うことだろうか。なんにせよ許可は出たのだ。中身を見ればわかるか。俺はブリキの箱の蓋をゆっくりと開いた。
「――これは?」
「なになに? 何が入ってたの?」
酒々井も覗き込むように箱の中身を見ようとする。そして、箱に入っていたのは、折り畳まれた紙だった。俺はそれを取り出し広げてみる。
「は? なんだこれは?」
一瞬、また手紙でも入っていると思ったが、どうやら違うようだ。紙に書いてある文字を目で追う。そして、そのまま言葉を失った。




