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第十五話 「悪魔のお迎えは悪いことだけじゃありませんでした」


 次の日。

 昨日は本当に色々なことがあった。

 遅刻しかけるし、千紘は不知火さんとの初対面初日で一目惚れしちゃうし、モブとは思えないイケメンに”友達になってくれ”ってお願いされるし、意味が分からないことだらけだ。

 兎に角、今の現状で言えることは僕の推しカプエンドを成立させるためには、不知火さんと千紘を出来る限り遠ざける必要があるということだ。

 一目惚れをした千紘には悪いが、僕はこれから全力で不知火さんとの接触を邪魔させていただく。

  


 

 そして話は変わるが、昨日の様な失態を繰り返さないため、目覚ましを三個使い無事起床した僕は、いつも通りイケメン達と登校している。

 この三人と居ると嫌でも目立ってしまう。

 まぁ、そんな生活にも慣れてはいるけど、此処まで目立つなら僕にも彼女くらい出来て良いと思う。

 イケメンが傍に居れば、僕みたいな凡人でもケメンが放つイケメンフィルターによって少しは美化されるはずなのに………。

 小学校、中学校、そして現段階高校。

 一度として僕に告白をしてきてくれた女子は居ない。

 



 僕だって少しは憧れるシチュエーションとかあるんだよ?

 例えば、朝の登校中に他校の女子が僕の学校の正門で待ってって「少しお時間いいですか?」と照れ笑いをしながら話しかけてくる。とかさ!

 まぁ、そんな漫画のようなシチュエーション、いくらゲームの世界とはいえモブの僕にある訳がないのは分かってるけどさ。

 妄想だけでも夢を見たい。

 健康男子なら、誰でも考えることだと思う。







###



「少しお時間いいですか?」




 確かに憧れのシチュエーションだと言った。

 そんなことがあれば良いなと思った。

 でも、これは違う………。



 正門前に立って僕に声を掛けてきたのは、他校の女子生徒ではなく、我が学園のライバル校の生徒会長である須王秀哉。

 またの名を悪魔でした。

 相変わらず、美しい太刀筋にキラキラとした王子様スマイルで周りに集まる女子たちから黄色い歓声を浴びた須王さんは僕に優しい声で話しかけてきた。


 




「お、お久しぶりです。須王さん……」

「お久しぶりですね。この前は、突然呼び止めてしまい申し訳ありませんでした」

「いやいや、お気になさらず……」





 浅く頭を下げた須王さんは後ろに居る三人をチラリと見た後、王子様スマイル全開で僕を跳ね除け三人の前に立った。




「初めまして、私は桜蘭学園生徒会長の須王秀哉と申します。凛君には常日頃大変お世話になっております」

「えっと、こちらこそお世話になってます。兄の霧島裕斗です」

「少し凛君をお借りしても宜しいですか?話したいことがあるのですが……」

「あ、そうなんですね。それじゃ凛、俺たちは先に行ってるから遅刻だけはしないようにね」




 そう言って手を振って立ち去る兄さんと、心配そうに僕を見ながら兄さんの後ろを着いて行く七瀬兄弟。

 魔王の掌の上で転がされた兄さんは、まんまと生贄に僕を差し出してしまったのだ。

 こんなのあんまりだ!酷すぎる!

 久しぶりのご対面。正直前より怖い。

 最後に会った日なんて、僕、このお坊ちゃまに安い棒付きキャンディーを口の中に無許可で放り込んでしまったんだぞ。

 あ、もしかしてその時の罪を今償えというのか。

 



「あの時の償いでしたら、もう少し心の準備が……!!」

「償い?何の話でしょうか?」





 なに、違うのか?

