第十話 「お出かけデートは修羅場の前置き?」
柊蓮から『千紘が好きだ宣言』を受けてから早数日。
今日は久しぶりの休日。
先生の諸事情で部活も一日オフになり、今日一日何をして過ごそうかベッドの中で考えている。
折角の休日だ。
最近色々なことがあったし、リラックスできる充実した一日にしたい。
だが、僕の様なインドアな人間にはその”充実”した休日の過ごし方何て考えたところで思いつくはずもない。
外に出るとしたら、何処がいいだろう?
ショッピングモール……。
本屋……。
オシャレなカフェ……。
何処に行くにしろ、一人じゃつまらない。
それに、きっと僕一人じゃ意気込んで外に出たものの、向かっている途中で面倒になり、コンビニでお菓子でも買って、そのままUターンして家に帰ってしまうのがオチだ。
兄さんは友達と約束があるからと朝早くから出かけたし、千紘は付き添いを頼まれてると言っていたから、きっと家にはいない。
というか、今考えると二人とも休日に出かける何て珍しいな。
「………」
何て考えたところで僕は動きを止めた。
二人揃って出かける何て本当に珍しい。
いつもなら二人とも「一緒に行く?」とか「出かけようか」とか必ず僕に声を掛けてくれる。
それに、兄さんはこれまで何処かに出かける時は、行き先や帰る時間などわざわざ僕に教えてくれていた。
なのに、昨日の夜食時は……。
『明日友達と出かけるから、朝早く出るね』
ご飯を食べながら、いつも通り予定を教えてくれる兄さん
『そっか~まぁ久しぶりの休日だもんね。何処行くの?』
『んー。……まだ決まってないかな』
その時は、兄さん特性生姜焼きに夢中で何も考えていなかったが、明らかに言葉の途中に間があったし、兄さんに限って出かける前日まで行き先が決まっていない何てことあるはずがない。
長男であるが故か、そういう細かい所をキチンとしているのが我が兄なのだ。
「そういえば千紘も変だったよな?」
それは昨日の昼休み。
弁当を広げ他愛のない会話をしていた時のことだ。
『明日、久しぶりのオフだなー』
『本当に久しぶりだね』
『中々、休みくれないもんな~うちの部』
千紘と向き合いながら、いつも通りお弁当を頬張る。
小学生の頃から、このスタイルは変わらない。
『確かに。凛は何して過ごすの?』
『僕?僕はベッドの中でゴロゴロ転がってるかな?』
『うわぁ、ニートだ』
明らかに呆れた表情を見せる千紘。
『はぁ?!誰がニートだ!なら、そういう千紘はどうするんだよ!』
『俺?俺は……。ちょっと付き添いを頼まれてる』
そういって、僕から視線を逸らした千紘を凝視しながら兄さんの愛妻弁当を食べてたわけなんだが……。
こちらも兄さんと同じで言葉に間があった。
それに、千紘は僕に隠し事をすると口をもごもごと動かす癖がある。
本人は気づいていない僕だけが知る千紘の癖だ。
やはり、明らかにおかしい。
この底知れぬ違和感に僕の腐レーダーがビビビッと音を鳴らし反応している。
もしかして、二人で休日デート何て言うんじゃないだろうな。
可能性はある。
いや、待て待て。焦るな。
こういう時程、冷静に判断せねば。
一旦整理してみよう。
取り敢えず、昨日の夜から今朝にかけての兄さんの行動を思い返そう。
ご飯を食べ終わり、お風呂に入った後、遅くまで部屋でゴソゴソとしていた兄さん。
気になって少し覗いてみると、ベッドの上に並べられていたのは沢山の服。
きっと今日の服を選んでいたのだろう。
そして今朝、いつもは六時半に起きる兄さんが一時間も早い五時半に起床。
朝食は、僕の大好物のフレンチトーストとホットココア。
因みに僕のお昼ご飯に用意されていたのは、僕がフレンチトーストの次に大好きなオムライス。
兄さんが僕の大好物を用意する時は、大体機嫌を取りたい時か後ろめたいことがある時かの二択だ。
それを分かっていながら、今朝の僕は大好物のオンパレードを前に疑う処か、心躍らせてしまっていた。
肝心な時に何をしているんだ。僕は……
だが、そんな僕でも少し違和感を覚えたのは服装だ。
僕と兄さんが出かける時は、大体ラフな服装が多い。
だが今日は、チェックの長袖シャツに黒のジャケット、黒のスキニー、そしてブーツという何とも大人びた服装だった。
ラフな服も似合っているが、今日みたいなスタイルもいい。
新鮮かつレア度の高い服装に興奮し、自分の中で感じた違和感をそっちのけに心の中の一眼レフカメラで何枚も激写させてもらった。
「……。これは黒だな」
全てのパーツは揃った。
”腐”名探偵凛が推理するに、これは確実に千紘とのデートだ。
兄さんルートへの親愛イベントには確か、部品を買いに行くという名目で二人でお出かけデートがあったはず。
僕の推理が正しければ、今日がそのデートなのでは……。
「やってしまった……」
僕としたことが何という失態!
