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第十二話 「僕ってやっぱりトラブルメーカー?」



 兄ルートへと移行する親愛イベントを阻止して終えた休日。

 また一週間、長い学校が始まります。

 なので、兄さん達と同じ時間に起きれなかった僕は少しギリギリの時間に家を出て元気に学校へと登校する予定だったのですが……。




「その制服、星城学園だよな?」

「金持ちのお坊ちゃん校って有名な所じゃねーか」




 学ランを着た変な髪形の、見るからにモブオーラ全快のヤンキーに朝から絡まれてしまいました。

 なんだ、この見るからに雑魚キャラ感溢れる二人組は。

 僕が言うのも何だが、口にしている台詞からしてよくゲームとかで、ほんの一瞬だけ出てくる雑魚モブキャラそのものじゃないか。

 何とも可哀そうな。




「どいてもらえませんか」

「坊ちゃん学校に通ってんなら金持ってるよな?」

「いや、僕金欠なんでお金無いです。」

「俺ら、今金欠でよ。貸してくれよ」




 いや、僕の話を聞けよ。

 スゲェ、スルーするじゃん。

 てか、金を貸してくれってどうせ返してくれないし、ましてやアンタら誰だよ。

 制服からして、この辺で少し有名な名前を書けば入学出来るっていう黄龍学園の生徒だろうけど。

 せめて、日本語ぐらいちゃんと正しく使ってくれよ。




「だから、僕も金欠でお金がないんですって」

「嘘つくなよ」

「いや、本当に」




 そう。

 残念ながら、昨日のお出かけの時に奮発して服や靴、漫画などなど色々な物を爆買いしてしまったことにより、僕のお財布は金欠という名の悲鳴を上げているのだ。




「なんなら確認します?」




 僕は鞄の中から財布を取り出し、モブヤンキーに中身を見せた。

 すると、彼らは信じられないと言わんばかりに僕の財布を奪い何度も中身を確認する。

 そんなに見ないでくれ、恥ずかしいじゃないか。

 残ってる僕の全財産、百五十六円を暫く眺めたヤンキーは同時に顔を上げ僕に向かって財布を投げ渡した。




「ちょっと待ってろ」




 そして、何故かタイムを要求された僕をよそにヤンキーを背を向けコソコソと小声で話し始めた。

 僕を置いて一体何の話をしているんだ。

 この距離じゃ話していることは分かっても内容までは聞き取れない。

 ヤンキーならもっと堂々と声張り上げて話せよ。

 というか、僕も僕で何で素直に待ってるんだ。

 ヤンキーの話し合いが終わる前に、このまま無視して別の道から学校に向かえるじゃないか。

 あ、そっか。




「そうしよう」




 僕はポツリと呟き、踵を翻し歩き始めた。

 だが、やはりヤンキーダル絡みイベントは、そう簡単には解決しないのが鉄則で。




「おい、待てよ!」

「なんですか」




 歩き出した僕の肩を掴んだヤンキーは怪しげな笑みを浮かべ僕の肩を抱き寄せた。

 ゾワッと背中に悪寒が走るのが分かった。

 まて、とてつもなく嫌な予感がする。


 


「金がないなら、今から俺たちと遊んでくれよ」

「……遊ぶって」

「勿論………」




 二やッと不敵に笑ったモブは、顔を僕の耳元に寄せ吐息多めの声で言い放った。




「大人の遊びだよ」





 またかぁぁああぁ!!!!

 どうして僕はこうも、R18禁のネタになりそうなイベントばかり寄せ付けるんだよ!

 それに僕の耳元で、そんな気持ち悪い吐息多めの声で囁かないでくれ!

 僕は正真正銘の声フェチだぞ!

 そんな僕に、お前の様なゲスボが囁いて良いはずないだろ!

 なんの拷問だ!このゲスボ吐息中め!!




