第二十一話 「やりすぎ注意!誤解はしっかり解きましょう!」
最近、凄く気になるんですが、読んで下さっている方々の中で、どのキャラクターが一番人気なのか凄く気になります!
もしよろしければ、是非皆さんの好きな推しキャラを教えてください!
結局眠れなかった……。
気持ちよさそうに寝息をたてる柊を抱きしめながら、寝ようと頑張った僕だが色々なことが頭を駆け巡り、気が付けば朝。
外からは鳥の囀りが聞こえ、部屋の中には太陽の光が差し込み始めている。
時間は五時。
兄さんが起きる時間は六時半。
残り時間一時間半もある。
その間に柊のことをどうやって説明するか考えないといけない……。
いや、待てよ。
説明内容何て考えなくても、柊が兄さんに会わなければ良いだけの話じゃないか。
今から柊を叩き起こして兄さんに気づかれる前に家に送り届ければ問題ない。
そう思った僕は、隣で眠る柊へと視線を向ける。
だが、寝顔を見てしまったら最後、こんな朝早くから起すなんて可哀そすぎるという気持ちが僕の心を沈めていく。
ダメだ、こんな寝顔を見せられたら叩き起こせない。
ここは、諦めて言い訳を考える事にしよう。
僕は柊を起こさない様ベッドを降り、眠気覚ましに珈琲を飲もうと一階へと降りた。
重い体と、今にも閉じそうな瞼。
これは今日の授業オールで寝るな。
そう心の中で確信を持ちながら、少し明るくなったリビングへと足を踏み入れる。
キッチンに行き、コップにインスタント珈琲の粉を入れ、お湯が沸くのを静かに待つ。
よくよく考えれば、兄さんに説明するのもさることながら、千紘と柊が鉢合わせるのも避けなければいけない。
何時も秋兄と千紘は、七時半に僕達の家に迎えに来る。
二人の鉢合わせを避けるなら、今日はそれより前に家を出て、柊を中学まで送って行ってやらないといけない。
やらなければならない仕事は朝から山積みなのに、僕の体はもう限界だと悲鳴を上げる。
頑張れ僕の体、この苦労も幸福への試練だと思えば何てことない!
取り敢えず、兄さんには悪いが、此処は起きて貰って柊が寝ている間に全部話してしまおう。
いつも一緒に行っている僕が何も言わず先に学校へと向かったら、きっと千紘は疑問に思うはずだ。
二人を誤魔化す為にも、兄さんの力が必要不可欠。
珈琲を飲み終わり、僕はもう一度お湯を沸かして兄さんの分の珈琲を用意した。
兄さんはブラックが好きなので、僕とは違う種類の粉を入れお湯で溶かす。
出来上がった珈琲を片手に、僕は足音をたてないよう気をつけながら、兄さんの部屋へと向かった。
部屋の前で一度深呼吸をしてから扉を開ける。
兄さんの部屋に入ったのは何時ぶりだろうか……。
昔はよく、眠れない夜などに兄さんの部屋に忍び込んだりしていたが、成長するにつれ互いのプライベート空間に入ることはパタリと無くなった。
静かな部屋の中で兄さんの寝息が聞こえてくる。
ベッドにそっと近づくと、寝相の良い兄さんは仰向けの状態から一切動かない。
起こすのは本当に申し訳ないが、許してください。
僕は近くにあるテーブルに珈琲を置き、眠る兄さんの体を揺すった。
「兄さん、兄さん起きて」
「……んぅ……うぅ?」
手で顔を覆いながら微かに目を開ける兄さん。
こんな無防備な兄さんなかなか見られない。とても貴重な光景だ。
僕は心の中の一眼レフを久しぶりに登場させ、最高のベストショットを捉えることに成功した。
「……りん?」
「うん、ごめん。ちょっと起きて」
寝ぼけまなこで体を起こす兄さんは、何度か周りの風景と僕を見てからニコリと笑った。
「凛が俺の部屋に居る何て珍しいね」
「だね。昔はよく忍び込んだけど、最近はしてなかったから」
「懐かしいなー。それで?何時も寝坊助な凛が、こんな時間にどうしたの?」
机に置いておいた珈琲を兄さんに手渡し、僕はベッドへと腰を掛ける。
珈琲を受け取った兄さんは「ありがとう」と言って、静かに飲み始めた。
起こしたのは良いが、何処から説明するべきか……。
兄さんは嘘が嫌いだから、まず呼び出されたところから話さないと駄目だよな。
「あのさ、兄さん。実は……」
僕は最初に今、自分の部屋に柊蓮という中学生が寝ていることを言った。
そして、泊めることになった経緯と、千紘と柊との話、出て行く前に「コンビニに行ってくる」というのは嘘であったことを順序良く、言葉を誤らないよう説明した。
相槌を打ちながら話を聞いてくれる兄さんの顔は怖くて見れないので、僕は壁に飾られている昔の写真などを眺めながら話をした。