本当にやってしまった。
このデートが切っ掛けで二人の間が親密になってしまったら、僕の推しカプ成立計画が駄目になってしまう!
急げばまだ間に合う。こんな所で、全てを諦めてたまるか!
最大のメインディッシュは、部品を買い終わった後二人が立ち寄った水族館で見るイルミネーションだ。
此処さへ邪魔出来れば親密度の向上は阻止出来るはず。
それまでは、兄さん×千紘のダブルエンジェルカップルを拝ませて頂こう。
うん、今日一日どう過ごそうか悩んだが、とても充実した一日になりそうだ。
よし。そうと決まれば急がねば!
僕は布団から飛び起き、クローゼットの扉を開いた。
いつも通りの恰好だと、イベント発生を阻止する前に二人に気づかれてしまうかもしれない。
出来るだけエンジェルカップルのデートを長く見たいし、僕もいつもと違う系統の服を着よう。
グレーのタンクトップの上からベージュ色のオーバーサイズニットを着て黒のスキニー。
一応帽子も被っておこう。
鏡の前に立って服装をチェックする。
僕にしてはなかなか良いセンスだと思う。
それに、こういう服を着れば僕も少しは大人っぽく見えるじゃないか!
肩からかける式の鞄に財布とスマートフォン入れ、駆け足で一階へと降りお気に入りのスニーカーを履いて、鍵を閉め、家を出た。
そういえば、千紘が兄さんと出かけてるってことは秋兄はお家で一人悲しくお留守番をしてるのかな?
なんなら呼びに行っちゃう?
巻き込んじゃう?
水族館の春限定イルミネーションに男一人で来ているとか色々と悲しすぎるし、イベント阻止を考えるなら二人で邪魔した方が都合がいい。
「お、偶然だね」的なノリで二人のフラグを折ることができる。
それにどうせなら、デートしてる二人を見て妬く秋兄の顔も見たい。
三角関係のフラグを立たせたい。
よし、呼ぼう。
僕はスキップをしながら、隣の家で悲しくお留守番をする秋兄の元へと向かった。
ピーンポーン
秋兄を呼びに来たは良いが、さっきから何度インターホンを鳴らしても出てこない。
まさかの秋兄もお出かけ中?
折角、三角関係を拝めると思ったのに残念だ。
小さく溜息を付いた後、僕はドアに背を向けた。
すると……
「………」
「うわぁぁああ??!!」
顔を上げて歩き出そうとした瞬間、無言で立ち尽くしている秋兄に驚きの声を上げた。
ドクドクと心臓がとんでもない速さで動く。
何時からそこに居たの?
手に持っている袋を見るに近くのコンビニにお菓子でも買いに行っていたんだろう、後ろに居たのに全く気配がなかった。
というか、居たなら声かけてよ。
心臓に悪いじゃないか!!
「秋兄、居たなら声かけてよね!驚いたじゃないか!」
「……ッ?!す、すまん」
何故か僕を見て驚いた表情を見せた秋兄の目線は、僕の姿を上から下へと何度も往復し定まらない。
何さ何さ。そんなに見なくて言いたいことは分かるよ!
僕の服装が似合っていないとでも言いたいんだろう!
服の組み合わせは良いと自分でも割と自信があるが、僕の様な凡人が着た所で服に着られている感は否めないだろう。
「そんなに今日の恰好変?」
「へ?あ、いや!違う!違うんだが……」
だが……なにさ。その言葉の続きは!!
口ごもる秋兄。
止めて、何だがそんな反応される方が余計辛くなる。
もう秋兄の目線などどうでもいい!!
