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友人2

「え? 仕事?」

「はい。なにか、ないでしょうか?掃除でも料理でもなんでもするので」


 オディーリアの「大切な相談事」を、姿勢を正して聞いていたクロエはがくりと脱力した。

 が、オディーリアは大真面目な顔でクロエを見つめている。本人的には、これが「大切な相談事」であるらしい。


「え~。偉い人の側室ってのは、綺麗に着飾って寵を争うのがお仕事でしょ。ライバルの寝室に毒蛇を仕込んだり、子供を暗殺してみたり。あ、下働きの男との秘められた恋とかもあると盛り上がるよね! そういうの大好き!」


 それは、いつの時代の物語なんだろうか。クロエの趣味はよくわからないとオディーリアは思った。


「毒蛇を仕込むライバルも暗殺する子供も、この城にはいませんが……」

「あっ、そうだったわ。じゃ、オデちゃんが退屈しないようにレナート様に他にもたくさん妃を迎えるよう頼もうか? オデちゃんなら、どんな女がきても負けないよ!」

「いえ……寵を争いたいわけではないので……」

「え、そうなの? 私がオデちゃんくらい美人だったら、バリバリ争うけどな~気分良さそう!」


 彼女はハッシュの妹というより、マイトの妹といわれたほうが納得できるなとオディーリアは思った。

 いまいち話が通じない感じが、ふたりはよく似ている。


「ていうか、オデちゃん!」


 クロエはがしっとオディーリアの腕をつかんだ。


「は、はい?」

「その敬語やめてよ! オデちゃんが主人で、私は侍女なんだからさ。どう考えてもおかしいでしょ?」

「では、お互いに敬語を使えばいいのでは?」


 そもそもクロエが自分を主人だと思っているようにはまったく見えない。


(初対面からいきなりオデちゃんだったし……)


「え~それはダメよ! レナート様から友達になるようにって頼まれたもん」


 クロエはそう言って、口を尖らせた。オディーリアは困った顔で、クロエに首を振って見せる。


「申し訳ありませんが……それは無理です。私には友達なんていたことありませんし、そもそも人に好かれる人間ではないので」


 クロエはきょとんとした顔でオディーリアを見た。


「えっ……私はオデちゃん好きよ? かわいいから眺めてるだけでも飽きないし、何気に発言が面白いところも大好きよ」

「好き? 私を?」

「うん! ていうか、私の前にまずレナート様に好かれてるじゃない」

「あの人が……私を?」


 クロエの言葉はオディーリアには知らない異国語のように聞こえる。彼女の思考の流れがさっぱり理解できないのだ。


「うん。わざわざ嫌いな女を城に迎えたりしないでしょ。あの人、女なんて選び放題だもん」

「そういうもの……でしょうか」

「うん。レナート様はオデちゃんが好き! で、私達はお友達! オッケー?」

「は、はい」


 クロエの勢いにおされて、ついうなずいてしまったが……友人とはこんな簡単なノリで作れてしまうものなのだろうか。

 友人……ずっと憧れていた響きだ。


(う、嬉しい……かも知れない)


 礼を言わなくてはならないだろう。頼まれたこととはいえ、嫌われ者の自分なんかと友人になってくれたのだから。


「あの、クロエさん!」


 オディーリアは勇気を出して、クロエに呼びかけた。


「クロエって呼んで! お友達でしょ、オデちゃん」


クロエはにんまりと笑う。


「……クロエ」


オディーリアの声は消え入りそうに小さい。


「なぁに?」

「あの、ありがとう。友達になってくれて……」

「こちらこそ!」


 その夜のことだった。レナートがオディーリアの部屋を訪ねてきた。彼はいつもふらりと気ままに顔を見せに来るのだ。


「どうだ? クロエとは仲良くなれたか」

「友達に……なりました」


 いつも通りの無表情に見えて、彼女が少し照れていることにレナートは目ざとく気がついた。

 彼の口から、ふっと自然に笑みがこぼれる。


「そりゃ、よかったな」

「そういえば……レナートは私のことが好きなんですね」


 レナートは驚愕の表情でオディーリアを見返した。


「……どうした? 超がつくネガティブ娘だったくせに」

「クロエがそう言ったので……クロエが言うならそうなのだろうと思いました」

「すっかり手懐けられたな、クロエに……ていうか、なんで俺じゃなくてクロエに懐くんだ?」


 レナートは不満げな顔でぼやいた。が、オディーリアの嬉しそうな顔を見て「まぁ、いいか」と笑った。

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