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十年前からの入学祝い ⑪

 帰宅した俺は、真っ先にブレザーを脱ぐとベッドに転がった。思い返せば散々な一日だ。


 結局、千種の強行的なやり方のせいで、謎研と新聞部の二つの部活を掛け持つことになった。今日の放課後まで帰宅部を通そうとしていたのに、つくづく因果なものだ。


 あの後、謎研の部員であった酒々井も、千種の頼みによって新聞部に名前を貸すこととなった。これであいつの目論み通り、新聞部と謎研は部活として正式に活動ができるようになったみたいだ。まったく、最終的に無関係に巻き込まれたのは俺だけじゃないか。


「はぁ……」


 思わず盛大なため息をつく。しかし、ため息をついたところで既に現状は変えられない。せいぜいこれ以上は巻き込まれないように立ち回るしかないだろう。幸い、千種にしろ圭吾にしろ名前を貸す以上のことを今のところは要求されていない。しばらくは面倒とは無縁でいられるといいが。


 ただ、一つ気がかりなことがある。それは酒々井 瞳のことだ。


 あいつとは今日の放課後、たかだか二時間少々一緒にいただけだ。第一印象としては、快活で陽気な印象の普通の同級生といったところだ。しかし、今になって思うところがある。


 あいつは、俺が最初に部室に入った時、おそらくは件のカラクリ箱を一人で不思議に思い調べていたのだろう。別に、俺の名前が入ったものを勝手にいじっていたからどうだというわけではないが、冷静に考えれば妙だ。


 普通、部室にあったよくわからん蓋の開かない箱など興味も湧かないだろう。少なくとも、俺にはその感性はわからん。非難しているわけではないのだが。


「…………」


 感性はわからない。ただ、そうした発想の源のようなものは予想ができるかもしれない。おそらく、そうした発想の根源にあるものは――


「好奇心、だろうか」


 それを口にした時、酒々井に対して感じた違和感の正体に気づいてしまう。あいつの好奇心に満ちたような目が“()()”に似ているんだ。


 今でも鮮明に思い出せる。彼女の顔を、俺が中立主義を掲げるに至った四年前のあの事件を。


「……やめたやめた」


 嫌な記憶をこれ以上思い出さないように、俺はベッドから跳ねるように飛び上がる。それに、大して話したわけでもない酒々井に、勝手な印象を持つのもおこがましいことだ。不徳は身を滅ぼしかねん。自重しなければ。


 何か別のことを考えよう。そう思って、なんとなくスクールバックを漁る。


「ん?」


 カバンの中で、何か硬いものが手に触れた。取り出してみると、それは千種から受け取ったカラクリ箱だった。気分を変えようと思ったら、憂鬱の元凶が出てくるとは。ことごとくついてない日だ。


 なんの気はなしに、上蓋の仕掛けを動かして箱を開ける。その中に入っていたブリキの箱を取り出した。謎研の入部届は破って捨てたから、今は空っぽの箱だ。


 ……待てよ?


 ここにきて、もう一つ疑問が残っていることに気がつく。このプレゼントとやらが十年前から用意されていたものなら、中身が入部届だけというのはおかしい。あの入部届は今年になって用意されたものでなければ辻褄が合わない。


 ブリキの箱を上下に振ってみる。静かな室内に、カサカサと軽い乾いた音が鳴った。やはり、何か入っている。


 ブリキの箱の蓋を開け改めて中を確認すると、底の方に平な薄い物があるのがわかった。それを爪で引っ掻き出そうとするがなかなか取れない。仕方なく箱をひっくり返すと、ひらひらと舞いながら床に落ちる。


「これは押し花か?」


 ラミネートされた紙に挟まれている二色の花。赤い菊のような花と、ピンク色の小さい可愛らしい花だ。その二つの花は、おそらく十年もの時間が経っているだろうに、鮮やかな色彩を放っていた。サイズ的に栞として作られているのだろう。


 拾い上げて裏面を見る。そこには花の種類だろうか、『スターチス』『アスター』と書かれている。


 生憎、草花に対して造詣が深いわけではない。千種が用意した物だし、何かの意味はあるのかもしれないが俺にはわからない。わかったところでどうせくだらない事だろう。俺はその栞を、カラクリ箱と一緒に机の上に放った。


 ようやく、千種からの十年前からの入学祝いに区切りがついたような気分だ。幸先の悪い高校生活のスタートになってしまったが、これからは平穏無事に中立主義を掲げて過ごせることを切に願いながら、一眠りすることにした。

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