二人のデート時間には限りがあるんだ。
こんなことをしている今でも二人は話をしながら楽しく買い物をしているに違いない!
見たい、早く近くで見たい。
「まぁいいや。それより秋兄今から何か用事ある?」
「いや、特にはないな。強いて言うなら生中継でやるバスケの世界大会を見るくらいだ」
「そっかー。秋兄バスケの試合見るの好きだもんね」
三角関係に巻き込もうと思ったが、バスケが大好きな秋兄の楽しみを奪うのも気が引ける。
やはり今日は、一人で二人のフラグを折ることにしよう。
三角関係への発展はまた別の機会まで我慢だ。
「どうかしたのか?」
「ううん。なんでもなーい、それじゃ僕は出かけてくるよー」
そう言って秋兄の横を通り過ぎようとしたら、力強い手が僕の腕を掴んだ。
「何か用事があったんだろ?千紘なら朝から出かけてて今はいないが」
そんなこと分かってる!
何度も言うが、出かけている相手は貴方の恋のライバルであり、我が霧島家が誇る長男『霧島裕斗』だ!と言いたい気持ちを抑え僕は心の中で大きく深呼吸をした。
「そっか~でも、千紘に用があったわけじゃないし」
「千紘じゃない?なら……」
と言いながら僕へと視線を投げる秋兄。
え、なに。その目で訴えかけてくる感じ。
何故か子犬を連想させてしまう、その仕草に僕の心がキュンと鳴る。
「秋兄が暇ならショッピングモールにでも一緒に行きたいなーって思ってたんだ。バスケシューズも見たかったし。でも、試合観戦あるならいいや!それじゃ!」
秋兄が掴んでいる腕と反対側の手を「じゃッ!」上げ歩き出そうとすると、またしても腕を引かれ後ろへと下がってしまう。
「俺も行くわ」
「え?でも、試合観戦が……」
「試合何てまた見れるし録画しとけばいい。俺も行くから、ちょっと中で待ってろ」
「無理しなくていいよ」
「無理してない。凛からの折角の誘いだ。行かない訳にはいかないだろ?」
そう言ってニカッと笑った秋兄は僕の頭を一撫でして、鍵を開け家の中へと入っていった。
勿論僕も、その後に続き、家に入り、秋兄が奥の部屋で着替えをしている間に、リビングへ行き秋兄が見るはずだったバスケの世界大会を録画予約しておいた。
我ながら気が利くな~僕。
そういえば、秋兄の私服を見るのは久しぶりだ。
ワクワクした気持ちで待機していると、暫くして着替え終わった秋兄が部屋から出てきた。
「お待たせ」
オーバーサイズのパーカーにジーパンというシンプルな服だが、それを着こなす彼の素材は素晴らしい。
「どうした?」
「……相変わらずイケメンですね」
「なんだよ、突然」
「素材が良いと何でもカッコよくなるのか」
「何言ってんだよ」
「イケメンって羨ましい」
「はいはい」と言いながら少し耳を赤くしている秋兄に促され、僕たちは家を出てショッピングモールへと向かった。
勿論、赤面私服秋兄の姿も心の中の一眼レフで撮影した。
外に出て、歩きだした僕の足取りはまるで背中に羽が生えたかのように軽い。
僕がこれから秋兄をご案内するのは、三角関係という名の修羅場でございます。
そして、腐を愛する方々にとっては楽園の入り口でございます!
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電車に少し揺られ、駅から歩いて十分。ついに到着しました、学生行きつけのデートスポット『ショッピングモール』
此処には、様々な店があり休日は学生や家族連れ、カップルなどが多く居る。
普通なら、こんな広い場所で二人の姿を探すのは至難の業だが、兄さんと千紘が回る所は大体予想がついている。
そこに一直線で向かいたい気もするが、秋兄に勘づかれてしまってはいけない。
ということで、まず始めは対して用もないスポーツ店へと向かうことにした。
「そういえば新作のバッシュ出てたよな」
「あー今回のデザイン凄くカッコよかったよね」
「見たら絶対買いたくなるだろうな」
スポーツ店へと向かいながら話をするが、きっと秋兄は店に着いた途端バスケコーナーへと一目散に向かうだろう。四人で買い物に来た時だって、いつも一時間くらいバッシュを見ているような人だから。
いっそのこと「ちょっと本屋さん行ってくるー!」と言って、兄さんたちの姿を拝みに行くか。
「凛」
「ん?どうしたの?」
新作のバッシュが表に並んでいるスポーツ用品店の前で秋兄が立ち止った。
一体なんだ。いつもの様に一目散にバスケコーナーへ向かわないのか?