 いや、周りに女子がいるからとぼけているという可能性もある。

 だが、本当にキャンディーの件でないのなら、今日は一体何の用で来たのだろう。

 もしかして、また千紘のメールアドレスをたかりにきたのか。

 それとも言うことの聞かない僕に罰を下しに来たのか。





「なら、今日は僕に何の用が……」

「この前の様にゆっくり話を出来ないのは寂しいので、今日はお誘いに来ました」

「誘い?」

「はい、今日の放課後は顧問の先生のご都合でバスケ部は休みになると伺いました。ですので、放課後十六時に、またお迎えに上がりますので、この前出来なかったお話をしましょう」

「は………?」








 バスケ部が休み?

 そんな事、兄さんは一言も言ってなかったぞ。

 あれだな、嘘をついた僕を拉致ろうと考えているんだろう、悪魔め!







「嘘ではありませんよ。確かな筋から聞いた確かな情報です」






 まるで僕の心の声が聞こえているかのように、笑顔で返答を返してきた須王さん。

 また、厄介な人に捕まってしまった。

 勘弁してくれ、それでなくても不知火さんと千紘のことで頭が一杯なのに須王さんまで参戦してきたら僕はどうすればいいんだよ。







「勿論、”断る”なんて選択はなさいませんよね?」







 お金持ちって本当に怖いと思う。

 王子様みたいに優しい笑顔で凄まじい圧をかけてくるから。








「あ………はい」






 ”同意”の二文字しか許されなかった僕は、言われるがまま約束をしてしまった。

 僕の返事を聞いた須王さんは、満足そうな笑みを浮かべて「それでは、また放課後」と王子様スマイルのまま、黒いピカピカのリムジンへと乗り込み消えた。

 放課後には、あの高級なリムジンが地獄の荷車へと変わるのだ。

 あぁ。憂鬱だ。

 朝から最悪な予感しかしない。

 


 さっきまで群がっていた女子たちは、須王さんが居なくなった途端、煙の様に消え僕は一人正門前で佇む。

 なんだろう。この虚無感わ。

 





「取り敢えず教室に……」






 肩を落とした僕は溜息をつきながら、門を潜り抜け教室へと向かった。

 







###


 そして、気が重い日程時間が経過するのは早いもので、気づけば放課後。

 須王さんの言った通り、顧問の出張によりバスケ部は急遽休みになった。

 兄さんも昼休みになって聞いた話なのに、どうして須王さんが先に知っていたのか凄く疑問だけど掘り下げると面倒な気がするので止めだ。




「凛、帰ろうか」

「ごめん千紘。この後約束があるから、先帰ってて」

「用事?もしかして朝の人?」

「うん……そう」




 鞄に荷物を詰めながら、何度も零れるのは僕の溜息。




「今日、ずっと溜息ばっかりついてるね」

「そうかなー」

「うん、授業中も昼休みも、ずっと」

「それは、ごめん」




 仕方ないじゃないか。

 今から悪魔と二人っきりの直接対決なんだぞ。

 それを思うと溜息だって着きたくなるし、溜息ついてないと呼吸できないんだよ!

