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船橋圭吾の独白

 今ごろ淳一郎はなにを考えているだろうか。


 自室の椅子に深く腰をかけながら、僕はそんなことを考える。まるで片想いの相手を想う女の子のような気分だ。おっと、我ながら寒さに震えてしまう。


 しかし、僕も一枚噛んでいたとはいえ可哀想なことになった。中立主義なんて大層なものを掲げている淳一郎からすれば、今日という日はまさしく厄日だっただろうな。


 でも、そのおかげで新聞部は部としての形を成すことができた。気の毒には気の毒だけど、僕としては満足な一日だ。これで三年間の高校生活を楽しく過ごすことができる。


 早速、今月作成予定の京成高月報の内容を詰めようかとも思うけど、なんだか気分じゃない。それより、謎研部員の酒々井さんのことが気になる。これもまた片想いの相手を想うようなものかな。なんて、自分で冗談を言っても虚しいだけだ。


「うーん、似てるんだよなあ」


 僕はこれでもマスメディアを自称する男だ。人を見る目は人より養われている自信がある。そして酒々井さんは、あの人に間違いなく似ている。


 あれからもう四年が経つのか。僕がマスメディアを志し、淳一郎が中立主義を掲げる理由となったあの事件。直接関わったわけではないけれど、あれは強烈な事件だった。


 淳一郎が未だに中立主義なんて思ってもないことを言っているのは、あの人が転校することになったのは自分のせいだと思い込んでいるからだと思う。だけど僕に言わせてもらえば、あの件に関して淳一郎はむしろ被害者だ。


 なのに、本来の加害者たちはあの後ものうのうと過ごしていた。被害者の淳一郎がずっと心に影を落としたままでいたのに。今でも小学校のクラスメイト達を思い出すとムカっ腹が立つ。


 そういえば、一度僕が一人のクラスメイトに掴みかかったことがあったな。思い出すと少し恥ずかしい。でも何より恥ずかしかったのは、淳一郎に頭を下げさせたことだ。たぶん、僕が覚えている中で最初で最後のことだったと思う。


『全部俺のせいなんだ……。だから、圭吾もこれ以上他の人を責めないでほしい』


 あの時の泣きそうな声が頭の中で再生される。優しすぎるんだ淳一郎は。


 あの時から周りのみんなは淳一郎は変わったと言ったけど、僕に言わせればなにも変わってない。どこまでも優しくて他人思いなのが佐倉淳一郎っていう人間だ。中立主義なんて言ってはいるけど、そんなものは本人がただ言ってるだけだ。こんなこと言ったら淳一郎は怒るだろうけど。


 今日のことだってそうだ。カラクリ箱の話は後で聞いたけど、ほんとに中立主義なんてものを通す気があるなら、わざわざそんな話に付き合う必要はない。


 それでも謎解きのようなことに興じたのは、淳一郎が昔となにも変わっていないことの証拠だ。たぶん、酒々井さんがあの人に似ていたのも関係があるかもしれないけれど。


 でも、それをわかっているのはたぶん僕と千種さんくらいだろう。そして、だからこそ僕はマスメディアを志した。


 世の中の真実を、物事の本質を見極めてそれを伝える。大げさかもしれないけど、それが傍観者だった僕の、せめてもの罪滅ぼしになるかもしれない。ま、正直なところ単純に世論操作とか起きた出来事を面白おかしく書き上げるのも楽しそうだからっていうのが一番の理由だけど。


 だからこそ、酒々井さんには期待せざるを得ない。あの人と似ている彼女なら、きっと淳一郎に何かいい変化をもたらすんじゃないかと。淳一郎はそれなりに苦労するだろうけどね。


 これからの高校生活を僕は楽しめそうだけれど、淳一郎も淳一郎らしく楽しめるといいな。たぶん千種さんもあるいはあの人もそう思っているだろう。


「あわよくば、面白いことが起こってくれるといいな」


 本音を口に出し、一人で笑顔を浮かべてしまう。だってしょうがない。期待に満ちた高校生活は始まったばかりなんだから。

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