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第二十二話 「会長と二人のランチタイムは、発見ばかりです!」

 朝の一件のせいで、眠るつもりだった授業も一睡もすることなく、とうとう四限目の数学に突入。

 何度か寝ようと試みたが、目を瞑れば、額に残る感触とラベンダーの香り。

 そして、あの満足そうな笑顔がフラッシュバックする。



 最悪だ。

 それでなくても朝から柊に振り回され、無実の罪をきせられ、イライラしているというのに。

 寝不足と体にかかる倦怠感のせいで、僕の機嫌は今までにないくらい悪い。

 そう、今日は機嫌の悪さが絶好調なのだ!

 


 くそ、あの海棠春樹という男。

 ただの天然タラシ(モブ)かと思っていたが、僕の推測は甘かった。

 アイツは、ただの天然タラシ(モブ)ではなく、()()()()()の天然タラシ(モブ)だ。

 モブのクセに、僕とは違って、やたらキラキラしてるし。

 女子から話を聞けば、かなり人気があり、その人気は攻略キャラ達にも引けを取らない様子。

 僕とのこの差は一体何だ………。

 同じモブとして許すまじ存在感。

 恨めしきモテ度。

 気に入らない。



 それにしても、時間が流れるのはとても早い。

 六月の合同創立記念祭に向け、役員も決まり、そろそろ準備が始まる。

 となると、千紘の隣がかかった切符を取る為に、これまで以上に攻略キャラ達の動きが激しくなる。

 フラグだって、ほぼ毎日の様に立っていくし。

 そのフラグを折りながら、同時進行で前野先生と千紘をくっつける為の作戦を練らなければならない。

 それに加え、まだ初の親愛イベントが行われていない、秋兄と会長、そして須王さん。

 この三人のイベントシチュも見届けなければいけないし、モブ代表を受け持つ僕に暇な日なんて存在しない。

 


 にも関わらず、こんな大変な時期に、あんなホスト紛いの天然タラシ(モブ)に気を取られているとはどういう了見だ!

 アンナ奴に頭を使っているこの時間こそ、勿体ない!

 こうしている間にでも、次に起こる桜田会長との親愛イベントを何処で眺めるのがベストか、計算し、あぶり出し、下見に行かなければ!



 というか、霧島凛。

 冷静になってよく考えてみろ。

 額にキス何て海外じゃ普通じゃないか。

 挨拶みたいなものだろう?

『ヘイ、ボブ!』

『ハーイ、クミ!』

 そしてキス。みたいな感じで、もはや小学生の英語の教科書にも出てくるぐらいの常識じゃないか!

 気にするようなことじゃないぞ。

 分かっていても、やっぱり朝の出来事が頭から離れず僕は溜息をつく。




 そんなこんなで、ボーッと授業を眺めていると終了を知らせるチャイムが鳴った。

 先生の熱い理論の解説で授業は終わり、今から昼休み。

 いつもなら千紘と一緒にご飯を食べる所だが、今日はどうも一人になりたい気分だ。

 


 僕は教科書を机の中に直し、鞄の中から朝買ったパンを出して後ろに座る千紘を見た。





「千紘、悪いけど今日一人でご飯食べるわ」

「え。何で?」

「んー。何か今日はそんな気分なんだよね~」




 心配そうな視線を僕に向けてくれる千紘に「ごめんな」と一言添え、僕は賑わう教室を後にした。

 そして、胸ポケットに何時も忍ばせている秘密道具があるのか確認し、軽い足取りである場所へと向かった。

 殆ど人が通らない、というか誰も通らない裏口の階段を上り、鎖でぶら下がっている立ち入り禁止の看板を潜り抜け、一番上の階まで駆け上がる。

 最上階に着いた僕は、胸ポケットから秘密道具である屋上の鍵を取り出し、鍵のかかった扉を開けようとドアノブに手を伸ばした。



 のだが…‥‥。




「あれ、開いてる……」




 いつもなら鍵がかかっているはずの屋上の扉。

 なのに、鍵処かよく見れば扉も少し開いているではないか。

 まさかの、予想だにしない先客の登場に僕は焦る。 

 教師たちさへ近づかない屋上。

 スペアキーだってないと副担任が言っていたのに、何故……。

 