 なんて、心の中で逆切りをしながらも千紘が「門まで一緒に行こう」というので荷物をまとめ終わった僕は重い足取りのまま教室を後にした。





 そして、数分後。

 到着しました正門に。

 だが、何故か変な状況になっている。

 無言で横に立つ千紘と目を丸くしてフリーズしている須王さん、そしていつも通りの僕。

 正門まで来たのは良いけど、僕を見つけた須王さんは横に居る千紘を見て、こんな風に何も言わず固まっている。

 決して須王さんを応援する気はないが、偶々巡って来た話すチャンスを無言のままで終わらせるのは流石に勿体ないと思うのだが。

 フラグが立たないことに越したことはないけど、それでも今の光景は見ていられないな……。





「須王さん、大丈夫ですか?」

「え?あ、はい。大丈夫ですよ」






 朝の王子様スマイルは何処へいったんだ。

 引きつった笑顔、青ざめた顔。しかも、手が微かに震えている。

 本当にどうしたんだ、この人は………。






「須王さん、一応紹介しときます。こちら、僕の幼馴染の七瀬千紘です。朝も居たので見覚えはあると思いますけど」

「初めまして、凛がお世話になってます」

「は、初めまして。須王秀哉と申します、以後お見知りおきを」







 ピキッとこの空間にヒビが入るのを感じた。

 須王さんの引きつっていた笑顔がとうとう、鬼の形相へと変貌したからだ。

 これは不味い。

 このまま、千紘の須王さんに対する印象が悪くなってしまってはいけない。

 此処は兎に角、話を終わらしリムジンの中へと詰め込もう。






「えっと!取り敢えず気を付けて帰れよ!千紘」

「え?あ、うん!それじゃ、また明日ね!須王さんもまた」

「おう、また明日ー!」

「また………」






 空気を読んだのか、千紘は焦った様子で背を向け帰っていった。

 流石に初対面んであんな恐ろしい笑顔を見たら、誰でも帰りたくなるだろう。

 僕何て、今から逃走したいのに。






「須王さん、この後どうするんですか?」

「あ、えっと………落ち着いてお話をしたいので、私の家に来ていただけますか?」

「………はい」






 千紘の姿が無くなった途端、いつも通りの笑顔に戻った須王さん。

 いつの間にか、震えていた手も止まって、さっきまでの光景が幻であったのでは無いかと思わされてしまう。

 





「それでは行きましょうか」

「あ、はい………」







 須王さんにエスコートされリムジンへと乗り込んだ僕は唖然とした。

 車とは思えない広々とした空間と高級感溢れる車内に。

 二つの長椅子が向かい合って並び、真ん中にテーブル。

 何処かのホテルの待合室ですか?と訪ねたくなるほどオシャレな車内。

 まさか、一生の人生の中でリムジンに乗る機会があるなんて思わなかった。

 


 須王さんの「出してくれ」という声で動き出したリムジン。

 まさか、車内でエンジンの音が聞こえないなんて。

 しかも、僕の目の前で足を組んで座る須王さんは、何故か此方をガン見したまま何も言わない。

 どうして、そんなにこちらを見る。

 僕の顔に何か付いてますか?

 それとも、これからどうやっていたぶってやろうかと考えているのか。




 須王さんから放たれる冷たい視線に気づかないフリを続け、僕は珍しくもない街並みを見続けた。

 所々で「どうしたものか」とか「分からない」など独り言が聞こえてくるが、それにも気づかないフリを続けた。

 いま悪魔と目を合わせてしまったら、きっと僕の命はない。

 そんな予感がしたからだ。








####


「でか………」




 星城学園から約一時間車を走らせ着いたのは、まさに豪邸。

 この前、柊蓮を家まで送った時も立派な家だと思ったけど、もはやこの人までいくと次元が違う。

 リムジンの中がホテルの待合室なら、此処はホテルだ。





「間抜けな顔してないで早く来い」

「………え?」







 隣から聞こえたドスの利いた声に僕は思わず須王さんを見上げた。

 その顔には、もう正門で向けてくれた王子様スマイルは無く悪魔の本性が丸裸になっていた。

 切り替え早すぎだろ。

 スタスタと僕を置いて歩いていく須王さんの後ろを駆け足で着いて行った。

 中に入り、まず始めに驚いたのはメイドさんと執事さんの人数と顔面偏差値だ。

 執事は全員美形&高身長、メイドは美人系と可愛い系がイイ感じの比率で居る。

 なんだ、この楽園は。

 二つ目に驚いたのは、キラキラしたシャンデリアと王宮とかにありそうな広い階段。

 周りに置かれている置物や絵画の数。

 僕みたいに平凡に暮らしてきた人間からすると、この空間自体が非現実的すぎて開いた口が塞がらない。

 


 僕が周りをキョロキョロしていると、一番偉そうな雰囲気を纏う少し歳をめした執事さんが須王さんの傍により挨拶をし、そしてすぐに数枚の紙を見せながら難しい顔で話しを始めた。

 話をしながらでも慣れた様子でブレザーを脱ぎ荷物を執事さんに渡している須王さんを見ると本当にお坊ちゃん何だと実感する。

 あんなスマートに出来たらカッコいいだろうな。

 何て考えていると、小柄な可愛らしいメイドさんが一人僕へと近づいてきた。





「お、お荷物お預かりします!」

「ぼ、僕は大丈夫ですよ!お気になさらず!」

「え……‥‥」





 シュンと肩を落としたメイドさん。

 え、何この小動物。耳と尻尾が一瞬で垂れたように見えたんだが!





