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第八話 「プレイボーイにはご注意下さい」


 部活を終えた兄さん達と帰宅後、僕”霧島凛”は隣に住む七瀬千紘の玄関先に来ていた。

 何故かというと、朝の出来事からご機嫌斜めな千紘と仲直りをするためだ。

 その為に、わざわざ兄さんに手伝ってもらって千紘の好きなプリンを作り、綺麗にラッピングまでして持ってきた訳なんだが・・・。

 


 インターホンを押す勇気がでない。



 そう、彼是二十分。

 僕はインターホンの前で立ち尽くしていた。

 帰る途中にでも怒っている理由を聞こうと思ったのだが、千紘はイヤホンを付けたまま、話す処か一切口を開かなかった。

 これまでに無いお怒りモードに正直、僕は戸惑っている。

 呼び出して、第一声何を言うのが正解だ?

 


 『何で怒ってるのか分からないけど、これで機嫌直して?』

 うん。

 確実に『何で分からないのさ』って言われるのがオチだな。



 じゃ~。

 『千紘の為にプリン作ってきたから仲直りしてくれないかな?』

 はい、駄目だ。

 『モノで俺を釣ろうとしてるの?』と言われ、もっと怒らせる気がする。



 無理だ。

 ベストな回答が全然浮かばない。

 どうしよう・・・。

 

 だが、流石にこれ以上玄関先でうろうろしてると近所の人に変質者と間違われる恐れがある。

 やっぱり話をまとめてから出直そう。

 そう思った時、



「あの・・・押さないんですか?」

「ひゃ?!」


 突然背後から聞こえた声に驚き、飛び跳ねた僕は、その勢いでインターホンを押してしまった。

 家の中から微かに聞こえるピーンポーンという音。

 おまけにバタバタと足音まで聞こえてくる。

 どうしよう。まだ何も整理が出来てないのに・・・。

 というか、今の『ひゃ?!』って何だよ!女子か!僕は!!

 それに、こんな時間に僕の背後をとった不届きものは一体誰だ!!

 


「すみません。驚かせてしまいましたか?」

「別に。というか、こんな時間に千紘に何の用が・・・」



 振り返った瞬間、僕は息を呑んだ。

 サラサラとした銀髪の髪とスラッとした姿。

 一瞬女子かと間違えてしまうほどの、可愛らしい顔と髪の隙間からチラつく赤いピアス。

 僕よりも少し高いということは、百七十センチくらいか?

 そして、この当たりで有名な私立中学の制服を身に纏った彼は、勿論攻略キャラのお一人。

 名前は『柊蓮(ひいらぎ れん)』、僕が一番苦手とする攻略キャラだ。

 千紘とは、昔通っていた塾で知り合い仲良くなったはずだけど・・・。

 どうして此処に?

 


 しかも、何故。何故このタイミングで新しい攻略キャラが登場するんだ。

 そんなこと聞いてないぞ。

 登場するなら先に教えてくれよ。

 僕の今の恰好を教えてあげようか?

 中学の時に着ていた、赤ジャージの上下だよ!

 もはや、カレーのお供にうってつけな福神漬け状態だよ!!



「えっと・・・君は・・・」

「あ!自己紹介が遅れてすみません。僕、柊蓮と言います。蓮って呼んで下さい!もしかして、霧島凛さんですか?」



 何故、僕のことを知っている。

 僕と彼は今まで一度も接点がなかったはずだ。

 


「そ、そうだけど」

「やっぱり!千紘さんから色々お話聞いてて、一度お会いしてみたいな~って思ってたんです!」

「千紘から・・・」



 千紘は一体、彼に何を話したのだろうか。

 というか、何故僕の話題が彼らの会話の中に出ているのだろうか。

 気になる点は多くあるが、僕が今、最も気になっているのは柊蓮が何故、千紘の家に、ましてやこんな時間に来ているのかという点だ! 

 

 この柊蓮は、女子の様な顔つきと温かい雰囲気で危険度ゼロのように思えるが、それは違う。

 中学生にして、既に童貞を卒業。女をとっかえひっかえしても許されるという正にプレイボーイ。

 初めての彼女は幼稚園の年中。

 小学生からは、三か月以上同じ女と付き合わないという独自のルールを決めたにも関わらず、彼女が居なかった時期が無いという僕には考えられない程のタラシっぷり。

 怖い。今どきの中学生は本当に怖いわ!!

 僕なんて彼女すら出来ないのに。



「千紘さん遅いですね?鍵開いてますか?」

「え?うん、開いてると思うけど・・・?」

「それじゃ入っちゃいましょうか。おじゃましまーす!」

「お、おい!ちょっと!!」



 何の躊躇いもなく入っていく姿を見て、この家によく出入りしていることが伺える。

 隣に住んでいながら知らなかった。

 千紘はこんなプレイボーイを、こんな時間に家に上げていたなんて!



