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私は賢いのでエメルダが待ち伏せしているだろう道を避けて教室に行った。
だってアルお兄様って私がエメルダに絡まれてても助けてくれないし自分はサーっとどっか行く。エメルダはそれを見て楽しそうに「あら、あなたが要らない子だから見捨てられてしまったようね」とか言いやがる。これがお父様だったら締め上げてくれるのに。
これは戦略的撤退というやつですわ!ほほほ!!
とか考えてたら、あの王太子と婚約している悲劇の公爵令嬢レティシア・トーラスと遭遇した。
「あら、ロザリアの妹ではないの」
「はい。フィーネと申します」
そっと会釈してさっさととんずらしたかったのに引き止められてしまった。
レティシア様は私の周囲をくるりと一周しながらジーっと私を見る。え、何なの?
「あなた……もっとレースのついた服に興味はない?色はそうね、深い赤がいいわ。緑もいいわ」
「あの……」
「ピンク系もいいわ!可愛い服をたくさん着せてあげましょうね」
いきなり抱きしめられて「!?」しか頭に浮かばない。頬擦りまでされ出してスペキャ顔(宇宙を背景にした猫ちゃん顔。理解の及ばない事態を目の当たりにした際の顔)したってしまった。
王太子ルートのライバル令嬢になんでこんな真似されているかわからない。
「あの、トーラス様……」
「レティと呼びなさい!いえ、そうね、レティお姉様と呼びなさい!!」
圧がすごい。
助けを求めて視線を彷徨わせていた時だった。
「レティ、わたくしの妹をあまり虐めないで」
清らかな声が聞こえて「お姉様!」とラブコール飛ばしてしまった。今日も今日とて推しが麗し愛しい。世界で一番可愛いし美人。存在が尊い。
「おはよう、フィン。今日から学院でも一緒ね。嬉しいわ」
「わたくしもです、お姉様」
私の心が見れる人がいたらハートの乱舞っぷりにドン引かれてしまうと思うけれど推しなお姉様はとってもラブなので仕方ないのである!
「狡いわ!わたくし末っ子だから妹がいないのだもの!!お人形さんみたいに可愛いのだからちょっとくらい良いではないの。この子ったらお茶会にも来ないのだし」
「この子がお茶会に行かないのはあなたの婚約者のせいでしてよ」
「……あら、あの横暴坊やが何をしでかしたのかしら」
「あのカエル事件よ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられている私の顔を心配そうに見てそう言ったお姉様にレティシア様は、「あの件のせいでしたの」と先程よりだいぶトーンの下がった低い声で呟いた。
あの、いい加減胸に溺れそうなのですけど……。
「レティ、わたくしのフィンが窒息してしまうわ」
「あら、ごめんなさいね」
ようやく離して頂けてホッと一息ついた。
それにしても「わたくしの」っていう言葉をかけていただけるの至福だなぁ。
「この子はお人形ではないのよ」
「それは分かっているけれど、小さい子や可愛い子ほどわたくしのことを怖がるのですもの」
しょんぼりしているレティシア様はとっても可愛い。
うっかり少しくらいなら着替えても…と思ったけれどお姉様が「今度一緒にお茶会の練習もしましょうね。今日は学校を案内してあげるわ」と私の手を引いてくれたので全部吹っ飛びました。