「事情は分かった。その話の中で俺が気になったことが一つある」
「なに?」
「凛、また俺に嘘をついたね」
「……兄さん、僕が言うのもあれだけど、この話の中で気になる所そこなの?」
「俺にとっては一番重要だよ。まぁでも、今回は仕方ないか……」
小さく溜息をつきながら空っぽになったコップを見つめる兄さん。
暫く沈黙が続いた後、兄さんは僕の頭をそっと撫で始めた。
「嘘をついたのはやっぱり気に入らないけど、でも困ってる子を助けのは偉かったね」
「兄さん……」
「でも、嘘をついたのは許さないよ」
「いや、それは……うん、ごめん」
少しの間僕の頭を撫でた兄さんは、満足そうな笑顔を見せ「昨日もこうやってあげるつもりだったのにな」と呟いた。
僕はその言葉の意味が理解できず、兄さんを見たまま首を傾げた。
「なんでもない。それじゃ、早めにご飯の準備をしようか」
「ごめんね、兄さん」
「いいよ。今が六時か……三十分後に柊君を起こしてあげて」
「了解!」
ベッドから立ち上がった兄さんと僕は、そのまま部屋を出て一緒に一階へと降りた。
そして、二人で歯磨きをし、顔を洗った後、兄さんはキッチンで朝食の準備とお弁当作り。
僕はテレビをつけて、ソファーに座りながら朝のニュース番組を見ていた。
こんなの、はたから見たら新婚夫婦みたいじゃないか。
何て一人で思いながら、僕はハッとした。
「兄さん!」
料理をする兄さんに近づき、少し声のボリュームを落として話す。
「柊が千紘に振られたってこと、絶対誰にも言わないで。勿論本人にも」
「ふふふ、分かってるよ」
「アイツ、中学生の癖に何かプライドだけは一人前だから絶対怒るだろうし」
「随分仲が良いんだね、柊君と」
味噌汁を混ぜながら僕を見る兄さん。
仲が良い?僕と柊が?そんなこと……
「あるわけない」
「本当に?なんだか少し、妬けてきちゃうな」
「妬いてる兄さん可愛い!」
いつもは、起きてくれば朝ご飯は完成しているので、兄さんが朝食を作っている姿を見るのは本当に珍しい。
何だか少し、新鮮だ。
そんなことを考えながら時計を見ると、もう少しで六時半。
我が兄の手際の良さは、そこらの専業主婦なんぞには負けない。
僕が横から話しかけながらでも、もうすでに朝食とお弁当が作り終わりかけている。
流石です、兄さん。
「それじゃ、そろそろ起こしてくる」
「うん。ついでに着替えも済ませておいで」
「はーい!」
駆け足で階段を上がり、そのまま自分の部屋へ。
ベッドの上には、布団を抱き枕代わりにしながら眠る柊。
あれだけ偉そうでも、寝顔はまだ幼いんだよな……。
僕は、セットしていたアラームの時間を今から一分後へと変え、ボリュームをマックスにし、柊の耳元へと寄せた。
すると、暫くしてスマホは大音量で鳴り始める。
因みに、アラームの音は最近僕がハマっている恋愛ソング。
僕もそれに合わせて、自慢の歌声を披露。
「君の~ひとみに映る~!僕の~!」
「ぅぅう……うるさ…ぃ」
モゾモゾと布団に潜って耳を塞ぐ柊。
甘いな。そんなことをしても意味がないぞ。
僕の歌声は、そんなことでは防ぐことは出来ない。
お腹に力を入れ、さっきよりボリュームを上げ熱唱する。
「君の背中を見つめぇぇえ~!」
「……うるさいって!」
「凛、うるさいよ!」
勢いよく起き上がった柊に言われ、階段の下から声を荒げた兄さんに言われ、僕はシュンと肩を狭めた。
そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
僕を凄い目つきで睨みつける柊に怖気づきそうになりながらも、スマホに手を伸ばしアラームを止めた。
「お、おはよう」
「はぁ……。おはようございます……」
折角起こしてあげたのに、どうして僕が溜息をつかれるんだ。
不服だと言いたいが、そんな子供みたいなことは言えない。
頬を膨らましながら、僕はクローゼットの中からカッターシャツと靴下を出し、壁に掛けた制服を机の上に置いて寝巻のスエットを脱いだ。
「な、何してるんですか?!」
すると、後ろから馬鹿デカい声が飛んできて、僕の体が小さく跳ねた。
「うるさッ!何って、どう見ても着替えだろ!」
「人が居るのに脱がないで下さいよ!」
「人がって……男同士で何言ってんだよ!」
布団で顔を隠している柊と上半身裸の僕。
え、なんだよ。
この朝起きたら、事故後でしたー。みたいな雰囲気は!