「あれ?凛さんは入らないんですか?」


 

 出会って五分で名前呼びだとぉぉぉお!!???

 何とスムーズなことか。

 僕には絶対真似できない。



「・・・入る。」



 何故幼馴染である僕の方が遠慮気味なんだ!

 可笑しくない?普通逆じゃない?



「ごめん!お風呂上がったばっかりで遅くなった!あれ?どうして二人が一緒に?」


 僕が中に入ったと同時に濡れた髪を拭きながら半袖短パンというラフな服装で登場した千紘。

 少し赤らんだ頬と濡れた髪から細い首に滴り落ちる水滴が、何時も以上に色っぽくみせる。

 これは・・・今だけ許そう柊蓮。

 少しだけの接触なら許してやるから、僕に”柊(攻)×千紘(受)”を見せてくれ。

 

 

「千紘さん、そんな恰好で出てきたら風邪引きますよ?」



 そう言って、いつの間にか靴を脱いでいた柊は千紘の髪をワシャワシャと吹き始める。

 あぁ、神様。ありがとうございます。

 僕のこの欲深い願いを聞き入れて下さるとは、何と器の広いことでしょう。

 今日はちゃんとスマホを持ってきた。

 二人にバレないように持っている袋の隙間から、この光景を連写して・・・



「凛、何でスマホ構えてるの」

「え?いや・・・なんでもない」



 呆気なくバレた僕は、おずおずとスマホをポケットへと直す。

 せっかくのシャッターチャンスを無駄にしてしまった!!



「蓮もありがとう。それより、こんな時間に二人が一緒に来るなんてどうしたの?」

「一緒に来たわけじゃなくて偶々、家の前で会ったんです!ね?凛さん」

「うん・・・」



 ついさっき出会ったばかりなのに、それを思わせないこのコミュニケーション能力の高さ。

 貧相な僕には無いスペックだ。



「それで、えっと。はい、これ!この前借りた参考書!それ返しに来たら、たまたま家の前で百面相してる凛さんが居て、少し観察してから声かけたんです!」

「観察?!」

 


 少し観察ということは、僕が家の前でうろうろしてるのを見ていたと言うことか?

 やってしまった。

 どうしてもっと早く声を掛けてくれないんだ。

 あんな挙動不審な姿を攻略キャラに見られてたとか恥ずかしすぎるだろ。

 いや、柊蓮だから良いか。別に。



「そうなんだ。わざわざありがとう。それで、凛はどうしたの?」

「僕は・・・」



 この状況では、とてもじゃないが話せない。

 取り敢えずプリンだけ置いて、変な間違いが起きる前にプレーボーイをこの家から回収しなければ!



「ぷ、プリン作ったから・・・よかったら・・・」



 おずおずと持ってきた紙袋を差し出すと、千紘の後ろから伸びてきた手がヒョイッとそれを受け取った。



「お!凛が作ったプリンか!久しぶりだな~!」

「秋兄?!」

「兄貴・・・」



 紙袋の中を覗きながら笑顔を見せたのは、風呂上がり姿の秋兄。

 ん?待てよ。

 確か千紘も今、風呂を上がったばかりだと言っていたはず・・・

 まさか!?

 そ、そんなまさか!

 僕が家に入るのを躊躇っている間に、この家の中では既に禁断の兄弟イベントが繰り広げられていたというのか?! 

 分岐点の大きなイベントじゃないサブイベントなら阻止する必要もないから、是非この目で拝みたかった・・・。

 失敗した・・・。



「凛、食べていくんだろ?」

「ううん。渡しに来ただけだから、もう帰るよ」

「あれ?凛さん、千紘さんに話があったんじゃないんですか?」

「へ?」

「え?そうなの?」



 は?

 何で知ってるんだよ。話はあったが、それを柊蓮には言っていないはず。

 


「えっと・・・まぁ話っていうか、聞きたいことがあっただけ」

「なに?」


 

 その場に居る全員の視線が僕に集中する。

 え?僕この状況で言うの?

 なんの拷問?怖いんだけど!



「朝のホームルームからずっと機嫌悪かったから、僕が何かしたのかな~って思って聞きに来た」

「あぁ・・・朝も言ったけど本当に何でもないんだよ」

「でも、帰りだって一言も話さなかったし不機嫌オーラ全快だったし!」

「そ、それは・・・」



 手を口元に持っていき考える素振を見せる千紘。

 さぁ!!早く気付くんだ!