 あ、因みに何だが僕がどうして、そんな貴重な屋上の鍵を持っているかというと、赤点を取り一人追試を受けた日の放課後。

 再試の答案用紙を職員室へと提出しに行く途中で、偶々拾った。

 それが屋上の鍵であることは、次の日ホームルームで無くした張本人である僕達のクラスの副担任である石井の説明で知り、スペアキーが作られていないこともその時に聞いた。

 あの時の血相変えた石井の顔は今でも忘れられない。

 まぁ、僕が卒業する時にでもバレないよう返そうとは思っている。



 だから、今僕が持つ鍵が無い限りこの扉は開かないはず。

 なのに開いているのは何故だ。

 僕は少し開いた隙間から、誰が居るのかを確認しようと覗き込む。

 だが、あまりにも視界が狭すぎる為、確認することが出来ない。

 




「どうしよう……」




 もし居るのが教師なら、このまま生徒指導室へと直行になるだろうし、此処は危険を冒さず退散するのがベストな選択だろうか。

 しかし、他に人のいない場所って何処にある?

 


 階段の真ん中で腰を下ろし、パンを置いて考える。

 昼休みは、教室か偶に屋上かの二択だったから他に良い場所を知らない。

 こんなことなら、兄さんとかにでも聞いておくんだったな。




「どうしようかな~」

「何を悩んでいる」

「ヒャッチッ!?」




 突然耳元でハスキーな声が聞こえ、変な悲鳴を上げた僕は階段の端へと逃げ、縋るように壁に張り付く。




「驚きすぎだ」

「桜田…会長……」 




 中腰の状態で僕を見る会長は、笑いながら立ち上がり、ツカツカと僕に近づく。

 そして、壁に張り付き座り込む僕の腕を掴み、軽々と立ち上がらせ制服に付いた埃を払ってくれた。




「あ、ありがとうございます」

「あぁ。それにしても、こんな所で会うなんて奇遇だな霧島君」

「ですねー!奇遇ですよねー!」




 立ち入り禁止と書かれている屋上で、こんな挨拶は絶対可笑しい。

 何て思いながら、目線を逸らして返事をする僕だが、その足は逃げる様に後ろへと下がっていく。

 というか、天下の生徒会長様がどうしてこんな所にいるんだ。

 教師で無かったことは良かったが、会長室という特別な場所を支給されている方が態々屋上なんかに来るなんて……。

 てか、流石会長だな。

 屋上のスペアキー持ってるんだ。

 教師でも把握してない鍵をお持ちの会長に頭が上がらない。

 が、そんな事よりも今は、僕が此処に居る理由を追求される前に撤退しなければ。




「そ、それでは僕はこれで……」

「まぁ、待て。折角だ、一緒に昼食をとろう」

「僕はもう食べたので、遠慮します……」

「嘘をつくな。まだ、パンが残っているじゃないか。さぁ、来い」




 階段に座る際に隣に置いたパンは、何時の間にか会長の手の中へと移動している。

 驚いた時に置き去りにしてしまったのか……。

 パンよ、すまない。

 お前の犠牲は決して無駄にしない!

 掲げられるパンに背を向け、逃げようとした僕だが、立ち上がる際に捕まれていた腕は放されておらず、僕はそのまま屋上へと促される。

 そして、さっきまで会長が座っていたであろう、お弁当が広げられた場所へと着き、腰を下ろした会長は隣をポンポンと叩きながら僕を見た。




「遠慮せず座るといい」

「あ、どうも……」




 そこまで親しくもない会長と突然始まった二人っきりのランチタイム。

 雲一つない晴天空、眩しく輝く太陽、爽やかなそよ風、そして流れる気まずい沈黙。

 でしょうね!

 接点もない二人が並ぶとこうなりますよね!



 黙々とお弁当を食べる会長の横で、僕は一生懸命接点を探す。 

 会長と話したのは、この前の役員決めの時だけ。

 あの時だって、殆ど須王さんとばかり話していたし、会長とは二言三言くらいしか会話をしてない。

 考えても接点何て見つかるはずもなく、僕は会長にどんな話題を振るのが正解なのか少ない知識で考える。

 やはり此処はベタに、お弁当についての話を……。

 そう思い、気づかれないようチラリと会長のお弁当を見る。

 お弁当の中身は、お金持ちのお坊ちゃまにしてはシンプルというか普通で、たまに千紘から貰う冷凍食品のイカ天も入っている。




「そのお弁当ってお母さんが作ったんですか?」

「いや、俺だ。両親は仕事で朝が早いからな」

「へぇーそうなんです……え?俺?!か、会長が作ったんですか?!」




 僕はもう一度お弁当を見る。

 確かに冷凍食品は入っているが、卵焼きの形の美しさや、健康を考えられた野菜と肉、そして魚が入っているという完璧な献立。




「あまり見ないでくれ……料理は得意じゃないんだ」


 


