第九話 「モブへの宣言?!」
柊を家まで送り届けることにした僕は、千紘の家を出て柊と共に夜の街を歩いていた。
煌びやかな夜の街を颯爽と歩き人々の視線を一心に受ける柊蓮と、その横で福神漬けカラーのジャージを身に纏い歩く僕。
え、なに。
なんなの、この差は。
普通逆じゃない?僕の方が年上なんだから、夜の煌びやかさが似合うはずじゃない?
なのに何で、中学生で僕と少ししか身長が変わらない柊の方が街の雰囲気に溶け込んでるの?
ずるくない?攻略キャラであってもずるくない?
僕が隣を歩く柊をチラチラと盗み見ていると、さっきまですれ違う女性に笑顔を振りまいていた柊が冷たい視線で僕を見た。
なんだ、その視線は。
「なんだよ」
「それはこっちのセリフです。一体さっきから何なんですか」
「さっきからって意味が分からん」
「ずっと僕の方チラチラ見てますよね。隣でそんな挙動不審だと気になるんですよ」
そう言って肩を竦めながら溜息を付く柊蓮。
え、待って待って。何で僕がコイツに迷惑かけてるみたいになってるの。
それに、送ってもらっといて、この態度はなに。
気に入らない、実に気に入らない。
「はぁぁあ??!!誰が挙動不審だよ!」
「突然大きな声出さないで下さい。うるさいです」
「うるさくない!それに溜息付きたいのはこっちだからな!てか、千紘の前と態度違いすぎるだろ!僕も一応年上だぞ!」
「そうですね、”一応”年上ですよね」
わざわざ”一応”の所を強調して言ってくる辺りが、僕の怒気を徐々に上げてくる。
それに、すれ違う女性に笑いかけながら僕と会話をするという、このあからさまに「興味ない」と言わんばかりの態度。
どうして、こうも千紘と僕への対応の差が激しいのか。
初対面でありながら、この態度は流石にない。もはや、グレーゾーンだ。
「そんな態度ばっかりとってたら、千紘にお前の今の態度報告するぞ!」
「告げ口ですか。大人げな」
「おまッ!!」
確かに相手は中学生。
そんな餓鬼の言うことをいちいち鵜呑みにして怒っている時点で僕も大人げないとは思う。
だが、しかし!柊のこの態度!いくら攻略キャラで特別なポジションに居るからと言って決して許される訳がない。
柊(攻)×千紘(受)
もし、推しカプエンドが無理であっても、このフラグだけはこの命。
いや、僕の一生をかけて阻止しよう。
僕はここに誓う。
このフラグは決して。どんな手を使っても成立させないと!
##
店が立ち並ぶ街を抜け、見慣れない住宅街を静かに歩く。
考えてみれば、特に接点のない僕達は話す話題もない。さっきの街での会話はまさにイレギュラーだった。
こんな気まずい雰囲気になるなら、さっきの会話の波に乗って話を繋げておくんだった。
少し後悔しながらも、僕は今まで見たことのない数の立派な家を眺めながら歩いた。
柊の家があるのは僕と千紘の家がある場所とは真逆にあるお金持ちの家が多いと有名な住宅街だった。
土地の値段も一流に高く一軒の敷地もスゲー広い。
医者や有名会社の社長とかエリートと呼ばれる人達の家が集まる場所で僕とは無縁の領域。
今僕は、そこに足を踏み入れている。
何かスゲー。
それにしても何時まで歩くんだろう。
ポケットからスマートフォンを出し時間を確認すると、なんと言う事でしょう。
スマホの時計は、何と”二十三時”を指しているではありませんか。
ヤバイ。中学生、しかもお金持ちの坊ちゃんををこんな時間まで連れまわしたとなれば血祭では済まないのでは・・・。
「おい」
「あの」
被ったぁぁぁああ!!
さっきまで、二人とも口を開かなかった癖にいざという時に被ってしまった。
チラリと柊のほうを見ると、怪訝そうな顔をしている。
「なんだよ」
「凛さんこそ何ですか」
話進められねーじゃん!!
