ある夜の話
心臓は鼻のようには腐肉の悪臭を感じられないが、鼻もまた、心臓の縮み上がる感触を感じられないものだ。
私は肩に感じる微かな衝撃に身を起こした。寝ぼけ眼を擦ると、目の前には毛皮の襟のついたマントを羽織り、頭に冠を乗せ、豊かな上反りの髭を蓄えた男がしゃがんでいた。
この男はこの国の王だ。
王は大儀そうに立ち上がり、「やっと起きたな。そなたが私の跡を継ぐのだ」と言った。
全く心当たりのないことで私は飛び跳ねた。
「失礼ですが、それはいったいぜんたい、どういうわけなんです?」
王は腕を組んで髭を撫でつけている。
「決まっておろう。そなたはここで、木の幹に枕していた。それだけで理由は充分だろう」
私が混乱していると、どこからか2頭立ての立派な馬車が現れた。馬車の後ろには教皇が乗っており、布巾のように長いひげを揺らしながら、幾重もの裾を掴みつつ難儀して馬車を降りてくる。
教皇は王に向かってまず十字を切って、「汝に祝福あれ」と投げかけると、懐からえらく古そうな茶ばんだ巻物を取り出してそれを広げた。
「予言にはこう書かれております。”流星の後に出づる虹の麓に眠るものを次の王とせよ。”」そして私を指さしてこう言った。「つまり、汝の事です」
なるほど、確かに昨夜は星が降りしきる奇妙な夜であったし、空を見渡せばこの森から虹が空へと走っているように見える。偶然とはいえ、そんなところで寝ている男なら、王に相応しいというものだ。私がひとり納得していると、教皇はまた慌ただしく馬車に飛び乗ると、十字を切りながら馬車を走らせた。
「汝に祝福あれ!」
教皇を見送るとすぐに、2列縦隊を組んで槍の穂先を煌めかせる胸甲騎兵と、それに先導された屋根のない馬車が、器用にも森の中の狭い道を整然とやってきた。
王は当然のように馬車に乗り込むと、私に手を差し伸べる。「それでは行こうか、次の王よ」と王は言う。
「どこへです?」そう私が聞き返すと、大きな口を開けて笑った。
「決まっているだろう?戴冠式だよ」
差し出された手を掴んで馬車に乗ると、2頭の馬は凄まじい速さで駆け出した。行列は風のように駆け抜けていき、森を抜けると草原を越え、幾つかの村と川を越えると、やがて木々の上に大聖堂や尖塔の屋根部分が見えてきた。
私たちが街へ入ると、カフェやアパルトマンから人々が飛び出てきて、喜色満面で花を散らしている。そのうち川の方から花火が打ち上がり、青い小鳥たちがヴェールのように私の頭の上を通り過ぎていく。まるで過ぎ去る建物の梁の木目までもが祝福を送っているようにすら感じる。
私は取り敢えず王らしいことをせねば、と思い民衆に手を振っていると、”新国王万歳!王国万歳!”と書かれた垂れ幕のかかった凱旋門の、勇ましいポーズを取る彫刻の横を通り過ぎ、二つの石造りの塔が頭を見せてきた。どうやらこの行列は、川の中州に立つ大聖堂へと向かっているらしい。
聖堂では大勢の人間が待っていて、それと同じぐらいの色がステンドグラスを通して聖堂中に散らばっていた。私は王と同様かそれ以上に豪奢なマントを纏っている。ミンクだかオコジョだかの尻尾をぶら下げた襟元はむずがゆいもので、よく王様はこんなものを付けて着れるなと感心する。首には聖堂中の光を反射させる金の首飾りをかけていて首が非常に疲れる。