「部品で何か買うものとかあるか?」
「いや、僕は特にないけど?」
「そうか。新作はまた今度ゆっくり見に来るとして、今日は別の店に行こう」
「え?!」
秋兄がバッシュを前にして別の店に行こうだって?!
目線はずっと新作コーナーにあるというのに………。
まさか、今更ながら僕に気を遣っているのでは……。
「秋兄、僕新作のシューズ見たいんだけど付き合ってくれない?」
「え?」
修羅場に巻き込もうとしているうえに、気まで遣わせる何て流石に申し訳ない。
その言葉に瞳をキラキラさせて、嬉しそうに僕を見下ろす秋兄。
今日の秋兄は、何故だろう。凄く可愛い。
「やっぱり新作を前にすると気になるよね」
「確かにな!今回のは、前回の物よりさらに軽く、飛んだ時のバネも違うらしい!」
「そ、そうなんだ」
「手に取ってみれば分かる!ほら!」
流石、バスケ大好き秋兄だ。
最新情報を持ってらっしゃる。
僕の横で楽しそうにシューズを選ぶ時の豆知識やバスケ情報を話す秋兄と共にスポーツ店を見て回り、その後、服屋、本屋、お昼近くなると何処で知ったのか、ちょっとオシャレなレストランへと案内された。
そんなこんなで、気が付けば昼が過ぎ三時のおやつの時間。
ショッピングを楽しむ二人の姿を見る処か、僕が人一倍楽しんでしまったという現状に絶句する。
何をしているんだ。僕は……。
どうしてモブである僕が攻略対象キャラと休日デートを満喫しているんだ!
だが、今日二人で出かけて気づいたことがある。
モテる男はやはり違う。
スマートに道を譲ったり、荷物を持ったり、人除けになってくれたり、疲れたと思ったら飲み物を買ってきてくれたり、至れり尽くせりだ。
僕が女子だったら確実に今日のお出かけと言う名のデートで惚れてたな。
まぁ、モブである僕が攻略キャラ、ましてや男を好きになるなんて絶対ないけど。
だって僕は健全な男子高校生!ボン・キュッ・ボンな女の子が好みなのです!
そういえば、二人がイルミネーションを回るのは六時くらいだったかな?
もしそうなら、そろそろ水族館へと向かいたい。
間に合わなかったらイベント回避が出来なくなってしまう。
でも、どうやって話を切り出そう。
何か手立てが無いかと周りをキョロキョロすると、壁に『春の期間限定イルミネーション』と書かれた大きなポスターが目に付いた。
これだ!!
「秋兄!」
「ん、なんだ?」
「あれ見に行きたい!」
そう一言告げて、僕はポスターを指さす。
その絵図は、まさにヒーローショーを見たいと駄々を捏ねる幼稚園生のようだ。
「イルミネーション?あー、あそこのやつか。クラスの奴らも綺麗だったって言ってたな」
「そうなの?僕も見たい!入場料もかかんないみたいだし行こうよ!」
「俺は別に良いけど、凛ってこんなの興味あったのか?」
「失礼だな!僕だって、こういうロマンティックなのに興味あるよ!」
「へぇー意外だな。もしかして、誰かと見に行こうとか考えてる?」
ちょっと意地悪な笑みを浮かべた秋兄が、探る様な視線を投げてくる。
誰かとって、一体誰と見に行けっていうんだよ!
そんな憎めしい言葉を飲み込み、負けじと顔を上げ少し胸を張った。
「そうだよ!今度誘おうと思ってる人がいるから、その下見!」
「え、本気か?」
「本気だよ!当日スマートに案内できないとカッコ悪いからね」
案内する相手などいないが、此処でこう言わないと男としての何かを無くす気がしたんだ。
秋兄の腕を引っ張りながら「早く!」というと少し怪訝した顔をしながら「分かってるよ」と言って歩き出した。
どうしてそんな顔をするんだ。
まぁいい。これでイベント発生までに二人を見つけ出し、申し訳ないが邪魔をさせていただくとしよう。このフラグを折るのはやはり心が痛むけど、これも仕方ない。
これが僕に課せられた役目なのだ!
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