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第十六話 「小さな違和感と役割分担。だからイケメンモブは誰なんだ?!」



 須王家に招かれてから数日後の昼休み。

 校内放送で生徒会長室へと呼び出された僕は、何故か桜田会長と須王さんと向かい合う形で兄さんの愛妻弁当を食べていた。

 生徒会役員でも無い僕がどうしてこの二人の会談に付き添っているだろう。

 しかも、来て十分ぐらい経つが二人は話す処か、ずっと無言のままオーラを纏っている。

 この光景を見ている僕には、二人の背後に悪魔と龍の化身が見える。

 ただただ、怖い。

 というか、僕が此処に居る意味はあるのだろうか。

 教室に戻りたい。 

 千紘の天使の様な笑顔で癒されたい。

 そんなことを考えながら黙々とお弁当を食べていると、立ち上がった桜田会長が会長専用デスクの上から持ってきた一冊のファイルを僕へと差し出した。





「これは?」

「今回の合同創立記念パーティーの役員候補の名簿だ」

「どうして僕にこれを?」

「役員リーダーを霧島君に任せようと思っている」

「はい?!」






 

 僕は両手を机に付き大きな声を上げ驚いた。

 僕がリーダーだって?

 待て待て、どうして僕なんだ。

 この役目は僕じゃ無く、主人公である【七瀬千紘】の役割のはず。

 ちょっと待ってくれ。何かが可笑しい。

 これだと原作通りに話が進まないじゃないか。






「桜田会長待ってください!百歩譲って役員は受けるとして、役員リーダー何て重大な役割、僕には無理ですよ!」

「私もそう言ったんだが、彼がどうしてもと言うのでな」






 頭を抱えながら隣を示す桜田会長。

 そこには優雅に珈琲を飲み、満足気な笑みを浮かべ僕を見る須王さんが居る。

 嘘だろ。

 この人は何を考えているんだ。

 千紘のことが好きなんだろ?役員リーダーって両校の会長と一番接触が多い役割じゃないか。

 なのに、どうして僕をリーダー任命して、そんな満足気なんだよ。

 馬鹿なの?この人どういう思考回路してるの?






「ちょっと須王さんいいですか」

「え、私ですか?」

「はい、貴方です」






 僕は優雅に座る須王さんの腕を無理やり引っ張り、一度廊下へと出た。

 生徒会室がある場所は、生徒会役員か教師以外立ち寄ることが無いので、いつも静かで人気も無い。

 そりゃそうだ。此処には、生徒会長室・生徒会役員室・理事長室しかないのだから。





「貴方は何を考えているんですか!」

「何って、お前が役員リーダーになれば名簿に載ってる七瀬千紘を優先的に推薦することができるだろ」

「本気で言ってます?馬鹿なんですか?役員リーダーを千紘に任せれば全て解決する話でしょ」

「あ………」

「あ……。じゃありませんよ!しっかりして下さいよ!本当に」

「確かに七瀬千紘を役員リーダーにすれば接点も増えるし一石二鳥だな。よくやったぞ凛、褒めてやる」

「はぁぁ」




 不敵な笑みを浮かべた須王さんは、僕を置いて先に部屋へと戻っていった。

 お弁当は放課後取りに来ることにして、僕はこのまま逃げさせてもろうかな。

 うん、そうしよう。

 このまま、あの二人に付き合っていたら何時教室に戻れるか分からない。

 踵を翻し、軽い足取りで生徒会長室の前から離れようとしたが、またもや襟を誰かに捕まれ前へと進む足を止められてしまった。

 やっぱり、悪魔には僕の行動がよめていたのか。






「すみません、すぐに部屋に戻りま………ッ?!」

「久しぶり」







 須王さんだと思って振り返ると、そこにはこの前、数学準備室でパティーを開催していたイケメンモブの海棠春樹が居た。

 何故、お前が此処に?!

 っていうか、あんな所見せといて第一声が「久しぶり」ってなに?!

 僕は掴まれている襟を慌てて振り払い、一気に距離を取った。

 





「そんなに距離取らなくても………」

「取りますよ!てか、何でこんな所にいるんです」

「校内放送で君の名前が呼ばれてたから会いに来た」

「会いにくんな!」

「何で?俺の事嫌い?」






  

 

 首をコテンと傾け僕を見る海棠さん。

 百八十センチ以上ある男がそんな仕草してもキモイだけ………だと思っていたが、なんでだろう、頭に垂れ下がった耳が見える。

 めっちゃ撫でてあげたくなる。

 あぁぁああ!!

