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第五話 「二面性悪魔の降臨」


 兄さんと無事仲直りすることができ、部活も終え、後はイケメン達と共に家へと帰るだけ!!

 だったはずなのに………。

 どうしてこうなった?



「私の話聞いていますか?」



 少し不機嫌な様子で訪ねてくる兄さん達とは、また違ったイケメン。

 僕は今、体育館の壁と突然現れたイケメンのサンドイッチにあっており身動きが取れない状況だ。

 そう。言わば人生初の”壁ドン”を経験している真っ最中なのだ。

 早くなる鼓動。ただ、この鼓動は恐怖心からであることは間違いない。

 僕の背中を流れる一筋の汗がそれを物語っている。




 僕が、どうしてこんな状況に陥ったのか。

 それは今からほんの十分前に遡る。







 いつも通り部活を終えた僕達、バスケ部は部員全員で役割を分担しながら片づけと明日の朝練の準備を行っていた。

 バスケ部は、他の部と比べて少し特殊で基本的にやることは”何でも全員で”が支流となっている。

 なんでも「協力して何かをすることが絆を強くする一番簡単な方法だ!」というのが監督の意見らしく、その意向に沿った結果がこれらしい。

 流石監督様だ。とてもよく分かってらっしゃる!


 

 協力して同じことをすると、そこに絆が生まれるのも勿論!

 だが、それだけではない!!

 助け合うということは、その分距離が近くなるということ。

 部員同士仲良くなりつつ、見ている我ら腐を愛する者にも安らぎを与えてくれる。

 あぁ、今更だがバスケ部でよかったとつくづく痛感する。

 


 ほら、見て下さいよ。

 さっそく、動きを見せる方々がいらっしゃいますよ。


 

 僕は体育館の床を拭いていたモップの手を止め、ある方向に目をやる。

 そこには、練習で使ったボールが山頭になった籠を一人で一生懸命倉庫まで押している千紘と、その姿を見つけ駆け足で近づいて行く秋兄の姿があった。

 

 はい、きましたーーー!!!

 

 僕の腐のレーダーが一気に反応を示したことを合図に、僕は意識を彼らへと集中させる。

 少し距離はあるが、外野の声や音を全て断ち切れ。

 今、この体育館に居るのは僕と彼らだけだ。

 僕の耳はまるで海賊王の腕のように伸び、まぁ実際伸びてはないけども、微かだが二人の声をキャッチすることに成功した。


 

「一人で運ぶにはキツイだろ。手伝うよ」

「別に大丈夫だよ。これくらい」

「怪我したら元も子もないだろ」

「良いって。兄貴は他の部員の手伝いしてあげなよ」

「他の奴は、もう殆ど終わってるよ。それに俺はお前だから手伝うだけで……」

「ん?」

「な、なんでもねぇ!兎に角早く片付けて帰るぞ!」



 グハッ………!!


 最後の所は、小さすぎて千紘には届いていないみたいだが秋兄、僕には届いたよ。

 この兄弟ならではの愛情表現の中に組み込まれた、兄弟としてだけではない愛の形。

 あぁ、ヤバイ。

 気を抜くとニヤケと鼻血が出そうだ。




「凛、手が止まってるけど大丈夫?」

「え?」



 突然目の前にヒョイッと現れた兄さんは、僕の顔を覗き込み首を傾げる。

 僕よりも身長が高いから少し屈み気味なのが、また可愛さポイントを上げている。

 高性能&超高画質な一眼レフは、流石に僕の小遣いでは購入するのに時間がかかってしまう。

 せめて、せめて部活中でもスマホだけは所持しておこうかな。

 


「だ、大丈夫大丈夫!ちょっとボーッとしてただけ!」

「そう?まだ体調が悪いとかじゃない?」

「ううん!この通りすっごく元気だよ!」



 そう言って僕は、モップを置いて腕立て伏せを始める。

 


「クスッ…ほんとだね。大丈夫ならよかった」



 片手で口元を隠しクスリッと笑う兄さん。

 モブである僕にまで、そんな笑顔を向けてくれるなんて………。

 さすが、このゲームで随一の王道王子様キャラである兄さんは優しさが違う。

 


「でも、あんまり無理しちゃだめだよ。

俺、ちょっと外にゴミを捨てに行ってくるから片付け終わったら全員着替えて待機しておくように秋に伝えておいてくれる?」



 僕は一度、兄さんが持っているゴミ袋に視線を落とした。

 確かゴミ捨て場ってこの体育館の裏にあったよな?