着替えようと服脱いだだけなのに、何だこのシュールな光景は!
「早く服を着て下さい!この変態!」
「はぁ?!誰が変態だ!言わせておけば……昨日のしおらしい態度は何処にいった!」
「何の話だか分かりませんね!」
「ほぉお!よく言うわ、この餓鬼!」
僕は、布団の中に潜る柊に飛びかかった。
布団から出てこない柊を引きずり出そうと全力を尽くすが、なかなか出てこない。
中学生にしてはやるな。
だが、現役バスケ部を舐めるなよ!
「おい柊!出てこい!」
「僕に近づかないで下さいよ!汚らわしい!この変態!」
「汚らッ……!?お前もう許さないぞ!」
ベッドの上で暴れる僕達。
昨日、あれだけしおらしい態度を見せていたくせに覚えていないだと?
添い寝まで頼んできたのにか!
少しでもコイツのことを可愛い何て思ってしまった昨日の自分を殴ってやりたい!
コイツのせいで結局オールをしてしまった自分にアッパーを食らわしてやりたい!
取っ組み合いを続けた結果、やっとの思いで布団を剥ぎ取ることに成功。
そして、それと同時に「うるさいって言ってるだろ!」という兄さんの声と、僕の部屋の扉が大きな音をたてて開いた。
開いた扉の前でエプロンを付けたまま立ち尽くす兄さん。
そして、柊を組み敷く僕と僕に組み敷かれている柊。
三人の間に気まずい沈黙が流れる。
え、待て待て。
この状況ヤバくない?
ベッドの上で、上半身裸の僕が中学生組み敷いてるとか犯罪じゃね?
固まって動かない兄さんから、僕の下に居る柊に視線を向けると、顔を赤くして少し潤んでいる瞳と目が合う。
おいおいおい、ちょっと待ってくれ。
何でお前そんなに顔が赤いんだよ。
しかも、さっきまでの強気な態度は何処にいった?
目を潤ませてこっちを見るなよ。
気まずい沈黙を破る様に、僕は兄さんの方を向き直り、口を開いた。
「に、兄さん、違うんだ……」
「凛‥‥…」
兄さんは顔を俯かせ、プルプルと震えながら絞り出すように僕の名前を呼んだ。
ヤバイ予感がする。
「に、兄さん……」
「凛、ちょっとこっちに来なさい!」
ズカズカと部屋に入ってきた兄さんに耳を引っ張られ、部屋の外へと引きずられる。
「痛い!痛いよ、兄さん!放して!」
「まさか、中学生に手を出すなんて!」
「待ってよ!本当に誤解なんだって!」
ベッドに居る柊は、助けることも無く、ただ茫然と僕を見届ける。
助けてくれよ!
もとはと言えば、お前が僕を変態扱いしたことが原因だろ!
廊下へと出された僕は、兄さんに凄い形相で迫られた。
「朝、俺に一生懸命説明をしていたから大切な子だろうとは思ってたけど、さっきのはなに?!彼は中学生なんでしょ?そんな子に手を出すなんて一体何を考えてるんだ!」
「違う違う!本当にさっきのは違うんだよ!」
「何が違うっていうの!」
「だから、あれはただの事故で!」
そう、あれはただの事故。
どうやったら信用してくれるんだ!
僕一人じゃこの状況は収まらない。
それなら……。
「柊来いぃ!お前からも説明してくれ!この誤解を解いてくれ!」
藁にも縋る想いで柊を呼ぶと、僕の部屋から寝間着姿の柊がヒョッコりと顔を出した。
とっとと、こっちに来て説明をしろ!
