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十年前からの入学祝い ⑤

『お前がこの手紙を読んでいるということは、私の目論み通り、無事に京成高校に進学できたということだな。先ずは素直におめでとうと言おう。

 十年後に宛てて書く手紙というのは何だか不思議なものだ。書きながらお前の十年後がどうなっているのか、今から気になって仕方がない。前置きはこんなところでいいか。

 さて、おそらくお前はいったいこの手紙は何だろうかと思っているかもしれないな。正直なところ、一番の目的は、私が卒業制作に作ったこのカラクリ箱を自慢したいのがある。見事カラクリを解いてくれたと思うが、結構見事な出来だったろう?

 そしてもう一つ、これは今の段階では予定でしかないのだが、十年後にこの学校の教師になるという私の夢が叶っていたとしたら、お前に一つプレゼントを渡したいと思ったからだ。これに関しては本当に叶うかどうかは分からないがな。だが、言葉巧みにお前をこの学校に進学させるように仕向けられた私なら、きっと出来るだろう。ま、それは今のお前が知っているか。

 あまり長くなるのもつまらんからこの辺で終わりにさせてもらう。最後になるが、改めて入学おめでとう。お前の高校生活が楽しいものになるよう祈っている。

 十年前の臼井 千種より』


「どんな内容だったの?」


 俺は無言で酒々井に手紙を渡した。手紙を読んだ感想? ただただ唖然といったところだ。


 千種は昔から変わり者だと思っていた。それでいて頭が良く、何でも自分の思い通りにするのが得意なやつだ。しかし、それにしてもだ。従兄弟の進学先を十年前から誘導するなんてことができるのか。いや、できたんだろう。現に俺は今この学校に通っている。


 ある意味、既定路線ではあった。京成高校は家から近く、そこそこの学力があれば入試はパスできるし、卒業後の進学面も悪くないらしい。自然な流れがあれば俺がここにいるのもそこまで不自然ではない。


 だが、十年だぞ。十年もの時間があれば、人がどうなるかなんてわかるわけがない。俺が道を踏み外して不自然な流れになる可能性もあったわけだ。まさか、それも踏まえて千種は俺を操っていたのだろうか……。背筋にゾクリと寒気を感じる。


「……なんていうか、臼井先生ってちょっと怖い?」


 ひきつったような表情の酒々井。無理もない。こんなもの軽いサイコホラーだ。


「嫌なものを見ちまった。これ以上は耐えられる気がしない。やっぱり俺は行くぞ」


「ええ!? 箱は放置でいいの?」


「手紙に何の手がかりもなかったら行くと言っただろう」


 それに、この流れからして箱の中身はろくでもない物だろうことは確認しなくてもわかる。それに本来の俺の目的は部活見学だ。いつまでもここで時間を食ってはいられない。


「そんなぁ……」


 悲痛な面持ちの酒々井を見て、少し心が痛まなくもない。だが、中立主義は特定の誰かに肩入れしてはいけない。今回の件は俺が関係していたわけだしある程度仕方ないが、流石にこれ以上は主義に反してくる。そうならないように俺はさっさとカバンを手に取る。


「待って。せめてこれは佐倉くんが持ってた方が」


 教室のドアへ向かおうとする俺を呼び止め、酒々井はカラクリ箱を差し出した。


「ああ、すまん。ここにあっても仕方ないよな」


 何せ俺の名前入りだ。部室に置きっぱなしというわけにはいかないだろう。正直俺も困るが、迷惑をかけるわけにはいかない。素直に箱を受け取る。


「部活の邪魔して悪かったな。どうしても気になるなら千種本人に聞いてくれ」


 言いながら教室の扉を開けようと手を伸ばす。俺の指が触れようとしたその瞬間――扉が勢いよく開かれた。


「私に何か聞きたいのか?」


 開かれた扉の先にいたのは、黒髪を肩まで伸ばしたぱっと見では清楚に見える年上の女性。その顔を見てさまざまな想いが頭をよぎる。


 なぜここに? そしてどうしてこのタイミングで? まさか、俺がここに来ることを知ってたのか? なんにせよ、最悪だ……。嘆息ともに頭に手を当てうなだれる。その女性こそ俺の従兄弟であり、この学校の教師、臼井 千種だった。

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