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「ごめんね」
お付きの方の視線を遮って小さな声でクリスはそう告げた。
「許しませんわ」
手の甲をちょっとつねると、痛そうな顔をする。いえ、まぁ痛くしているのですけど!
「わたくし、自分の性癖とかを疑う羽目になりましたわ。というか、わたくしがクリストファー殿下のことをす…す、好き、でなければどうするおつもりでしたの」
怒っています、という顔をしながらそう尋ねると、「君は怒っても愛らしいねぇ」なんて呑気な言葉が上から降ってきた。
「それについてもごめんね。だけど…途中から僕も逃がすつもり、なくなっちゃったものだから」
情けない表情を作ってそういう方だけどなんとなくわかる。こうやれば私が折れると思っていますわね。
追加で怒らないと、と上を向くと額に唇が落とされていた。自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。
「思いがけず、君がこちらの僕もクリスだと、そう見抜いて好きになってくれて嬉しいよ。正直、クリスティナは好きだけれど僕は好きじゃないと言われればどうしたらいいかわからなかった」
手の甲にもキスを落とされて、押されっぱなしだ。
「サマーパーティーでエスコートをして、正式発表は君のデビュタントの時になると思う」
「殿下は夜会に出ても大丈夫なのですか?」
デビュタントは夏季休暇中の王家主催の夜会になる。
年齢もあるけれど、女子寮にいるのバレるとやばくない?鈍い私でもわかったのだし。
「大丈夫だよ。一旦寮は離れるつもり。それに君が思うよりはバレないと思うよ」
ドレスに認識阻害の魔法がかかっていたらしい。ただ問題として、術者より魔力の高い人にはそんなに効果がないのだけれど、クラウス殿下は気がつかなかった。彼の目は若干呆れてはいたけれど。
「だからこのまま授業とか出てても、兄上たちとは普段からあまり会わないし、多分今と同じく気が付かないと思うんだよね」
一応、クラウス殿下やお兄様たちと会う危険性のある学院内では追加で魔法のかかったアクセサリーを身につけてもいたようだ。
そもそも、病弱ってことになってるからあまり会ったことがなかったしと苦笑する。
「たまに会うと遊んではくれていたから可愛がられていないわけではなかったんだろうけど、母上は兄上には未来の王になる身なれば、と厳しかったしね」
物理的に距離が離れていては気づかずとも無理はないだろうと苦笑していた。どこからどう見ても美少女だったせいではないかと思うのですけどこれは言わない方がいいよね。
「デビュタントのドレスは決まっているだろうけど、アクセサリーを僕に贈らせてくれる?」
「……はい」
赤い瞳が私を見て優しく細められる。
絡む指にドキドキしてしまう。
「婚約者になってくれてありがとう。フィー」
「それはわたくしのセリフですわ」
敵わないなぁ、と眉を下げた。
フィーネが引きこもりしてたせいで、王家にとって血筋以外の有用性をまだ見出せていなかったので割と放置されているフィーネ。
だから婚約話もサクサク進む。




