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目を開くと、なんだか少し眩しくって「ああー!よかった!!生きてた!!」とガッツポーズした。
いやぁ、私ってば山の急斜面から足滑らせたのに痛くないとか丈夫だなぁ、と手をぐっぱしてみると想定していたよりも手が小さいことに気づく。
「……あ、あれ?」
不思議に思って出た声もなんだか普段より可愛らしい、気がする。
あたりを見回すと、お部屋が豪華。わー…私お嬢様になったみたい。ふと窓に映る自分の姿を見て小さく悲鳴を上げた。
深い茶色の髪、鮮やかな緑の瞳。
まるで西洋人形のような愛らしい少女が映っていた。
その姿は絶対に就職を控えていた女子大生の自分ではない。
そう認識した瞬間に膨大な記憶が脳内に流れ込んでくる。
「お嬢様、目を覚まされ……お嬢様!?お嬢様!!」
そして脳が負荷に耐えられず強制シャットダウン。
夢で状況整理とか物語の話だけだと思ってたよ。
私は、わたくしは。
フィーネ・グレイヴ。グレイヴ公爵家三女。五人兄弟の末っ子だ。
日本人だった「私」はどうやら転落死したらしい。まぁ、あれだけのところから落ちれば生きている方が不思議だ。
そんな私、フィーネは階段から足を踏み外して頭を打った事で前世の記憶を思い出した。
結果的に私たちは何とはなしに溶け合って、記憶と人格を少し時間をかけて融合させていくことになった。
前世の記憶を思い出した!この記憶を役に立てて頑張ろう!!で終わらないあたり現実って厳しいわ。
ひとつだけ良いことがあるとすると、ここは私がやっていた乙女ゲーム「フェアリープリンセス(略してフェアプリ)」の世界らしい。
しかもグレイヴ家、推しの、ライバル令嬢の、妹!
今は学院に行っておられるからお会いできないけれど、私は今推しのローズ様の妹なのである。
え?お兄様?
記憶を辿るにお兄様達、特に上の兄、アルヴィンはフィーネに厳しかったので仲が良くないらしい。
そもそも、私と姉兄では才能の差が大きくって、教師は上の姉兄と比べて溜息を吐き、彼らは凡人の私を理解できずお勉強が進まない私を遠巻きにした。
結果として私というかフィーネはちょっぴりグレた。
ある日ブチギレた私は教師を追い出し、姉兄を無視、我が儘を重ねて距離が離れた。
お父様はそんな私を見捨てずに根気よく話を聞いてくれたのである程度で収まっているけれど、特に長姉と長兄はそんな私にキレてる。いやでも、これって私が全部悪いわけじゃなくない!?
お勉強ができないわけでも、魔法が苦手なわけでもない。
ただ、他の家族と比べると劣るだけ。
私の魔法が光属性、癒しと守りの属性で家族の中一人だけ別で疎外感を感じていたことも要因の一つだと思う。私は劣等感の塊だった。
(まぁ、できないことはできないものねぇ)
そんなことをゆるっと考えられる程度には回復したら、ある日やってきたアルヴィンお兄様にふかーい溜息を吐かれて「勉学が滞っているのだろう?寝ている場合ではないのではないか」と言われて「こりゃ私もグレるわ」と思い直した。
しかも言ってすぐに去っていったので私の意見聞く気はなかった。
ムカつくのでお父様にチクって泣きついた。もう少し緩いというか優しいというか比べて来ない感じの教師を手配して欲しいって言ったら、お父様は優しく微笑んだ。
「構わないよ。フィンがやる気になってくれてお父様は嬉しいよ。甘いものでも食べるかい?」
「ギル、あまり甘やかしてはまたリリィやアルに怒られてよ?」
「あの子達は少し厳しいだろう?私たちが少し甘いくらいでちょうどいいさ、ディア」
目の前でイチャイチャしだす両親は眼福だった。さすが乙女ゲームの世界、さすがは攻略キャラとライバル令嬢の両親。顔が良い。
ところでそれで呼んでくる教師が従兄弟かつ黒幕系のレオナールなのなんで?
なんか、本編のあの、とある場面書いてる時にどうしてもこの二人のハピエン書きたくなってしまったので本編が終わりに近づいたタイミングで出す事にしました。お付き合いいただけると幸いです。