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「やられましたわ」



池にぽちゃんした教科書やノート類を見て眉間を抑えた。公爵令嬢の持ち物に悪戯するアホとかこの世にいるんだぁ、という妙な現実逃避をしていると、背中を押される。

きゃ、と小さい悲鳴が出る。


池は浅いのが分かっているので慌てはしないけれど、顔擦りむくわ全身びしょ濡れだわ臭いわの最悪な状態である。



「ふふ、生意気なお前には似合いの格好ね」



楽しそうに笑う兄の婚約者は異常者なんじゃないかなぁ。

溜息を吐いて立ち上がると、「あら、ドブの臭いがするわ。上がって来なくて結構よ」なんていって土壁を周囲に作られた。

えっ、マジ?



「流石にまだ寒いのですけど…!」



これが通常の魔法使いに多い「火、水、風、土」の能力者ならぶっ壊せたかもしれないのだけれど、私の属性は光。回復と結界という攻撃全くできない属性なわけですよ。


そして今は4月。春。

日差しは少し暖かくなってきているものの、まだ肌寒い。そんな季節。


そして、私がいるのは臭い池の中。当然水温は低いし、突き落とされて全身びっしょりなので体温が奪われるのも早い。

下手すりゃ殺人なんですが。



「ベル、助けを呼びにいけたりしないかしら?」



自分の妖精にそう問うと、ベルは任せて!と言うように胸を叩いた。


壊せないなら仕方がないのでじっとしているけれど、待てども暮らせども全然助けは来ない。段々と寒さで感覚がなくなって来た頃、ゴオッという音が聞こえたのを合図に意識が消えた。

「フィーネ様!」という声が聞こえた気がした。







「おい、クリス!あの性悪女がフィーネにタチの悪ぃ虐めをやってるぞ!!」



緑の羽根を持つ妖精の少年は、契約者であるクリスティナにそう叫ぶ。後ろでピィピィ泣いているのはフィーネ・グレイヴの妖精であるベルだ。

契約者の力が増すか、妖精自身の力が増すかのどちらかで彼らは人の言葉を発するようになる。ベルはまだそこには至っていないようでクリスティナの妖精であるセシルが通訳をしている。



「タチの悪いってどんな?」

「池に突き落として土壁で覆ったらしい。フィーネは光の魔法使いだ」

「この季節に池?」



眉間に皺を寄せて考え込んだあと、クリスティナは溜息を吐いて立ち上がった。


妖精に案内されるままに中庭にいけば、数人の女生徒が土壁を見てクスクスと笑っている。クリスティナはそれを見て「醜い」と内心で舌打ちをする。


クリスティナは風を操る魔法使いだ。その力はセシルの力の大きさもあってかかなり強い。本当は上位魔法である雷も使えるがそちらは使わないように気をつける。水の中にいる少女に被害が行ってしまうのは本意ではない。


ゴオッ、と風が土壁を割く。

チラと笑っていた人間を確認すると、面白くなさそうに去っていった。

崩れ落ちたその壁の中にいた少女は姿が見えた瞬間に崩れ落ちた。



「フィーネ様!」



倒れ込む前にと抱き寄せる。浅いとはいえこのまま倒れては溺死も考えられる。

荒い息に青褪めた顔。冷たい身体に反して額に触れると熱があるとすぐにわかる。



(虐めなんてものじゃない、これ)



遊びで一人を殺すつもりだったのか、とその残忍さに肝が冷える。

抱き上げて、クリスティナはフィーネを保健室に連れて行こうとした。



「フィーネ!?」



駆け寄って来た男子生徒にクリスティナは「今更か」と言うように顔を顰めた。



「どうした!?」

「……ご自身の婚約者の管理くらいきちんとしてあげてくださいまし」



アルヴィンはその言葉に一瞬言葉を失い、「情報に感謝する」と感情を押し殺すような声で告げてクリスティナからフィーネを受け取った。



「レイ、タウンハウスの方へ運ぶぞ。医師の手配も頼めるか」

「かしこまりました、若様」



クリスティナはどこか冷たい目でアルヴィンの背中を見送った。

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