「いや……僕学校がありますので」

「遠慮するなよ」

「俺たち、そこそこ上手いからよ」




 今の僕の顔を見て遠慮している様に見えているんだとしたら、取り合えずお前たちは今すぐ眼科に行った方がいい。

 しかも、その顔で『大人の遊び』とか恥ずかしげも無く言うなんて本気で勘弁してほしい。

 言われた側のこっちが恥ずかしい気持ちになる。

 早く、この場から逃げ出したいが、モブであっても一応はヤンキーとだけあって握力はそこそこな訳で、僕の貧相な腕の力じゃ振りほどけそうにない。

 貧相………。

 自分で言っておいて何だが言いすぎた。

 もう少し僕の子の腕に似合いの言葉があるはずだ。


 

 

「時間が惜しい。早く来い!」

「わぁ、ちょっと!」




 急にグンッと腕を引かれ僕の体は前へと傾く。

 これは確実に倒れる。

 頭の中で瞬時にそれを確信した僕は、地面との熱いキスを待つ為硬く目を閉じた。

 だが、いつまで経っても地面からのキスは送られず、代わりに僕の体は予想とは違う心地よい熱と嗅いだことのあるバーベラの香りに包まれた。




「大丈夫か?」

「不知火さん!」




 顔を上げると、そこには僕のヒーローこと不知火太陽さんが居た。




「トラブルに巻き込まれるのは、お前の特技なのか?」

「違いますよ!こっちだって好きでこうなってる訳じゃ……!!」

「ホントかよ。まぁ良いわ。ちょっと待ってろ」




 僕の頭をポンポンと撫でた後、不知火さんは僕を背にヤンキーの前に立ち塞がった。




「それで?コイツを何処に連れて行くって?」

「誰だてめぇ!」

「先に質問してんのは俺だ。早く答えろ」





 裏社会に足を踏み入れているだけあって、普通の人には出せない威圧感を放つ不知火さん。

 助けて貰っている僕ですら、怖いと感じるのだから、敵意を剥き出しにされているヤンキーたちからしたらとんでもない恐ろしさだろう………。

 何故そう思うかって?

 さっきまで血相の良かった顔が青白く変化を見せていることが、それを痛い程物語っているんだよ。





「……いや、ちょっと……遊ぼぅ……かな……と……」

「遊びたいなら俺が相手してやるよ。本当の大人の遊びってのを教えてやる」

「「ヒィッ!!」」




 

 待て待て。

 『本当の大人の遊び』って何だ?!

 その講義に関しては、是非僕も参加させて頂きたい!

 あ、勿論見学者としての参加で。 



 女の子の様な声にもならない高い悲鳴を上げたヤンキー達はアニメや漫画に出てくる雑魚キャラうぃ代表するかの如く踵を翻しあり得ないスピードで逃げて行った。



 スゲー。

 男の中の男は、手何て使わなくても言葉と言う名の武器とオーラという名の防具で相手を負かすことが出来るんだな。

 これくらい強くなれたら僕もモテモテになって、彼女作りたい放題のパラダイス生活を送れるのでは?





「おい、怪我とかしてねぇか?」

「え?あ、はい。大丈夫です!」





 同じ目線になる様に少し屈んだ不知火さんは、僕の顔を見てホッとした様に笑ったものの、僕の腕へと目線を落とした途端、突然真顔へと急変した。

 なになに??

 怖いんだけど。

 その顔の変化は一体なに?!

 それに、この場だけ別空間みたいに空気に重さを感じるのは一体どうして。

 



「その腕」

「腕?あ……」




 示された腕を見ると、さっき連れて行かれそうになった時に捕まれた場所が赤くなっていた。

 引っ張られた時の力凄かったからな~。

 僕の可憐な腕はあのゴリラの様な力に耐えられなかったんだな。

 それは仕方ない。

 まぁ別に、居たい訳じゃないし全然大丈夫だけど。





「少し時間をくれ。すぐにアイツらを見つけ出す」





 スマホを取り出した不知火さんは、誰かに電話を掛けようとしていた。

 この状況で誰に電話を掛けてるんだろう?

 というか、今僕の聞き間違いじゃなければ『見つけ出す』って言わなかった?

 そんなの一体どうやって………。





「まさか」





 僕の頭の中には、黒服に身を纏うヤクザ集団が浮かび上がった。

 それはヤバイ。

 これはただ事じゃなくなる。




「いやいや!何処に電話するつもりですか!」

「俺の家だ」

「何で家?!」

「心配するな、あんな奴ら一瞬で見つけ出してやる」

「見つけ出さなく良いですって!少し赤くなっただけで、全く全然痛くないですし!」

「駄目だ」

「駄目じゃないです!本当に大丈夫ですから!」





 僕は慌てて不知火さんの服を引っ張り体が傾いたところで、耳にあてていたスマホを奪い取り電話を切った。

 危なかった。間一髪とは、まさにこの事だ。

 切った画面を確認すると、呼び出し名【組】と表示されていた。

 あと少しで本気で笑えない状況になるところだった。





「何してる。早く返せ」

「電話しないって約束するなら返します」

「何でお前がアイツらを庇うんだ!」




 