 そう言って恥ずかしそうに口元を隠す会長。

 いや、得意じゃないって……。

 そんな謙遜しないで下さい。 



「いやいや十分ですよ!めちゃくちゃ美味しそうですよ!」

「そ、そうか?」

「はい!特にこの卵焼きとか、スゲー綺麗だし、美味しそう!」




 前のめりになり褒めまくると、会長は目を丸くして僕を見た後、僕の口元に卵焼きを運んできた。




「え?」

「食べてみるか?」

「えぇぇえ!良いんですか?!」

「あぁ…」




 まるで、犬が大好物のジャーキーを貰う時の様に僕は差し出された卵焼きに食らいついた。

 口の中に広がる甘さ、そして噛んだ瞬間トロッと中から何かが出てきた。

 これはチーズ?!

 まさかのチーズまで入っているなんて!




「うっっっまぁぁ!」

「そうか?」

「会長凄いですよ!丁度いい甘さといい、中に入ったチーズのトロトロ感といい、格別です!この卵焼きは、僕の兄さんにも負けませんよ!」




 自分の頬を両手で抑えながら、口の中に残る後味に浸る。

 今まで兄さんの料理に勝るものを食べたことが無かったが、会長の卵焼きは本気で美味しい!




「もう一つあるが食うか?」

「良いんですか?!」

「あぁ」




 こんなおいしい物を差し出されたら食べない訳にはいかない!

 僕は卵焼きにもう一度食らいつき、今度はゆっくりと、その味を味わう。

 あぁ、この卵焼きは中毒性はある。

 料理が苦手と会長は仰っておりましたが、こんな卵焼きを作れるんですから他のモノだってきっと美味しいに違いありませんよ。

 気にはなるが、これ以上会長のお弁当を狙う訳にはいかないので、僕は綺麗に正座をして会長の方にからどぉ向け頭を下げた。




「こんな美味しい卵焼きをありがとうございました!疲れが一気に吹っ飛びました!」

「頭をあげろ、大袈裟だ」

「大袈裟何てとんでもない!この卵焼きは最高傑作ですよ!僕が保証するので、胸を張ってください!誇ってください!」




 またもや会長に詰め寄る僕。

 その圧に押されたのか、会長は体を反り目を丸くして固まっている。

 我に返った僕も、興奮しすぎた自分の行動が少しずつ恥ずかしくなり、元居た位置へと戻り「コホンッ」と咳ばらいを一つ。





「すみません、少し騒ぎすぎました」

「い、いや。喜んでもらえたみたいで良かった」





 眼鏡をかけ直し、お弁当へと視線を落とす会長。

 平然とした話し方の一方で、ほのかに赤くなっている耳と首元を見て、会長が照れていることを理解し、何故か僕まで顔が熱くなる。

 今更だが、よく考えてみたら、さっき卵焼き貰った時って会長に食べさせて貰ったんだよな。

 あの、リア充がよくやってる『あーん』ってやつで……二回も。

 


 な、何てことをしてしまったんだぁぁああ!!

 食べ物に釣られて、よくそんな恥ずかしいことできたな、僕!

 しかも、この学園の頂点に君臨するお方に……‥‥食べさせてもらった?! 

 立場を弁えろよ!霧島凛!

 


 再び沈黙が僕達の間に流れる。

 だが、その沈黙はさっきまでの重たいものとは違い、何だがむず痒い感じでお互い落ち着かない。

 パニックになった頭では、話題を振るにも何も浮かばない。

 どうやってこの雰囲気を変えればいいんだ!

 彼方此方へと視線を投げ、落ち着かない僕を気遣うように会長は控えめ気味に口を開いた。





「そう言えば、霧島君はどうして屋上に?」

「え………」





 会長、話題を振ってくれたのは嬉しいんですが、チョイスが悪いです。

 




「えっと……ちょっと一人になりたくて!」

「な、なるほどな。確かに一人になりたい時は此処が最適だな」

「で、ですよねー!」




 アハハと乾いた笑い声で会話が終了。

 続かない。

 折角、会長が気を利かして話題を振ってくれたというのに……。

 僕もどうにか話を振らないと!




