第一話 「最高の日常の始まり」
リビングに戻る途中、さっきまで静かだった部屋から兄と他の人の話し声が聞こえてきた。
あれ、もうそんな時間だっけ?
この時間に来るといったら二人しかいない。
僕は確信を持ちながらリビングの扉を開けた。
するとそこには、やはり予想通りの二人の姿があった。
「おはよう凛」
「おはよ~」
マグカップ片手にソファーで寛ぎながら声をかけてきたのは、このゲームの主人公である『七瀬千紘』だった。学年は僕と同じ幼馴染だ。犬の毛並のようにフワフワと触り心地の良さそうな癖のある金髪。整った顔立ち。
青葉の色の瞳は見ているだけで、その瞳に吸い込まれそうになる。
なんて美しいんだろう。
まさに天使。エンジェル。神が与えし唯一無二の存在。
頭の上に天使の輪が見える。浮かんでるよ。
いっそのこと共に天界に連れて行ってほしい・・・
いやいや!しっかりするんだ僕!!戻ってこい!
天使に惑わされるな!!まだ僕には果たさねばならない使命があるだろう!
頭を左右に振り、旅立ちそうな心を抑え込む。
これでは、僕まで攻略キャラ入りしてしまうじゃないか!!
僕は腐を見るのは好きだが、自分が『BL』を体験するつもりはもうとうない。
いくらBLゲームの世界だからといって僕まで男を好きになるのはごめんだ。
腐を愛するものは、『モブ』として彼らの愛を育む姿を遠くで見ているだけでいいのだ。
それが掟。暗黙のルールなのだ。
「おーい、大丈夫か凛?」
自分の邪念を振り払っていると、後ろからポンと肩を叩かれ僕は我に返った。
後ろを振り返ると、そこには千紘の兄で僕と兄さんの幼馴染『七瀬秋』がいた。
千紘と同じ癖のある金髪に整った顔立ち。僕より高い身長。
キリッと男らしい切れ長の青葉色の瞳がイケメン度をかなり上げている。
そして、実は彼もこのゲームの『攻略キャラ』の一人なのだ。
血の繋がった兄弟の深い愛。
誰にも渡さないという独占欲と他のキャラにはない互いを思う深い絆。
その絆がやがて愛に変わって・・・
あぁ、いい。最高だ・・・
是非その愛を目の当たりにしたい。
だが・・・だが!大変申し訳ない。その愛を叶えさせることはできないのだ。
僕が求めている最終エンディングは兄弟愛ではないのだから!!
秋兄も兄さんと一緒に仲良く失恋エンドへとご案内させて頂きます!
だが、もしできることならセーブをし、その愛を別の場所で育んで頂きたい。
「おーい!」
「?・・・あ、なに?」
「お前大丈夫か?何か今日は様子が変だが」
目の前にいた秋兄が僕の顔を覗きこみながら様子を伺ってくる。
あの・・・誰か高性能&超高画質の一眼レフ持ってませんか?
めちゃくちゃ撮りたい。保存したい。飾りたい。
いつも僕を見下ろしている秋兄が、少し屈みながら仄かの上目づかいで見ている感じが堪らなくイイ!
朝から何て贅沢なんだ。
そんなことを考える僕を秋兄は怪訝そうに見つめている。
ダメだ。そろそろ頭の中で機関銃のように語るのは止めよう。
これ以上は変人と思われてしまう可能性がある。
「起きたばっかりでボーッとしてただけだから大丈夫だよ」
「そうか?体調悪いなら無理すんなよ」
「うん!ありがと秋兄!」
秋兄にお礼を言ってから、僕は兄さんが作ってくれた朝食を食べるためダイニングテーブルに近づく。
すると、兄さんがフォークを手渡しながら微笑んだ。
「凛、時間ないから早く食べてしまおう」
「うん!」
今日の朝食はフレンチトースト。僕の大好物がでるなんて!
甘さといい、焼き加減といい、兄さんの作るフレンチトーストは世界一だ。
フレンチトーストを頬張る僕を微笑みながら見る秋兄と兄さん。
「どうしたの?」
「凄い美味そうに食べるな~と思ってさ」
「そんなに美味しい?」
「うん!兄さんの作るフレンチトースト最高だよ!」
「そっか。よかった」
そういって、微かに頬を赤らめる兄さん。
何故赤らめた。今の言葉の中に赤らめる場所があっただろうか・・・?
だが、そんな疑問すら吹き飛ばす可愛さだ。
僕、本気でバイトしようかな?
お金貯めて、高性能&超高画質の一眼レフ買おうかな?
そんなことを考えていると、さっきまでソファーで寛いでいた千紘が近づいてきた。
「兄貴、場所変わって」
「お、おう」
僕の隣に座っていた秋兄が立ち上がり兄さんの隣へ移動する。
そして、まるで当然かのように千紘が俺の隣へと座る。
・・・何故だ千紘。どうしてお前はわざわざ秋兄を移動させてまで僕の隣にきた。
お前は今とても重大な選択ミスをおかしてしまったよ!
座るなら兄さんの隣だろう!!
選択肢を間違っているだろう!!
新密度向上イベントが見れないのなら、せめて普通の日常で他のキャラクターとのイチャラブを見たいと思うのが腐の心情なんだよ!!