「兄さん、そのゴミ僕が捨ててこようか?」

「え?」

「モップ掛けも終わったし、捨てるだけなら僕にだって出来るから!」



 渋る兄さんから少し強引に袋を取り、代わり兄さんに僕が使っていたモップを押し付け「直しておいてね!」と頼んだ後、僕は靴を履き替え体育館裏にあるゴミ捨て場へと向かった。






 ゴミ捨て場に着き、袋をポイッと投げ入れ、さぁ戻ろう!と振り向いた瞬間。

 誰かに腕を掴まれたかと思うと、僕の視界は突然周り背中に冷たく硬い何かが当たった。



「イッ……!!」

「少し質問があるのですが、宜しいでしょうか?」 


 

 頭上から声が聞こえ意味も分からないず顔を上げると、そこには、暗い夜空に浮かぶ満月をバックに優しく微笑む男の姿があった。

 白馬の様な白くサラサラとした髪は夜風に吹かれ微かに揺れ動き、その髪の隙間から覗く赤い瞳は月明かりに照らされ、まるで薔薇が咲いたように美しい。

 


「君は此処のバスケ部員で間違いないかな?」

「あ……はい。そうですけど………」

「では、七瀬千紘君をご存知ですよね」



 千紘?



「それは勿論」

「では、彼の連絡先を教えて頂けませんか?」

「は?」



 呆気に取られ間抜けな声が出てしまった。

 いや、多分今現在の顔も相当間抜けだろうけど、余りにも状況が理解不能過ぎて僕の頭じゃ話についていけない。

 それに、さっきから顔ばかり見すぎて気が付かなかったが目の前に立つ男の服装には見覚えがある。

 上下白で統一された高級感溢れる制服に首元で輝く鷹が彫られたバッチ、そしてピカピカに磨きあげられた革靴。

 これは……

 この制服は、まさか!!

 我が校のライバルである『桜蘭学園(おうらんがくえん)』の生徒ではないか?!


 因みにだが、桜蘭学園とは御曹司や財閥、芸能人から医者の子供まで世間で金持ちと部類される人間のみが通うことが許された名門校だ。

 どういう訳か、昔からこの学校の学園長と桜蘭学園の学園長はお互いライバル視を持っている様なのだが、詳しい内容はよく知らない。

 

 だが、そんなことはどうでもいい!

 そんな金持ちが、一体千紘になんの用なのだ!!

 


「私の話を聞いていますか?」

「あ、すみません。えっと……申し訳ないんですけど見ず知らずの人に友達の連絡先を教える訳には……」

「おっと、これは失礼致しました。確かに、仰る通りですね」



 そう言って僕から少し離れた男は、踵を揃え真っすぐ立ち僕を見た。



「私、桜蘭学園で生徒会長を務めております三年の『須王秀哉(すおう しゅうや)』と申します。以後お見知りおきを」



 右手を胸元に持っていき、丁寧に頭を下げる須王さん。

 そのスムーズかつ無駄の無い動きは、まるでおとぎ話から飛び出してきた王子様かと疑わせるほどに優雅だ。

 それに反して僕はというと……



「えっと…ご丁寧にどうも。星城学園バスケ部二年の霧島凛です。宜しくお願いします」



 と何の捻りもない凡人丸出しの挨拶を披露した。

 感じる育ちの差。

 心が痛い。

 ん?でも、待てよ。須王秀哉って何処かで聞いたような……

 須王………須王……え?



「あぁぁあぁぁ!!!!」



 思い出したぞ!

 そうだ、この人も攻略キャラの一人ではないか!

 僕としたことが、何という失態!!

 ライバル校の生徒会長かつ学園長の息子で、産まれながらの金持ち。

 だが、金持ちが故に一般的な常識が通じないという難点と真っすぐかつドストレートすぎる性格で好き好みが結構分かれるキャラクター印象強い彼を忘れてしまうとは!!



「突然大きな声を出されて、どうされましたか?」

「いや、なんでもないです」

「そうですか。では、これでお互いのことは知れましたし、早速千紘君の連絡先を……」

「いや………」



 今日一日で、二人も新しい攻略キャラに会えるのは実に嬉しいが、僕が千紘とくっついて欲しいのは悪いが須王秀哉、貴方じゃない!!

 僕だって辛いよ!心が痛いよ!

 もし、セーブ機能があるなら是非、貴方と千紘の恋も応援したい!!

 でも無理なんだよ!!

 コンテニュー不可能なんだよ!!

 僕の理想とするカップリングを成立させるため、悪いが貴方には犠牲になってもらう。



「今日会ったばかりの、しかも他校の人に大切な友達の連絡先なんて教えられませんし、そんなに知りたいなら直接聞いたらどうですか」



 顔をフイッと背け僕は吐き捨てるように言い放つ。

 辛い、本当に辛い。

 だが、これも僕の理想を実現させるため!耐えろ!!

 心を鬼にするんだ!



「………ろよ」

「え?」



 それは、本当に一瞬の出来事だった。

 僕の顔の横を風が切り、耳元で何かがパラパラと落ちる音がする。

 目線だけ静かに横にやると、アスファルトで作られているはずの壁にひびが……



「ヒィッ!!」

「いい加減にしろよ。こっちが下手に出てればいい気になりやがって」



 えぇぇぇえ!!??