「か、会長はどうして屋上に?」

「俺か?俺は……少し休憩したくてな」

「休憩ですか?」

「あぁ。あそこじゃ息が詰まるからな……」




 よくよく会長の近くを見ると、分厚いファイルが何冊か置かれている。

 生徒会の仕事ってそんなに多いのだろうか……。

 須王さんを見てたら、そんな感じは全然しないけど。




「生徒会長って大変なんですね」

「まぁな。だが、大変な分やり甲斐はある」

「凄いですね。僕なら一日でお手上げですよ!」




 笑いながら、僕も買ったチョコクロワッサンを取り出す。

 四つ入りで百円という最高のコスパと量だ!




「今、ふと思ったんだが、此処はいつも鍵がかかっているだろ?どうやって入るつもりだったんだ?」

「ぶふぅ!ゴホゴホ…ッ…!」

「大丈夫か?!」

「あ、はい‥‥…ゴホッ」




 生徒会が大変だという話からの、まさかの変化球。

 驚きのあまり、クロワッサンを詰まらせる所だった。

 僕は自分の胸を叩き、会長が差し出してくれた水筒のお茶を飲んだ。

 もう少しで死ぬところだった…‥。

 というか、会長めちゃくちゃ世話焼きじゃないか!

 出来る男だ!

 って、そうじゃなくて!

 僕は、何て言い訳するのが正解だ?




「落ち着いたか?」

「あ、はい。すみません」

「構わない。それで?どうするつもりだったんだ?」

「そ、それは…‥ですね……」





 僕は会長から視線を逸らし、少しずつ距離を開けていく。

 どうしよう。

 全く言い訳が思いつきません! 

 今日の霧島凛は、とても不調でございます!

 すると、隣から呆れたように会長が言った。




「そんな必死に隠さなくても、教員にチクったりしない」

「いや……」

「それとも俺の言うことは信用できないか?」

「いえいえ!とんでもございません!」




 僕は諦めて胸ポケットから鍵を出し、会長へと献上した。

 会長はその鍵を見た瞬間、何故か大爆笑。

 え、なに?!

 鍵を出しただけでそんなに笑うの?!




「か、会長?」

「アハハハ!そうか、犯人は君だったか!」

「犯人?何のことですか?!」

「いや、だいぶん前に屋上の鍵が無いと職員の中で問題になってな」




 待ってくれ。

 目に涙を溜めながら会長は笑ってらっしゃいますが、それは笑い事ではないのでは?

 職員の中で問題になったって……

 会長から自分の手の中にある鍵へと視線を移す。

 それって結構、大事なのでは?

 教師にバレたら停学……。

 いや、下手したら退学に‥‥‥‥。




「す、すみませんでした!」




 慌てて土下座を繰り返す僕。

 こんなことで退学にでもなったらシャレにならない!

 ヒヤヒヤと心を冷やしている僕とは反対に会長は「腹が痛い」と言いながら、まだ笑っている。

 会長、そこまで笑い転げる話じゃないですよ。

 



「あの……会長?」

「アハハ…!す、すまん……ハハ……はぁ」


 


 呼吸を整えながら笑いを抑える会長。

 そして、鍵を献上する僕の手をそっと握り会長は笑顔を見せた。




「この鍵は霧島君が持っていて構わない。どうせ、教員も此処には誰も用など無いし別に必要ないだろう」

「い、いや…!でも、流石に不味いんじゃ……」

「大丈夫だ。理事長の息子である俺が許可する。だから、心配せず持っていればいい」





 そう言われ僕は鍵を握ったまま、おずおずと腕を引く。

 本当に持っていて良いのだろうか。

 という不安持つ僕をよそに、会長は「俺も持っているし問題ない」と笑っている。

 いや、貴方はご自分で仰った通り理事長の息子で生徒会長ですから。

 でも、僕はただの一般生徒でモブ……。

 まぁ、教師にバレなければ問題ないか。

 もしバレたら、その時は会長を召喚しよう。

 その時は道ずれにしようではないか!

 会長が許可を出したんだから、それくらいしてもらわないと。




「僕が怒られた時は助けて下さいよ」

「あぁ、勿論だ」





 「任せろ」と笑う会長の横顔は、何だかさっきまでのクールな雰囲気とは違い、まるで悪戯をする子供の様な無邪気さがあり、親近感が湧く。

 会長もこんな顔するんだ……。





「それじゃ、僕らはこれから屋上秘密隊ですね」

「屋上秘密隊……。その名前は、少しダサくないか?」

「いやいや、ダサくないですよ!めちゃくちゃカッコいいじゃないですか!」

「屋上……秘密隊………アハハハ!やっぱり、ダサいだろ!」




 落ち着きを取り戻したはずの会長は、またお腹を抱え笑いだす。

 のどかな屋上に会長の笑い声が広がる。




「そんなに笑います?!」

「霧島君……君は…ハハ!ダメだ、こっちを向かないでくれ!」

「え?なんで?!」

「君の顔を見たら……アハハ、笑いが止まら……ない!」




 そう言って僕に背を向ける会長。

 なんだ、人のネーミングセンスを馬鹿にしただけでは飽き足らず、今度は僕の顔を馬鹿にするのか!