 僕は何を考えているんだ。この人は、学校でパーティーを開催する危ない人だぞ!

 頭に浮かんだ『可愛い』という単語を振り払い、キッと目の前に居る海棠さんを睨んだ。





「そんな顔しても無駄だ!それに、好きか嫌いか何て関わりの無い人に聞かれても分からない!」

「それじゃ関わればいいよ」

「関わりませんよ!」

「どうして?」




 捨てられた子犬の様な目で僕を見る海棠春樹。

 きっとこの目で、大勢の女の子の母性本能をくすぐり幾度となくあの場所でパーティーを開催していたんだろうな。

 だが、僕にはその技は通用しないぞ。

 此処で負けたら、霧島凛の名が廃るってもんだ!




「どうしても!てか、もう会ったでしょ。用は済んだんだし、とっとと自分の教室に帰れ!」

「まだ。この前の返事聞かせてもらってない」

「返事?」

「”友達になって”って言ったことへの返事」

「あ………」







 そういえば、そんなこと言われたな。

 すっかり忘れてた。

 だが、答え何て決まってる。





「嫌だ」

「………そっか。なら今日から友達(仮)ね」

「え? ちょっと、僕の話聞いてました?」

「うん、友達が駄目なら、まずは友達(仮)から始めようと思う」






 すみません、僕にはこの人の思考回路がよく理解できません。

 断られた流れから、どうやったら友達(仮)から始めることになるんですか?

 というか、友達(仮)って何ですか?

 しかも、この人僕の意見も聞かづ『始めようと思う』って言いきっちゃいましたよね。 

 


 いつの間にか僕の目の前に来ていた海棠春樹は、流れる様な動作で僕を抱きしめ「宜しく、凛」と笑顔を見せた。

 え、何その可愛い笑顔は。

 僕の顔が一気に熱くなり、気づけば僕の口からは一言。





「あ、はい………」





 と同意の言葉が漏れていた。

 何してるんだよ僕は!

 意志弱すぎか!イケメンに弱すぎか!

 ほんの数分前まで、負けたら霧島凛の名が廃るとか言ってたくせに!

 というか、いつまで抱きしめられたままなんだ。

 抵抗しないと!

 でも、何かこの人の腕の中って心地いいんだよな。

 何か懐かしいっていうか………。

 それに、スゲーいい匂いするし。

 これはラベンダーかな?

 何処かで嗅いだことある気がするんだけど………

 何処でだっけ?

 顔を上げ、僕を抱きしめる海棠春樹の顔を見ると、何がそんなに嬉しいのかとても幸せそうな顔をして僕を見ている。

 可笑しな人だ………。

 じゃなくて!!






「いつまで抱きついてるつまりだ! 離れろ!」

「嫌だ」

「嫌だじゃねぇぇえ!!」






 暴れる僕だが、やっぱりガタイの良い彼に力で勝てる訳もなく、抜け出すことが出来ない。

 このままチャイムが鳴るまで逃れられないのかと半分諦めていると、後ろから何者かに襟を引っ張られカエルのような声が喉からもれる。

 絞まった首と引き替えに抜け出せた腕の中。

 これは助かったといえるのか……?





「遅いと思ったら何してる」

「ゴホッ…ゴホ…ッ!すお……さん?」





 だが解放されたのは、ものの数秒。

 いつの間にか海棠春樹の腕の中から須王さんの腕の中へと移動していた僕。

 機嫌悪そうに眉間に皺を寄せている須王さん。

 気づいていないのでしょうか、目の前には人が居るんですよ。





「す、須王さん……素がでてますよ?」




 目の前に居る海棠春樹には聞こえない様な声量で伝えるが、僕を見下ろす須王さんの目は想像以上に怒気を含んでいた。

 そんなに怒ってどうしたんだ?




「あぁ?それが何だ」

「人いますよ……」

「………。俺としたことが……お前のせいだぞ」

「え、僕?!イタッ!」





   


 僕にデコピンをした後、一呼吸置いた須王さんは海棠春樹に何時も通の王子様スマイルを向けた。

 どうして僕のせいなんだ。

 しかも、僕にデコピンをしたね!

 兄さんにだってされたことがないのに!






