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クリスティナ様もSクラスだったらしくって一緒にお話とかしてるうちに仲良くなったよ!セーラ以外のお友達が初めてなので少し気分がふわふわする。
授業はなんかついていけている。実力テストはギリギリ一桁台だったけど、それでは生徒会に入れないのでアルヴィンお兄様にちょっと嫌味を頂いた。ムカついたけど悲しげな顔をして去ってやった。ひそひそされてたのでお兄様の評判を落としてしまったかもしれない。そこまで望んではなかったので申し訳ないなぁと思って、レイに特製プリンを預けておいた。デザートにでもして欲しい。
「クリス様は生徒会に入らなくてもよかったの?」
すっかり友人になった彼女にそう尋ねると、クリス様は困ったような顔で頷いた。クリスって呼んでって言われたからそう呼んでいる。
「王太子殿下と一緒なんてやりにくいでしょう?」
「高貴な方と一緒は緊張しますものね」
セーラがわかる!と言いたげに頷いた。でもよく考えると私も産まれは高貴だった。
後普通に王太子殿下と一緒にいるだけじゃなくお兄様もいるからお腹痛くなりそう。ヒューお兄様は確か「惜しかったよ」とか涼しい顔で言ってた。
まぁ、生徒会とか入らなくっても問題はない。というかむしろ入って業務に携わっている余裕がない。必死に予習復習してようやくSクラスに残れるかどうかだと思うし。
うんうん唸りながら課題のために本を捲っていると、「そちらの資料はこちらが適切だと思いますわ」とクリス様が提示してくれた。目を通すと、参考になりそうな一文を見つけてお礼を言う。
「いえ、フィーネ様の助けになれましたなら幸いです」
そう言って微笑むクリス様の美少女度がやばい。本当に人間か?天使とか女神とかではなく?
「それにしても、意外でした」
その言葉に首を傾げると、クリス様は苦笑して髪を耳にかけた。
「失礼だとは思いますが、フィーネ様は我が儘な引きこもりだと噂されておりましたので図書室で勉強を真面目にされるとは思いもよりませんでした」
その言葉に顔が引き攣った。
いや、あの…うん。まぁ、6歳のお茶会以降は知り合いとの関わり以外ではほぼ引きこもりだったし、お勉強なんかもうやってやるもんかと我が儘も言ったし、エメルダにあった日は部屋をぐっちゃぐちゃにしたりもした。
とはいってもあくまでも根が箱入りお嬢様だったのでいいとこクッション放り投げたりとか、部屋の装飾に黙々とレース足したりだとかだったみたいだけれど。公爵家の謎のカーテンやテーブルクロスのレースはフィーネのストレス発散で作られたものが多い。正直レースが合わないところにもつけてある。お父様もいっそ買い替えればいいのに「フィンは刺繍や編み物が上手だね」とか言ってそのままにしてある。親バカかな?親バカだった。
……貴族子女としてどのあたりまでがわがままなのかは引きこもりだったのであまりわからないけれど、うん。噂されるほどのことではないかなぁ。
「わたくしも、いつまでも子供ではいられませんので……」
口元を扇で隠して、ほほ、と控えめに笑う。他にどうしろっていうんだ。
「フィーネは全然我が儘ではありませんわ!お茶会でお茶をひっくり返したのだってエメルダ様が私のお茶に虫を入れたからだし、侍女を突き飛ばした件だってエメルダ様が階段の前で足を引っ掛けようとしたからなのに!」
「へぇ……」
小さい頃みたいな呼び方や話し方に、セーラがエメルダに本当に怒っていることを感じてなんだか少し胸が温かい。「気にしていませんわ」とセーラに言うと、「あの方本当に腹立たしいですわっ!」と続けた。
図書室にある勉強室には防音の魔法がかかっているけれど、それだって万能ではないのだから抑えてほしい。主にセーラが危ないので。