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十年前からの入学祝い ②

 教室を出た俺は、考えを巡らせながら中央廊下へと向かう。京成高校の校舎は大雑把に二棟の建物で出来ている。さっきまでいた一年A組の教室他、普段生徒が授業を受けている教室のある一般棟と、移動教室に使っている教室や文化系部活の使っている部室がある特別棟の二つだ。その二つを繋いでいる中央廊下が、二階と四階にある。


 俺が今向かっているのは二階の中央廊下。一年生の使っている教室も同じく二階だ。少し思案に暮れているあいだに、あっという間にたどり着く。


 中央廊下のちょうど真ん中のあたりの壁に、そこそこな大きさのコルクボードが垂れ下がっている。そこには、学校からの案内物や、新入生向けの部活の紹介チラシが掲示されていた。


 俺はその部活紹介のチラシを一通り眺める。


「…………」


 こういったものとは無縁でいるはずだったのだが。俺が中立主義を主張しだしたのは小学校六年生のころ。とある事件がきっかけだったが、それは昔の話だ。今更思い出したくもないしどうでもいい。なんにせよ、中学生に上がる前からその主義を掲げていた以上、部活に精をだす生活なんてものは想像もできない。


 故に数あるチラシの中で探すのは、いかにもやる気が無さそうな部活だ。一見では把握しきれないほどの部活があるが、その前提を当てはめれば約半数は除外できる。


 まず除外されるのは運動部だ。あくまで俺の偏見かもしれないが、運動部というのは総じて活力に溢れているイメージがある。そういった部活では、俺みたいに入る前から幽霊部員を目指してる人間は間違いなく浮く。なんだったらそれをきっかけに人間関係でのトラブルに発展しかねない。


 中立主義者としてそれは避けなければいけない。


 残りの候補である文化部。だが、この中でも安易に選んではいけない。例えば、圭吾との話の中でもだしていた吹奏楽部。コンクールや発表会などがある部活では、部員の意識も高い傾向があるように思う。よってこれらも除外。


 それを踏まえてチラシを見ていく。文芸部、科学部、コンピューター部、お、映画研究会なんてマイナーなものもあるのか。


 候補となりそうな部活は、特別棟の三階と四階に集中しているらしい。俺は早速そこへ向かうことにする。


 入学して以来初めて放課後の特別棟に来たが、各教室からは笑い声や楽しそうな声が聞こえてきて、思いの外賑やかな印象を受ける。移動教室の際に来た時には静かな雰囲気をしていたのだが、放課後になれば真逆になるものなのか。


 ある教室を通り過ぎる際に、ひときわ大きな笑い声が聞こえてきた。立ち止まらずに歩きながら教室のドアを見てみると、すりガラスになっている部分に茶道部と書かれたコピー用紙が貼られていた。


 このコピー用紙は常に貼ってあるものではなく、新入生向けに入学式から二週間ほど、この教室はなんの部活が使っているのかを案内するために貼ってあるらしい。


 それにしても、茶道部の部室から賑やかな声が聞こえて来るってのもなんだか風情がないな。そんなことを考えながら階段を登って四階に向かう。三階を飛ばしたのはなんとなくだ。


 四階の廊下は、二階と比べるといささかひっそりとしていた。階段のすぐそばの教室から男子生徒の話し声が聞こえてくるが、とりとめて大きな声というわけでもないらしい。話しの内容までは聞き取れなかった。


 俺好みの雰囲気だと思いながらすりガラスをみる。そこにはコンピューター部と書かれていた。ここは候補のうちの一つだな。


 とりあえずは廊下の突き当たりまで行ってみる。コンピューター部の先の教室は将棋部、さらにその先は天文部、そして次に手芸部。さて、どこから見学していこうかと思いながら突き当たりの教室にたどり着く。


「……?」


 その教室の扉の前で、俺は思わず首を捻った。貼り付けられたコピー用紙に書かれていた文字は【謎研】。その二文字から、一風変わったような印象を受ける。


 活動内容がその名前からいっさい想像できないが、逆にそれが興味を惹く。教室の中からは話し声などは聞こえずやけに静かだ。ここだけが、何か現世から引き離された場所のように思えると表現するのは大袈裟だろうか。


 俺は一瞬迷いながら、横開きの扉に手をかける。どうせこの階の部活は一通り見学するつもりだった。この謎研とやらが俺の求める部活でないのなら、適当に理由をつけて他に行けばいいだけだ。まずは気軽に見てみよう。


 ガラリと音を立て扉を開ける。その瞬間、中で座っていた制服を着た女子が、驚いたように肩を震わせてこちらを見たのが視界に入った。


 高校生にしてはまだあどけなさが残る顔立ちに、短く整えられた黒髪がよく似合う。美少女と言って差し支えないのではないだろうかと言う印象を与えるその女子生徒は、驚きの表情を浮かべたまま俺を見て固まっている。


「あの、部活を見学させてもらいたいんですが」


 窺うようにそう言うと、女子生徒は状況を理解したのか、相好を崩してこちらへ駆け寄ってくる。


「入部希望の人ですか!? いやいや、まさかそんな人が来ると思ってなかったからびっくりしちゃいました。どうぞどうぞ中に入ってもらって」


「どうも」


 勧められるままに教室へと入る。教室の中には向かい合わせにするように長机が二脚置いてあり、その下にパイプ椅子が雑に二脚ずつ並べられている。どうやら、普段授業で使う教室ではなさそうだ。しかし、その机以外に目立ったものはなく、あとは普通の教室といったところ。その内観からはこの部活が何を活動目的としているのかはわからない。


「えっと、見学に来といて聞くことじゃないかもしれないが、ここはいったいどんな活動を……?」


「ま、ぱっと見じゃわからないですよね。一応ここは【日常の謎研究会】略して謎研です。私は会長の一年D組、酒々井 瞳って言います。それで、活動内容ですよね……」


 早口で言った酒々井は、それから額に拳を当て少し考えるような素振りをする。


「えっと、一言で表すのは難しいんですけど……。簡単に説明すると、普段生活してる中で不思議だなとか、変だなって感じることを研究して解き明かそう! っていう部活ですかね?」


 つまり、どういう意味だろう。


「オカルト的なやつだったり?」


 だとしたら今すぐさよならだと思いながら聞く。俺は超常現象とかそう言った類のものは苦手なんだ。


 しかしその心配は杞憂だったのか、酒々井は首を横に勢いよく振った。


「そういうのじゃなくて、どちらかというとリアル志向というか……。そうだ! ちょうど今一つの謎を解いてるところなんです!」


 言いながら長机の方に小走りで向かう。その途中でくるりとこちらへ振り返った。


「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったですね」


「ああ。俺は一年A組の佐倉淳一郎だ」


「あ、同じ学年だったんだ! そういえば廊下で見たことあったかもって――。ええっ!?」


 唐突にあげられた大声にビクリとする。だが、俺以上に驚いているのか、酒々井は口を半開きにしながら呆然と俺を眺めた。

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