振り向けば大臣だの外国の貴族だの坊主だのが、しかめ面と笑顔を足して2で割ったような奇妙な表情をしており、一同揃って私の一挙一動に注目している。
すぐ後ろには、ヴィーナスの生まれ変わりではないかと疑う程に美しい女性が傅いている。
すらっと伸びた鼻に太陽の光を浴びた川面のように輝く瞳、卵のように白い肌に差す頬の赤、丁寧にまとめられた鳶色の髪は艶やかな馬の毛並みのようである。
彼女は私の妃である。靴が左右揃って一足と数えるように、妃のいない王など、履けない靴と一緒だ、ということらしい。
そういうわけで私は戴冠することになった。
目の前の教皇から冠をうやうやしく受け取り、次にそれを自分の頭に乗せた。いつのまに頭の大きさを測ったのか、あるいは代々受け継がれたものなのかは知らないが、その冠はいやに頭にぴったりと納まり、これはもう体の一部であって二度と取ることは出来ないのではないかと危惧するほどには頭に合った大きさであった。冠がすっかり腰を私の頭に据えたあと、私の妃へと冠を乗せる儀式を行った。妃はこういった儀礼を委細承知しているらしく、私が目の前まで行くと、先ほどまでずっと下げていた頭をこちらへ差し出した。私はその綺麗な弧を描いて渦巻くつむじの形を損ねないように、妃に相応しい、鳥の羽のように軽い冠を乗せた。すると妃はゆっくりと頭を上げた。
そして私の瞳と合うと、その瞳を揺らしながら親しげな視線を送るが、不思議と私の中で警鐘が鳴る。
何かがおかしい、しかし何がおかしいのかまでは分からない。その疑問が解決する間もなく、戴冠式は終わった。街中、いや国中がそれを祝福する。
私は王になったのだ。
王になってからの暮らしは考えられないほど豪奢であった。
一日の始まりは風呂だ。侍従に付き添われて風呂に入り、身体を十分にほぐす。
そして妃と共に朝食をとる。
朝食から豪華にも卵と柔らかい鶏肉、白いフカフカのパンにスープが出てくる。庶民なら月に一度出来るか出来ないかの贅沢な夕食と一緒だ、それが朝で!しかしフォークとナイフが置いてあるものの、イマイチ使い方がしっくりこないので、妃の方を見てみるが、意外にも豪快な食べっぷりであるので、私もあまりそこは気にしないことにした。
さて、朝食を取った後は市内に散歩に出かける。
量産の、しゃちこばるようなものではなく、特注の煌びやかな軍服を着て、護衛も無しに川沿いを歩いていく。そしてすれ違う人々、特に上等な靴に帽子、かつらを被った貴族なんかに親しげに声をかける。「やあ、元気にやっておるかね」と尊大な口をきいて、相手がこちらの機嫌を損ねないように言葉を選びながらもじもじする様を見るのは、大変気分がいい。なにせ以前なら私たちが貴族様に気を使わねばならない立場だったばかりに、相手の気持ちがよく分かるから尚更だ。もっとも、それだけにちょっと悪い気もするが、そんなことで今更これが止められるものではない。
愉快な散歩が終わると、形式ばった大臣の報告が行われる。
内容は死ぬほど退屈でどれも眠くなるような内容ばかりだったが、私はそこで落ちそうになる瞼と格闘することにはならなかった。なんせ出てくる大臣が、みな労働者時代の友人であるからだ!