「や、やっぱりお願いしてもいいですか?」

「…!!はい!」





 満面の笑みで僕のブレザーと荷物を受け取ってくれるメイドさん。

 何か、この喜怒哀楽の分かりやすさといい、この小動物観と言いチワワみたいだな。

 こんな可愛い彼女が居れば、僕の学園生活はまさに充実していただろうなー。




「あ、あの………」

「ん?」




 下から小さく声を掛けられてメイドさんを見ると、何故か顔を赤くして照れた様子を見せている。

 え?どうして、そんな顔をしているの?

 と疑問を浮かべた所で僕は気づいた。

 無意識にチワワメイドさんの頭を撫でていたことに。





「わぁぁあああ!!ご、ごめんなさい!無意識で!」

「い、いえ!!大丈夫です!私も心地よかったので……」





 恥ずかしがりながらも、そう言葉にしてくれたメイドさんに僕は歓喜の声を上げたくなった。

 そんな僕とメイドさんの間に、この場にそぐわないむず痒い雰囲気が漂う。

 え、これってまさか。

 恋の始まり?!まさかの須王さんの家で働くメイドさんとの恋!





「あの、よかったらお名前を「何をしてる」……」


 



 いつの間にか話を終えていた須王さんが僕の腕を掴み、低い声で後ろから圧をかけてくる。

 須王秀哉、貴方は空気を読むということを知らないのか。

 僕が言うのも何だが、確実に僕とメイドさんの二人の世界が出来上がっていただろう。

 ほら、周りを見ろ。 

 全員が渋い顔をしているじゃないか。

 





「別に何も……」

「そうか、なら早く来い」






 グイグイと僕の腕を掴んだまま階段を上がっていく須王さん。

 まるでシェイクスピアの代表作ロミオとジュリエットの様じゃないか。

 強制的に連行された僕は、須王さんの部屋へと連れて来られた。

 「適当に座れ」と言い、奥へと姿を消した須王さん。

 座れって言われてもスイートルームみたいなこの部屋の何処に座ればいいのか。

 よし、取り敢えず逃げられるようにドアの近くで立っていよう。

 

 壁に飾られた写真を見ながら須王さんが戻ってくるのを待っていると、驚く光景が現れた。

 シャツの袖を捲り、珈琲とお菓子を持ってくる須王さんの姿だ。

 しかも、珈琲カップの数は二つ。

 僕の分がある。 

 どういう事だ。

 もしかして、これはドッキリか何かか?

 それか、この珈琲には毒か下剤でも入っているのか?