「さっきのは事故だったよな!な?」
「え?あ、はい。さっきのは事故……です」
待て待て待て。
手で口元を隠し、ほんのり顔を赤らめて視線を逸らす、その行為。
確実に有罪。
こんなんじゃ、誤解を解く処かもっと誤解されて……。
兄さんから漂う凄まじい怒気を含んだオーラ。
これは、もう駄目だ。
「凛、今日の朝ご飯は抜きだから!お昼のお弁当も無し!」
「そ、そんなぁあ!兄さん、待ってよ!話を……!!」
ドシドシとわざと足音をたて階段を下りていく兄さんを見送って、僕はその場に膝をついて項垂れた。
寝不足かつ朝ご飯抜きで、兄さんの愛妻弁当も無し。
しかも、今日は柊を送るため遠回りまで……。
もう無理だ。
今日がきっと僕の命日だったに違いない。
そんな僕をよそに、後ろからは呑気な鼻歌が聞こえてくる。
アイツッ!!
「この、クス餓鬼めぇえ!!」
「アハハ、どんまいですね!凛さん」
赤らめていた顔は、いつの間にかいつも通りの余裕な表情に戻り、当たり前の様に僕の部屋へと戻って行く。
僕のベッドに再び横になった柊は腹を抱え大爆笑。
あぁ、もういいわ。
怒るのもしんどくなってきたわ。
僕も服を着替える為、部屋へと入り制服を置いた場所へと戻る。
「凛さん、シャツないので貸してくれます?」
「……クローゼットの中にあるから好きにとれば」
背中から投げかけられる声に、振り返ることせず淡々と答えを返す。
もう送るだけ送って、これ以上関わるのは止めよう。
コイツの挑発にノルとろくなことがない。
無視だ無視。
「凛さ~ん。靴下くださーい!」
「それもクローゼットの中」
制服を着替え終え、今日の時間割を見ながら教科書の準備をする。
そしてそのまま、教科書をスクールバックに入れて、スポーツバックには部活で使う服とバッシュを入れる。
最後にスマホと財布を持ち、柊にそっぽを向いたまま部屋を出る。
出て行く直前「凛さん?」と戸惑う柊の声が聞こえたけど、僕は無視を決め込み、そのまま一階へと降りた。
リビングに入ろうか迷ったけど、兄さんもさっきの件で相当ご立腹の様子だったので、僕は荷物を持って先に外に出た。
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玄関前で座り込みイヤホンを付けてゲームをする。
暫くすると、制服に着替えた柊が「何から何までありがとうございました」と深々と頭を下げて出てきた。
僕はイヤホンを付けたまま立ち上がり、お尻を払った。
「あれ、凛さん?」
「学校まで送ってく」
一言そう言って僕は歩き出した。
柊はその後ろを黙って着いてくる。
僕の耳には、ランダム再生で好きな音楽が流れ続けている。
人と居る時はいつもイヤホン何てしないけど、今はどうも話をする気になれない。
朝の一件で無性にイライラしている僕は、無言のまま柊を中学まで送り届けた。
まだ少し早いのか、正門を通る生徒は少ない。
というか流石私立の名門中学だな。
正門の作りから、中の校舎と思わしき建物の作りまで、僕が通っていた中学と全然違う。
「じゃ」
一言それだけを言って僕は背中を向け歩き出した。
「あ、あの!」
だが、そんな僕を腕を掴んで止める柊。
「なんだよ」と思いながら顔だけを後ろに向けると、ばつが悪そうに視線を逸らした柊がポツリと言った。
「朝の誤解、ちゃんと解いておきました」
「ふーん」
「え?!それだけですか?!」
それだけってなんだよ。
僕は掴まれた腕を軽く振り払い前を向いた。
「もう関わること無いし、どうでもいいよ」
気が付くと、自分でも驚く程冷たい声と言葉が出ていた。
想像以上に僕は怒っているようだ。
まぁ、でも。
柊は千紘に振られたのだから、これ以上関わることが無いのは確かだ。
昨日の夜から今日に掛けての出来事は、全て忘れてしまおう。
そう思いながら歩き出すと、突然背中に衝撃と激痛が走った。
そのせいで、僕の付けていたイヤホンが取れて地面に落ちる。
「イッタ!は?なに?」
落ちたイヤホンを拾い、振り返って足元を見るとスクールバックが落ちている。
え、何で鞄が俺の背中に飛んでくるの。
前を向くと、鞄を投げた後の体制の柊が此方を睨んでいる。
「お前……」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
グッと涙を堪えた顔で睨まれても怖くはないが、お前が怒ることなのだろうか。
何て思いながら下に落ちた鞄を拾う。
「こんな所で投げない方がいいって」
「投げさせたのはどっちだよ!」
「いや、どの角度から見ても僕ではないのは確かだわ」
差し出した鞄を強奪するように奪った柊は、凄い勢いで詰め寄ってくる。
顔が近いし、もう少し周りを気にしろよ。
隣を通る中学生がこちらを見ながらコソコソと何かを話している。
そりゃ、学校で有名な王子様が朝から高校生とこんな至近距離で大声を上げていたら嫌でも目立つ。
「兎に角、僕も学校あるから。それじゃ」
「嫌だ。まだ話は終わってない!」
「またかよ!僕も嫌だわ!」
昨日から思っていたが、コイツの『嫌だ』ってのは何なんだよ。
子供か!