「失礼いたします、陛下!」と勇ましく靴を鳴らして入ってくるのは、陸軍大臣の服を着た、巡査のガストンだ。確かに軍人らしい体格と顔の持ち主ではあったが、書類を持って私に敬礼をしてくる様は、どうもあの酔っ払いと同一人物には見えない。
私が「どうしたんだ、ガストン?」と驚いて声をかけても、「はぁ定例の報告であります、陛下」と返すだけで、どうも向こうとしては生まれた時から陸軍大臣のつもりであるようであった。あるいは他人の空似であろう考えていて、馬耳東風に報告を適当に受け流して終わらせたが、その可能性は早くも掻き消された。
万事屋のルシアンが立派な制服姿で入ってきたからだ。彼はどうも法務大臣という役割を貰ったらしい。持ち前のでっぷりと出た腹が、その地位に相応しい貫禄を生み出しているが、忙しなく手を弄ぶ癖はやはり万事屋のルシアンであった。
だが彼にガストンのときと同じように問いかけても、やっぱり彼は生まれながらの法務大臣であるつもりのようだった。
その後も仕立て屋や貧乏商人の知り合いが大臣として出て来たが、中でも飛び切り驚いたのは、乞食のマクシミリアンが警察大臣として現れたことであった。最初はようやく見ない顔だな、と思っていたが、よくよく顔を見てみれば、私のアパルトマン近くの橋の下で眠る乞食であったのだから、思わず椅子からずり落ちるところであった。マクシミリアンは過去に一度、人手不足から職を得ることが出来て、その時は顔を綺麗に剃り上げて、私もビアホールで酒を奢ったものであったが、その顔をこんな形で見ることになるとは全く思ってもみなかったことだ。今度こそ、その大仰な名前に見合った役職につけた、というわけであるが、警察に虐げられてきた男がその頂点に君臨するというのは、あまりにも皮肉が強すぎる。
もちろん彼も私との関係は過去にもなかったようであり、まさか乞食であったかどうかを聞くわけにもいかないので、こう言う奇妙なことが起こり得るものだ、と納得する他なかった。
そもそもいきなり王に任命されることが奇怪極まりないことなのだから、もはや気にしてどうこうなるものではないのだろう。そう自分を納得させた私は、結局のところ知り合いと顔合わせをしただけで報告受けを終えることになった。
私と妃は食堂へ赴き、近衛の兵が立ち並ぶ中で昼食を取った。
テーブルの上には、エビの蒸し焼きや豚の丸焼き、鳥の揚げ物、色とりどりの果物が山のように並んでおり、それを切り取りながら、またもや豪快に食べ始めた。私は、王族なら突飛もない料理を食べたりするのではないか?と案じていたのだが、豪勢であるものの、想像の範囲内で収まってくれるのは有り難いと感じていた。
しかしその期待はすぐに裏切られることになった。私が食事に舌鼓を打っていると廊下から巨大な銀の円蓋を被せられた盆が運ばれてきた。
「お待たせしました、ラクダの瘤ステーキと蝙蝠のスープでございます」
蓋を開けてみれば、その名に相応しい威容を持った二品が現れた。
恐る恐る口をつけてみると、見た目に反して、という感想が浮かぶ暇もなく予想通りの触感が訪れ、勿論の如く二口目以降この料理が口に運ばれることはなかった。
王の予定では、午後は主に視察を行う。
午前中に段取りをつけた各省庁だの連隊だの知事だのがこれを出迎えるわけである。
役人階級なんてものは押しなべて部署が自分であるが如く振る舞うので、新聞なんかで糾弾された日には烈火のごとく怒りだし、偉い人物の視察なんてあれば陰でぶつくさ文句を言いつつ細心の注意を払って準備を進め、完璧に終わった日には、その官房だかなんだかの全員が頬を染めて自慢し出すのである。
この日訪れた役所もその想像通りというわけで、玄関前で精一杯の歓待を受け、その後廊下を連れ回されては忙しなく働く「見せる用」の部署がパリパリと業務を遂行しているのを横目にし、迎賓室でここの所長から業務についての説明を受けた。彼はこの日のために資料を暗記してきたのか、こちらが頷くくらいなのをいい事に、流れるような勢いで公園計画だか下水道問題について説明しだし、「そういうわけなのです、陛下」という定型句を最後に付けてさっさと帰ってもらおうと、ちらりと目をやってきた。
私はもちろん何一つ理解していないわけであるから、意味ありげにフムン、と髭を撫でつけて勿体ぶった。「ひとつよろしく頼むよ、君」と、なんとかそれらしい言葉を捻りだすと、向こうもそれで満足したらしく、帰りの経路を弾むような足取りで案内され、黒塗りの馬車に乗って役所を立ち去った。
優雅な王の暮らしの最たるものは、やはり舞踏会ではないだろうか?