「写真なんて見てもつまらないだろ。早くこっちに来い」

「あ、はい」





 ドアの前から離れ、須王さんが座るソファーの向かい側の床に腰を下ろした。





「何してる」

「え、座ってます」

「はぁ。どう考えても座るならこっちだろう」





 ポンポンと隣を叩かれ僕は、またもや唖然とした。

 今日の須王さんはどうしたんだ。

 疑問は増えていく一方だが、兎に角言う通りにしようと少し距離を開け隣に座った。

 背凭れに肘をつき、足を組んで珈琲を飲むその姿は、まるでモデル写真の一枚の様で実に絵になる。

 僕の恋の始まりを邪魔したことは許せないが、イケメンなんだよな~。






「お前は飲まないのか?それとも珈琲は苦手だったか?」

「あ、いえ!大丈夫です!いただきます」






 珈琲カップを持つ手が自然と震える。

 何故か二人っきりの部屋に入った途端、纏ってる雰囲気が柔らかくなっている気がする。

 これは、何かの罠だろうか。

 僕が油断した所を見計らって、千紘の情報を得ようと考えているのだろうか。

 それなら、速やかに用件を聞いてこの須王の王宮から脱出しなければ。






「それで、今日は一体何のご用件で……」

「あぁ。いくつか話がある。一つ目は、いつになったら七瀬千紘のアドレスを教えるんだ」

「まだ諦めてなかったんですね」

「諦めるか」





 自分で聞けと言いたいが、今日の千紘の前での姿を見たら、そんなことは言えない。

 心の準備をしていない時に千紘が現れると、あんなにキャラ崩壊するんだと知ったから。





「……。分かりました、帰ったら千紘に教えて良いか聞いて了承を得たら紙に書いてお渡ししますよ」

「紙に書く?お前がメールで送ればいいだろう」

「追加しないといけませんか?」

「………当たり前だろ」






 僕を見る目に鋭さが加わる。

 怖すぎか!

 




「分かりました」





 バレない様に小さく溜息をつきながら、珈琲を机の上に置いた。

 そこで、僕は目を見開いた。

 須王さんが珈琲と一緒に持ってきたお菓子が、今大人気の洋菓子屋さんのクッキーだったからだ。

 長蛇の列で朝早くから並ばないと手に入らないと噂の洋菓子店のクッキーをあんな当然の顔で出してくるなんて、なんて人だ!






「二つ目が「これ食べてもいいですか?!」え、あぁ」






 須王さんにグッと体を近づけ前のめりでお願いすると少し引いた様子で承諾してくれた。

 一枚手に取り口の中に入れると、広がるのはスーパーで売っているクッキーの様なぱさぱさ感ではなく、フルーツの香りと滑らかな口触りだった。

 流石、大人気店。その理由に納得してしまう。

 甘党の僕からしたら、こんなレアなものを口に出来るなんて本当に有難い。

 



 黙々と食べ続け、お皿に残っているのが数枚になった所で僕はハッとした。

 須王さんの話を遮りクッキーを食べた挙句、用意してくれた本人をそっちのけでお皿に入っていた九割を食べてしまった。

 今、須王さんはどんな顔をしているだろう。

 きっと怒っている。 

 正門で見せた顔よりも、もっと恐ろしい顔をしているに違いない。

 見たら終わりだ。

 だが、何か言わなければ僕の命はない。

 


 少しだけ表情をチラ見してから、何て声掛けるか考えよう。




 心の中でカウントダウンをし、ゼロになったタイミングで須王さんを見た。

 すると、怒っているという僕の予想とは程遠い優しい笑顔で僕を見ていた。

 いつも見せている王子様スマイルとは違う。

 これが素の笑顔何だろうと思わせるほど自然で優しい笑顔。

 ドキンッと僕の心臓が脈打つ。 





「そんなに上手いか?口にカス付けてるのを気づかない程」

「え………あ、はい……美味しいです」

「そうか。まだ、あるから好きなだけ食べろ」

「ありがとう……ございます」





 僕の口の端に付いたクッキーを取ってくれた須王さんは立ち上がり「他のも持ってきてやる」と言って、また奥へと引っ込んだ。

 ドキドキと心臓がうるさい程鳴っている。

 なんだ、今の笑顔は。






「流石に反則だろう……」






 熱くなる顔を手で隠し項垂れる僕。

 ドキドキと大きな音を立てる心臓を静めようとするが、さっきの笑顔が頭から離れない。

 しっかりしろ、僕!!





「大丈夫か?」

「え!あ、はい!大丈夫です!」





 さっきと変わらない様子で戻って来た須王さんは、追加のクッキーを机に置き口を開いた。






「話の続きだが、来月に両校合同の創立記念パーティーがあることは聞いたか?」

「え?何も聞いてませんけど」

「そうか、それが六月にあってだな。……俺の学園とお前の学園との合同なんだが」

「合同?!」





 来ました、来ました。

 星城学園と桜蘭学園の合同創立記念パーティー。

 これは、お相手選択のとても重要な分岐点になるイベント。

 そう【お相手決定イベント】なのだ!