「失礼しました。霧島君に用事がありますので、そろそろお返し頂いても宜しいでしょうか?」

「……誰?」

「私は桜蘭学園の生徒会長を務めております、須王秀哉と申します」

「ふーん。 大事な用事?」

「はい。 霧島君が居ないと進まない程重大な話があるんです」

「そうか、分かった。 じゃ、凛スマホ今持ってる?」

「え? あ、あるけど……」

「貸して」




 僕のスマホをそっと受け取ると、海棠春樹は何かを打ち込み僕に画面を見せた。




「俺のアドレスと番号入れといたから、いつでも連絡して。 俺も後で連絡する」






 それだけ言い残し、海棠春樹は僕達に背中を向けて歩いて行った。

 何だったんだ一体。

 僕はディスプレイに映る彼の名前を見ながら、さっき僕を抱きしめていた時の笑顔を思い出す。

 どうしてあんなに嬉しそうだったんだろう。

 というか、どうして友達になろう何て言ってきたんだろう……。

 本当に不思議な人だ。

 




「おい」

「ん?」





 頭上から降ってきた激昂に満ちた声にハッと我に返った。

 そうだ。 須王さんに救出されてからずっと抱きしめられたままだった。

 速やかにどかないと、僕の命はない。





「すみません!」





 即座に撤退しようと一歩を踏み出すと、またもや襟を掴まれ「グヘェッ!」と醜い声が上げる。





「ゴホッゴホッ! 何ですか!」

「お前馬鹿なのか?」

「はい?」





 「馬鹿なのはそっちだろう」という気持ちを込めて須王さんを睨み上げると、眉間に皺を寄せ海棠春樹が歩いて行った方向を見つめている姿があった。

 一回目に僕の襟を引っ張った時もそうだったが、どうしてそんなに眉間に皺を寄せているんだ。

 それによく考えたら、人前で王子様スマイルを絶対に外さない須王さんが珍しく感情を隠しきれてなかったし。





「怒ってます?」

「怒る? どうして俺が……ただ、虫の居所は悪いな」

「なんで?! イタッ!」






 本日二度目のデコピン。

 今日の須王さんはやけに荒れている。

 そんなに機嫌を悪くするようなことがあったか?

 あ、まさか。

 僕が逃げようとしていたことがバレたのでは……。

 兎に角、此処は速やかに会長室へと戻るのが先決だ。

 桜田会長の前では、須王さんも下手なことは出来るまい。





「ご気分が優れないのであれば、少し風にでも当たって下さい! それじゃ、僕は先に戻ってます」

「待て」

「な、なんでしょう……」





 悪魔からのstayの合図に逆らうことは出来ず、僕は前に踏み出すはずだった足を浮かせたまま首だけを後ろへとやる。






「スマホを渡せ」

「何故でしょう………」

「いいから早く!」

「は、はいぃ!」 






 手に持ったままだったスマホを悪魔へと献上すると、先程の海棠春樹と同様何かを打ち込み始めた。

 まさか………。

 僕の予想は勿論的中し、見せられた画面には須王さんのアドレスと番号が登録されていた。

 しかも”お気に入り”登録まで………。

 この世に悪魔のアドレスをお気に入りに入れる人なんて、本性を知らない人か、相当なM人間だけだ。







「まだ登録していなかったから、仕方なく俺が直々にしてやった。 有難く思え」






 有難く思え?

 誰も頼んでないのに勝手に登録しておいて、感謝しろとか傲慢すぎるだろ。

 流石、須王秀哉。






「ありがとう……ございます」

「それにしても、お前は少し危機感を持った方がいいぞ」

「突然なんですか」

「さっきの男にスマホを差し出しただろ。 その前も抱き着かれていたし」

「それは須王さんも同じでは?」

「俺は良い」

「………なるほど」






 他の奴は駄目だが俺はいい。

 流石、理想通りの暴君だ。






「まぁ今後は気を付けろ。 話を戻すが、役員リーダーの件だが七瀬千紘に任せる事にした」

「あ、そうですか。 それなら僕は要らないですね。 お弁当持って教室へ帰ります」

「誰が帰っていいと言った。 お前には役員副リーダーを任せる」

「副リーダー? さっき見た役割欄の中には、そんなの無かったですけど」

「俺が今決めた」

「いやいや、桜田会長に相談もなく勝手に決めちゃ駄目でしょ!」








 僕の言葉を聞いて、小さく鼻で笑った須王さんは僕の腕を掴み会長室へと連行する。

 引きずられるように中へと入った僕は、さっきまで座っていたソファーへと促され渋々腰を掛けた。

 そして隣には須王さんが………。

 すみません須王さん。さっきと座る位置違いますけど、自覚あります?