煌びやかな衣装を纏った人々が典雅な音楽に合わせてその身を揺らし、庶民なら香りだけで涎を垂らしてしまうような食べ物がズラリと並び、外国の貴族や外交官が平身低頭で贈り物をしてくるところを、絵画の世界から想像させられる。
ここもやはりそういうところであるらしく、着飾った妃の手を取って舞踏会の会場へと入場すると、趣向を凝らしたドレスを着た人や、輝く勲章を胸にぶら下げてスラっとしたパンツを履いた人が拍手と共に出迎える。会場では人々のざわめきがところどころでおき、アンサンブルの穏やかな音色がそれをうっすらと包んで、壁際に追いやられた食べ物たちがじっと並んでいた。
私たちが階段から降りると、すぐに知人大臣(と勝手に名付けた集団)がやってきて、それぞれが奥方を紹介するが、やはりどれも知人大臣の元の連れ添いと同じなので、妙に高貴な場の雰囲気が崩れる。その後に司会のもとで舞踏会が進行され、まず、外国からの使者たちの贈り物が会場に引き出されてきた。
船来品と思われる東洋風の壺や、見たことも無い鮮やかな鳥のはく製、緻密で肌触りの実によさそうな絨毯、果てには生きた象までもが連れだされて、持ち込んだ使者と共に紹介された。新聞の記事で読んだものが見事にそっくりそのまま出てきたが、いったい王に象が送られたとしてどうしてもらいたいのだろうか?
王の御前に出すためか、よく調教されているらしく、住んでいた場所とはだいぶ異なるだろうに、この黄金に輝く舞踏会場の中心で、象は穏やかな目で佇んでいる。不意に、象が頭を下げて話し出した。
「お目にかかれて光栄です、陛下」
象はそれでもなお見上げなければならないほどに大きい。
「このような場で陳情申し上げること、恐悦至極ではございますが、願わくば私の拘束を外していただきたいのですが…」
象にこうも畏まられると、こちらもくすぐったい気持ちになるものなのだなという知見を得るとともに、象の言い分はもっともであることから、すぐに近衛に外させるように命じる。重い拘束具と全身にかかっている装飾を外してやると、嬉しそうに身を震わせた。
「ありがとうございます、陛下。こんなに自由な身となったのはいつぶりでしょうか」
象は自分の身の上をつらつらと語り出した。
彼はジャングルの奥地で妻と息子と共に暮らしていたのを、現地の住民に捕まえられて以来、狭い檻に入れられては鉄道や船に乗せられてここまで連れてこられたのだそうだ。それを聞いた私は申し訳ない気持ちになり、彼に帰国の許可を与えることにした。
彼はこれに喜び、せめてもの返礼として舞を披露すると言い、その巨大な足でリズムを取り始めた。
足元から響く重低音に合わせて、アンサンブルが楽器を鳴らし始めた。小鳥のさえずりのような音が奏で始められると、彼は器用に日本の足でバランスをとりつつステップを重ね、金管の威勢の良い音色に耳をはためかせながら回転する。
その鮮やかさに会場が拍手喝采し、魅了された観客がパートナーの手を取り、次々と舞の輪の中に入っていく。彼を中心にして服の裾が花のように開いていき、小さな蕾のような尾がそれに挨拶をするかのように緩やかに巡っていく。
やがてしっとりとした木管の音色に合わせて、彼はその小山のような巨体に見合わない繊細な足取りで緩やかなステップを踏み、しなやかな鼻がバレリーナの手足のように揺れる。そしてラッパが高らかにその音を響かせ、低音がそれに追従するとともに、象のステップもますます激しいものとなっていく。
奥行きのある会場を存分に使って、人々の手が波のように揺らめく道をズンズンと進んでいき、そして天井に届くのではないかと思うほど高く飛び上がり回転し、シンバルと息ぴったりのタイミングで着地する。
拍手は万雷のものとなって会場を覆い、象は小さく感謝の意を示した。
そして私へと向き直るとこう言った。
「王に永遠の祝福あれ!」
彼は鳴りやまぬ喝采を浴びて、会場を去っていった。
楽しかった舞踏会も終わりを迎え、深夜、寝室へと入った。ろうそくの明かりがにじむように寝室を照らす中、ベッドに腰掛けた妃が肌着姿で待っていた。