 まさかの逆切れ?!てか、キャラ変わってない?

 あ、そっか……。

 僕は馬鹿だ。何て愚かな人間なんだ。こんな最重要項目を忘れてしまっていたなんて。

 

 彼、須王秀哉には二つの顔がある。

 上品かつ優雅な王子様キャラは表向きの顔。

 そして本性は、傲慢で俺様な自己中最強ルーキーだったぁぁぁあ!!!



「本人に直接聞けたらこんな面倒な真似してねーから。そうだろ?」

「ご、御もっともです」

「だよな。分かったら、つべこべ言ってねーで早く教えろ」



 アカーン。

 凄く怖い!!

 最初に、この人の瞳は薔薇みたいだとか言った奴誰だよ!

 あぁ、そうさ僕だよ!!

 次は、僕の全身が彼の瞳の色に染まる番かもしれない……。

 だが、此処で教えてしまったらきっと後悔する!

 いや、待てよ。



「あの……」

「なんだ」

「僕、今スマホ持ってないので連絡先分からないです」

「は?覚えてねーのか」

「……覚えてないです」



 もはや教える以前の問題だったことに気づくのが遅くなってしまった。

 少し沈黙が流れた後、須王秀哉は軽く舌打ちをし壁にひびを入れた拳を引いて、その手で頭を掻いた。

 全身から溢れ出る不機嫌オーラに僕の体は竦んでしまう。

 そして暫くすると、目の前から大きなため息が聞こえ須王秀哉が僕の方へと近づいてくる。

 やばいやばい!!

 僕の中の緊急サイレンが鳴り響く。

 今こそ、小学生の頃に習ったタッチアンドゴーを使うときか?!

 なんて考えている間に、またもや恐怖のサンドイッチ状態になってしまった。



「おい」

「……はい」



 俯き視線を外していると、顎を掴まれ顔を無理やり上げさせられ、目線が真っ赤な瞳とぶつかった。

 


「これ、俺の連絡先だ。帰ったら此処に七瀬千紘の連絡先送れ」

「………」



 差し出された一枚の紙には、凄く綺麗な文字で電話番号とメールアドレスが書かれていた。

 


「これは、須王さんが書いたんですか?」

「当たり前だろ」



 字は人を表すというが、それは嘘だと確信した。

 その言葉はきっと嘘だ。嘘に違いない。



「何考えてるか知らねーが、絶対送ってこいよ。分かったな」

「……はぃ」

「それと」



 グイッと鼻先が当たる位まで顔を近づけた須王秀哉は不気味な笑みを浮かべ小さな声で言った。



「今日の俺のことは誰にも言うなよ。いいな」



 イェス以外の選択肢を与えないその威圧感に僕は、首を縦に振ることしか出来なかった。

 そして、須王秀哉はさっきまでとは別人の優しい笑顔で「宜しくお願いしますね」と言葉を添えて何事も無かったかのように正門の方へ歩いて行ってしまった。

 取り残された僕はというと、受け取ってしまった自分の弱さにただ絶句していた。



 てか、金持ちの圧って普通のカツアゲより怖い……。



 そんな実感をしていると、須王秀哉と入れ違いで現れたのは少し慌てた様子の兄さんだった。

 あの悪魔の降臨から兄さんの姿を見ると、いつも以上に安心してしまう。

 


「兄さん……」

「あまりにも遅いから心配したよ」



 どうやら、僕が体育館を出てから十五分以上も経っていた様で、千紘や秋兄、その他の部員も僕を心配して探し回っていたらしい。

 


「ごめんごめん」



 受け取った紙をバレない様にポケットにしまい、僕はヘラッと兄さんに笑顔を向けた。



「笑い事じゃありません。本当に心配したんだからな」

「アハハ………」

「ゴミは捨てたんだろ?こんな所で何してたの?」



 何してた………。

 二面性の悪魔に捕獲され、カツアゲよりも恐ろしい金持ちの圧力に押し潰されそうになった挙句、弱い僕の心が悪魔の招待状を受け取ってしまったなんて死んでも言えない。



「世の中の恐ろしさを教わった」

「え?!なに?本当に何があったの!」



 横で戸惑う兄さんと共に、体育館へと足を進める。

 悪魔からの招待状を受け取ってしまった今、これから僕がやることは一つしかない。

 僕に残された唯一の方法。

 



 それは………。





「今日のことは全てなかったことにしよう」

凄くお久しぶりでございます!なかなか更新できずすみません。

コメントもありがとうございました!この小説を読んで萌えて頂けて嬉しいです!

これからは頻繁に書いていくつもりですので、応援の程宜しくお願いいたします!

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