十年前からの入学祝い ⑥
「どうしてここに……? まさか俺の持ち物にGPSでもつけてるんじゃないだろうな?」
訝しむように聞く。こいつならそれくらいのことを平気でしかねん。
「なんで私がそんなことをしなくちゃならん。自惚れが強すぎるぞお前は。そこまで私はお前を気にかけちゃいない」
十年越しに手紙を残すようなやつが、気にかけちゃいないと言っても説得力に欠ける。
「じゃあなんでわざわざこんなところに?」
「簡単なことだ。私は謎研の顧問だからな」
なに? そんな偶然あるか?
振り返り酒々井の表情を窺う。その表情から「知らなかったの?」というニュアンスが読み取れた。通りで酒々井が千種のことを知っていたわけだ。完全に見学しに来る部活を間違えたな。
「それで、私に聞きたいことがあるんだろう?」
「そうなんです! 佐倉くんの持ってる箱のことなんですけど」
千種の質問に、俺の代わりに酒々井が答える。俺は半ば諦めたような気分で千種に箱を差し出した。こいつが現れた以上、もうただでは帰れんだろう。
「なるほど。カラクリ箱の件か。どうだ、小洒落た演出だったろう」
どこか自慢げに言われる。小洒落ているというより狂気的だと感じた俺からすると、何も自慢できることじゃないとツッコミたくなる。だが、余計なことを言うとこの箱がどれほど優れているかという説明を延々とされそうだからやめとく。
「カラクリ箱の方はどうでもいい。問題は箱の中の箱だ。手紙にはプレゼントがどうのって書いてあったが、その箱がそれのことか?」
「ああ。たしかに、この箱の中の箱の中身こそお前へのプレゼントだ」
「じゃあ、その箱の鍵の番号を教えてくれ。正直、俺は中身なんてどうでもいいんだが……。謎研部員さんが気になるみたいでな」
さらに正直なことを言えば、中身がどうでもいいなんてもんではなく出来れば見たくもない。俺の直感が開けたら駄目だと警笛を鳴らしているのが聞こえるからだ。
しかしそうは思っても、千種がわざわざ用意したものだ。どうせ無理矢理にでも受け取らされるんだろう。そんなことを考えていたが、千種の次のひとことは意外な言葉だった。
「ダメだ。悪いが、今はまだこの箱の中身は渡せない」
なんと。それは朗報――もとい残念なことだ。
「臼井先生。今は渡せないってどういう意味ですか?」
「うむ。中身に関しては酒々井にも関係あるし、一緒に聞いてもらおう」
「え? 私にも関係あるんですか?」
それは聞き捨てならん。
「十年前に用意していた俺に渡すものに、どうして今会ったばかりのこいつが関係してくるんだ」
とっさのことに、つい今会ったばかりの同級生をこいつ呼ばわりしてしまったが、こいつこと酒々井も動揺していたのだろう。特に気にする様子もなく、表情に疑問を浮かべている。
「それについては、今は秘密にしておこう。楽しみは後の方がいい。それよりお前たちが聞きたいのはこの箱の中身だろう」
そう言った千種は、顎に手を当てて目線を上に向ける。何か考えている時に出る癖だ。俺は昔からそれを何度も見ている。
「そうだな。私はこの箱の中身をまだ明かしたくない。お前たちはこの箱の中身が気になる。そしてここは謎研だ。そうなってくるとだ」
「そうなってくるとどうなんだ」
千種は口角を斜めに上げる。これも昔から何度も見たことのある光景だ。この顔をした後の千種が言うことはいつも決まって無茶な注文だ。
「お前たち二人でこの箱にかかっている鍵の暗証番号を当ててみろ」
やっぱり無茶なことを言い出した。
「なるほど! それは謎研らしくていいですね。その挑戦受けて立ちますよ!」
酒々井は嬉しそうな笑顔で答える。なぜこんな面倒なことになって喜べるのかは知らないが、俺の意見も聞かずに勝手に盛り上がるのは勘弁してほしいところだ。
「挑戦を受けて立つはいいが、それなら俺抜きでやってくれ。そもそも、四桁のダイヤル錠とはいえ、組み合わせの数で言えば膨大だろう。それを当てろと言われても無理な話だ」
「安心しろ。ノーヒントで当ててみろとは私も言わん。それにジュン、もちろんお前に拒否権はないぞ」
相変わらずの横柄さだ。ただ、そう言われることはわかっていた。中立主義を掲げている俺が唯一、それに徹っしきれない相手が千種だ。無理矢理に断れば後が怖い。まったく、何度も思うが本当に来る場所を間違えた。
黙っている俺の態度を容認とみなしたのか、千種は話を続ける。
「それじゃヒントだ。そうだな……。まず最初のヒントは“カラクリ箱”その物とでも言おうか。さて、お前たちにこの謎が解けるかな?」
こうして不本意ながらの謎解きが始まった。俺は右手を顎に押し当てる。
「佐倉くん、さすが親戚……」
酒々井がぽつりと何かを呟いた気がするがよく聞こえなかった。気にしないで考えを続けることにする。