もう逃げるしかないと思い、僕はそのまま逃げようと前を向くが襟を掴まれ進まない。
最悪だよ。
一般的に考えて僕みたいに、こんなに襟を掴まれる機会って人生で多いモノなのか。
「放せって!とっとと学校行けよ!」
「放してほしかったら、さっき言ったこと取り消して下さい!」
「はぁ?!何だよ、さっき言ったことって!」
「もう関わることないしってヤツですよ!」
あぁ、気にしてたんだ。
「分かったよ!取り消すから手を放せ!そして学校へ行け!」
「本当ですね!電話掛けたらちゃんと出るんですよね?」
「出るよ!」
「遊ぼうって言ったら遊んでくれるんですよね!」
「え……それは嫌だわ」
「なら放さない!」
「なんで?!」
少しずつ通る学生が増えてきた中で僕達の言い合いは続く。
「遊ぶとかは、また別の話だろ!」
「別じゃない!」
「別だよ!仲いい奴としか僕遊びに行かないし!」
「僕たち仲良しじゃないですかぁ!」
「どこがだよ!」
終わりの見えない会話に俺は両手を上げ、逃げるのを辞めた。
「分かったよ。電話も出るし、時間があったら遊ぶ。これでいいだろ?」
「……まぁ、はい」
渋々手を放した柊は、「コホンッ!」と咳ばらいをし、何事も無かったかのように制服をキッチリと直した後、一呼吸置いて王子様スマイルを見せた。
「色々とありがとうございました。あと、千紘さんのことも……また時間できた時連絡しますね」
「いや、僕には時間が無いので連絡しないで下さい」
「なんですか?何かいいましたか?」
「何でもないです。いってらっしゃい」
ヒラヒラと手を振ると、柊は笑って「いっています!」と踵を翻し正門をくぐった。
そろそろ、僕も行くか。
振り返り歩き出す。
此処から僕の高校までは、そんなに時間はかからない。
途中でコンビニにでも寄って朝ご飯と昼食を買おう。
#####
途中のコンビニでパンを眺める。
何にしようかな~。
チョコクロワッサンかハムサンド、メロンパンにソーセージパン……。
やっぱり疲れている時は甘い物か?
いや、それともガッツをつけるために脂っこいものを……。
朝一だからパンが有り余ってるせいで悩んでしまう。
この優柔不断さ、女子の前では出さないようにしないと。
そんなことを考えながらパンコーナーを眺めていると、僕の隣に誰かが立つ気配がした。
やっぱり、皆まずはパンを見るんだな~。
僕は邪魔にならないよう、一歩後ろへと体を引いたのだが、そんな僕の配慮を無視し、横に立った人は何故か腰に手を回してきた。
え、こんな堂々とセクハラですか?しかも男子高校生を?
一体どんな奴がこんなことをするのか見てやろうと顔を上げると、そこには見覚えのある顔が。
「アンタ……」
「おはよう、凛」
そこに居たのは、僕の中の最近会いたくない人ランキング一位の海棠春樹。
てか、この腰に回したままの手をどけろ。
そんな爽やかな笑顔を見せても無駄だぞ。
「あの……放してもらえません?」
「んー。嫌かな?」
「いや、普通に暑苦しいんで放して下さい」
腰にある手を払い、僕は目の前にあったメロンパンとチョコクロワッサンを取って、そそくさとレジへと向かった。
海棠さんは、その後ろを当たり前の表情で着いてくる。
そして会計を済ませて、そのままコンビニを出る。
買ったメロンパンを開けて歩きながら腹ごしらえ。
いやー、やっぱりこの砂糖の甘さとパンのふわふわ感がたまりませんなー!
