プロローグ
人間誰しも自分の未来が分かればいいな、なんて願ったことは1度や2度ではないだろう。未来が分かればそれに応じた対応ができるのだから困ることなんてなくなるだろう。
なんてね、それが避けられることならきっとうまく物事が進むんだろうけど、実際はどうしても避けられないことばかりなのだ。何が起こるか分かっていてもどうしてそれが起きるのか分からなきゃ止めようがなかったりもするものだ。
こんな話し方をすれば、僕が今どんな状況なのか少し察してしまっている人もいるかもしれないが、たぶんそれであっていると思う。だから今も逐一更新される情報にびくびくしながら生活しているのだ。
ピコン・・・、ほら来た、また新しい情報だ・・・僕が見知らぬ女性からビンタされるってどういう未来なんだよ!
僕がこんな状況になってしまったのはちょうど3ヶ月前のことだ。
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「お前まだそんなん使ってるのかよ!」
友人の亀井慎太からお昼休みにいつもバカにされていた。
それもそのはずで僕こと雀野涼はすでに絶滅危惧種となっているガラケー所持者だった。特に高校2年生ともなるともう僕が所持してるガラケー以外に見たこともなかった。まあクラスにひとり携帯電話すら持っていないというSレアな人もいたりするんだけど。
「まあいつも言ってるけどそんなにスマホに魅力感じないんだよね、アプリ?もよく分からないし、使い慣れた今の携帯の方がいいんだよ。」
まあスマホに魅力を感じないって言いうのはちょっと意地を張ってるとこもあるけど、料金的にも高いお金を払ってまでは機種を変えようとは思わないんだよな。
「まあまあ亀もりょうちゃんにそれ言うの何回目だよ、いくらソシャゲのフレンド増やしたいからってアッちゃんに言ったって無駄だよ、スマホにしたとしてもゲームしなさそうなんだから。」
今話していたのは鶴城公哉、大体僕はこの3人でいつものお昼休みを過ごしている。
「連絡取れないわけじゃないし、ネット怖いし、なにかきっかけでもあれば変えるかもね。」
そんな感じで別に連絡とるやつがいないとかそういう悲しい理由じゃないないが、慎のスマホ催促をかわしている。
授業時間をそれなりに過ごして下校時刻になる。
「じゃあ亀、帰ろうぜ。」
「悪いな、お前と違って俺は今日用事があるんだ。ネッ友と会うという予定がな!」
まるで自慢するように強調された語尾が妙に苛立たしいが、いつも一緒に帰っている亀に振られてしまったので一人だ。公哉は委員会も部活もしているので、放課後は大体何かしらの予定がある。実は休日にしか遊んだことがなかったりもする。
「でもネッ友に会うなんてよくやるな。僕なら怖くて会うことはできないなぁ。」
「分かってないな、趣味が合うやつと会うわけで、それがかわいい女子なら大ラッキー、男だったとしても趣味が合うわけだから会ってつまらないということはないんだな。」
「ネッ友の良さを力説してるけど、お前ネッ友に会うの人生通じて初めてでしょ。」
「まあね、なんだかんだ緊張してるかも、冗談言ってないと吐きそう。」
なんて他愛もない?話をしてたら亀が約束している時間が近づいてきたらしく、寂しく一人で帰ることになった。
割と久しぶりの一人での帰り道、なぜだろうか、今日に限っていつもの道ではなく変な裏路地を通ってしまっていた。ある意味一人だからできた所業ではあるが、今は後悔しかしていない。どうしよう、カラスに囲まれてしまっていた。こんな裏路地にカラスの巣があるなんて誰が想像できただろうか、いやあってもおかしくはないのだが、頭の上にカラスの巣が落ちてくるなんて誰が想像できるだろうか。
相手は3匹、前方に2匹、後方に1匹。殺気がすごい、先に動いた方がやられる!なんて心の中で言ってみたが、勝てる要素もない。
カラスを侮ってはいけない、爪も鋭いしくちばしも長い。何針も縫うような怪我をしてしまうような事例もあるのだから。
クゥゥァァァアアア!カーッ!ガァァーー!!
「うわっ、まじで来た!」
こんな裏路地で助けを呼んでも誰も来ないだろう。
学校指定のスクールバックで防ぎながらなんとかかわしているが、早く逃げなければ!
「カァ!」ビリッ!!カタッカタタ…。カラスの爪がバックのポケットに引っ掛かり破れてしまう。
「あ、携帯!」
普段から携帯を使う癖がないため、バックのポケットに入れていた携帯が落ちる。「カァ!」それを狙ったかのように次の1匹が携帯をくちばしで後方へ弾き飛ばす。「カァ!」そして後ろに構えてた1匹がくわえあげる。なんて息の合ったプレイなのだ。「「「カアァァァアアア」」」バサッバサッッ
僕の唯一の通信手段が奪われてしまった。普段そんなに使っていないはずなのに、こういう時に限ってすぐに携帯が必要になってしまったりするのが世の常だったりする。
「大丈夫だった?いろいろと大変だったねぇ~」
一先ず難を逃れ、気と心が抜けていたタイミングで不意に背後から声をかけられた。後ろには背の高い二十歳ぐらいに見える女性が立っていた。急に声をかけられたため反応できずにいると、
「ほんと良かったよ~、怪我がなくて、カラスたちが君の方に向かっていったときどうしようかと思ったよ~。」
おっとりとした声で語尾がふわふわと伸びているため、普通に話すよりも優しい口調に聞こえる。
心配してくれるなんてきっといい人なのだろう。
「カラスの巣を落としたときはどうしようかと思ったよ~。」
・・・撤回しよう、犯人だったこの人。
運が良かったのか悪かったのか、この偶然の出会いが人生を大きく変えることになる。
「・・・・・・ふふっ、偶然ね…。」