 そう聞きたかったが、聞ける雰囲気でも無く僕は食べかけのお弁当をそっと片付け始めた。






「桜田会長、この役割についてのプリントを見て思ったのですが、指揮を執る人間がリーダーだけとなると一人に負担が大きいと思います。 なので、補佐役を置いては?」

「ふむ……。 確かに、七瀬君はこういった役割は初めてだ。 一人だと心細さもあるかもしれないな」

「なので、此処に居る霧島君に頼みませんか?」






 だから、何で僕?!

 助けを求める気持ちで桜田会長を見たが僕は愕然とした。

 その顔は納得している。だって、めちゃくちゃ頷いてるし。





「霧島君頼めるか?」

「いや……「彼はやってくれますよ。ね?」……はい」







 肩に腕を回され、こんなに近くで圧を掛けられては断ることなんて出来ない。







「ふむ。それでは、七瀬君には放課後にでも私から頼んでおこう」

「宜しくお願いします。 桜田会長」

「あぁ。だが、須王と霧島君が、そんなに仲が良かったとは意外だな」







 この光景の何処を見たら仲が良いよに見えるんでしょうか。

 まさに、獲物を見つけたヒョウと獲物としてロックオンされた兎じゃないですか。






「そんなに仲良くないですよ」

「なんて?」

「スゴクナカガイイデス」







 所々で肩に体重をかけて、圧を掛けてくるのを止めてほしい。

 痛いし、怖いから。

 というか、ライバル校同士である星城学園と桜蘭学園が合同創立記念パーティー何てどうして開くのか、もう少し詳しい説明が欲しい方も居ると思うので、この場を借りて説明させて頂きます!

 

 星城学園と桜蘭学園は理事長同士が仲が悪くずっとライバルとして互いを敵視してきたが、その理由は学園が出来た時期も関係しているんです。実は両校とも創立時期は同じで今年で五十周年を迎えます。

 当時から、入学希望の生徒争奪戦や学校偏差値争いなどなど、両校同士の争いは絶えなかったようですが、創立時期が同じ学校なんて早々ないし、互いの学校からの距離も近く名門校。

 だから、周りに一括りに同じ様な学校として見られても仕方がない。

 テレビや雑誌などで互いの話題がでたら、大人の事情で褒めてしまう所を見ると、やはり、学校としても周りの目は気になるらしく、今回は互いに渋々協力せざる終えないという結論になったらしい。 

 ゲームでも、周りからの評価は大事なんだろうね!




 兎に角、皆さんのモヤモヤが解消された所で僕は此処から速やかに出て行きたい。

 後五分で五時間目が始まってしまう。

 そろそろ出ないと、サボり扱いになってしまうよ。






「桜田会長、そろそろ行かないと授業が……」

「あぁ、もうそんな時間か。 分かった、長く引き留めてしまってすまなかったな。 後の事は須王と決めておくから君は行きなさい」

「はい! それじゃ失礼します」







 よく考えれば、須王さんより桜田会長の方が断然大人だよな。

 対応もそうだが、考え方とか行動とか雰囲気とか、もろもろ全部。

 少しは須王さんにも見習ってもらいたいところだな。






「霧島君、今失礼なことを考えていましたね?」

「ギクッ!……いえいえ、滅相もございません」

「そうですか? あ、それと彼のアドレスの件速やかに対応をお願いしますね」







 桜田会長の前だから、声が凄く優しいが向けられた視線から飛んできている言葉は「いつまで待たせるつもりだ。さっさとしろ」と言っている。

 





「承知いたしました………」






 会長室から出るまで頭を下げたまま移動した僕は、疲れた体と心に鞭を打って、自分のクラスまでの道を又もやメロスのように颯爽と走り抜けた。

 どうして最近、須王さんとの接触が多いんだ。

 最近の僕には癒しの時間が全くない。

 今日はいつもより部活の終わり時間が早いから、その後に買い物にでも出かけよう。

 買い物をして、最近溜まったストレスを解消するんだ!






「がんばれ僕ぅぅぅうう!」


最近になって、どんどん更新しております。

皆さんには楽しんで頂けているでしょうか?

凛君と須王さんの絡みを書くのが楽しすぎて、ニコニコしながら画面に向かっております(笑)

最近は、家で過ごす日が多いとは思いますが私の小説を読んで下さっている方々の楽しみに少しでもなれればいいなと願っております!

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