 自分の本当の気持ちに!前野先生に抱いている偽りない想いに!!



「なるほど。凛さんは不機嫌な千紘さんに気遣ってプリンを作ってきたんですね!何て健気なんですか」



 何だ。どうして僕よりも年下に健気何て言われなきゃいけないんだ。

 やっぱり、僕が一番苦手とする攻略キャラなだけあって何故かイラっときてしまう。

 落ち着け僕。相手は中学生だ。まだ餓鬼なんだ。



「こんな健気な幼馴染に心配かけちゃ駄目ですよ~千紘さん」


 

 やかましい。

 兎に角やかましい。

 頼むから少し黙っていてくれ。



「ちょっと黙って蓮」

「・・・はーい」



 ざまぁみろっと思ってしまったのは内緒にしておこう。



「凛、気を遣わせてごめん。俺も何でなのか理由が分からないんだよね」

「そ、そっか・・・」



 なんでだよ!

 あの状況からしたら答えは一つしかないだろ千紘!

 此処は”恋の障害物”である僕が一肌脱ぐしかないな!



「なら一つ聞きたいんだけど、いい?」

「なに?」

「あの時千紘、”嫌だった”って言ってたけど何を見てそう思ったの?」

「何を見てって・・・」



 どうだ!ちょーー特大級のヒントを投げてあげたぞ!

 さぁ!気づくんだ!自分の気持ちに!!

 千紘の返答に期待を込め覗き込むようにして考える千紘を見る。

 


「あの時は・・・」


 さぁ!!もう少しだ!がんばれ主人公!!

 そして僕に推しカプ誕生フラグを見せてくれ!!



「確か・・・」

「あ!もうこんな時間だ!!」



 千紘が何を言いかけた直後、柊蓮が必要以上の大きな声で言葉を遮った。

 嘘だろ。確実にあと一歩だったよな。今の。

 え?何なの?

 どういうつもりなの?

 怒りを込めた視線で奴を見ると、僕に向け満面の笑みを見せた。

 その笑顔を見て僕は察した。

 これ、確実に邪魔されたわ。



「ホントだ、もう十時過ぎてる。兎に角、凛。もう大丈夫だから気にしないで。本当にごめんね」

「う、うん。大丈夫」

「蓮は、もう遅いし俺が送っていくよ」

「え?!いいんですか?」


 

 なに?!僕の推しカプ成立フラグを潰しておいて、自分は千紘と二人っきりになろうだと?!

 そうはさせん!

 例え中学生であろうと、僕を邪魔したこと後悔させてやる!!



「千紘、柊君は僕が送るよ」

「え?」

「は?」



 甘いぞ、柊蓮。

 そっちがその気なら、僕だって推しカプの為全力で交戦するまでだ!



「でも・・・」

「千紘はもうお風呂入ったでしょ?僕、この後コンビニ行くつもりだったし()()()に送ってあげるよ。()()()がこんな時間に一人で出歩くなんて危ないからね」



 言葉の節々を軽く協調しつつ、柊蓮に負けない程の爽やかな笑顔で言ってやった。

 ぎこちない笑顔を浮かべる柊蓮の額には怒りのマークがくっきりと見える。

 相手を中学生だと馬鹿にしたが、正直自分のしていることの大人げなさに涙が出そうだ。



「本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ!任せて!それじゃ、帰ろうか柊君」

「う、うん!でも、凛さん僕より()()()から少し不安だな~」



 小さいだと?

 一センチか二センチ位しか変わらないのに小さいだと!

 しかも、僕が一番気にしてる部分を強調しやがって!!



「中学生に夜道は()()かな?それなら、お兄さんが()()()()()あげようか?なんなら、靴も履かせてあげようか」

「えぇ、ホント?あいがとう。()()()()!でも、大丈夫だよ」

「ふ、二人とも本当に大丈夫?」

「大丈夫」

「大丈夫です」

 


 柊蓮が靴を履いたことを確認し、僕達は家を出た。



 送ると言ったが、この美少年の横を福神漬けの恰好で歩くのか。

 なんだろう。並んだことによって、突然襲い掛かってくるこの敗北感は・・・

 だが、今からが本当の勝負。

 僕は帰り際に秋兄が「歩いてる最中に食べろ」とくれたチョコレートを口の中に放り込んだ。

 この柊家までの道のりが今後の推しカプ成立フラグ進行に大きく左右するはず!

 頑張れ!霧島凛!!

 頑張れ!モブ!!


 


またまた新キャラ登場でございます!

今回は、初の年下です!最後の凛君と蓮君の会話が作者ながらお気に入りです(笑)

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