 どす黒いオーラと鬼の形相で僕を見る不知火さん。

 正直言ってとんでもなく怖いが、此処で折れてしまい話が大きくなる方がもっと怖い。




「庇ってるんじゃなくて、そんな大事にしたくないんですよ!」

「大事にならねぇよ。その前に消す」

「消すってなんですか!しかも、呼び出し名が組って色々どういう事ですか!」

「どうもこうもねぇ。俺の組の奴らを使ってアイツらを消すってだけだ!」

「……俺の………組?」






 僕の反応をみた不知火さんは「しまった」と言葉を漏らし、視線を逸らした。

 確か不知火さんは、主人公に自分の立場を知られたくなくてエンディング間際まで誰にも気づかれない様に隠し通すはずなのに、まさかの自分から『俺の組』宣言しちゃったよ。

 売り言葉に買い言葉というのは本当に怖いものだ。

 思ってもない所で口を滑らせてしまうじゃありませんか。

 それか、此処は敢えての設定には無かった隠れ天然キャラという考え方も出来る。





「いや、何でもない」





 さっきまでの姿とは、まるで別人の様に小さな声で呟いた不知火さんだが、そこまで言って『何でもない』は正直無茶だと思う。

 普通に千紘や他の人なら、どういう事か聞いただろう。

 だが、まぁ僕は誰にも言うつもりもないし、最初から知っていたからどうでもいい事なのだ。




「そうですか。兎に角、助けて頂きありがとうございました」

「お、おぅ……」




 唖然とした表情をする不知火さんと視線が交差する。

 何故そんな顔をするのだ。

 お礼を言ったのに、その表情は少し心外だ。





「なんですか」

「え、いや……」

「いや、なんですか」

「その………色々聞かないのか?」




 さっきまでの圧力は一体何処へいったのだろう。

 困ったように頭を掻く不知火さんの視線は、さっきから落ち着かず泳ぎっぱなしである。




「教えてくれるなら聞きますけど、言いたくなさそうなので別にいいかな~と」

「………」






 言おうか悩んでいるのは一目瞭然だが、僕は此処であることに気づいてしまった。

 今から学校であるという事実だ。

 こんな所で油をうってる暇なんてない!

 皆勤賞を狙う僕が、モブヤンキーに絡まれただけで今までの努力が水の泡になる何て絶対に嫌だ。

 僕は不知火さんにスマホを押し付ける様に返し、自分のスマホで時間を確認する。

 




 八時十分。

 




 遅刻までのタイムリミットまで、残り時間十分。

 まだ走れば間に合う。

 此処でバスケ部の実力を見せずして何時見せる!





「すみません!そろそろ行かないと学校に遅刻するので僕はこれで!」

「いやいや、待て!」





 腕を掴まれ、猛ダッシュ開始を呆気なく阻止された僕は「何をするんだ!」という気持ちを込めて不知火さんを睨み上げた。

 すると、不知火さんが誰かに「来い」と一言電話をし、睨む僕の頭を撫でながら「ちょっと待ってろ」と言ってきた。

 なんだ、その子ども扱いは。

 そして何故だ。

 何故、一緒に待たなければいけないのか。





「お礼はまた今度ぜったいしますから、取り敢えず開放して下さい!僕には皆勤賞がかかってるんです!」




 こんな台詞を僕の口からいう日が来るとは思わなかった。




「落ち着け、あと少しだから。な?」




 不知火さんが、そう言ったのも束の間、黒い如何にも高級車と言わんばかりの輝きを放つ一台の車が凄いスピードで目の前に止まった。

 どういうことだ。

 僕は学校に行きたいのに、まさか今から拉致されてしまうのか?