彼女は鳶色の髪の結いをほどいて肩から流していて、瞳にはろうそくの光を集約するように揺らめき輝いている。ろうそくに灯る火を消してベッドの横に腰掛けると、この暗がりの中でも彼女が微笑んだのが分かった。彼女の柔らかな手を取り、顔を近づけると、彼女は目を瞑ってじっと待った。私はそのまま自分の唇を近付けていった。
しかしそれは当たらなかった。
途中でなぜか止まってしまうのだ。
不思議に思い、何度も試そうとするがどうしても当たらない。唇に塗られたルージュの香りすら分かる近さなのに、何故か紙一枚ほどの直前で止まってしまう。
私が困惑していると、妃が立ち上がり驚愕の表情で私を見下ろし、すぐにその顔は怒りでいっぱいになり、私を睨みつけるようになった。
そのあまりの剣幕に、私は驚いて後ろによたよたと下がろうとするが、足がもつれてしまい尻から床についてしまった。痛さに顔をしかめる暇もなく、妃が手当たり次第に物を投げてくるので、顔を守るように手を突き出しながら、扉へと駆けだした。
扉まで辿り着くと、妃が迫ってくるのが分かったので、素早く寝室から出ると、その重厚そうな扉をバタンと閉じた。それでも扉を開けるために、がちゃがちゃとドアノブが動くのが分かったので、私はドアノブを掴んで抑え込んだ。妃がなぜこんなに怒りだしたのかは不明だが、容易ならざる状況であるため、助けを呼ぼうと振り返って私は愕然とした。
目の前に広がる光景が、終わったはずの舞踏会場だったからだ。
室内は終わった時のまま、煌々と照らされ、アンサンブルが曲を奏で、招待客が歓談しているではないか。
彼らは異変に気付いたのか、話を止めてこちらを向いてくる。なにか、異物を見るような目を一斉に向けられた私は怖気づき、会場の外まで逃げようと走り出した。
おかしい、どこかがおかしい、と私は走りながら思った。
口付けは謎の力に阻まれ、妃は怒り狂い、寝室の外が会場に繋がっていたりと、そんなこと普通なら在り得ないではないか?
こんなのは絶対間違っている!
息を切らしつつも会場の外へ抜けると、さんさんと降り注ぐ光に目が眩んだ。目の前には馬車が並んでおり、役所の職員が総出で見送りを今まさにしようとしていた。
夜の次は昼だって?そんな道理が通るはずないし、しかもここは午後に視察した役所そのままだ!
これではまるで、今日の出来事を遡っているようではないか。呆然と私が立ち竦んでいると、後ろから怒りで満ちた群衆が波のように現れて私を捕えた。
群衆の中には妃や知人大臣、舞踏会の参加者やはたまた役所の職員、この街の住人と、ありとあらゆる人がいて、私は広場の中心まで引き摺り回された。
広場の中心には王を迎えるには相応しい、ギロチン台がそびえていた。私はギロチン台の前に引き出されると、警察大臣のマクシミリアンが前に出てきて罪状が言い渡される。群衆は怒りで満たされ、近衛がなんとか制止をしているものの、包丁や斧がこの首を狙ってガチャガチャとざわめいている。
「ただいまより罪人の処刑を実施する!罪人は前王より王位を継承するも、その身上は不確かなものである」
マクシミリアンの横には前王が立っているが、失望の表情で私を見下している。
「本物の王であれば、この国を詳細に設計し、国民全員を豊かにせしめ、永久の喜びのうちに王国を存続させるものであるが、罪人はその能力が低いばかりに、国全体を安物のディティールで埋め尽くし、あまつさえ王という身分を享受しようとしたことは、許し難い所業である!」
私は急に、この一連の騒動について納得した。
なぜ私が王に選ばれ、王として暮らし、そして断罪されるのかを。そうであれば物語の終わりは確かに死がふさわしいと言える。
しかし、これが私のものであるというなら、なぜ私が制御できないものなのだろうか?いつだってこれは私に対して酷く当たりたがる。主に牙を剥けるのは何のために、そしてこの頭のどこが判断するというのだ?
だがこの思考も無意味なものだ。終わってしまえば全て忘れてしまうだろう。
今までそうだったようにこれからも。
「よって、これらの事実から罪人は王を語る偽物であると認めるものとし、ここに罪人を斬首刑に処す!」
言葉と共に、あれだけ頭に馴染んでいた王冠が、あまりにもあっさりと奪われ、前王が満足げにそれを被った。私は死刑執行人を見ると、それは私の顔をしていて、酷くスッキリしたような表情をしていた。
そして刃が落ちて来た。