頼むよ!!僕の気持ちを察してくれよ!!
「なんだよ。その目は・・・」
「・・・別に~」
言いたいことは山ほどあるが、僕は言葉を飲み込んで、隣でマグカップを傾ける千紘を横目に僕は黙々と朝食を食べ進める。
僕たちの前に座る二人は、今日の宿題について話をしている。
やっぱりイケメンが並ぶと絵になるよな。
一眼レフって、どれくらいするんだろう。
そんな事を思いながら、僕は二人の姿をただジッと見続けた。
#
「凛、そろそろ行くよ」
「わかった」
朝食を食べ終え、制服に着替えた僕は兄の掛け声に返事をし、鞄を持って一階へと降りた。
玄関に行くと、すでに靴を履いている三人が呆れ顔で僕を見ていた。
そんな目で見つめないで。興奮するじゃないか。
そんな馬鹿なことを考えながら、僕は靴を履き立ち上がる。
「お待たせ!」
「それじゃ、行こうか」
ぞろぞろと家を出て、兄さんが鍵を閉めたのを確認すると僕たちは学校へと向かった。
#
僕たち四人が通う高校。「SweetDays~麗しき騎士と白き鳥の箱庭ー」の舞台となっている『星城学園』は近所でもそこそこ有名な私立校だ。
どうして有名なのかというと、理由は二つある。
一つは、卒業生だ。この学校のOBに有名人が多いらしい。僕には対して関係ないが。
まぁ、そんなことはどうでもいいが。
二つ目は、制服だ。星城学園の制服は男女で少し違う柄の制服になっている。
白いシャツに胸元に星城の校章が施された紺のブレザー。ここまでは男女同じだ。違うのは此処からだ。
男子はグレンチェック柄のズボン。
そして学年別のネクタイ。一年「赤」二年「緑」三年「青」という形で色分けされている。
そして、女子はスカートがバーバリーチェック柄で胸に学年別色のチェック柄のリボンを付けている。
ゲームをしていると周りの女子が凄くキャバク着飾っているように見えていたが、実際目の前にいると前の世界と対して変わらなかった。キャバク見えるとか思って女子の皆さん、すみませんでした。
僕たちは邪魔にならないよう二列に並んで通学路を歩いていた。
周りを見ると僕たちと同じ学校の制服を着た女子がこちらをチラチラと見ては、コソコソと何かを話している。
俺を除けて後の三人はとにかく女子に人気だ。
秋兄は毎日自分の下駄箱にラブレターが入っているし、兄さんは休み時間の間に女子から手作りのお菓子を貰ったり告白されたりしている。
千紘に関してはまだ入学して一か月も経ってないのに、ファンクラブまで結成されている始末だ。
三人は顔もイケメンだが、まず纏っているオーラが僕みたいな凡人とは違う。
凄くキラキラしているんだ。
僕が三人と居ると浮いているのが凄く目立ってしまう。
どうして兄弟なのにこうも違うんだ!兄さん!!
だが、当の本人らは全く気にしていない様子で話を続けている。
「ねぇ、凛」
「ん?・・・どうした」
名前を呼ばれ隣を見ると千紘が眉間に皺を寄せ僕を見ていた。
なんだ?
「なんか今日の凛、いつもより変だよ。静かだし」
「そうか?そんなことないと思うけど。」
「そんなことあるって! 本当は体調悪いんじゃないの? 昨日部活中に倒れただろ?」
心配そうに瞳を揺らす千紘。
なんだろう。次は背中に天使の羽が見えてきた。神々しいとはまさにこのことだろう。
「いや大丈夫。それより、なんで千紘は僕の隣にいるんだよ」
「はぁ?なんだよ急に」
少しでいい。
少しでいいから、イチャついているシーンを僕に見せてくれ。
「僕に遠慮しなくていいんだぞ」
「え、遠慮って?」
「えっと・・・あはは・・・」
ついつい心の声が漏れてしまい、僕が誤魔化すように笑う。
危ない危ない。気を付けないと。
「もっと兄さんたちとイチャつけよ!」なんて言ったら僕が腐に染まっていることがバレしまう。
「なんでもない!気にするな!」
「・・・なんだよ。凛、本当に大丈夫なの?」
怪訝そうに僕を見つめる千紘の視線に気づかないフリをして、前を歩く二人の会話に耳を傾ける。
どうやら部活の話をしているみたいだな。
二人はバスケ部で兄さんがキャプテン秋兄は副キャプテンを務めている。
僕と千紘は最近入った新入部員だ。
「やっぱり練習メニュー変えた方がいいかな?」
「そうだな。新入生も入って来たし、いくつか見直した方がいいかもな」
真剣に話をする二人の横顔を朝日が照らす。
ヤバい。カッコイイ。まるでドラマのワンシーンじゃないか。
朝日をバックにすることを許された数少ない人間はこういう二人のことを言うんだろう。
その後僕は、千紘と他愛もない話をし、気づけば僕たちが通う高校へと到着していた。
私が書きたいと思っていた小説をかけて凄く嬉しいです!
そして、初めて感想が届いて「きゃーーー!!!」と歓喜の声を上げてしまいました!
どうもありがとうございます!!
皆さんに楽しんで読んでもらえる様、更新頑張っていきますので、これからどうぞ宜しくお願い致します!