 不安になり不知火さんを見ると何も言わず僕を車の中へと促す。

 本当に待ってくれ。

 全てが異次元すぎて色々と思考が追い付かないのだが。

 電話をしてからの到着スピードもそうだが、運転席と助手席に座るガタイの大きないかつい感じの黒スーツのお兄さん方と言い、僕の横で何も言わず返したスマホを触っている不知火さんといい、この空気間の異常さに僕は気絶しそうだ。

 足を組み寛ぐ不知火さんを見て、僕はあることに気が付いた。





「どうして僕と同じ制服を着ているんですか?」

「ようやくか。気づくのに随分時間がかかったな」

「いや、色々パニックで服装何て気にしてる余裕ないですよ!」

「それもそうだな」




 笑いながら、またもや僕の頭をくしゃくしゃと撫でる不知火さん。

 きっと、これか彼の癖なんだろう。





 すると、運転をしているお兄さんがバックミラーごしに不知火さんを見て「組長も学校で降りられますか」と質問を投げかけた。

 一瞬で車内の空気が凍り付く。

 ついさっき、その話が終わった所なのにスタート地点に戻っちゃったよ。




「組長………」




 不知火さんを見ると、今にも人一人ヤリそうな程恐ろしい目つきで口を滑らせたお兄さんを見ている。

 ヤバイ、この空気どうにかしないと。





「ってことは、転校してくるってことですよね?」

「え?あぁ、そうだな。三年で転校ってのも可笑しな話だけどな」

「あ、先輩なんですね」

「当たり前だろ」




 笑いながらコツンッと優しく頭をこつかれながら、凍り付いた空気が戻ったことに僕はホッと胸を撫で下ろした。

 だが、一つだけ疑問点がある。

 不知火さんが転入してくるのは、千紘と何らかの面識を持ってからのはずだ。

 なのに、千紘の一切の面識を持たないまま転入してくるなんて色々筋道が可笑しい気がする。

 僕が首を傾げ頭を悩ませていると「そういえば」と隣から声が聞こえた。




「さっき助けた時、お礼してくれるって言ってたよな?」

「え?あ、はい」

「じゃ、一つ頼んで良いか?」

「僕にできる範囲のことなら」





 ニヤリと笑った不知火さんは、突然僕の肩に手を回し顔を近づけて来た。

 なに?!

 一体どんな事を頼むつもりなんだ。

 この距離感は一体なんなのだ!





「なら、今日の放課後お前の時間を俺にくれ」

「え?」






 な、な、なんですとぉぉぉおお!!

 まさか、少女漫画で使われそうな台詞を僕みたいなモブにまで使ってしまうのか!

 そんな安売りをしていいのか!

 その顔で、そんなカッコいい台詞を言われたら「勿論!」と心を躍らせながら承諾したい処だが、放課後は残念ながら部活がある。

 キャプテンは兄さん、副キャプテンは秋兄という、鉄壁の壁を僕一人で破ることは到底不可能だろう。




「すみません。放課後は部活があるので無理です。というか頼み事の内容って?」

「部活か……なら、仕方ねぇな。学校案内を頼みたいと思ってな。昼休みとかは空いてるか?」





 待ってください、組長。

 今、学校案内と言いましたか?

 僕の聞き間違いや、空耳じゃないですよね?

 千紘と出会っていないとはいえ、どうして千紘との最初のイベントシチュである学校案内が僕へと回ってくるんだ。

 不知火さん!貴方の選択は確実に間違っています!

 世の中には焦りは禁物という言葉が存在するんですよ!

 


 兎に角、千紘とのフラグが立たないことは有り難いが、せめて学校案内のイベントだけでも、この目に収めたい。





「学校案内ですか!昼休み、僕は用事があるので無理ですけど僕の幼馴染なら空いてるのでソイツに頼んでおきますよ!」

「………凛が無理なら別の日でいい」

「はい?」




 待て待て。

 どういうことだよ。

 何故そういう選択になる。




「あの………ソイツ凄い良い奴で、きっと僕よりも何百倍も分かりやすく案内してくれると思いますよ!」

「いや、いい」




 不貞腐れたように頬を膨らませてそっぽを向く不知火さんに僕は頭を抱えた。

 何故、こうも頑なに主人公である千紘との接触を拒否するのか。

 他の攻略キャラ達なら、絶対両手を広げて喜んでいるところだぞ!

 なのに、何だ!

 その膨らんだ頬は!

 可愛いじゃないか!