「って、なんなんですか。その手は」
「ん?何が?」
「いや、何が?じゃなくて、サラッと手を繋ぐの止めて貰えません?」
コンビニを一緒に出てきた海棠さんは、あたかも当然の顔で僕の横に並び、しかも手を繋いできた。
この人は僕に友達になってくれと言ってきたはず。
にも関わらず彼のとっている行動は友達というよりかは恋人‥‥…。
「僕、男と手を繋ぐ趣味ないので」
「俺もない」
「いや、今繋いでますよね」
「俺は、凛だから繋いでるだけ」
え、なにこの人。
モブのクセに顔は整ってるし、ルックスも良いし、おまけに超天然タラシときた。
この人が放つ、このふわふわした雰囲気から察するに、こうやって女の人に甘え恋に落していくのだろう。
イケメンって怖い。
「僕は可愛い女の子以外受け付けないんで」
手をパッパと振り払い、両手でメロンパンを持つ。
今は、メロンパンを食べるこの時間を楽しもう。
「凛。何か、リスみたいで可愛い」
「ぶふッ!!」
隣から突然の誉め言葉に僕は噎せ返る。
なんだ、この人は一体何なんだ!
「男に可愛いとか失礼ですよ!」
「でも可愛い」
顔を寄せ、ほんわかと笑う海棠さん。
本当にこの人は一体何を考えているんだ!
「あぁもう!僕の楽しい朝食タイムを邪魔しないで下さいよ!」
「邪魔してない。思ったことを言っただけ」
「何も言うな!」
「……。手を繋いでくれたら黙る」
そう言った海棠さんは、ニコニコと笑いながら俺に左手を差し出してくる。
え、イケメンと手を繋いで登校?
はたから見たら、本気で恋人同士みたいに……
「い、嫌だ……」
「じゃ、凛の可愛い所一杯言ってあげる」
「それも嫌だ!」
「なら、はい」
結局、疲れ切った僕の心は抵抗心を無くしてしまい、海棠先輩と学校まで手を繋ぐことになった。
すれ違う人や同じ制服の人からコソコソと何かを言われていることに気づかないフリをし、僕はメロンパンを食べる事だけに意識を集中させ学校まで向かったのだった。
そして、学校に着いた所で手を放した僕達は正門をくぐる。
「あ、そういえばメール見てくれた?」
「メール?」
「昨日送ったんだけど。その様子だと気づいてなかった?」
ポケットからスマホを出しメールボックスを確かめると、確かに届いている。
海棠春樹から大量のメールが……。
え、なに。
大量の不在着信通知の次は、大量のメール?
僕、呪われてるの?
しかも、メールを見ると内容はどれも同じ。
「いや、怖!」
「あ、届いてた?」
「届いてたけど、全部同じ内容とか怖すぎだろ!しかも、『やぁ』の二文字だけだし!」
スマホの画面を見せながら訴えると、頭を掻きながら海棠さんは笑った。
「いや~俺機械音痴でさ。届いてるか心配で一杯送っちゃった」
「送る量でしょ……」
「でも、良かった。少しは凛と仲良くなれたみたいで」
「はぁ?なんで?」
首を傾げ海棠さんを見上げると、僕と同じ目線まで屈みニコリと笑った。
「だって、友達みたいにタメ口で話してくれてるから」
「‥‥‥‥あ。す、すみません!!」
そうだ、いくら嫌いな人でもこの人は先輩。
大量に送られてきた恐怖メールの衝撃で、ついタメ口になってしまっていた。
僕は勢いよく頭を下げて謝る。
すると、海棠さんは僕の顎に手を添えそっと顔を上げさせた。
そして、近づいてきた海棠さんは、僕のおでこに柔らかいものを当て、小さく笑った。
「謝らなくていい。これからはタメ口で話して。俺はそっちの方がいいから」
「え‥‥‥‥あ、えっと……」
「分かった?あ、これは先輩命令ね」
「は、はい……‥‥」
「いいこ」
何が起こったのか理解できず茫然とする僕とニコニコ笑う海棠さん。
え、今‥‥‥‥。
自分のおでこに振れ、さっきの感覚を思い出す。
近づいてきた顔と微かに聞こえたチュッという音、そして柔らかい感触。
この人、今キスした?
「あああぁぁぁぁあああ!!」
「凛?」
理解した途端、顔が一気に熱くなり、僕は雄叫びを上げながら海棠さんを置き去りにし、校舎へと走った。
意味が分からない。
どうなってるんだよぉぉぉおお!!




