十年前からの入学祝い ⑩
「おい圭悟、なんでお前がこんなところに」
「それはこっちのセリフだよ淳一郎。と言いたいところだけど、大方また千種さんに担がれたって感じかな?」
圭吾と俺は古くからの腐れ縁だ。それ故に、千種とも顔馴染みがある。そして、千種が物事に関わっていると大概俺が何か面倒に見舞われているということも、こいつなら言わずともわかるだろう。
「えっと、こちらの人は……?」
酒々井が遠慮がちに聞いてくる。その疑問に答えようとしたが、俺が喋るよりも先に千種が口を開いた。
「こいつは船橋圭吾だ。謎研の三人目の部員になる」
紹介された圭吾は、大袈裟に胸を張り得意げな表情を浮かべた。
「どうもはじめまして。一年A組の船橋です。そこの淳一郎とは幼馴染であり無二の親友でね。淳一郎について聞きたいことがあったらなんでも僕に聞いてくれていいよ。身長から体重、果てにはお尻のほくろの位置まで網羅しているよ」
セクハラ紛いの発言に、酒々井は困ったように顔を赤らめ下を向く。初心者にこいつの相手をさせるのは辛いものがあるだろう。
「勝手にくだらん出鱈目を言うな。酒々井も、こいつの言うことは話半分で聞くのがちょうどいい。あんまり気にするな」
「相変わらず淳一郎はつれないなあ」
圭吾のペースに合わせられるやつなんかそうはいない。心の中で毒づきながら、再びの疑問を投げかける。
「それで、お前は結局なんでここに?」
「千種さんが言っただろう? 謎研に入ったから顔合わせにと思ってきたんだ。まさか淳一郎もいるとは知らなかったけど」
「そうじゃない」
俺が聞きたいのはなんでこの部活に入ったのかということだ。圭吾もそれがわかったのか、聞かずともその問いの答えを話し出す。
「ま、僕にもメリットのある話だったからね。淳一郎はこの学校の部活が三人以上の部員がいないといけないっていうのは知ってるかな?」
「ああ、ちょうどさっき聞いたところだ」
「僕が作った――厳密には作ろうとしている新聞部もその例に漏れず。それどころかそもそも部活を新設するには、最初から三人の部員が必要なんだ」
「なるほどな」
それで千種の謎研に協力する代わりに、部員の斡旋でもしてもらうと言う約束でもしたのだろう。
「具体的には、僕が謎研に入る代わりに、部員二人の斡旋。そして部室の提供と千種さんが新聞部の顧問になってくれると言う条件。僕からしたら破格の取引だ」
たしかにこれ以上ない条件だ。しかし、ここまでして千種が謎研に対して本気だとは思わなかった。この部活のOGだとは言っていたが、そこまでの思い入れがあるとは。
「私にとって圭吾は弟のようなものだ。これくらいの協力はやぶさかではない」
「さすが千種さんだ。僕は素晴らしい友人とその姉のような人と仲良くできて誇らしさで胸がいっぱいさ」
お互いに嘘くさい。こう言うところが気が合うのか、昔からこの二人は仲がいい。俺からすると厄介なコンビで仕方ないのだが。
「というわけで、これからよろしくね。酒々井さん……だったかな?」
「こちらこそ! まさか今日一日で部員さんが二人も増えるとは思わなかったよ。ありがとうね」
圭吾と酒々井は握手を交わしながら話を続けている。その間に、俺は一つ残った謎を千種に尋ねることにした。
「そういえば、結局お前があのブリキの箱に鍵をかけた理由はなんだったんだ?」
「ああ、そのことか」
あの箱に入っていたのは入部届。それが提出前のものだったら、先に俺に見られるのがまずいのはわかる。しかし、既に提出して受理されてるものをもったいぶる必要はないはず。少なくともわざわざ鍵をかけるほどのことではないだろう。
「まだ何か隠してるんじゃなかろうな」
嫌な予感を感じながら聞く。すると、千種は黒いジャケットの内ポケットから一枚の書類を取り出した。
「本当はさっきのと一緒に、箱に仕込んで渡したかったんだがな。こっちが受理されたのはちょうどさっきのことで間に合わなかったんだ」
言い終わると、千種はその書類を渡してくる。それを受け取った俺は、またしても言葉を失わざるを得なかった。
「なるほどね。淳一郎、だから僕は言ったんだ。ろくな結果にはならないって」
嬉しそうにニヤニヤと笑う圭吾に、普段ならゲンコツの一発でもくれてやるところだが、今の俺にそんな余裕はなかった。ただただ受け取った紙を何度も読み返す。
それは、俺の名前が記入されている、提出済みの新聞部への入部届だった。