「あの………」

「お前は」





 僕の言葉を遮る様に不知火さんが口を開いた。





「お前は俺に案内をするのが嫌だってことか?」

「いえいえ!決してそういう訳では!」

「なら、なんでさっきから、その幼馴染に押し付けようとしてるんだ」

「お、押し付けとかではなく、僕はただ………」





 『ただ』から言葉が出ない。

 『ただ他のイベントは全力で阻止させてもらうので、初イベントだけでも拝みたいと思いました!」何て言えないし、相手からしたら意味が分からない話だ。

 どうする。

 この窮地を僕はどう切り抜ける。





「ただ、不知火さんの隣を歩くには僕じゃ色々と低い気がしまして」

「低いって?」

「そんなの容姿やオーラ、全てに決まってるじゃないですか」

「そんな真顔で言うなよ」





 真顔以外のどんな顔で言えというのか。

 自分で言ってて辛くなるっていうのに………。





「兎に角、千紘ならそんな心配もいらないのでアイツに頼みます」

「だから、俺はお前がいい」

「何でそんなに僕に拘るんですか」

「何でそんな頑なに拒むんだよ」





 ダメだ。

 終わりの見えない会話のループに方向性を見失ってしまいそうだ。

 どちらかが折れないと絶対に終わらない。

 これはもう、諦めた方が良さそうだ。





「はぁ、分かりました。昼休みの時間に僕が案内します」

「何だ。最初からそう言えばいいんだよ」




 満面の笑みで僕の頭をまた撫で、不知火さんは「もうそろそろ着くな」と制服を整え始めた。

 こんなにずっと撫でられ続けたら、いつか僕の身長が縮んでいくんじゃないだろうか。




「ほら、着いた。走れば間に合うか?」

「あ、はい!」




 いつの間にか車は学校の正門前に止まっており、時間を確認するとタイムリミットまで残り三分も残っている。

 何て言うスピードだ。

 間に合わないと半分諦めていたが、まさかこんなに猶予があるなんて!




「十分間に合います!ありがとうございました!」





 勢いよく頭を下げ、僕は扉に手を掛けた。

 だが、




「ちょっと待て」

「ん?」




 後ろから僕の肩を掴んだ不知火さんはそっと髪に触れ小さく笑った。

 その優しい手つきと微かな微笑に僕の心臓がドキンと音をたてる。

 なんだなんだ!

 その笑顔と優しい手つきは!

 僕も何男相手にドキッとしてるんだよ!





「寝ぐせついてる。ちょっとジッとしてろ」

「あ、ありがとうがざいます……」




 誰かに髪を触られることが無いからか、不知火さんの手つきが妙にくすぐったく感じる。

 それに、何だか気持ちいいな………。

 ん?

 んんんん??!!




「こんなことしてる場合じゃない!!」




 我に返った僕は鞄を持ち直し、不知火さんの手を振り切り大慌てで車から降りた。

 タイムリミットまで、後三分しかないのに、髪をとかれて和んでる場合じゃないだろ!





「本当にありがとうございました!また昼休みに!じゃ!」






 不知火さんの返事を待たず、僕は踵を翻し走り出した。

 一年の教室まで全力疾走しなければ、もう間に合わない。

 いや、走っても間に合うか微妙なラインだ。

 門をくぐり抜け、校舎の中を颯爽と走り抜ける僕は、今まさにメロスの気分だ。

 走れ僕!

 風のように!颯爽と!






######



 慌ただしく駆け出した凛の後ろ姿を見送った不知火は、楽しそうな笑みを浮かべていた。



「とても楽しそうですね、組長」

「まぁな」




 不知火が車から降りると、凛とは入れ違いでスーツを身に纏った男が歩いてきた。

 そう、彼はこの学校の設立者である理事長だ。




「お待ちしておりました、不知火様」

「出迎えはいいと連絡したはずだ。それに敬語も止めろ」

「では、お言葉に甘えて。変わりないようで安心したよ」

「あぁ」

「転入をごねていたらしいな。それに今日も来るか分からないという話だったみたいだが、どういう風の吹き回しだ?」

「………来る理由が出来たから来ただけだ」

「理由?」






 そう言って校舎へと目線を投げた不知火の横顔に理事長は目を丸くした。

 喧嘩しか楽しみが無いと言語していた不知火が、あまりにも優しい笑顔を見せていたからだ。






「まぁ、一年だけだが宜しく頼む」

「こちらこそ、強いて言うなら問題だけは起こさないで貰えると助かるよ」

「失礼な奴だな。起こさねーよ」




 


少しぶりです!

感想を聞かせて下さる方がいて、とても嬉しく思います!

ここから、攻略キャラvs自称モブくんとの対決が本格的にスタートします!

波乱万丈な学園生活をお楽しみください!

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