 お金持ちのツボは僕には分からないが、そこまで僕を見て笑うのなら、こっちにも考えがある。

 僕は、背を向けた会長に近づき後ろから顔を覗き込んだ。




「会長?」

「だははは!無理だ!勘弁してくれ!アハハ…!せめて、せめて、口元のチョコ……ハハ‥‥!」

「チョコ?」




 そう言われ、スマホのカメラ機能で自分の顔を確認すると、口と鼻の間にチョコがベッタリと付き髭みたいになっている。

 これがそんなに爆笑することか?

 だが、そんな僕をよそに一人で笑ったいる会長を見ると悪戯心が擽られる。

 僕はチョコを付けた状態で声を枯らし、おじさんのモノマネをしながら近づいた。




「ガイジョウ」

「アハハ‥!!その声と顔……ハハハハ!!」





######


 暫く笑い転げる会長で遊び、気が付けば予鈴のチャイムが鳴り響く。

 殆ど昼食を食べないまま昼休みを終えることになった僕達。

 



「会長のせいでパンが食べられませんでした」

「俺ではなく、霧島君が悪いんだろう」

「僕ですか?!」

「俺も殆ど食べれていないから我慢しろ」

「我慢か~!折角のチョコクロワッサンがぁあ!」




 そう言いながらパンを袋にしまおうとすると、横にいた会長がヒョイとクロワッサンを一つ取って、口の中へと放り込んだ。

 




「あ!僕のクロワッサン!」

「……‥‥。」





 クロワッサンを一口で食べる人初めて見た。と思い会長を見ると、想像以上に以上にクロワッサンが大きかったのか、会長はリスのように両頬を膨らましながらモグモグと口を動かしている。

 待って、可愛い。

 僕はスマホを構え、そのまま記念写真を一枚。




「ほひもひへる!」(なにをしてる!)

「ちょっと何言ってるか分かりませーん!」




 ゲームでは見る事の出来ない少しお茶目な会長を見れ、大満足の僕はその写真をお気に入りファイルに入れた。 

 それに今は、午前中まで感じてた苛立ちも倦怠感も嘘の様になくなり何だか清々しい気持ちだ。

 これも全部会長のおかげだろうか。




「会長、今日は楽しい昼食をありがとうございました!」

「……。ふむ」

「まだ食べてるんですか。なら、もう一枚記念写真撮りましょ!」

「ひはだ!」(嫌だ!)





 流石に今のは何を言っているか理解できたが、僕は分からないフリをしてカメラを内カメに切り替える。





「はい、会長!僕の横にどーぞ!」




 嫌がる会長の腕をグイグイと引っ張り、そのままパシャリ。

 僕は満足気に写真を見せた。




「どうです?最高のベストショット!」

「……。ふん」

「まだ食べてるんですか」




 今日一日で、こんなに距離が縮まったことに驚いているが、こんな会長も千紘との親愛イベントを送れば、千紘を狙う攻略キャラの一人。

 僕はこの人のフラグも折らなければならない。

 そう思うと、やはり罪悪感が胸を抉る。




「……ゴクンッ。そろそろ教室に戻るぞ」

「お、やっと食べ終わったんですね」

「あぁ。あの手のパンは、今後分けて食べることにする」




 口元を手で隠しながら、そう呟いた会長はスタスタと僕の前を歩いて行く。

 容姿端麗、運動神経抜群。皆に頼られるクールで完璧な我が校の生徒会長は、周りには見せないだけで子供っぽい部分も持ち合わせた可愛い人だということが今日分かった。




「待ってくださいよ、会長!」



今回のお話のメインは、桜田生徒会長でした!

やっぱり、ギャップはいいですね!いつもはクールな会長の笑っている顔を想像すると……(鼻血)

親愛イベントがまだなキャラが残り三人。

その後は、合同創立記念日の準備と本番です!

凛君を合わせた、他のキャラ達がどうなるのか、是非お楽しみに!

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