仕方ない、此処は僕が先陣をきろうではないか。
「いや、門限とか大丈夫なのかな~と思って」
「・・・。家は門限とかそんなのないですよ。両親共にずっと仕事で殆ど家に帰って来ませんから」
不機嫌なオーラをムンムンと出し答える柊。
しまったぁぁぁああ!!
柊の態度が余りにも大柄すぎて忘れていた。
コイツの家庭事情って凄く複雑だったんだ・・・。
まずいことを聞いてしまった。まさに地雷だった。
コイツは深入りされたり、心配されることを嫌う性格だから兎に角此処は『お前の家庭事情に全く興味ないですよ』アピールをしなければ。
「あ、そう。ならちょっと遅くても大丈夫だな」
いや、これは正解なのか?!
仮にも高校生である僕がこんな時間まで中学生を連れておいて言って良いセリフなのか?!
頭の中で色々と考えながら、取り合えず柊の反応を見ようと視線を移すと、そこには目を丸くして僕を見る柊の姿があった。
なんだよ。何故そんな目で僕を見る。
「な、なんだよ・・・」
「・・・いや、別に」
そう言ってフイッと顔を背けた柊は何処か安心したように見える。
「それよりも、凛さんに聞きたいことがあるんですけど」
「僕に?な、なんだよ」
何故か足を止め僕の方へと体を向ける柊。
その異様な行動に僕も反射的に柊の方へと体を向けた。
こんな遅い時間に住宅街のど真ん中で男同士で向き合うってどういうシチュエーションだよ。
「凛さんにとって千紘さんってどういう存在ですか」
「は?どういうって・・・話の主旨が見えないんだけど・・・」
「イイから答えて」
まるで獲物を狙うハイエナのような鋭い眼光で僕を見る柊。
え、僕殺されるの?
「えっと・・・大切な幼馴染?」
真っすぐな目で僕を見る柊の顔はさっきよりも大人びて見える。
一体どういう意味だ?
どうして、僕に千紘のことを聞いてくるんだよ。
「幼馴染・・・。それだけですか?」
「それだけって、それ以外ないだろ」
「そうですか」
一つ頷いた柊は、何もなかった様に颯爽と歩き出す。
いやいや、あんな質問振っといて説明ないとか意味わからんだろう。
「おい、何でそんなこと聞くんだよ」
「別に。ただ確認しておきたかっただけです」
「何のだよ」
「貴方が千紘さんのことを狙っていないかの確認です」
「・・・は?」
誰が誰を狙うって?
いや、確かに千紘を巡って争う攻略キャラは柊を合わせ七人もいる訳だから心配になる気持ちも分かる。
だが、何故柊のライバル視する相手に僕も含まれているんだ。
可笑しい。あまりにも可笑しすぎる。
「千紘を狙うってなんだよ、意味が分からん」
「分からないなら分からないでいいですけど、これだけは知っておいて下さい。僕、千紘さんのこと本気で好きなので」
「は?好きって・・・」
「勿論、恋愛的な意味です」
はい、まさかの全攻略キャラに会う前に初対面の、しかも最年少キャラにB・Ⅼ宣言されました~
好きなのは初めから知ってる。
だが、まさかこのタイミングで宣言されるなんて思っていなかった。
しかも、柊蓮から。
モブである僕に対して。
兎に角普通に。知っていたことを気づかれない様に。大人な対応を心掛けスマートに。
「あ、そう」
この時僕は思い知った。
自分の頭の回転の悪さを、不器用という名の短所を、そして僕に彼女が出来ないことの意味を。
それから僕と柊は、ただならぬ空気のまま会話をすることなく家まで歩き、一応最後の挨拶くらいはお互い交わして分かれた。
まぁ、それすらもぎこちなかったんだが・・・。
まだ登場していない攻略キャラは後一人。
この調子でいけば、ゲームよりも登場が早くなる気がする。
全キャラが揃ったら、どうなるんだろうか。
「弱気になるな・・・。まだ何も始まってない。」
そう。本当の闘いはまだ始まっていない。
全ての攻略キャラが揃った時、それが本当の闘いの始まりだ。
本当にお久しぶりの更新となりました。
最近忙しく更新できなかったんですが、感想を書いて下さった方もいらっしゃり本当に嬉しかったです!
ありがとうございます!