 合同創立記念パーティーの夜、千紘と過ごした人が共にエンディングを迎える切符を手に入れることができる。






「互いに学園が出来た時期が同じでな。今年で五十周年を迎えるので、流石に周りの目を気にしたのか理事長から協力するように言われた。そこで、その為の役員を選別しないといけない」

「なるほど」 

「そこに俺は七瀬千紘を入れたい」

「あ、自分の学校の選別じゃなくて、僕達の役員の相談なんですね」

「当たり前だ。俺の部下は優秀な奴ばかり、選抜などしなくても問題はない」

「素晴らしい自信ですね」






 追加のクッキーを頬張りながらふんぞり返る須王さんを眺める。

 二年生に上がって、まだそんなに経っていないがもう分岐点近くまできたのか。

 このゲームは分岐点に辿り着く過程は少し短いが、その分分岐点後が他社のゲームよりも長い。

 普通なら付き合って、その後は殆どゲームとして描かれないが、このゲームは違うんだ。

 お相手決定が早いことで、二人のその後をじっくりと見る事が出来るという、最高なゲームだ。

 あ、勿論付き合う前のストーリーも他者と比べて格段に上ですよ?

 何といっても僕の大好きなゲームですから!




「その話をして僕にどうしろと?」

「だから、七瀬千紘を役員に入れるためにお前にも入ってもろう」

「はい?!僕ですか?!」 

「あぁ、幼馴染のお前が居れば七瀬千紘も断らないだろうと思ってな」

「なんですか、それ。役員とか面倒なこと僕は嫌ですよー」

「お前に拒否権があると思ってるのか?」





 さっき見せた笑顔は何処へやら。

 完璧な王子様スマイルでいつも通り圧をかけてくる須王さん。

 だが、僕が別にこの人のいうことを聞く必要なんてないじゃないか。






「どうして僕が「この菓子、そこそこ高いらしいな」ッ!!」

「沢山食べたようだが、美味しかったか?」

「オイシカッタデス」

「そうか、だがお前が食ったせいで全て空になってしまった。どうしたものか」

「なんですか……もしかして大切なお菓子だったとか言わないですよね?」

「俺の母親が大好きな菓子だったんだが……どうしたものか………」






 自分の母親が好きなお菓子を何でわざわざ出してくんだよぉぉぉお!

 馬鹿なの?しかもお菓子追加までしてくれちゃってさ!

 空になった後に言わないでくれよ!






「どうしようか、霧島凛君」

「………ますよ」

「ん?聞こえないなー」

「役員やりますよ!」

「フッ。最初からそう言えばいいんだ。桜田には俺から話を通しておく。七瀬千紘はお前の方から説得しろ。いいな」

「はいはい」

「何だそのやる気のない返事は」

「分かりましたよ!」








 モブであるはずの僕が、まさかこの文化祭に関わることになるなんて。

 どっちにしても、千紘は役員を引き受けるし僕は居なくても問題ないのに………。

 いや、待てよ。

 この合同創立記念パーティーの責任者を担当するのは前野先生だ。

 これから、パーティー開催までの間二人と会うことは多くなる。

 なら、僕がそれとなく二人がくっつくように誘導することが可能じゃないか。

 




 須王さんや他の攻略キャラには申し訳ないが、僕は彼らを引っ付ける為だけに動く。

 






「それって、いつやるんですか?」

「まだ確定ではないが、六月の第一土曜日だな」

「なるほど……」







 与えられた時間は約一か月。 

 これからが僕の腕の見せ所だ。

 





春休みも長くなり、私も暇な日が続いています。

これから、もっと更新できそうなので頑張りますね!

分岐点まで残り一か月、主人公がどう動くのか見どころです。

是非楽しんでお読みください!

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